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三、慈鳥
(四)
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蕃椒は茹でて、その青臭さと苦味を無くす。それから、千切りにして豆芽と一緒に茹でたら、醤油とすり胡麻で和える。これでダメなら、蕃椒をもっと熟させて、赤くなったものを使うようにする。蕃椒は、青いときに収穫するのではなく、熟して赤くなってたほうが、甘みが増して苦味が減る。
葱も加熱すると辛味が減って甘みが増す。これを利用して、弱めの火加減で、コトコト煮込んだ上で、豆腐と溶き卵を入れて汁物を作る。味付けは醤油と塩。
本当は、肉とか魚も食べさせて体を作っていきたいところだけど、体が受けつけないんじゃ意味がないから諦める。代わりに、豆や卵をふんだんに使う。
あと、面白いところとして、牛の乳を煮詰めて蘇を作る。牛の乳が飲めないやつでも、これなら大丈夫ってこともある。本来の蘇は乳を煮詰めるだけだけど、ちょっと工夫して砕いた豆を混ぜて作る。
「やってますね、姫」
「オッサ……おと、うさま」
言いかけて、ぎこちねえけど訂正。オッサンが「ウンウン」と頷いた。
「なかなか、よい香りがしますね。お腹、空いてきましたよ」
オレ専用の厨房。そこに鼻穴をヒクヒクさせながらオッサンが入ってくる。ついでに、出来上がった料理をつまみ食い。……って、コラ!
「ふむ。なかなかの料理上手ですね、姫は」
「……お父さま。はい」
「――はい?」
ニコニコのオッサンに渡したのは、白い液体の入った小さな壺と棒。それを手に、オッサンが軽く首をかしげた。
「それをシャカシャカかき混ぜて続けてください、お父さま」
「混ぜる?」
「そうです。それを混ぜて混ぜて混ぜまくってください」
「混ぜまくるとどうなるのですか?」
「白っぽい塊、乳脂ができます」
「こ、これを……、塊に……」
オッサンが、不安そうに壺を振って中を覗き込む。チャポッ、タプンッと、どう聞いても「液体!」な音のする壺。それを固形、塊にするまでとなると……。
「大丈夫ですわよ。半刻ほど混ぜるだけです。後で、お父さまのために湿布も用意しておきますから」
きっと出来上がる頃には、オッサンの腕は、使いものにならないほどパンパンになってるに違いない。筋肉痛待ったなし。
「それができたら、人参を煮込むのに使います。ですから急いでお願いしますね、お父さま」
勝手につまみ食いしたんだから、それぐらい協力しろ。
ニッコリ、姫らしく笑ってやる。
* * * *
「今日は、……地味だな」
卓を前に皇子が言った。
「品数はあるが……」
皇子の室の卓。両手を広げるよりも長い辺を持つ卓に、ギュウギュウと落ちそうなぐらい皿と器が並んでる。
「うるさいな。地味だけど味は保証するぜ」
庶民のオレが作ったのだから、皇宮の膳夫が作ったのと比べて地味なのは仕方ない。でも、味は悪くないと思う。
「全部食べろとは言わねえ。ここから好きなもの、食べられるものだけ食え」
料理は、皇子から渡された〝食べられるもの一覧〟を参考に作った。だから、嫌いなもの、食べられないものは入ってねえ。
「一応、気になるなら毒見もするが、――いるか?」
「いや、必要ない。愛しい姫が僕のために作ってくれたんだ。疑ったりしないよ」
「その〝姫〟っていうの、マジでやめろ」
「フフッ。では、いただくとするよ……って、きみも食べるのか?」
皇子と向かい合った椅子に腰掛けると、軽く驚かれた。
