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第17話 乙女の妄想は、時折エッチな方向に暴走する(らしい)。

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 「で!? 今回の夜会でも、お断りできなかったと」

 ブスッとするわたし。ため息混じりに髪を梳いてくれるミネッタ。
 
 「それどころか、これから何度か王宮に伺候するように言われたわ」

 への字に曲げた口が、さらに折れ曲がる。
 ちょっと気分が良くなって、ついウッカリ(仮)の継続を許しちゃったけど。家に帰って冷静になると、そのあたりの自分を軽く後悔する。
 
 「この先は最終選考なんですって。選ばれたご令嬢だけが王宮に出入りすることになるそうよ」

 王宮に何度か訪れ、王子と交流を重ね、最終的に愛を深めていくらしい。
 
 「愛……ですか」

 「うん、『愛』よ」

 笑いたくなるパワーワード、『愛』。
 なんとなくだけど「そこに愛はあるんか!?」と聞きたくなる。
 だって、ないでしょ。『愛』なんて。
 わたし以外の令嬢たち。
 王子を愛してるんじゃなくって、その地位を愛してるんだろうし。まあ、まれにあの容姿に愛を感じちゃってる人もいるかもしれないけど。
 そして王子自身。
 戦場に戻りたいから。終わった後で、わたしなら後腐れなく別れられるから。わたしの作ってる作物に興味があるから。
 それだけの理由。
 時折、「愛してる」とかなんとかぬかしてるけど、あれは本心じゃない。絶対。だって、本性丸出しで話してる時と違って、妙なキラキラ飛ばしてるし。あれ演技だもん。「好きだ」なんだってのも一緒の演技だもん。
 本当にわたしのことを想っているなら、もっと違う態度に出るはずだもん。

 「もう、いっそのこと『ドレスがないから伺候できません』って言っちゃおうかな。本当のことだし」

 何回も王宮に来いって言われても。
 どっかの学校の制服じゃあるまいし、ずっと同じドレスってわけにはいかないもんね。
 いくら姉さまの残してくれたお下がりドレスがあろうとも、ミネッタに恐ろしいほどのコスプレ衣装作り才能があろうとも、限界ってもんがあるのよ。
 別に誰にどう思われても気にしないけど、「見て、またあの方同じドレスだわ、フフフ……」とか、「貧乏でいらっしゃるのよ、そっとしておいて差し上げましょう」「そうね、おかわいそうですものね、ホホホ……」とか、陰口叩かれたらうれしくない。

 「そんなこと申し上げて、『大丈夫だよ、僕がすべて用意するからね』とか、『僕はドレスなんか気にしないよ。裸のままのきみでいいんだ』とか言われたらどうします?」

 「ちょっ……!! 裸のままのって!! せめて、『ありのままの』って言ってよ、R18じゃない、それ」

 「どっちでも一緒ですよ。しょせん人なんて、知恵をつけただけの猿なんですから。恋愛だー、純愛だーって言っても、一回のセックスでなんとでも変わってしまうもんですよ」

 うわ。容赦ない……金言?

 ――僕にはきみしかいらないんだ。きみがいないと、僕はダメになる。きみじゃないと、僕は幸せになんてなれないんだ。
 ――殿下……、わたしも……。
 ――これだけ愛しているのに、まだ不安だというのなら、この体できみに想いを伝えるよ。きみが不安にならないように、ありったけの想いをこめてね。僕がこれほどきみを愛してるんだってことを忘れないように、きみの体にこの想いを刻みつけるよ。
 ――あっ、そんな、殿下ぁ。

 うわあああああ。
 考えるな、わたし。想像するな、わたし。
 殿下、イケメンだからそういう想像もしやすいけどっ!! 相手をわたしに設定しちゃダメッ!!

 「とっ、とにかくっ!! また王宮に行かなくちゃいけないから、そのっ、ドレス作りのフォロー頼むわね、ミネッタ」

 強引に話を切り上げる。

 「わかりましたけど、次のドレス……ねえ」

 ミネッタがちょっと思案顔で顎に指を当てた。

 「……間違っても、ミニスカゴスロリドレスはナシだかんね」

 「わかってますよぉ」

 って、言いながら、ミネッタの少し上にあがった口角。これ絶対、なんか企んでるわ。

 「……ポンパドゥール夫人とか、マリー・アントワネットもダメよ」

 あの顔の二倍ぐらいの高さがありそうな頭は勘弁してほしい。首が折れそう。
 
 「わかってますってば」

 「突飛さを狙って、十二単とか楊貴妃とかもナシだかんね」

 「大丈夫ですって。TPOは考えてますってば」

 どうなんだか。

 「そうですね。王子が脱がせやすい……程度の細工は施すかもしれませんが。ちょっと脱がせば胸が出て、ヒョイッと持ち上げやすいスカートにしておきましょうかね。リボンの一つでもシュルンッと解けば、生まれたままのキミがいる♡ってやつ」

 「いや、それ一番しちゃダメなやつっ!! そんなドレスのどこにTPOがあるっていうのよっ!!」

 胸ポロン、股ピラッて、一番常識外れのアブナイドレスじゃない!! 

 「え~。王子にしてみたら、一番場をわきまえたドレスだと思うんだけどなあ。いつだって(Time)、どこでだって(Place)、どんなシチュエーションでだって(Occasion)、好きなことできるんだもん。燃えると思うんだけどなあ」

 「燃えなくていい!!」

 いや、いつ、どこで、何をさせるつもりなのよ。勝手に王子を燃え上がらせるな。こっちまで飛び火しちゃって火傷ですまない事態になるわ。

 「もうこうなったら、一発そういうことをして、お嬢さまの意識を改革したほうがてっとり早いと思うんですけどねえ」

 い、一発って……。

 「四の五の言わずに、とっとと諦めて王子の妃にしてもらったらどうですか?」

 え? う。いや、その……。

 「ちょっと性格に難はありそうですけど、そう悪い人ではないようですし。今のところ浮ついたウワサもありませんし。ドMの気はありそうですけど、それはまあ性癖人それぞれですから、置いといて」

 置いとくんかい。

 「顔も悪くないし、背も高いし、金持ちだし、身分もあるし。下手なラノベのヒロインみたいに『王子様に溺愛されて困ってるの私。転生したけど恋愛なんて興味なくて、スイーツ作ったり芋作ってるほうが楽しいの』なーんてこと言ってないで、一度ちゃんと王子のことに向き合ってみたらどうです?」

 う。

 「王子のどこがダメで好きになれないのか。一度ゆっくり自分の心と向き合って考えた方がいいと思いますよ。人っていうのは、相手の残念なところもステキなところも、全部好きになって愛し合うものでしょ? 『王子だから~』とか、『強引な花嫁選びだったから~』とかそういうの抜きにして、一人の男性として王子を見てどう思うのか、考えたほうがいいです。それでもどうしても生理的に受けつけないというのなら、王子を拒否する方法を考えないでもないですけど」

 「ミネッタ……」

 「アワアワしてる間に溺愛ルートでした……なぁんてヒロインはもう古いんですから。『王子? こっちから仕掛けて溺れさせて潰してやるわよ』って悪役令嬢バリの根性で、ちゃんとしっかり考えてもらわないと。見ているこっちが楽しめないじゃないですか」

 結局は、そこかい。
 でも。

 「わかった。少し考えてみる」

 ジタバタしてるだけなのは、わたしも性に合わない。
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