5 / 28
第5話 やっちまった……みたい、……な(焦)
しおりを挟む
「どうかしたの? 帰ってくるなり機嫌悪いみたいだけど」
わたしのイライラを察したユリアナが、心配そうに声をかけてくれた。
「ちょっとね。色狂いの変態に会ったもんだからさ」
「色狂いの変態!?」
ユリアナが驚き、口に手を当てた。
「そ。イキナリ、人の着替えに乗り込んできた変態がいたのよ」
言いながらも食べる手を止めない。
イヤなことは、うれしいこと、楽しいことで上書きして忘れるに限る。
幸い、大広間にある料理は食べても食べても無くなる心配のいらないほど有り余ってる。わたしもコルセットを外してきたおかげで、まだお腹に余裕がある。
目の前にあるのは、貝と野菜を魚をワインで蒸したもの。アクアパッツァっぽいなにか。王都の人は魚をあまり食べないのか、それとも「わたくしお腹いっぱいですの、ホホホ」なのか知らないけど、切り分けられることなく、魚が原型のまま残ってた皿を手近に持ってくる。
ということで。
食べますっ!!
って。
…………アレ!?
なんか、広間の入り口が騒がしいような……。
「あ、アデル、おかえり」
わたしに負けず劣らず料理を堪能していたイルゼが近づいてきた。手にした皿にはブルーベリーのサンド。一切れもらって、こっちもアクアパッツァっぽいものを差し出す。
「何か、あったの」
サンドを口にしながら問いかける。あ、これも美味しい。折り詰め持ち帰り確定。
「ああ、あれね。王子が戻ってきたんじゃないかしら」
王子? 戻ってきた?
どういうこと?
「さっきさ、王子が席を外したんだけど……」
おっかけがすごかったのよ。
コッソリ、ユリアナが耳打ちしてくれる。
王子が退席したら、“妃になりたくてしかたないです候補群”が集団で追いかけていったそうで。黄色い歓声とライバルを蹴落とそうとする金切り声とともに広間を出ていったのだという。
「すごかったんだからぁ。アデルにも見せてあげたかったよ。あの修羅場」
イルゼの言葉に、控えめながらもユリアナが同意した。
王子を追いかけて廊下に出るなり、淑女のたしなみも何もなく、ギャーギャーと騒ぎ立てながら王子の後を追いかけていったらしい。それも、全速力で。我先にと出入り口に広がったドレスで殺到したもんだから、パニエが押しつぶされたりなんだりで、かなりの騒動に発展したそうだ。
う、うわあ……。
「ま、レディだなんだって言っても、所詮はその程度ってことよね。玉の輿に必死でさ。見苦しいったらありゃしない」
イルゼ。アンタがそれを言うか?
幸せそうにアクアパッツァに食らいついたアンタが。ついでに言えば、アンタも玉の輿(王子以外で)狙ってたんだし、同じ穴のムジナなのでは?
「あの方たちは、家のためにも妃の地位が必要なのでしょうし。上の方は、家の期待も背負っていらっしゃるだろうし。大変なのよ、きっと」
ユリアナの微妙なフォロー。
まあ、王子、それも次期国王となる跡取り王子との結婚ともなれば、生家の地位も権力も格段にアップするし、将来はこの国の国母、ファーストレディになれるわけだし。家のためにも自分のためにも必死になるのもわからないでもない。
でも……。
「王子もかわいそうね~」
完全に他人事だから言えるんだけど。
自分を好きになって、自分を想ってアタックしてきてくれるのならいいのに、「アナタの地位に惚れましたっ!!」、「実家の権力のために結婚してくださいっ!!」って近寄ってこられてもなあ。
わたしなら萎える。
逃げ出したくなる気持ち、わからなくもない。
あ、でも、王子だって強制的に令嬢を集めて(それも年齢とかの条件付きで)、その中から結婚相手を選ぼうとしてるんだからなあ。
かたや、顔じゃないのよ、性格じゃないのよ、お金と地位だけなのよという令嬢たち。女は若けりゃいいんだ、あと連れ添うのに問題なさそうな身分と顔って感じの王子。
割れ鍋にとじ蓋?
牛は牛連れ、馬は馬連れ?
蓼食う虫も好き好き?