「こういうのはな、一緒に食べるのがいいんだよ」
言いながら、自分用に用意しておいた箸を持つ。
「誰かと話をしたりしながら食べたら、きっと楽しい。楽しけりゃ、意外と箸が進んでたくさん食べられたりするんだって」
「ふうん。そんなものかな」
「そんなもんだ」
ってことで、さっそく目の前にあった皿に手を伸ばす。青菜と茸と鶏肉、それを炒めてから卵でとじて、上から餡をトロリとかけたもの。――オレの大好物。
「全部、僕のために作ったものじゃないのか?」
皇子の視線が、オレの箸の先に集まる。
「ああ。これか」
卵と餡の合間から見える鶏肉。オレの大好物だけど、皇子の食べられないもの、鶏肉。
「これは、オレが食べたいから作ったんだよ。なんたって、ここには食材がふんだんにあるからな。それに、オレが旨そうに食ってたら、お前ももしかしたら『食べたいな』って思うようになるだろ?」
「そういうものか?」
「そういうもんなんだ。意外につられて食指が動くってこと、あるんだぜ?」
味覚、味の好みなんてもんは、固定じゃなく、年齢とともに結構揺れ動く。オレの場合、ちっちゃい頃は青菜が苦手だったけど、いつの間にかじいちゃんと一緒に食ってるうちに普通に食べられるようになった。今じゃ、結構な大好物。
「食事は誰かと楽しく。そいつが嫌いだからって卓に載せないのではなく、『食べてくれたらいいな』ぐらいの感覚で料理として並べる。食べてくれたら万々歳。そうじゃなくても、食べられるものだけでも食べてくれたら問題なし! ってな。卓に並べ続けたら、こっちが旨そうに食ってたら、いつかは食べてくれるようになるかもしれんって、じいちゃんが言ってた」
「お前は……、なにかあると二言目には『じいちゃん』なんだな」
「じいちゃんは、オレの大事な家族で、最高の師匠だからな。怒るとおっかないけど、頼もしいじいちゃんなんだ」
皇子が、オレの作った蕃椒と豆芽の和えものを口にした。茹でて苦味を減らしたせいか、二口目、三口目と蕃椒を食べてくれている。
「他に家族はいないのか?」
「家族はオレとじいちゃんだけだよ」
「両親は?」
「オレが八つのときに死んだ。二人ともな」
「……それは、悪いことを訊いたな」
皇子の箸の速さが少しだけゆるむ。
「いいって。別に隠すようなことじゃないし」
謝罪されるようなことでもないし。
「オレの両親はさ、五年前の珞水河の氾濫で亡くなったんだよ。オレの家はあの河の近くにあったからな」
珞水河の氾濫。
続く長雨で堤防がゆるんでいたところに、河の上流から濁流が押し寄せ、堤防が決壊。街が大量の水と土砂に押し流された。
当時、オレはたまたま、皇都にいたじいちゃんのもとに預けられてて助かったけど、家で治癒師と薬師として働いていた両親は、そこで患者と一緒に濁流に呑まれて亡くなった。
「……すまない」
皇子が箸を置き、頭を下げる。
「なんで、お前が謝るんだよ」
「治水は帝室の責務だ」
「――は? なんだそれ」
首をかしげる。
「んなもん、お前のせいじゃねえよ」
あっけらかんと言ってみるけど、皇子の頭は上がらない。
「あのさ。河川の水を収めるものが国を治める。災いを収め、益をもたらす者こそ治天の君だって言うんだろ、それ」
古来、幾度ととなく暴れ続けた河川。それを収めた者は、天帝より天下を治めることを許される。だから「治」という字には、「氵」という水に関わる文字が使われる。
