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第5話 要注意人物は誰だ!?
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もうダメ。
もうグッタリ。
一歩も動きたくない。動けない。
屋敷に帰って、寝台に突っ伏して、そのまましばらく。
お嬢さまから渡されたメモ紙を取り出す。
これからどうやって身を処してゆけばいいか。お嬢さまからの大切な伝言だ。
昨日は、アワアワするだけで読みそびれていたけど、今日みたいに学園に通うなら、ちゃんと読んでおかなくては。
どれどれ。
お嬢さまのおっしゃるには、今、あたしの暮らしている世界は、お嬢さまの知る、「乙女ゲーム」の世界なんだそう。
おとめげぇむ!?
とりあえず、『蒼き瞳のアンジェリカ~君の瞳に恋してる~』の世界だそうで。主役は、げぇむの表題通り、アンジェリカという女の子。
地方の孤児院育ちのアンジェリカが、突如聖女の力に目覚め、王都にやって来るお話。アンジェリカは、実は18年前に行方不明になっていた伯爵家の令嬢で、その稀有な力は神殿からも認められており、王立学園に編入してくる……というところから物語が始まる。
王立学園と、その周辺、アンジェリカの行動範囲にはステキな男性がたくさんいて、その中の七人と恋に落ちる。そういう筋書きだ。
(七人も……!?)
それは、さすがにモテすぎじゃないですか?
もちろん、アンジェリカが最終的に恋愛を成就させるのは一人だけみたいだけど、「げぇむ」だから何回も「ぷれい」して時を巻き戻し、全員を攻略することも可能なのだそうだ。
物語にはいくつかの分岐点が存在して、その時起きた出来事によって筋書きが少しずつ変化してゆき、最後にその誰かと幸せになる……らしい。
で、お嬢さまは、その反対の立ち位置にいらっしゃる。通称、「あくやくれいじょう」。
アンジェリカの編入した学園で、まるで女王様のように振る舞っている。孤児院育ちのアンジェリカをイジメ、いびり倒し、そのことがアンジェリカの恋人となる男性にバレて、罰せられるのだそう。
(お嬢さまは、そんなことをするようなお方じゃないわ)
メモ書きにイラッとする。
だって、お嬢さま、そりゃ見た目、お顔立ちはややキツメではあるけど、どちらかと言えば、キリッとした美人。豊かなハニーブロンドにつり目勝ちな灰紫色の瞳、意志の強そうな口元、抜けるような白い肌。背もスラッと高くて、豊かなお胸と引き締まった腰をお持ちで。どこからどう見ても、素晴らしいご令嬢。
性格だって、キビシイところはおありだけど、とても優しいんだから。
あたしみたいな、捨て子でも分け隔てなく接してくださって、侍女にまで取り立ててくださったし。将来、この国を支える王妃となる者として、そのお立場と、矜持と責任を充分にわきまえていらっしゃる。
そんな方が、断罪なんて恐ろしい目に遭うなんて。
理不尽すぎるわ。
今、この状況で危険な人物は三人。
まずは、一人目、お嬢さまの婚約者相手、ナディアード殿下。
お嬢さまと同い年、18歳の王太子殿下。
この国でも珍しいトウヘッドの髪。白に近いそれは、光にあたると輝くように眩しい。薄い空色の瞳と相まって、どこからどう見ても王子さまって容姿。性格もお優しくって、あたしみたいな弱い立場の者も気にかけてくださる。
お嬢さまとは、幼なじみで婚約者というお立場。互いをよく知っているからこそ、仲も良く、結婚されても幸せなご夫婦になると思っていたのだけど。
このまま進めば、殿下はお嬢さまに婚約破棄を突きつけ、ミサキさまと結婚すると宣言されるだけでなく、お嬢さまを断罪し、幽閉するのだという。
罪状は、「ミサキさまをイジメたから」。
殿下が王妃にと願った女性をイジメたから、そうなる……らしい。
次。
二人目、殿下の護衛騎士、アウリウスさま。
お嬢さまより少し年上。確か、21歳。
騎士らしく、シュッとした出で立ちと、スキのない身のこなし。柔らかそうな黒髪と、鋭い黒豹のような眼差し。衣装も黒と、まあ黒ずくめの男性。殿下が白っぽい衣装なので、影で、「白薔薇殿下、黒薔薇騎士」と呼ばれているとかいないとか。(スゴいあだ名)
殿下に忠誠を誓っている彼は、殿下とミサキさまのために、お嬢さまの、というか公爵さまの悪事を暴き、卒業パーティでお嬢さまが殿下に相応しくないことを告げるのだそう。それにより、お嬢さまは断罪、そして公爵さまと一緒に処刑されてしまうのだとか。
一番、恐ろしい結末を持ってくる人。ひええっ。
そして、なにより恐ろしいのが、そのミサキさま。
本来なら、彼女は「アンジェリカ」と名乗らなければいけないそうだけど、「ぷれいやぁ」は名前の変更ができるそうで、今の彼女は、その力を使っているらしい。
――名前が違ったから、気づくのに遅れた。彼女もおそらく転生者。
と、お嬢さまが書き込んでいる。
てんせいしゃ!?
