上 下
18 / 28

第18話 「おめでとう」と言われても。

しおりを挟む
 ということで。
 王子について考えることにした。

 エーベルハルト・ユリアス・ハルトヴィッヒ・リオン・グリューネライヒ王子殿下。
 長ったらしい名前の、このグリューネル王国の第一王子。ご兄弟はおられず、母后も亡く、このままいけば王位継承第一位で、王様になる(予定)の人。
 御年22歳。
 少しクセはあるけど、サラッサラな髪。色はもちろん、この世の光をかき集めたかのような金色。深く青い瞳は、当然のようにスッと切れ長。スラッと高い均整のとれた長身。王子というだけあって、洗練された身のこなし。声も低すぎず高すぎず耳に心地よい。 
 つまり、イケメン。
 王子らしく普段の一人称は「私」。だけど裏の一人称は「俺」。
 「私」の時は、どこのゲームの攻略対象かってぐらいイケメン王子なのに、「俺」の時は、どこかのラスボス、魔王レベルで口も態度も最悪になる。
 王族としての責任を果たすため、戦争を終結させるために陣頭に立っているらしい。今も戦場に戻りたいらしく、そのために、父王の出した条件である「花嫁さがし」に参加している。
 とりあえずの参加で、とりあえずの(仮)でわたしを押さえることにした、らしい。
 自分に相応しいのは、優しいだけ、身分があるだけの女ではなく、わたしのように容赦なく引っぱたく女がいいらしい。もしかするとMの気があるのかもしれない。
 わたしがミネッタとやってる「ジャライモの研究」にも興味があるらしい。もしかすると、研究資金とか協力してくれるかもしれない。

 (う――――ん……)

 ここまで考えてみて、思わず唸って腕を組んでみる。
 気に入らないところは、その二面性かな。多分、「俺」の時が素の王子なんだろうけど、その時の上からっぷりがなんというのか……。気に喰わない。
 家族を人質にとるようなこと言うし。コルセット外してただけで、色仕掛けとか勘違いしてくるし。人の口を容赦なくふさいでくるし。
 黙ってればイケメンの完璧王子なんだけどな。今度あの口に布でもつっこんで黙らせておこうかしら。
 戦争を終わらせるために自ら陣頭に立っている……っていうのは王子のいいところだと思う。王子が始めた戦争でないにしても、王家の者にその責任がないとは言えないのが戦争。だけど、ふつう王家の、それも王位継承者第一位の人は始めるだけ始めといて、あとは誰かに丸投げだもん。戦場なんかに赴かないからね。その点、王子はかなり評価できるんじゃないかな。話した感じ、「戦争屋です。戦争が好きで好きでたまらない……」ではなく、「それが王子としてのノブレス・オブリージュ高貴な者の義務」だからやっているみたいだし。
 このまま相手のペースに合わせて恋愛していってもいいものかどうか。
 もし、本当にわたしを好ましく思ってくれてるならまあ、その……、悪くないって気もするけど。これが本当に(仮)でしかなく、戦争が終わって、別のヒロインと一緒になりたい!! お前とは婚約破棄だって言われたら、恋愛も悪くないかな~って思っちゃった分、こっちへのダメージも大きくなるわけで。
 「アホが見る~、ブタのケツ~」なんて笑われたくないし。
 ってか、そもそもにわたし、「好きだ」とか言われてないんだよね。
 花嫁候補だなんだって言ってくるけど、そういう根本的な部分が抜け落ちてんのよ。
 「好き」って言われて、それで「花嫁候補」だって決められたのなら納得もするし、少しぐらい未来を考えてもいいかなってなるけど、そういうのまったくナシだから、考える気にならないのよ。
 そうよ、そうなの、そうなのよ。
 わたしだけがグルグル考え込むんじゃなくって、相手がどう思っているのか行動、もしくは言葉で示してくれなきゃ。王子との恋愛なんて危険な場所に、ホイホイと足を踏み込めるわけないじゃない。
 ということで、わたしの判断は保留!!
 相手の出方次第、様子見ってことにするわ。うん。

*     *     *     *

 ところがぎっちょん!!

 「王宮ぅぅぅぅ~~~~っ!!」

 って事態になった。
 
 ――アデル・ヘルミーナ・リリエンタール、ヴァルシュタイン男爵令嬢。汝を、エーベルハルト・ユリアス・ハルトヴィッヒ・リオン・グリューネライヒ王子殿下の花嫁最終候補とし、王宮にて暮らすことを命じる。

 なんて通知が届いちゃって。

 「最終選考は、『ひとつ屋根の下』ってことですか。やりますねえ、王宮。どうやったらラブコメになるか、恋愛が発展するか、よくわかってるじゃない。最高のフラグでしょ、それ」

 いや、よくわかられても困る。
 ミネッタの言葉に頭を抱えたくなった。

 「ま、とりあえずここは選ばれて、めでたいということで……」

 へ!?