「あのな。皇帝は天帝とは違うんだから、なんでもかんでも全部できるわけねえだろ。天帝は神様だから完璧にできるだろうけど、皇帝は人だ。間違うことだって、できないことだってたくさんあるさ。だから文武百官が皇帝をお支えしているだろ?」
「そうだけど……」
「大事なのは、失敗をくり返さないこと。これからどうしたらいいか。それを考えるんだよ。亡くなった人のことを教訓とするんだ。二度と悲しいことが起きねえようにする。それが最大の供養だからな」
それは治癒師の仕事も同じだ。
どんだけ腕利きの治癒師であっても、患者を治せる時とそうでない時がある。全力を尽くしてもどうしようもないってことがあるんだ。そういう時は、その患者で得た経験を次に活かすって誓う。もしかしたら、その次もダメかもしれない。でも、確実に経験を積み上げてる。二回目がダメでも、三回目は大丈夫かもしれないって思いながら治療にあたる。
人は学び、前へ進む生き物じゃ。
それが、オレのじいちゃんの口ぐせ。
だから、「なんで、どうして」でとどまってないで、「次はどうしたらいいか」を考える。前に進む。それが、亡くなった人への手向けだとオレは思ってる。
「……ありがとう」
「それにな。じいちゃんとの生活、案外、楽しいんだぜ?」
ここに父ちゃんや母ちゃんがいたらなって思うことは何度もあったけど、それでもなんだかんだで楽しくやってきた。
「オレにはじいちゃんや父ちゃんみたいな治癒師になるって夢もあるしな。悲しんでる暇なんてないんだよ」
実際、悲しんでる余裕なんてないぐらい、じいちゃんから治癒師の知識と技を叩き込まれた。治癒師だけじゃない。母ちゃんと同じ薬師としての心得もみっちり叩き込まれた。
「ってことで食おうぜ。せっかくの料理が冷めちまう」
「そうだな」
再び料理に箸を伸ばし始めた皇子。
(コイツ、そんな責任みたいなのを感じてたのか)
普通、そこで責任を感じるべき、謝罪するべきは皇帝なのに。たとえ皇太子であっても、治水が帝室の責務であっても、当時、オレと同じ七歳だったコイツになにができるわけでもねえのに。
(生真面目すぎるだろ。責任感強すぎ)
本当は、あの氾濫のことで帝室の奴らに言ってやりたいことは山程持ってる。何やってんだよとか、父ちゃんたちを返せとか。
でも、謝る、頭を下げるというより、項垂れる、自責の念に押しつぶされそうなかんじの姿に、文句を全部飲み込んだ。責任を感じてるやつを、さらに追い詰めちゃいけないって思った。
(苦労するな、コイツ)
そんなことを思いながらオレも食事に取り掛かる。
ちゃんと茹でてアクを抜いたはずの青菜なのに。なぜか口の中に苦味が広がった気がした。
―――――――
蕃椒=ピーマン 豆芽=もやし 蘇=チーズ 乳脂=バター
葱も加熱すると辛味が減って甘みが増す。これを利用して、弱めの火加減で、コトコト煮込んだ上で、豆腐と溶き卵を入れて汁物を作る。味付けは醤油と塩。
本当は、肉とか魚も食べさせて体を作っていきたいところだけど、体が受けつけないんじゃ意味がないから諦める。代わりに、豆や卵をふんだんに使う。
あと、面白いところとして、牛の乳を煮詰めて蘇を作る。牛の乳が飲めないやつでも、これなら大丈夫ってこともある。本来の蘇は乳を煮詰めるだけだけど、ちょっと工夫して砕いた豆を混ぜて作る。
「やってますね、姫」
「オッサ……おと、うさま」
言いかけて、ぎこちねえけど訂正。オッサンが「ウンウン」と頷いた。
「なかなか、よい香りがしますね。お腹、空いてきましたよ」
オレ専用の厨房。そこに鼻穴をヒクヒクさせながらオッサンが入ってくる。ついでに、出来上がった料理をつまみ食い。……って、コラ!