ミサキさまも、この「げぇむ」の世界を知っていて、どう行動すればよいのかも熟知しているらしい。おそらく。
そして彼女が、誰とくっつこうが、必ずお嬢さまが断罪されることになる。
今のところ、一番危険なのが、ミサキさまが選ぶ、「殿下ルート」と、「アウリウスさまルート」らしい。……るぅと!?
他にも、小姓の「ルッカさまルート」と、魔術教師の「レヴィル先生ルート」も存在するらしいけれど、そちらは「いべんと」が未発生なので、起こる確率が低いのだとか。
(ルッカさまや、レヴィル先生も、恋愛の対象なの!?)
ルッカさまは、殿下の従者であたしより一つ年上。青年というより、少年。栗色の髪とクリッとした表情豊かな髪と同じ色の瞳が印象的な人。真っ赤な髪の、レヴィル先生のいかつい容姿とは真逆の人。
多分、性格も全く違う。
(ミサキさまって、男性の好みに無頓着なのかしら)
他にも三人ほどミサキさまと恋愛する男性がいらっしゃるそうだけど、今挙げた四人だけでも、性格も容姿も立場もバラバラ。
好き嫌いがないと言えばいいのか、節操がないと言えばいいのか。
判断に悩む。
まあ、それは置いといて。
重要なのは、それらの方々とどう過ごせばいいのかってことで。
ビッシリと書かれたメモに再び目を通す。
なになに。
――殿下とミサキの接近には要注意。
例:本の貸し借り。わからないところを教えてください。など。
対策:二人きりにしない。
「うええええっ!!」
お嬢さまっ!! それ、今日、起こっちゃいましたっ!!
本の貸し借り。わからないところを教えてください。そして、あたしはさようなら。彼らを二人っきりにしてしまいましたよ。
あわわわわわ。
身代わりであることがバレる確率が減りそうだったから、喜んで、二人っきりにしてしまいましたよぉ。
どどどど、どうしよう~。
オタオタと寝台から降りて、意味もなく部屋をうろつきまわる。
やっちゃいけないと、書かれているのに、バッチリやってしまったあ。
これ、明日にはあたしが断罪されるのかな。
いやいや。お嬢さまは、断罪は卒業パーティでっておっしゃっていたじゃない。だったら、とりあえず、三か月は無事なはず。
昨日今日で変わるものではないだろうけど。
知らずに踏み出していた一歩に、大後悔。
とりあえず、明日からでも、「二人きりにしない」を実行すれば、まだ間に合うかな。
でもそうしたら、あたし、お嬢さまのフリをして殿下に近づかなきゃいけないのよね。ううん、殿下だけじゃない。そのおそばにいる、アウリウスさまにもルッカさまにも自然と近づいちゃうわけで。ニセモノだってバレる確率もグンッと上がるわけで。
(ああああああっ……!!)
