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第38話 いざ、決戦っ!!

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 夜明けとともに、動き出す。
 まだ眠い!? もう少しだけ!?
 そんなこと言ってる余裕はない。
 目を覚ますと、簡単に身だしなみを整える。といってもいつも通りの藍色のドレスに、いつも通りのおだんご頭。お嬢さまみたいなクリノリンはつけてない。重ねるペチコートは最小限。見た目より、動きやすさ重視。
 あたしに何が出来るかわからない。この先、何が起きるかわからない。
 女神の娘だなんて言われたけど、本当にそうなのかなんてわからない。
 わからないことだらけ。
 不安もある。怖いとも思う。
 だけど、逃げ出したってどうにもならない。
 ミサキさまを取り戻して、お嬢さまにかけられた冤罪を晴らして。
 お嬢さまを、「お帰りなさいませ」とお迎えするまでは、あたしは頑張らなくっちゃいけない。それが身代わりの務め。
 幸い、あたしは一人じゃない。
 皆さまが協力してくれる。助けてくれる。
 だから、あたしは前へ進む。
 
 「うおっしゃあああぁっ!!」

 気合いだけは一人前。

*     *     *     *

 あたしが部屋から出ると、皆さま、すでに準備を終えられていた。
 アウリウスさまだけでなく、殿下やルッカさま、ライネルさんまで佩剣なさってる。
 オーウェンさまは、いつものように竪琴。レヴィル先生は、指輪など、魔法具を身に着けていらっしゃった。

 いよいよなんだ。

 皆さまの出で立ちに、ゴクリと唾を飲み込む。

 「あー、やっぱ慣れねえな、こういうもんは」

 腰に下げた剣を気にしながら、ライネルさんが近づいてきた。剣と言っても、ライネルさんの場合は、長剣ではなく、短剣。

 「でも、なんだかさ、ガキのころにやったチャンバラごっこを思い出して、少しワクワクする」

 あー、確かに。「お姫さまをお救いせよ!!」的な。大抵、その場合のお姫さまは、村の一番カワイイ子で、あたしは、勇者についてく忠犬的な立場だったけど。ワオン。

 「まあ、あんたは小っちゃいんだから、ムリすんなよ」

 またクシャッて上から頭を撫でられた。
 完全なる妹扱い。でも、ライネルさん、お兄さんっぽいから許せちゃう。

 「12、3歳ぐらいだろ、あんた。そんなおチビちゃんに無茶はさせられねえよ」

 ……おっ、おチビッ!! 12、3さっ……!!

 ブッと、誰かが吹き出す音が聞こえた。
 あ、アウリウスさまっ!! 肩揺れてるっ!! 殿下も、どこ向いちゃってるですかあっ!!

 「…………15です。これでも」

 声が震えた。

 「えっ!? ウソだろ!?」

 正解を求めるかのように、ライネルさんが辺りを見回す。
 その様子にこらえきれなかったように、ルッカさまが爆笑した。続いてレヴィル先生も。
オーウェンさんは笑わなかったけど、別に優しいからというのではなく、ライネルさん同様、あたしが15だってことに驚いてるから笑わなかっただけ。
 爆笑組と、そうでない組に別れたけど、そうでない組は、ただあたしの年齢に驚いている。

 「や、すまない、リュリ」

 目じりをこすりながら殿下が近づいてきた。

 「ライネルの言う通りだ。きみに無茶はさせない」

 笑いを収めながら言われても。

 ……って、えっ!?
 手を取られて、スッと殿下が片膝をついた。そしてそのまま手の甲にキスッ!!
 戸惑うあたしを見上げて、柔らかく微笑まれる。

 「きみは、僕たちの大切なお姫さまだからね。何があっても、僕たちが守るよ」

 それは、まるでおとぎ話の王子さまのようで。いや、実際、殿下は王子だけど。

 その夢のような状況に、思わずポーッとなってしまう。

 「……リュリ?」

 「あ、はい。すみません。ありがとうございます」

 いけない、いけない。殿下に見とれてる場合じゃないのよ。
 あたしたちは、これから囚われの姫君を救出しなくちゃいけない。暗黒竜に囚われた聖女。うん。これぞまさしく騎士道物語的ヒロイック展開!!

 いざ行かん、魔王のもとへ!!

 あたしの肩に、ピョンとセルヴェが飛び乗った。
 それを合図に、扉に手をかける。
 さあ、冒険はここからだ!!

*     *     *     *

 学園を出た馬車は、神殿を目指す。
 聖獣さまがおっしゃるには、そこに一番闇の魔力が溜まっているのだいう。

 「……神殿の者たちは、大丈夫なのでしょうか」

 心配そうにオーウェンさまが問うた。

 「あの魔力に気づいておれば、あの地からは離れておるだろう」

 「はい」

 「あれだけの魔力だ。よほどのことがない限り、気づかぬことはない」

 その言葉に、窓から神殿を見上げる。
 あたしの目でも見えるぐらい、そこは黒い靄のようなものを発していた。こんな状況でもなかったら、多分近づきたくないと思ったに違いない。
 乗ってきた馬車も、御者さんと馬のことを考えて、早々に引き返してもらった。何が起きるかわかんないしね。

 (さて……)

 肩からピョンと降りたセルヴェが守護獣姿に変身する。ここからは、魔力の節約だのなんだと言ってられないということだ。
 自然と、口元がギュッと引き締まる。心臓がバクバクする。
 守護獣の姿となったセルヴェには、どこに向かえばいいのか、察知することが出来るらしい。

 「こっちだ」

 短く告げて、皆を先導する。
 そこは、昨日あたしが異端審問にかけられた場所。
 半分瓦礫と化した大きな空間。
 そして。

 「やあ、よく来たね、女神の娘」

 闇に浮かぶ子どもの姿。
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