ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)

(三)

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 さて、と。

 どれぐらいムラサキの野にいたのか。月がかたむき始めたを見て、腰を上げた。歌垣かがいはまだ続いているようだけど、そろそろ戻らないと。いい加減、眠い。

 「メドリ、帰るぞ……って、なんだ?」

 立ち上がった途端、足の裏から感じた振動。――地鳴り?

 「わっ! ――メドリ!」

 闇に沈んだ森から飛び出してきた塊。とっさにメドリを抱え上げ、空に飛び上がる。

 ドドドドドドド、ドドドドドド……。

 「な、なんだあっ!?」

 地鳴りの正体は、いくつもの獣だった。鹿、猪、ウサギ、猿、山犬、熊。
 それらが、唸り声を上げ、ムラサキを蹴散らし、山の頂上へ向かって走り去っていく。地をはう獣だけじゃない。夜に飛ばないはずの鳥も、何かに追い立てられたかよのように、山頂を目指す。

 「――! ――――!」

 その中の一羽を捕まえ、話を聞こうとするけど、逃げるのに必死な小鳥は、どれも上手く捕まらない。普段は、メドリにまとわりつき、さえずりをくり返す鳥たちでさえ、ふり向きもせず、山の頂へと飛んでいく。

 (……? なんだ? 焦げ臭い……)

 獣たちの走ってきたほう、ふもとの方から、かすかに漂う焦げ臭さ。そこに、血のような臭いもかすかに混じる。

 (山火事?)

 それで獣たちは逃げてきたのか?
 目を凝らせば、木々の向こう、黒く染まっていたはずの場所は、どこかほの明るくなっている。

 「マズいな」

 どうして山火事が起きているのか。
 疑問はあるけど、それは後。
 山の火は、遠くでまだ小さいと思って安心していると、思わぬ速さでこちらに向かって燃え広がる時がある。だから、獣のように、火を見たら、すぐにでも避難した方がいい。グズグズしてたら逃げ遅れてしまう。

 「みんなに知らせないと」

 歌垣かがいに夢中な鳥人たちは、もしかしたらこの事態に気づいていないかもしれない。
 
 「おぉーい、ハヤブサァッ!」

 「大変! 大変だよぉっ!」

 向きを変えたボクにかかった声。

 「ノスリ? カリガネ?」

 歌垣かがいに参加していたはずの二人。その二人が、歌垣かがいの衣もそのままに、こちらに一直線に飛んでくる。

 「山火事なら知ってる。みんなは避難したのか?」

 避難を始めたから、そこにいなかったボクとメドリを探しに来た。そう思ったんだけど。

 「あ、あれは、山火事じゃっ、ねえっ!」

 ゼイゼイと息を荒らしながらノスリが言った。

 「あれは、ふもとに集まった〝人〟の軍勢だよ!」

 「人っ!? 軍勢っ!?」

 どういうことだ? 理解が追いつかない。
 山火事でないのはいいとして、軍勢とは?

 「人が襲ってきたんだよ。この山の、鳥人どもが人の宝を奪い去ったって」

 「なんだってっ!?」

 驚く声が裏返った。

*     *     *     *

 「知らせはさっき届いたんだ」

 カリガネが説明した。
 歌垣かがいを楽しんでいた鳥人たちに、一本の矢が届けられた。矢には文が結び付けられていて、人の言葉を解する者によれば、「鳥人は、人の宝を盗み、奪い去った。ゆえに、取り戻すため兵を動かす」と宣言されていた。

 「おとなしく宝を返せば、手荒なことはしない。素直に宝を差し出せって」

 「そんな……」

 神宝かんだからは十年前に盗まれて、山のどこかにある。
 そう、忍海彦おしみひこは言ってなかったか? 盗まれて、今も山のどこかにあると。
 それを、鳥人が盗んだことにして、ここを攻めてくるつもりなのか?
 にぎりしめた拳に力がこもる。
 とんでもない言いがかり。そして、その言いがかりを元に山を襲う〝人〟。許せなかった。

 「けど、人の宝を返せって。宝がどんなものかわからないのに、どうやって返せばいいんだよ」

 忍海彦おしみひこは、最後まで神宝かんだからが何であるか、説明していかなかった。だから、捜して返してやろうにも、今まで見つからないままだったのに。

 「それがさ、人の宝は〝巫女姫〟だって言うんだ」

 「巫女姫?」

 誰のことなんだ?

 「文にはこう書いてあったよ。『薄桃色の勾玉を持った、年の頃十二、三の乙女』だって」

 薄桃色の勾玉? 年の頃十二、三の乙女?

 「それって……」

 ボクたちの視線が、メドリの胸元でゆれる石に集まる。メドリが父さんが拾って来た時からずっと、肌身離さず持っているもの。夜だというのに、ほんのり浮かび上がるように光ってる。ていねいに磨かれ、つややかな石肌をした薄桃色の勾玉。
 ――まさか。

 「そう。メドリのことだよ」

 カリガネの言葉に、ゴクリと喉が鳴った。
 メドリが〝人の宝〟? 〝巫女姫〟?
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