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第13話 偽装は罪だぜ!!

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 「いっそのこと、殿下をATMにしてしまえばいいんですよ。それだけ思ってくれるなら、研究費、ポーンとケチらずに出してくれますよ」

 「うん、まあ、そりゃそうだろうけど……」

 王子が勝手に自己満足して帰った後、ミネッタの発言に頭を抱えたくなった。
 転生者だから、過去の価値観を持ったままだからか、こういう時のミネッタの発言は、ホント、容赦ない。屋敷にいるのがわたしとミネッタだけだから、余計に毒が混じる。

 「それに、別にちょっと変わった性癖をお持ちでも、殿下の顔面偏差値は高いんでしょ!? ちょっとぐらい妥協して、玉の輿に乗っちゃってもいいじゃないですか」

 「顔面偏差値って、ちょっと……」

 まあ、イケメンなことは否定しない。
 少しクセはあるけど、サラッサラな髪。色はもちろん、この世の光をかき集めたかのような金色。深く青い瞳は、当然のようにスッと切れ長。スラッと高い均整のとれた長身。王子というだけあって、洗練された身のこなし。声も低すぎず高すぎず耳に心地よい。
 なんていうのかね、ゲームとかマンガでヒーロー張ってそうな容姿と声なのよ。
 これが、画面の向こう側(ゲーム)とか、紙面の上(マンガ)にいる人なら、「はあ~、王子かっこええ~」とか言ってウットリするんだろうけど。それで、ヒロインなんかと恋愛始めたら、「きゃあぁぁ、萌える~!! たまらん~!!」とか言ってモダモダするんだろうけど。
 こんなイケメンと連れ立って歩いた日には……、わたしの至らない部分が強調されてしまうじゃない。
 至らない部分が目立つだけならまだいい。(傷つくけど)

 「なに? あの程度のスペックで王子の隣に並んで、恥ずかしくないわけ?」とか、「大した身分でもないのに、あつかましいわよ」とか言われたりしたら?
 その上、「ムカつくからドレスを切ってやるわ」とか、「階段からつき落としてやりますわ」とかやられたりしたら?
 好きな人のためなら、それぐらいのこと「愛の試練」(言った自分も鳥肌立つパワーワード)とかなんとかで乗り越えられるんだろうけど。(その場合、王子と手を取り合って視聴者?向いて歌なんかうたっちゃうんだろうな)←ヅカかよ。

 愛してもない、興味もない相手のために、どうしてわたしがそんな苦労をしなくちゃいけないわけ?

 王子と言う立場なら問題なく出してくれるだろうお金と、陰湿にくらうであろうイジメと容赦ない悪口を秤にかける。……ってどう考えても、イジメ、悪口側に、カターンッ!!と天秤が傾いてしまうわ。(それも瞬殺で)

 「こーなったら腹をくくるしかないわね」
 「そうですね」

 あ、即答。ミネッタ冷たい。
 所詮他人事だし!? 悩んだって、相手は身分が上なんだから、逆らうこともできないわけだし!?
 相談されたってミネッタの立場からしてみれば、「がんばれ」ぐらいしか言えないよね。あとは、励ます程度かな。
 猫を被って、謙遜して辞退してもダメ。
 本音丸出しで、殴りかかってもダメ。
 それどころか、お父さまを左遷(昇進!?)させるぞと脅されてしまった。
 わたしのどこをどう気に入ったかわかんないけど、ダッサい格好をしても、ヘンな方言を使っても、蛇とかカエルとか珍獣を飼っても、男を侍らせて淫乱なフリをしても、多分、候補から外してくれないんだろうな。(蛇とかカエルとか触りたくないし、侍ってくれるような男性の知り合いもいないけど)
 こーなったら、(そう思い至るまでにいくつもの迷いはあったけど)なるようになれ!!と開き直るしかすべはない。

