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第6話 目をつけられて喜ぶほどメデタイ頭はしていない。
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「一曲、お相手願えますか?」
ざわつく広間。
凍りつくわたし。
融解するまで。
一。
ニ。
三。
四。
「…………へ!?」
出たのは、令嬢とは思えないような間抜けな声だった。
一曲!?
お相手!?
わたしが!?
誰と!?
目は何度もまばたきを繰り返し、反対に口と頬は表情を作るのを忘れた。
その間に、ユリアナが口元のソースを拭き取ってくれて、イルゼが手についたパンくずを軽く払ってくれた。
その手を、なかば強引に王子が掴む。といっても、やさしく、あくまで優雅に。
これって何かの間違いだよね!?
これって夢なんじゃないかしら。
うん。夢よ、夢。それも、超ド級の悪夢クラスの夢。
王子さまに見初められて(一目惚れされて)踊り始めた灰被り姫……ではなく。
「見つけたぞ、テメエッ!」ってかんじでヤバい人にロックオンされたあわれな非力一般市民。
大広間の真ん中に案内されたけど、そこは日の当たる場所ステージとかではなく、どっちかというと監獄、もしくは処刑台。
だって。
待ってましたとばかりにとっておきの一曲を弾いてくれてる楽団とは裏腹に、あっけにとられたような顔でこっちを見ている陽キャ令嬢たちとも違って、優雅に踊ってるくせに、王子の顔、全然笑ってないんだもん。
むしろ怒ってる。
絶対、怒ってる。
いやね、口角は上がって、惚れ惚れするよな笑みは浮かべてるんだよ? でもさ、その深い青色の瞳はどっちかっていうと、こっちを睨みつけてるようなかんじなんだもん。顎、赤いままだし。
怒ってる?
やっぱ怒ってる?
怒ってるよね、これ。
あの控え室で、殴って殴ってギリギリのところで蹴り倒しだけはやめて、捨て台詞だけ残して立ち去っちゃったから。
仮にも王子なんだもん。殴られたりなんてしたことないよね。それも女子に。
「よくもぶったな。親父にもぶたれたことないのにっ!!」的な。(とすると、わたしは「ああ、ぶったさ」とか言って開き直るべきか?)
でも、でもさ。
あの場合、襲われかけたのはわたしだし。
スッポンポンではなかったけど、乙女の柔肌をガン見したのはあっちだし。
その上、羽交い絞めにされたんだしっ!! 口塞がれて、息出来なかったんだしっ!!
貞操(と命)を守ろうと、男に制裁を加えるのは当然の権利よっ!!
どう見ても正当防衛でしょ? 過剰防衛じゃないわよっ!!
見ず知らずの男に襲われかけたのだから、か弱いわたしに正義があるよねっ!! ねっ!?
って思うのにさ。
とうの王子は何一つ言ってこなくて。
無言のまま、一応の笑みを顔に貼り付けたまま踊っている。
気まずい。
どうしようもなく、気まずい。
どうしよう。どうしたらいい?
相手は王子、それも王位継承第一位の方なんだから、わたしから謝ったほうがいいのかな。
納得……はしてないけど、ほら、長い物には巻かれろって言うじゃない?
面倒な事になってもイヤだし、後で罰せられても困るから、ここは誰が正しいかではなく、プライドも言い訳もかなぐり捨てて……。
縦が横でも斜めが縞でも。相手の言うとおりにおとなしく従ったほうがいい。王族ってのは、白を黒だと言い張って周りを従えてしまうだけの権力をお持ちなんだし。
「お前、名は?」
……どれだけ唇を噛みしめることになっても、長いものに巻かれすぎて窒息しかかってもって、――え!?
「名は何という」
「あ、アデル。アデル・ヘルミーナ・リリエンタール……です」
ナニナニナニナニッ!?
なっ、なんで名前なんて聞くのっ!?
重ねて(威圧的に)名前を聞かれたからうっかり答えたんだけど。
「リリエンタール……。ヴァルシュタイン男爵か」
王子、悩むことなくサラッとウチの家、言い当てちゃったよ。普通、こういうのってお付きの人とかが「○○家、ダレソレ嬢でございます」とかなんとか耳打ちして王子に伝えたりするのに。家名から爵位まで王子自身が把握してるなんて……スゴすぎ。
その上、「ふ~ん」みたいな顔でこっちを見てくる。見て……、ってか、値踏み?
含みのある笑顔と視線。
間近で遠慮なく降りてくるその二つに、心臓がバクバクしてくる。
ナニ!? なんなの!?
わたしに一目惚れした……ってことはないよね。
控え室でのファーストコンタクトは、あんなんだったし。
そりゃあ、王子がマゾ気質で? 殴られることに快感を覚えるような人だったら、一目惚れもあり得るかもだけど。(それはそれでイヤだな)
王子がまっとうな気質の人だったら、わたしのやったこと怒ってるよね。たぶん。
仮にも王子なんてご身分の人は、女性に殴られるような経験はないだろうし。
となると?
今、こうして踊ってるのはなんのためだ?
逃げられないように捕獲?
素性を聞き出すために、その他大勢枠から引きずり出した?
となると、どこの誰兵衛かわかっちゃったからには、もうキサマは用済みだ!!的な?
王子を殴るなど、不遜極まりない。
逮捕だ、死刑だ、追放だ?
爵位剥奪、一家離散、国外追放。
それとも、市中引き回しの上、磔獄門? 打首晒しは待ったナシ?
ううう。
どれも嫌だし、どれも勘弁してほしい。
おずおずと、上目遣いに王子を見る。
フフンと軽く鼻を鳴らされて、降りてくる視線。
って。
やっぱこの後、そういうことになっちゃうの~~~~~っ!!!!