 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「めでたいなあ」
 「おめでとさん」
 「クックッカァ」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「おめでとう」
 「「おめでとう」」

 「……ねえ、これってわたしが『ありがとう』って言わなきゃいけない展開なの?」

 ボクはボクでしかない。ボクはボクだ。ボクはここにいてもいいんだ的な。
 いろんな角度から「おめでとう」と拍手をしてくれたミネッタ。声真似つき。ホント、こういうとこの芸は細かい。

 「まあ、なんだっていいんですよ、別に。とりあえず王宮で暮らすことになったら、色々と波乱がありそうですねえ。最終候補って、お嬢様だけじゃないでしょうし。王子が常にそばにいることで、あれやこれやイベントが起きそうですし。楽しみですねえ」

 「……楽しみ?」

 「そうですよ。よくラノベなんかである『異世界学園モノ』のノリですよ。まあ、どうして王国の貴族が学園なんかに入学するのか、どうして王族が生徒会長なんかを務めてるのかツッコミどころ満載ではありますが、ああいうかんじで共同生活をおくれば、うれし恥ずかしハプニングとか、昼ドラばりのドロドロ事件も起きるでしょうし、見逃せませんよ」

 「いや、見逃せないって。……もしかして、ついてくる気?」

 「当たり前じゃないですか。そんなおもしろ……、いえ、大変なところへお嬢さまだけを行かせるわけないじゃないですか」
 
 興味本位なのね。言い直したってバレてるわよ。

 「あっちにも女官とかいるでしょうけど、普通は侍女の一人や二人、下手すりゃ一個師団レベルを引き連れての王宮入りだと思いますよ」

 まあ、そうだろうけど。(一個師団は多すぎだけど)
 身分のあるご令嬢ともなれば一人で出かけるなんてことはないし。着替え一つ自分でできないんだから、誰かお供は必須だろうし。
 
 「ああ、ドレスとかも用意しなくちゃいけませんねえ。これはなにかと忙しくなりそうですねえ」

 絶対楽しんでる。こっちはため息しか出てこないのに、ミネッタは鼻歌まじりのスキップ状態。

 (王宮での生活……ねえ)

 想像がつかない。
 王子に選ばれるかどうかの王宮生活。
 それってやっぱり、トゥシューズに画鋲が……みたいなことが起きちゃったりするんだろうか。
 花嫁候補同士の足の引っ張り合い的なこととか。
 
 「できれば何ごともなく、『厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご期待に添えない結果となりました。貴殿のますますのご活躍を祈念いたします』とかなんとか言われて、サヨナラされたら一番いいんだけどなあ」

 そしたら、領地に戻ってジャライモ作りに精を出すのに。
 どれだけ考えても、王子との未来なんて想像つかないし。イケメンだけど上から目線の王子を好きになる自分なんて想像すらできないし。
 
 「ま、最終候補はわたしだけじゃないんだし。どれだけ王子が『コイツがいい』って言い張っても、周りが止めるでしょ」

 飼うなら血統書付きの猫。わたしみたいなハズレ猫は、「もとの場所に返してきなさい」とか言って、雨に濡れたダンボールの中に戻されるのがオチなのよ。
 じっくり比べてみれば、王子だってわたしみたいなハズレより、血統書付きのあっちのがいいってことに気がつくでしょ。
 そうよね、そうだわ、そうなのよ。

 ということで。
 ムリヤリ気楽に考えることにする。
 イヤなことは、わざと気楽にアホなことを考えて気を紛らわすにかぎる。

 「そんな上手くいくと、ホントに思ってます? このフラグが簡単にへし折れるとでも?」

 ちょっとミネッタ!! 笑いながら不穏なこと言わないでよ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

平安☆セブン!!

若松だんご
ファンタジー
 今は昔。竹取の翁というものあらずとも、六位蔵人、藤原成海なるものありけり。この男、時に怠惰で、時にモノグサ、時にめんどくさがり。  いづれの御時っつーか今、女御、更衣あまた候ひ給わず、すぐれて時めき給ふ者もなし。女御なるは二人だけ。主上が御位にお就きあそばした際に入内した先の関白の娘、承香殿女御と、今関白の娘で、新たに入内した藤壷女御のみ。他はナシ。    承香殿女御は、かつてともに入内した麗景殿女御を呪殺(もしくは毒殺)した。麗景殿女御は帝に寵愛され、子を宿したことで、承香殿女御の悋気に触れ殺された。帝は、承香殿女御の罪を追求できず、かわりに女御を蛇蝎のごとく嫌い、近づくことを厭われていた。    そんな悋気満々、おっそろしい噂つき女御のもとに、才媛として名高い(?)成海の妹、藤原彩子が女房として出仕することになるが――。  「ねえ、兄さま。本当に帝は女御さまのこと、嫌っておいでなのかしら?」  そんな疑問から始まる平安王朝っぽい世界の物語。  滝口武士・源 忠高、頭中将・藤原雅顕、陰陽師・安倍晴継、検非違使・坂上史人。雑色・隼男。そして承香殿女房・藤原彩子。身分もさまざま、立場もさまざま六人衆。  そんな彼らは、帝と女御を守るため、今日もドタバタ京の都を駆け巡り、怠惰な成海を振り回す!!  「もうイヤだぁぁっ!! 勘弁してくれぇぇっ!!」  成海の叫びがこだまする?

釣った魚にはエサをやらない。そんな婚約者はもういらない。

ねむたん
恋愛
私はずっと、チャールズとの婚約生活が順調だと思っていた。彼が私に対して優しくしてくれるたびに、「私たちは本当に幸せなんだ」と信じたかった。 最初は、些細なことだった。たとえば、私が準備した食事を彼が「ちょっと味が薄い」と言ったり、電話をかけてもすぐに切られてしまうことが続いた。それが続くうちに、なんとなく違和感を感じ始めた。

処理中です...