八方ふさがり、逃げ場なし。
もうグッタリ。
一歩も動きたくない。動けない。
屋敷に帰って、寝台に突っ伏して、そのまましばらく。
お嬢さまから渡されたメモ紙を取り出す。
これからどうやって身を処してゆけばいいか。お嬢さまからの大切な伝言だ。
昨日は、アワアワするだけで読みそびれていたけど、今日みたいに学園に通うなら、ちゃんと読んでおかなくては。
どれどれ。
お嬢さまのおっしゃるには、今、あたしの暮らしている世界は、お嬢さまの知る、「乙女ゲーム」の世界なんだそう。
おとめげぇむ!?
とりあえず、『蒼き瞳のアンジェリカ~君の瞳に恋してる~』の世界だそうで。主役は、げぇむの表題通り、アンジェリカという女の子。
地方の孤児院育ちのアンジェリカが、突如聖女の力に目覚め、王都にやって来るお話。アンジェリカは、実は18年前に行方不明になっていた伯爵家の令嬢で、その稀有な力は神殿からも認められており、王立学園に編入してくる……というところから物語が始まる。
王立学園と、その周辺、アンジェリカの行動範囲にはステキな男性がたくさんいて、その中の七人と恋に落ちる。そういう筋書きだ。
(七人も……!?)
それは、さすがにモテすぎじゃないですか?
もちろん、アンジェリカが最終的に恋愛を成就させるのは一人だけみたいだけど、「げぇむ」だから何回も「ぷれい」して時を巻き戻し、全員を攻略することも可能なのだそうだ。
物語にはいくつかの分岐点が存在して、その時起きた出来事によって筋書きが少しずつ変化してゆき、最後にその誰かと幸せになる……らしい。
で、お嬢さまは、その反対の立ち位置にいらっしゃる。通称、「あくやくれいじょう」。
アンジェリカの編入した学園で、まるで女王様のように振る舞っている。孤児院育ちのアンジェリカをイジメ、いびり倒し、そのことがアンジェリカの恋人となる男性にバレて、罰せられるのだそう。
(お嬢さまは、そんなことをするようなお方じゃないわ)
メモ書きにイラッとする。
だって、お嬢さま、そりゃ見た目、お顔立ちはややキツメではあるけど、どちらかと言えば、キリッとした美人。豊かなハニーブロンドにつり目勝ちな灰紫色の瞳、意志の強そうな口元、抜けるような白い肌。背もスラッと高くて、豊かなお胸と引き締まった腰をお持ちで。どこからどう見ても、素晴らしいご令嬢。
性格だって、キビシイところはおありだけど、とても優しいんだから。
あたしみたいな、捨て子でも分け隔てなく接してくださって、侍女にまで取り立ててくださったし。将来、この国を支える王妃となる者として、そのお立場と、矜持と責任を充分にわきまえていらっしゃる。
そんな方が、断罪なんて恐ろしい目に遭うなんて。
理不尽すぎるわ。
今、この状況で危険な人物は三人。
まずは、一人目、お嬢さまの婚約者相手、ナディアード殿下。
お嬢さまと同い年、18歳の王太子殿下。
この国でも珍しいトウヘッドの髪。白に近いそれは、光にあたると輝くように眩しい。薄い空色の瞳と相まって、どこからどう見ても王子さまって容姿。性格もお優しくって、あたしみたいな弱い立場の者も気にかけてくださる。
お嬢さまとは、幼なじみで婚約者というお立場。互いをよく知っているからこそ、仲も良く、結婚されても幸せなご夫婦になると思っていたのだけど。
このまま進めば、殿下はお嬢さまに婚約破棄を突きつけ、ミサキさまと結婚すると宣言されるだけでなく、お嬢さまを断罪し、幽閉するのだという。
罪状は、「ミサキさまをイジメたから」。
殿下が王妃にと願った女性をイジメたから、そうなる……らしい。
次。
二人目、殿下の護衛騎士、アウリウスさま。
お嬢さまより少し年上。確か、21歳。
騎士らしく、シュッとした出で立ちと、スキのない身のこなし。柔らかそうな黒髪と、鋭い黒豹のような眼差し。衣装も黒と、まあ黒ずくめの男性。殿下が白っぽい衣装なので、影で、「白薔薇殿下、黒薔薇騎士」と呼ばれているとかいないとか。(スゴいあだ名)
殿下に忠誠を誓っている彼は、殿下とミサキさまのために、お嬢さまの、というか公爵さまの悪事を暴き、卒業パーティでお嬢さまが殿下に相応しくないことを告げるのだそう。それにより、お嬢さまは断罪、そして公爵さまと一緒に処刑されてしまうのだとか。
一番、恐ろしい結末を持ってくる人。ひええっ。
そして、なにより恐ろしいのが、そのミサキさま。
本来なら、彼女は「アンジェリカ」と名乗らなければいけないそうだけど、「ぷれいやぁ」は名前の変更ができるそうで、今の彼女は、その力を使っているらしい。
――名前が違ったから、気づくのに遅れた。彼女もおそらく転生者。
と、お嬢さまが書き込んでいる。
てんせいしゃ!?
