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第20話 いざ尋常に、勝負、勝負!!

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 で。
 各馬ゲートインしま……訂正、妃候補令嬢たちが王宮に入ったわけなんだけど。

 1 マリエンヌ・ローゼ・ノイシュハウゼン嬢。公爵家ご令嬢。

 淡い金色の髪のご令嬢。高貴な美人。
 芳紀二十。
 王子とも旧知の仲。
 「戦場を駆け巡ってる王子のことを癒したい」なんてことをおっしゃるほどお優しい性格。わたしのことを愛してるなんて王子がウソをついても、「それでも、お慕いしてることを許してください」なんて健気なことをおっしゃる人。お父上はこの国の宰相。

 「バラを擬人化したら、あんな感じよね~」とミネッタ。

 2 リーゼル・フィオレンティーナ・ノルトハイム嬢。侯爵家ご令嬢。

 流れるような銀色の髪のご令嬢。凛とした美人。
 芳紀十九。
 詳しくは知らないけど、教会に深く関わりのある家のご出身らしい。そのせいか、どこか浮世離れした印象を受ける。清純っていうのかな。世間の穢れに触れてないかんじ。

 「月の光を擬人化したら、あんな感じよね~」とミネッタ。

 3 クラリッサ・ヴァルヴィラ・ミルトベルク嬢。伯爵家ご令嬢。
 
 輝く黄金色の髪のご令嬢。派手な印象の美人。
 芳紀十八。
 よく知らないけど、ご実家はいくつもの領地を持ったかなりのやり手の実業家。その手腕は国王からも高く評価されてるんだって。吊り目がちの勝気そうな人。
 
 「黄金を擬人化したら、あんな感じよね~」とミネッタ。

 4 アデル・ヘルミーナ・リリエンタール嬢。男爵家ご令嬢。

 ありふれた茶色の髪のご令嬢。埋もれてしまいそうな美人(!?)
 芳紀十七。
 北方の領地で父である男爵とともに、よくわからない芋作りに精を出す風変わりな人物。王子に手をあげる乱暴な性格。王子の寵愛というゴリ押しにてゲートイン。

 「ジャライモを擬人化したら、こんな感じよね~」とミネッタ。

 って、おいっ!!
 仮にもアンタのご主人さまでしょうが!! ジャライモ擬人化って何よ!!

 「1 政治的権力」、「2 宗教的権力」、「3 財力」と、実家の、ご令嬢のバックボーンスゲーってなったことろで、「4 ……? 王子の愛?」となる。

 王子の愛って結婚に一番必要なものかもしれないけど、一番不要なもののような気もする。
 王族の結婚に「愛」など必要ないから。結婚に必要なのは、王権を盤石にするための力だから。相手が誰であってもその力を与えてくれるなら、「NO」とは言えない。
 相手がどれだけオカメでも、どれだけ性格壊れてても。「愛」より「嫌悪」となっても別の女を好きになっても、「チェンジ!!」とは言えない。
 「他に好きな女ができたから婚約破棄だ!!」、「貴様は、この国の妃にふさわしくない!! 離婚だ!!」、「新しい妻に、この〇〇令嬢を迎え入れる!! 彼女は聖女だからな!!」なんてのは、都合のいいラノベだけの展開なのよ。結婚は政治なんだから、そこに私情は挟めない。王族であっても。逆に、王族だからこそ、そんなワガママは許されない。
 だから、わたしがこの最終選考に残ったところで、こんなの出来レースだし、選ばれるのは「1 政治的権力」のマリエンヌさま一択でしょ?っていう。
 でなきゃ、周りが納得しない。王家的にも困ること必至。
 リーゼルさまも、クラリッサさまも、そのへんはわきまえてると思う。彼女たちを最終選考に残したことで、バックボーンに一応の礼を果たしたことになるし。あとは、本命のマリエンヌさまで。
 マリエンヌさましか勝たん。
 王子は、わたしを半ばごり押しで最終選考レースに放りこんだみたいだけど、あれがワガママを言えるのはここまで。
 うん。ここまで。
 だから、ノンビリユッタリ放置プレーでいいのに。

 「王宮での暮らし心地はどうだ?」

 どぉしてアンタがわたしのとこに来るのよぉぉぉぉっ!!

 夜になって、ひょっこり部屋にやって来た王子。
 マリエンヌさまのとこにでも行きなさいよ、このバカ王子。それがダメなら、リーゼルさまとかクラリッサさまのところ。あっちにちょちょっと顔出して、王子らしくリップサービスしてくればいいじゃない!!
 