「ふむ。なかなかの料理上手ですね、姫は」
「……お父さま。はい」
「――はい?」
ニコニコのオッサンに渡したのは、白い液体の入った小さな壺と棒。それを手に、オッサンが軽く首をかしげた。
「それをシャカシャカかき混ぜて続けてください、お父さま」
「混ぜる?」
「そうです。それを混ぜて混ぜて混ぜまくってください」
「混ぜまくるとどうなるのですか?」
「白っぽい塊、乳脂ができます」
「こ、これを……、塊に……」
オッサンが、不安そうに壺を振って中を覗き込む。チャポッ、タプンッと、どう聞いても「液体!」な音のする壺。それを固形、塊にするまでとなると……。
「大丈夫ですわよ。半刻ほど混ぜるだけです。後で、お父さまのために湿布も用意しておきますから」
きっと出来上がる頃には、オッサンの腕は、使いものにならないほどパンパンになってるに違いない。筋肉痛待ったなし。
「それができたら、人参を煮込むのに使います。ですから急いでお願いしますね、お父さま」
勝手につまみ食いしたんだから、それぐらい協力しろ。
ニッコリ、姫らしく笑ってやる。
* * * *
「今日は、……地味だな」
卓を前に皇子が言った。
「品数はあるが……」
皇子の室の卓。両手を広げるよりも長い辺を持つ卓に、ギュウギュウと落ちそうなぐらい皿と器が並んでる。
「うるさいな。地味だけど味は保証するぜ」
庶民のオレが作ったのだから、皇宮の膳夫が作ったのと比べて地味なのは仕方ない。でも、味は悪くないと思う。
「全部食べろとは言わねえ。ここから好きなもの、食べられるものだけ食え」
料理は、皇子から渡された〝食べられるもの一覧〟を参考に作った。だから、嫌いなもの、食べられないものは入ってねえ。
「一応、気になるなら毒見もするが、――いるか?」
「いや、必要ない。愛しい姫が僕のために作ってくれたんだ。疑ったりしないよ」
「その〝姫〟っていうの、マジでやめろ」
「フフッ。では、いただくとするよ……って、きみも食べるのか?」
皇子と向かい合った椅子に腰掛けると、軽く驚かれた。
「こういうのはな、一緒に食べるのがいいんだよ」
言いながら、自分用に用意しておいた箸を持つ。
「誰かと話をしたりしながら食べたら、きっと楽しい。楽しけりゃ、意外と箸が進んでたくさん食べられたりするんだって」
「ふうん。そんなものかな」
「そんなもんだ」
ってことで、さっそく目の前にあった皿に手を伸ばす。青菜と茸と鶏肉、それを炒めてから卵でとじて、上から餡をトロリとかけたもの。――オレの大好物。
「全部、僕のために作ったものじゃないのか?」
皇子の視線が、オレの箸の先に集まる。
「ああ。これか」
卵と餡の合間から見える鶏肉。オレの大好物だけど、皇子の食べられないもの、鶏肉。
「これは、オレが食べたいから作ったんだよ。なんたって、ここには食材がふんだんにあるからな。それに、オレが旨そうに食ってたら、お前ももしかしたら『食べたいな』って思うようになるだろ?」
「そういうものか?」
「そういうもんなんだ。意外につられて食指が動くってこと、あるんだぜ?」
味覚、味の好みなんてもんは、固定じゃなく、年齢とともに結構揺れ動く。オレの場合、ちっちゃい頃は青菜が苦手だったけど、いつの間にかじいちゃんと一緒に食ってるうちに普通に食べられるようになった。今じゃ、結構な大好物。
「食事は誰かと楽しく。そいつが嫌いだからって卓に載せないのではなく、『食べてくれたらいいな』ぐらいの感覚で料理として並べる。食べてくれたら万々歳。そうじゃなくても、食べられるものだけでも食べてくれたら問題なし! ってな。卓に並べ続けたら、こっちが旨そうに食ってたら、いつかは食べてくれるようになるかもしれんって、じいちゃんが言ってた」
「お前は……、なにかあると二言目には『じいちゃん』なんだな」
「じいちゃんは、オレの大事な家族で、最高の師匠だからな。怒るとおっかないけど、頼もしいじいちゃんなんだ」
皇子が、オレの作った蕃椒と豆芽の和えものを口にした。茹でて苦味を減らしたせいか、二口目、三口目と蕃椒を食べてくれている。
「他に家族はいないのか?」
「家族はオレとじいちゃんだけだよ」
「両親は?」
