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第21話 ドレスは乙女の戦闘服。
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「舞踏会……ですか」
殿下から告げられた言葉を反芻する。
「そうだ。明後日の夜。突然で申し訳ないが、参加してほしい」
ですよね。だって、お嬢さまは、ローゼリィさまは殿下の婚約者ですもんね。参加しないなんて言えませんよね。
「わかりました。参加させていただきます」
こうなったら、腹をくくってがんばるしかない。
自分なんかが参加していいのかって思わないでもないけど、それもこれも、お嬢さまや皆さまのためだ。精一杯、お嬢さまのフリをしなくっちゃ。
「お前、ダンスは出来るのか?」
横から口を挟んだのはアウリウスさま。
その心配はごもっともだ。
だって。
「村の祭りでしか踊ったことがありません」
「それ、威張って言うことかよ」
エヘンッと、軽く胸を反らしたあたしに、ルッカさまがツッコんだ。
「……特訓だ」
へ!?
「舞踏会で、殿下に恥をかかせないためにも、今すぐ特訓だ」
「うえええっ!?」
アウリウスさま、怖いですっ!!
恥をかかせないためにってのはよくわかるし、ダンスを教えていただけるのはありがたいんですけどっ!!
「特訓」って言葉が、ものすごく怖い。
お、お手柔らかにお願いします。――無理だろうけど。
* * * *
そして始まる、さっそくのような猛特訓。
殿下は、授業に参加されるために部屋を出ていかれたけど、あたしは仮病でズル休みさせられた。
もちろん、ダンスの練習をするため。
「ルッカ、音楽を頼む」
一緒に残ってくださったルッカさまが、ヴァイオリンを構える。
ううう。逃げ場ナシ。
「最初の一曲、ワルツだけでも踊れるようにならなければな」
アウリウスさまに、グイッと腰を抱えられた。
てっきり殿下と練習(特訓とは言いたくない)させられるのかと思ったけど、お相手はアウリウスさまだった。
はじめっから殿下がお相手だと、殿下のお御足が腫れてしまうからだとかなんとか。ヒドい。
「最初は足を踏んでもかまわない。こちらのリードに合わせて、ステップを覚えろ」
そう言われて、ルッカさまの奏でる音楽に乗るように動き出す。
1、2、3。1、2、3……。
前に引っ張られ、後ろに下がって、右へ、左へ。
次にどう動けばいいのかわからない。おまけに、スカートをふんわりしてみせるために着けてるクリノリン。これのせいで足元がまったく見えない。
で、どうなるかというと。
1、2、ゴツッ!! 1、ギュムッ!! ドスッ!!
蹴る、踏む、そしてぶつかる。
あわわわわ。
やってしまったことに、焦れば焦るほど、次の攻撃をしかけてしまう。
アウリウスさまのお顔を見るのが怖くて、見えない足元にずっと視線を落とす。
「うつむくな。顔を上げろ、こっちを見ろ。笑え。お前に踏まれたぐらいでどうにかなる足ではない」
そうは言っても、顔っ!! 顔、怖いですっ!! 絶対、怒ってるっ!!
ギュムッ……!!
ああっ、またやっちゃい……。
「うわあああっ!!」
ナニコレ、ナニコレッ!!
しっ、視界がっ!! 身体が回るぅっ!!
ストンと下ろされて気づく。あたし、アウリウスさまの足の甲に乗ったまま、グルンと一回転させられてた。
「少しは気がほぐれたか!?」
え、いや。ほぐれるより、驚きでグラングランします。目まいしそう。
「足りなかったら、もう一度だ」
うえっ!?
今度は、腕と腰を引っ掴まれただけで、グルンッと回った。
ひぃええええっ!!