 「じゃあ、今度の夜会に間に合うようにドレス、下手直した方がいいわね」

 前に着たドレス、もう一回着ても問題ないぐらいキレイなままだけど、おんなじものを着ていったら、絶対陰口をくらう。
 王子があの調子だとすると、次も夜会で目立ってしまうんだろうし。(下手したら、夜会中、ずっと連れ回される可能性だってある)
 「なに、着たきり雀なの?」、「あら、貧乏人ね」なんて言われるのは、自分から望んで王子の嫁候補になったわけでなくても、腹が立つ。
 貧乏なのは本当のことだけど、それをバカにされたくはない。王子の隣に立てるような、王子につり合うような……とかは毛頭思ってもないけど、それでも、陰口のもとになるようなことは避けたい。

 「エミーリアさまが残していってくださったドレスが、こんな形で役に立つとは思いませんでしたねえ」

 「そうねえ……」

 お嫁に行くとき、「少しはオシャレにも気を使いなさい」と、お姉さまが残していってくれたドレス。研究に没頭する色気ナシ妹を心配したのと、嫁ぐからには娘くさいドレスを持っていけないという現実的な理由から、お下がりのドレスをいくつかもらったのだけど。

 「次は、もう少しシッカリ仕立て直したほうがよさそうですね」

 「そうねえ……」

 前回は、そう注目を浴びることもないだろうからと、胸の足りないところを薄いフワフワオーガンジーで誤魔化したけど、今度はそうはいかないだろう。
 ホントは、夜会なんて行きたくないし、行っても壁の花(それも、花を引き立てるリーフ的扱い)でいいんだけどなあ。

 「じゃあ、早速ですが、今から採寸させていただいてもよろしいでしょうか」

 「えっ? 今からっ?」

 そんなイキナリなの?

 「一週間しか猶予はありませんしね。次は、胸のあたりとかキッチリ採寸して、丈を詰めたようがよさそうですし」

 う゛っ。
 それは……、もしかしなくても……。

 ワタシノヒンニュウ、ディスッテル!?

 ボンヤリ返事から抜け出して、ムッとしたか顔をしてみせる。

 「それがお嫌なら、かさましに綿でも詰めておきますか?」

 胸パット!?

 それさえあれば、前と背中の区別もつかないようなわたしでも、攻撃を受けるたびに胸が揺れる某女性艦長のようになれるかも?

 「……リアル採寸でお願いします」

 ダメだ。
 もしもそれが王子のドストライクゾーンだったりしたらマズい。乳の魔力は恐ろしいからね。
 それに、パットで底上げした胸って、なんか嘘くさいんだよね。
 普通、巨乳の場合は、首の下あたりからなだらかに乳首という山頂にむかって稜線を描くのに、パットで底上げすると、その稜線が存在しない。平地にポコンッと山がそびえ立つかんじ。昔ばなしに出てくる、ポッコリニョッキリ山状態。
 デコルテまで隠せるドレスなら、それもわかりにくく出来るけど、襟ぐりの大きく開いたドレスだと、嘘バレバレ。
 「盛ってます」ってバレたら、「スペックが~」とか「身分が~」とかの騒ぎじゃない。女子として立ち直れないぐらいの嘲りと憐れみをくらうことになる。
 それぐらいなら、貧乳でも胸を張って堂々としていたほうがマシ。(言ってて悲しくなってくるけど)
 もしかしたら、貧乳ってことで王子の熱が醒めてくれるかもしれないし。(逆の場合は……知らん)

 「はい、じゃあとっととドレスを脱いでくださいね。時間ないんですから」

 「ええ、ちょっと、ここ応接間……」

 ってか、どっから取り出した、そのメジャー。
 そして、どうしてそこまでうれしそうなのよ、ミネッタッ!! 

 「大丈夫ですよ。元レイヤーの名にかけて、最高のドレスを作って差し上げますから」

 ミネッタの口からこぼれる、「フフフ……」という不敵すぎる笑い。
 ってか、アンタ声優志望だけじゃなく、コスプレイヤーでもあったの?
 ジリジリ追い詰められ、心の中で、意味なく「ほええぇ~」と叫んでみる。

 どーしてわたしがこんな目に遭わなくっちゃいけないのよぉっ!!

 腹をくくっても、腹は立つ。
 王子への見えないムカつきポイントがアップした。
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