応募資格は、「治癒師、十三歳、男限定???」

若松だんご

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一、碧鳥

(四)

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 「ってことで、また来たぞ、皇子!」

 薄暗い図書寮。
 オレが棚の間からニョコッと顔を出すと、皇子が手にした書から微かに顔を上げた。

 「またお前か」

 「おう、またオレだ」

 すぐに視線を書に戻した皇子。それ以上言葉を発することもない。
 書庫に護衛兵はいない。外で待機してる。だからここにはオレとコイツだけ。

 「なあ、そんなに顔を近づけて読んでると、目ぇ悪くなるぞ」

 それでなくても明かりが乏しい場所なのに。

 「せっかくのきれいな目なんだから、もっと大事にしろよ」

 読むならもっと明るい場所で、顔を近づけずに読め。

 「……うるさいな」

 お、珍しくこっちを見たなコイツ。
 眉間にしわが入ってるし、にらみつけるような視線だけど、それでもこっちを「見た」。大前進だ。

 「なあ、ちょこっと、ほんの少しの時間でいいからさ、オレに診察させろよ。痛くもしねえし、怖いこともねえからさ」

 こっちを見てる間に。
 一気にたたみかけるように語りかける。

 「お前、きれいなのはいいけどさ、メッチャヒョロヒョロだし真っ白だし。オッサンがオレに頼んでくるぐらいだから、どこか悪いところがあるんじゃないかって、気になるんだよ」

 皇子はオレと同い年。
 だから、気難しい皇子もオレになら診察を許すんじゃないかって、オッサンは言っていた。同い年の同性の気安さがキッカケになればって。
 でも。
 
 (コイツ、本当に同い年かよ)

 疑いたくなるぐらいの体の細さ。背も低い。日焼けしてなくて白いんじゃなくて、血色悪くて肌が白い。
 目は硝子玉のように澄んでて、その華奢な容姿に似合ってるけど……、どこか不健康そうなきれいさに感じるんだよな。

 「診て、どこも悪くないっていうのなら、それでオレも離れるからさ。一度ぐらい診察させろよ」
 
 病的に色が白いのも、ヒョロッと細いのも、その目と同じでコイツの特徴だって、これで健康なんだっていうのなら、それで納得する。だから、一度ぐらい診させろ。

 「無礼なやつだな」

 パタンと手にした書物を閉じた皇子。キッと、青い目がこちらを射抜くように細められた。

 「え? ああ。だって、敬うの疲れたし」

 「――――は?」

 オレの態度に、きれいに弧を描く皇子の眉がひくついた。

 「だってさあ、お前、町のガキンチョみたいでさ、敬う意味あるのかって思ったんだもん」

 「僕が? 町の?」

 「そうだよ。治療こわい~、いやだ~って駄々こねるガキンチョ。母ちゃんに腕を引っ張られて、大泣きしながら引きずられてくるガキンチョ」

 ヤダヤダヤダ~。治癒師のじじいこわいもんっ! ってやつ。
 そのガキンチョを実演、自分を抱きしめイヤイヤしてやったら、皇子が「なっ!」って言葉を失った。

「ちょっと診るだけだからさ。なんならここですませてもいいからさ。一回、ちょっと診せろよ」

 ズイッと身を乗り出す。

 「診て、どっか悪いところがあるならさ、そりゃあ痛い治療も、苦い薬もあるかもしれねえけどさ。でも、辛いまま我慢してるより、ずっとマシになるぜ? 我慢して、ほっといても治ったりしねえからさ。それぐらいなら、ちょっと大変でも治療を受けたほうがいいって」

 これはヤダヤダのガキンチョへの常套句。じいちゃんの治療を嫌がるガキに聞かせる言葉。
 辛いのはイヤだろ? 苦しいままの今はイヤだろ?
 同じ我慢をするのだって、病気の辛さを我慢するより、治療の辛さを我慢するほうがマシ。じいちゃんは顔はいかめしいし、への字口でちっとも笑わねえけど、腕は確かだから絶対治してくれる。
 元気になったらいっぱい遊べて、いっぱい食べられる。だから、今だけちょっとがんばろうな。
 大抵のガキンチョは、それで「うん」って泣き腫らした顔で頷くんだけど……。

 「だから、必要ないと言っている」

 皇子の頑固さはガキンチョ以上だった。
 くそ。手強い。

 「でもよお。お前はそれでいいかもしれねえけど、あのオッサンの胃はそれで治まんねえんだから、一度診せろよ。診て、お前が元気だってなったら、安心してオッサンの胃の不調も治るかもしれねえし」

 「そんなの僕には関係ない」

 ツイッと顔をそむけた皇子。

 「そんなに体に不調をきたしてるのなら、離れたらいい」

 ――は?

 「何いってんだよ。オッサンはお前のことを心配して胃を痛めてんだろうが」

 「だから、胃を痛めるぐらいなら、僕から離れたらいい。そこまでしてそばにいて欲しいと頼んだ覚えはない」

 なんだよそれ。

 「それが人に心配されてるヤツの台詞かよ」

 「だから、その心配が不要だと言ってるんだ」

 ンギギギギ。
 せっかく皇子と目が合った、絶好の機会だと思ったのに。

 「僕なんて放っておけばいいんだ」

 ブツン。

 「それが上に立つ者の言葉かぁぁっ!」

 気がつけば、その胸ぐらを引っ掴んでたオレの手。

 「皇子さまだかなんだか知らねえがな! 心配してる人がいたら、それを安心させてやるのが人ってやつだろうがっ! 下を労るのが上の努めっ! 部下のオッサンの胃ぐらい守れないお前に国が守れるのかよっ!」

 言いたいこと、言いたかったことをすべてぶちまける。
 やっちまったなって少し思ったけど、全部言いきってスッキリした。

 「……うるさい、治癒師ふぜいが」

 んだと、こら。

 「お前こそ、何もわかってないくせに。知ったような口を……きく、な……」

 は?

 「え、あ、おいっ!」

 グラリとゆれた皇子の体。崩れ落ちかけた体を、胸ぐら掴んだままのオレがぶら下げてるような格好になる。

 「おい! ちょっと、コラ!」

 まぶたを閉じ、クタリと力の抜けた皇子。
 これじゃあオレ、治しに来たんじゃなくて、悪化させに来たみたいじゃねえか!
 こんなの、じいちゃんに知られたら、「なにやっとるんじゃあ、バカモノがあっ!」ってゲンコツが落ちるぞ、絶対。やべえ。
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