右へ、左へ。
踏めば踏んだだけ、グルングルン回される。
ダンス酔いしそう。
「あーあ。アレ、完全にオモチャにされてるね」
ヴァイオリンを弾く手を止めた、ルッカさまの呟きが聞こえた。
* * * *
あたしがダンスの練習でグルングルン目を回している間にも、舞踏会の準備は着々と進められていく。
殿下からは、「愛する君へ」なんていうメッセージ付きでドレスが贈られてきた。
「殿下には、リュリのダンスは壊滅的だと報告しておく」
散々、あたしをふり回したアウリウスさまは、ため息混じりにそう言っていた。
まあ、彼の脛に散々青あざを作っただろうから、仕方ないっちゃあ仕方ないけど。
舞踏会当日は、学園に登校しても、みんなソワソワと落ち着かなかった。
だって。
「この舞踏会で、ステキな殿方とお知り合いになれるかもしれないんですもの」
「ローゼリィさまのように、ご婚約者さまがいらっしゃれば別ですけど」
「学園卒業までに、出来ればそういう殿方と出会いたいものですわ」
なるほど。
学園を卒業となれば、ご領地に戻られる令嬢もいらっしゃる。王都に出てきて社交界に参加すれば、男女の出会う機会は増えるけど、それまでに親密な関係になっておいたほうが、何かと便利だろう。
もしかすると、学園卒業と同時に、婚約、いや、結婚なんてこともありうるし。
15の自分には、いまいちピンとこないけど、皆さま、それぞれの未来にむけて、いろいろと大変なのだろうと勝手に解釈する。
その日の授業は午前で終了し、夕方から始まる舞踏会のために、家路につく。
あたしも、お屋敷に帰ると、メイドさんたちに手伝ってもらいながら、殿下にいただいたドレスを身につける。
ドレスは、お嬢さまの容姿に似合うような、サテン生地の目の覚めるような、鮮やかな青色だった。その上からかけられた繊細な白いレース生地がそのハッキリしすぎる印象を、いくぶんか柔らかく見せている。お嬢さまの白くほっそりしたデコルテを見せつけるように、襟ぐりは大きくゆったりと開いている。そこに、レースと同じ色合い、真珠のついたチョーカーを身に着ければ、豪華なドレスと相まって、お嬢さまの魅力を最大限に引き出してくれる。
腕には肘まで隠れるような長い手袋。
豊かなハニーブロンドの髪を青いリボンと真珠のついた髪飾りで結い上げる。ただのまとめ髪では素っ気なさ過ぎるから、その毛先は軽くカールをつけて、背中にむけて垂らしておく。
いい香りのする扇子も持って鏡に映せば、完璧すぎるお嬢さまのお姿がそこにある。
「まあ、これがあたし?」
なんて、どこかのおとぎ話の主人公みたいに驚くヒマはない。
今だって、胸を触れば、ベコンと音を立ててドレスはへっこむし、金の髪だって、魔法が解ければさえない砂色に戻ってしまう。
この姿は見せかけ。
あたしは、お嬢さまの身代わり。
「うぉっしゃあぁっ!!」
パンパンッと頬を叩き、およそ舞踏会に出かけるにはふさわしくないかけ声をかけて、気合いを入れる。
お嬢さまのために、手伝ってくださってる皆さまのために。
あたしは、最高のお嬢さまを演じなくてはいけない。
殿下から告げられた言葉を反芻する。
「そうだ。明後日の夜。突然で申し訳ないが、参加してほしい」
ですよね。だって、お嬢さまは、ローゼリィさまは殿下の婚約者ですもんね。参加しないなんて言えませんよね。
「わかりました。参加させていただきます」
こうなったら、腹をくくってがんばるしかない。
自分なんかが参加していいのかって思わないでもないけど、それもこれも、お嬢さまや皆さまのためだ。精一杯、お嬢さまのフリをしなくっちゃ。
「お前、ダンスは出来るのか?」
横から口を挟んだのはアウリウスさま。
その心配はごもっともだ。
だって。
「村の祭りでしか踊ったことがありません」
「それ、威張って言うことかよ」
エヘンッと、軽く胸を反らしたあたしに、ルッカさまがツッコんだ。
「……特訓だ」
へ!?
「舞踏会で、殿下に恥をかかせないためにも、今すぐ特訓だ」
「うえええっ!?」
アウリウスさま、怖いですっ!!
恥をかかせないためにってのはよくわかるし、ダンスを教えていただけるのはありがたいんですけどっ!!
「特訓」って言葉が、ものすごく怖い。
お、お手柔らかにお願いします。――無理だろうけど。
* * * *
そして始まる、さっそくのような猛特訓。
殿下は、授業に参加されるために部屋を出ていかれたけど、あたしは仮病でズル休みさせられた。
もちろん、ダンスの練習をするため。
「ルッカ、音楽を頼む」
一緒に残ってくださったルッカさまが、ヴァイオリンを構える。
ううう。逃げ場ナシ。
「最初の一曲、ワルツだけでも踊れるようにならなければな」
アウリウスさまに、グイッと腰を抱えられた。
てっきり殿下と練習(特訓とは言いたくない)させられるのかと思ったけど、お相手はアウリウスさまだった。
はじめっから殿下がお相手だと、殿下のお御足が腫れてしまうからだとかなんとか。ヒドい。
「最初は足を踏んでもかまわない。こちらのリードに合わせて、ステップを覚えろ」
そう言われて、ルッカさまの奏でる音楽に乗るように動き出す。
1、2、3。1、2、3……。
前に引っ張られ、後ろに下がって、右へ、左へ。
次にどう動けばいいのかわからない。おまけに、スカートをふんわりしてみせるために着けてるクリノリン。これのせいで足元がまったく見えない。
で、どうなるかというと。
1、2、ゴツッ!! 1、ギュムッ!! ドスッ!!