 「……引っ越しの片づけが残ってるので、また今度にしてもらえますか?」

 「片づけ? これ以上、どこを片づけるんだ?」

 こじんまりした菫の間。そこに相応しいだけの荷物量。
 ううう。貧乏ゆえのミニマリスト生活が恨めしい。

 「それに、ここは俺の家だ。どこに行こうが俺の自由だ」

 そうですね。王宮なんてバカデカい建物を「俺の家」って表現できるって、さすが王子様だわ(イヤミ)。

 「ここが一番落ち着く」
 
 言うなり、勝手にソファ(王宮備品)でくつろぎ始める王子。
 その姿は、どこか仕事帰りのくたびれたリーマンを彷彿とさせる。
 
 「くつろぐなら、マリエンヌさまのところでもいいのでは? あっちなら膝枕ぐらい余裕でしてくれますよ?」

 膝枕しながら、そっと髪を梳いてくれるマリエンヌさま。うーん。絵になる。
 マリエンヌさまはともかく、わたしは「お帰りなさい、アナタ。お疲れでしょう」的ポジションにはなりたくない。

 「膝ならお前の膝を借りたい」

 「貸したくないんですけど」

 即答。わたしの膝はわたしのもの。貸し出し不可です。

 「ヴァルシュタイン男爵は元気にしているか?」

 なんですか、そのセリフ。脅し?
 ニヤリと片方だけあげられた口角。うわ、メッチャムカつくわ、その笑い。
 仕方なく権力に屈し、ソファに腰かけて膝を貸す。

 「ふむ。官能的な肉の柔らかさもなく、暴食的な肉の厚みもなく。ほどよく肉の少ない膝だな」

 それは、色っぽくもなければ太っちょでもないってこと?
 コノヤロ。その肉で首をガッチリホールドしてやろうか?

 「そう怒るな。悪くないと言ってるんだぞ? あれだけガッツリ食っときながら、太ってないのはいいことじゃないか」

 「そんなに、ガッツリ食べてないわよ」

 「どうだかな。それより、このまましばらく膝を借りるぞ。だから動くな」

 王子が深く息を吐き出し、瞼を閉じた。

 「ちょっと!! わたしの膝は王宮備品じゃないんだから!! 長期利用、私物化はやめて欲しいんだけど?」 

 よっぽど疲れてたのか。わたしの文句に耳を貸すことなく、すぐに規則正しい寝息が聞こえ始めた。
 
 静かな部屋。寝息だけが聞こえる世界。
 ミネッタは、王子が来たとたん、「二人っきり♡」と楽しそうにいそいそと控えの部屋に下がっていった。でも、興味津々って目をしてたから、きっと鍵穴とかから、こっちを覗いて楽しんでるだろうけど。

 (ま、仕方ないか……)

 こんな爆速で寝ちゃうようなぐらい疲れてたのかと思うと、無理に膝枕を止めるのは気がひける。
 まあ、ちょっとぐらい膝を貸してやってもいいかなって。気持ちよさそうに寝てるのに、頭をダルマ落とししちゃ可哀想でしょ。

 (にしても、ホント、イケメンよね~)

 少しクセのあるサラッサラな髪。この世の光を集めたかのような金色。
 一番印象的な深く青い瞳は、瞼のむこう。そのせいか、普段は王子さまらしいというのか、キリッとしたかんじなのに、今はどっちかというと幼い印象を受ける。
 子どもの寝顔は天使……みたいなことを聞くけど、大人になってもそれは当てはまるのかもしれない。
 口と態度はとんでもなく悪いけど。顔だけはいい。

 (まあ、素でいられるのは、わたしの前だけみたいだしね)

 舞踏会で見た姿を思う。
 口の悪さも悪態も隠した、完璧なまでの「王子さまスタイル」。
 あれが日常業務なのだとしたら、くつろぐのは難しいだろうな。猫被りっぱなしは疲れるもんね。猫がデカくなりすぎて、肩こりになりそう。そのうち猫にグエッと押しつぶされる。
 結婚までの出来レースから外れきったわたしだし。気を使う必要のない相手だし。
 もしかすると、がんじがらめの王子生活から離れたくて、わたしをスパイス的に選んだんだのかもしれない。
 気の置けない、悪態をつける相手が欲しかった……とか。

 (仕方ない。たまには、膝ぐらい貸してあげるわよ)

 このままずっとはイヤだけど、ちょっとぐらい、たまになら……ね。
 って思ってたんだけど。

 翌朝。

 (わたしの足、ドコイッタッ!!)

 そのままウッカリわたしまで寝ちゃったもんで、足、痺れすぎて感覚行方不明。思わずスカートめくって確かめたくなるぐらい、足の感覚がない。

 「……バカ? ああいうのは、少女マンガの一コマ分以上やったら、ダメに決まってるでしょうが。次のコマには離れるのが定石よ」

 ため息をつきながら腰に手を当てるミネッタ。
 そんな風に言わなくても。
 身をもって、少女マンガ的展開の危険性を思い知ったんだから。
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