ざわつく広間。
凍りつくわたし。
融解するまで。
一。
ニ。
三。
四。
「…………へ!?」
出たのは、令嬢とは思えないような間抜けな声だった。
一曲!?
お相手!?
わたしが!?
誰と!?
目は何度もまばたきを繰り返し、反対に口と頬は表情を作るのを忘れた。
その間に、ユリアナが口元のソースを拭き取ってくれて、イルゼが手についたパンくずを軽く払ってくれた。
その手を、なかば強引に王子が掴む。といっても、やさしく、あくまで優雅に。
これって何かの間違いだよね!?
これって夢なんじゃないかしら。
うん。夢よ、夢。それも、超ド級の悪夢クラスの夢。
王子さまに見初められて(一目惚れされて)踊り始めた灰被り姫……ではなく。
「見つけたぞ、テメエッ!」ってかんじでヤバい人にロックオンされたあわれな非力一般市民。
大広間の真ん中に案内されたけど、そこは日の当たる場所ステージとかではなく、どっちかというと監獄、もしくは処刑台。
だって。
待ってましたとばかりにとっておきの一曲を弾いてくれてる楽団とは裏腹に、あっけにとられたような顔でこっちを見ている陽キャ令嬢たちとも違って、優雅に踊ってるくせに、王子の顔、全然笑ってないんだもん。
むしろ怒ってる。
絶対、怒ってる。
いやね、口角は上がって、惚れ惚れするよな笑みは浮かべてるんだよ? でもさ、その深い青色の瞳はどっちかっていうと、こっちを睨みつけてるようなかんじなんだもん。顎、赤いままだし。
怒ってる?
やっぱ怒ってる?
怒ってるよね、これ。
あの控え室で、殴って殴ってギリギリのところで蹴り倒しだけはやめて、捨て台詞だけ残して立ち去っちゃったから。
仮にも王子なんだもん。殴られたりなんてしたことないよね。それも女子に。
「よくもぶったな。親父にもぶたれたことないのにっ!!」的な。(とすると、わたしは「ああ、ぶったさ」とか言って開き直るべきか?)
でも、でもさ。
あの場合、襲われかけたのはわたしだし。
スッポンポンではなかったけど、乙女の柔肌をガン見したのはあっちだし。
その上、羽交い絞めにされたんだしっ!! 口塞がれて、息出来なかったんだしっ!!
貞操(と命)を守ろうと、男に制裁を加えるのは当然の権利よっ!!
どう見ても正当防衛でしょ? 過剰防衛じゃないわよっ!!
見ず知らずの男に襲われかけたのだから、か弱いわたしに正義があるよねっ!! ねっ!?
って思うのにさ。
とうの王子は何一つ言ってこなくて。
無言のまま、一応の笑みを顔に貼り付けたまま踊っている。
気まずい。
どうしようもなく、気まずい。
どうしよう。どうしたらいい?
相手は王子、それも王位継承第一位の方なんだから、わたしから謝ったほうがいいのかな。
納得……はしてないけど、ほら、長い物には巻かれろって言うじゃない?
面倒な事になってもイヤだし、後で罰せられても困るから、ここは誰が正しいかではなく、プライドも言い訳もかなぐり捨てて……。
縦が横でも斜めが縞でも。相手の言うとおりにおとなしく従ったほうがいい。王族ってのは、白を黒だと言い張って周りを従えてしまうだけの権力をお持ちなんだし。
「お前、名は?」
……どれだけ唇を噛みしめることになっても、長いものに巻かれすぎて窒息しかかってもって、――え!?
「名は何という」
「あ、アデル。アデル・ヘルミーナ・リリエンタール……です」
ナニナニナニナニッ!?
なっ、なんで名前なんて聞くのっ!?
重ねて(威圧的に)名前を聞かれたからうっかり答えたんだけど。
「リリエンタール……。ヴァルシュタイン男爵か」
王子、悩むことなくサラッとウチの家、言い当てちゃったよ。普通、こういうのってお付きの人とかが「○○家、ダレソレ嬢でございます」とかなんとか耳打ちして王子に伝えたりするのに。家名から爵位まで王子自身が把握してるなんて……スゴすぎ。
その上、「ふ~ん」みたいな顔でこっちを見てくる。見て……、ってか、値踏み?
含みのある笑顔と視線。
間近で遠慮なく降りてくるその二つに、心臓がバクバクしてくる。
ナニ!? なんなの!?
わたしに一目惚れした……ってことはないよね。
控え室でのファーストコンタクトは、あんなんだったし。
そりゃあ、王子がマゾ気質で? 殴られることに快感を覚えるような人だったら、一目惚れもあり得るかもだけど。(それはそれでイヤだな)
王子がまっとうな気質の人だったら、わたしのやったこと怒ってるよね。たぶん。
仮にも王子なんてご身分の人は、女性に殴られるような経験はないだろうし。
となると?
今、こうして踊ってるのはなんのためだ?
逃げられないように捕獲?
素性を聞き出すために、その他大勢枠から引きずり出した?
となると、どこの誰兵衛かわかっちゃったからには、もうキサマは用済みだ!!的な?
王子を殴るなど、不遜極まりない。
逮捕だ、死刑だ、追放だ?
爵位剥奪、一家離散、国外追放。
それとも、市中引き回しの上、磔獄門? 打首晒しは待ったナシ?
ううう。
どれも嫌だし、どれも勘弁してほしい。
おずおずと、上目遣いに王子を見る。
フフンと軽く鼻を鳴らされて、降りてくる視線。
って。
やっぱこの後、そういうことになっちゃうの~~~~~っ!!!!
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