蹴る、踏む、そしてぶつかる。
あわわわわ。
やってしまったことに、焦れば焦るほど、次の攻撃をしかけてしまう。
アウリウスさまのお顔を見るのが怖くて、見えない足元にずっと視線を落とす。
「うつむくな。顔を上げろ、こっちを見ろ。笑え。お前に踏まれたぐらいでどうにかなる足ではない」
そうは言っても、顔っ!! 顔、怖いですっ!! 絶対、怒ってるっ!!
ギュムッ……!!
ああっ、またやっちゃい……。
「うわあああっ!!」
ナニコレ、ナニコレッ!!
しっ、視界がっ!! 身体が回るぅっ!!
ストンと下ろされて気づく。あたし、アウリウスさまの足の甲に乗ったまま、グルンと一回転させられてた。
「少しは気がほぐれたか!?」
え、いや。ほぐれるより、驚きでグラングランします。目まいしそう。
「足りなかったら、もう一度だ」
うえっ!?
今度は、腕と腰を引っ掴まれただけで、グルンッと回った。
ひぃええええっ!!
右へ、左へ。
踏めば踏んだだけ、グルングルン回される。
ダンス酔いしそう。
「あーあ。アレ、完全にオモチャにされてるね」
ヴァイオリンを弾く手を止めた、ルッカさまの呟きが聞こえた。
* * * *
あたしがダンスの練習でグルングルン目を回している間にも、舞踏会の準備は着々と進められていく。
殿下からは、「愛する君へ」なんていうメッセージ付きでドレスが贈られてきた。
「殿下には、リュリのダンスは壊滅的だと報告しておく」
散々、あたしをふり回したアウリウスさまは、ため息混じりにそう言っていた。
まあ、彼の脛に散々青あざを作っただろうから、仕方ないっちゃあ仕方ないけど。
舞踏会当日は、学園に登校しても、みんなソワソワと落ち着かなかった。
だって。
「この舞踏会で、ステキな殿方とお知り合いになれるかもしれないんですもの」
「ローゼリィさまのように、ご婚約者さまがいらっしゃれば別ですけど」
「学園卒業までに、出来ればそういう殿方と出会いたいものですわ」
なるほど。
学園を卒業となれば、ご領地に戻られる令嬢もいらっしゃる。王都に出てきて社交界に参加すれば、男女の出会う機会は増えるけど、それまでに親密な関係になっておいたほうが、何かと便利だろう。
もしかすると、学園卒業と同時に、婚約、いや、結婚なんてこともありうるし。
15の自分には、いまいちピンとこないけど、皆さま、それぞれの未来にむけて、いろいろと大変なのだろうと勝手に解釈する。
その日の授業は午前で終了し、夕方から始まる舞踏会のために、家路につく。
あたしも、お屋敷に帰ると、メイドさんたちに手伝ってもらいながら、殿下にいただいたドレスを身につける。
ドレスは、お嬢さまの容姿に似合うような、サテン生地の目の覚めるような、鮮やかな青色だった。その上からかけられた繊細な白いレース生地がそのハッキリしすぎる印象を、いくぶんか柔らかく見せている。お嬢さまの白くほっそりしたデコルテを見せつけるように、襟ぐりは大きくゆったりと開いている。そこに、レースと同じ色合い、真珠のついたチョーカーを身に着ければ、豪華なドレスと相まって、お嬢さまの魅力を最大限に引き出してくれる。
腕には肘まで隠れるような長い手袋。
豊かなハニーブロンドの髪を青いリボンと真珠のついた髪飾りで結い上げる。ただのまとめ髪では素っ気なさ過ぎるから、その毛先は軽くカールをつけて、背中にむけて垂らしておく。
いい香りのする扇子も持って鏡に映せば、完璧すぎるお嬢さまのお姿がそこにある。
「まあ、これがあたし?」
なんて、どこかのおとぎ話の主人公みたいに驚くヒマはない。
今だって、胸を触れば、ベコンと音を立ててドレスはへっこむし、金の髪だって、魔法が解ければさえない砂色に戻ってしまう。
この姿は見せかけ。
あたしは、お嬢さまの身代わり。
「うぉっしゃあぁっ!!」
パンパンッと頬を叩き、およそ舞踏会に出かけるにはふさわしくないかけ声をかけて、気合いを入れる。
お嬢さまのために、手伝ってくださってる皆さまのために。
あたしは、最高のお嬢さまを演じなくてはいけない。
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