ミサキさまも、この「げぇむ」の世界を知っていて、どう行動すればよいのかも熟知しているらしい。おそらく。
そして彼女が、誰とくっつこうが、必ずお嬢さまが断罪されることになる。
今のところ、一番危険なのが、ミサキさまが選ぶ、「殿下ルート」と、「アウリウスさまルート」らしい。……るぅと!?
他にも、小姓の「ルッカさまルート」と、魔術教師の「レヴィル先生ルート」も存在するらしいけれど、そちらは「いべんと」が未発生なので、起こる確率が低いのだとか。
(ルッカさまや、レヴィル先生も、恋愛の対象なの!?)
ルッカさまは、殿下の従者であたしより一つ年上。青年というより、少年。栗色の髪とクリッとした表情豊かな髪と同じ色の瞳が印象的な人。真っ赤な髪の、レヴィル先生のいかつい容姿とは真逆の人。
多分、性格も全く違う。
(ミサキさまって、男性の好みに無頓着なのかしら)
他にも三人ほどミサキさまと恋愛する男性がいらっしゃるそうだけど、今挙げた四人だけでも、性格も容姿も立場もバラバラ。
好き嫌いがないと言えばいいのか、節操がないと言えばいいのか。
判断に悩む。
まあ、それは置いといて。
重要なのは、それらの方々とどう過ごせばいいのかってことで。
ビッシリと書かれたメモに再び目を通す。
なになに。
――殿下とミサキの接近には要注意。
例:本の貸し借り。わからないところを教えてください。など。
対策:二人きりにしない。
「うええええっ!!」
お嬢さまっ!! それ、今日、起こっちゃいましたっ!!
本の貸し借り。わからないところを教えてください。そして、あたしはさようなら。彼らを二人っきりにしてしまいましたよ。
あわわわわわ。
身代わりであることがバレる確率が減りそうだったから、喜んで、二人っきりにしてしまいましたよぉ。
どどどど、どうしよう~。
オタオタと寝台から降りて、意味もなく部屋をうろつきまわる。
やっちゃいけないと、書かれているのに、バッチリやってしまったあ。
これ、明日にはあたしが断罪されるのかな。
いやいや。お嬢さまは、断罪は卒業パーティでっておっしゃっていたじゃない。だったら、とりあえず、三か月は無事なはず。
昨日今日で変わるものではないだろうけど。
知らずに踏み出していた一歩に、大後悔。
とりあえず、明日からでも、「二人きりにしない」を実行すれば、まだ間に合うかな。
でもそうしたら、あたし、お嬢さまのフリをして殿下に近づかなきゃいけないのよね。ううん、殿下だけじゃない。そのおそばにいる、アウリウスさまにもルッカさまにも自然と近づいちゃうわけで。ニセモノだってバレる確率もグンッと上がるわけで。
(ああああああっ……!!)
八方ふさがり、逃げ場なし。
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