「オレが八つのときに死んだ。二人ともな」
「……それは、悪いことを訊いたな」
皇子の箸の速さが少しだけゆるむ。
「いいって。別に隠すようなことじゃないし」
謝罪されるようなことでもないし。
「オレの両親はさ、五年前の珞水河の氾濫で亡くなったんだよ。オレの家はあの河の近くにあったからな」
珞水河の氾濫。
続く長雨で堤防がゆるんでいたところに、河の上流から濁流が押し寄せ、堤防が決壊。街が大量の水と土砂に押し流された。
当時、オレはたまたま、皇都にいたじいちゃんのもとに預けられてて助かったけど、家で治癒師と薬師として働いていた両親は、そこで患者と一緒に濁流に呑まれて亡くなった。
「……すまない」
皇子が箸を置き、頭を下げる。
「なんで、お前が謝るんだよ」
「治水は帝室の責務だ」
「――は? なんだそれ」
首をかしげる。
「んなもん、お前のせいじゃねえよ」
あっけらかんと言ってみるけど、皇子の頭は上がらない。
「あのさ。河川の水を収めるものが国を治める。災いを収め、益をもたらす者こそ治天の君だって言うんだろ、それ」
古来、幾度ととなく暴れ続けた河川。それを収めた者は、天帝より天下を治めることを許される。だから「治」という字には、「氵」という水に関わる文字が使われる。
「あのな。皇帝は天帝とは違うんだから、なんでもかんでも全部できるわけねえだろ。天帝は神様だから完璧にできるだろうけど、皇帝は人だ。間違うことだって、できないことだってたくさんあるさ。だから文武百官が皇帝をお支えしているだろ?」
「そうだけど……」
「大事なのは、失敗をくり返さないこと。これからどうしたらいいか。それを考えるんだよ。亡くなった人のことを教訓とするんだ。二度と悲しいことが起きねえようにする。それが最大の供養だからな」
それは治癒師の仕事も同じだ。
どんだけ腕利きの治癒師であっても、患者を治せる時とそうでない時がある。全力を尽くしてもどうしようもないってことがあるんだ。そういう時は、その患者で得た経験を次に活かすって誓う。もしかしたら、その次もダメかもしれない。でも、確実に経験を積み上げてる。二回目がダメでも、三回目は大丈夫かもしれないって思いながら治療にあたる。
人は学び、前へ進む生き物じゃ。
それが、オレのじいちゃんの口ぐせ。
だから、「なんで、どうして」でとどまってないで、「次はどうしたらいいか」を考える。前に進む。それが、亡くなった人への手向けだとオレは思ってる。
「……ありがとう」
「それにな。じいちゃんとの生活、案外、楽しいんだぜ?」
ここに父ちゃんや母ちゃんがいたらなって思うことは何度もあったけど、それでもなんだかんだで楽しくやってきた。
「オレにはじいちゃんや父ちゃんみたいな治癒師になるって夢もあるしな。悲しんでる暇なんてないんだよ」
実際、悲しんでる余裕なんてないぐらい、じいちゃんから治癒師の知識と技を叩き込まれた。治癒師だけじゃない。母ちゃんと同じ薬師としての心得もみっちり叩き込まれた。
「ってことで食おうぜ。せっかくの料理が冷めちまう」
「そうだな」
再び料理に箸を伸ばし始めた皇子。
(コイツ、そんな責任みたいなのを感じてたのか)
普通、そこで責任を感じるべき、謝罪するべきは皇帝なのに。たとえ皇太子であっても、治水が帝室の責務であっても、当時、オレと同じ七歳だったコイツになにができるわけでもねえのに。
(生真面目すぎるだろ。責任感強すぎ)
本当は、あの氾濫のことで帝室の奴らに言ってやりたいことは山程持ってる。何やってんだよとか、父ちゃんたちを返せとか。
でも、謝る、頭を下げるというより、項垂れる、自責の念に押しつぶされそうなかんじの姿に、文句を全部飲み込んだ。責任を感じてるやつを、さらに追い詰めちゃいけないって思った。
(苦労するな、コイツ)
そんなことを思いながらオレも食事に取り掛かる。
ちゃんと茹でてアクを抜いたはずの青菜なのに。なぜか口の中に苦味が広がった気がした。
―――――――
蕃椒=ピーマン 豆芽=もやし 蘇=チーズ 乳脂=バター
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