どっちもどっちかもね。
ま、わたしみたいな底辺令嬢には関係のない話だけど。
目の前にあった、小さく切られて一口大になってた鶏モモのローストをヒョイッと口に入れる。フィッシュの次はミートでしょ。少食のフリする令嬢用に切られた肉は、ちょっと物足りない。モモ肉ってのは、こう骨付きで手で持って、ガツッとガブッとやりたいよなあ。令嬢としてはあるまじき食べ方だけど。ドレス汚れるし。
なんて思いながら食べてたんだけど……。
「ねえ……」
「どうしたの? アデル」
「あの令嬢に囲まれてる人さ」
「うん、王子殿下のこと?」
「あの人って、兄弟いたっけ?」
「兄弟? いないよ? 一人っ子だし」
「従兄弟とか、そういうのも?」
「いたと思うけど、まだ幼いって話だから、ここにはいないと思うよ?」
「影武者がいるなんてことは……」
「王子だからいてもおかしくないと思うけど。アデル、どうしたの?」
手にした肉をポロッと落としても気づかないわたしに、質問に答えてくれていたイルゼが不審がる。
キラキラしい(というかキラキラしすぎる)令嬢たちより頭一つ分抜きん出た男性。大勢の令嬢に囲まれてるにも関わらず、こっちに視線を向けてくる。
まっすぐこっちを見ているというか、睨みつけてるというか。……眉間、ものすごいシワなんだけど? イケメンな分、メッチャ怖いんですけどっ!?
そして竜巻のように周囲に令嬢をまとわせたまま、こっちに近づいてくる~っ!!
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
血の気が一気に引いて、足元で滞ってる感覚。
鶏モモ味だった口腔内がイヤな味で満たされる。
薄暗がりだった控え室で見た顔。
豪華すぎるシャンデリアの灯りの下で見る顔。
間違いであってほしいのに、その顔はどうやら同一のものらしくて。
ムダな肉のない、精悍そうな顎には、わたしの殴ったままにうっすら赤くなった痕が残っていて……。
他人の空似であってほしいのに、そんな願いもむなしく王子だろう人が、わたしの目の前に立つ。
「一曲、お相手願えますか?」
言葉は丁寧。
誘う仕草も優雅。
整った顔には余裕のある笑み。
けど。
目っ!!
全然笑ってないんだけどっ!!
……正直、怖い。
わたしのイライラを察したユリアナが、心配そうに声をかけてくれた。
「ちょっとね。色狂いの変態に会ったもんだからさ」
「色狂いの変態!?」
ユリアナが驚き、口に手を当てた。
「そ。イキナリ、人の着替えに乗り込んできた変態がいたのよ」
言いながらも食べる手を止めない。
イヤなことは、うれしいこと、楽しいことで上書きして忘れるに限る。
幸い、大広間にある料理は食べても食べても無くなる心配のいらないほど有り余ってる。わたしもコルセットを外してきたおかげで、まだお腹に余裕がある。
目の前にあるのは、貝と野菜を魚をワインで蒸したもの。アクアパッツァっぽいなにか。王都の人は魚をあまり食べないのか、それとも「わたくしお腹いっぱいですの、ホホホ」なのか知らないけど、切り分けられることなく、魚が原型のまま残ってた皿を手近に持ってくる。
ということで。
食べますっ!!
って。
…………アレ!?
なんか、広間の入り口が騒がしいような……。
「あ、アデル、おかえり」
わたしに負けず劣らず料理を堪能していたイルゼが近づいてきた。手にした皿にはブルーベリーのサンド。一切れもらって、こっちもアクアパッツァっぽいものを差し出す。
「何か、あったの」
サンドを口にしながら問いかける。あ、これも美味しい。折り詰め持ち帰り確定。
「ああ、あれね。王子が戻ってきたんじゃないかしら」
王子? 戻ってきた?
どういうこと?
「さっきさ、王子が席を外したんだけど……」
おっかけがすごかったのよ。
コッソリ、ユリアナが耳打ちしてくれる。
王子が退席したら、“妃になりたくてしかたないです候補群”が集団で追いかけていったそうで。黄色い歓声とライバルを蹴落とそうとする金切り声とともに広間を出ていったのだという。
「すごかったんだからぁ。アデルにも見せてあげたかったよ。あの修羅場」
イルゼの言葉に、控えめながらもユリアナが同意した。
王子を追いかけて廊下に出るなり、淑女のたしなみも何もなく、ギャーギャーと騒ぎ立てながら王子の後を追いかけていったらしい。それも、全速力で。我先にと出入り口に広がったドレスで殺到したもんだから、パニエが押しつぶされたりなんだりで、かなりの騒動に発展したそうだ。
う、うわあ……。
「ま、レディだなんだって言っても、所詮はその程度ってことよね。玉の輿に必死でさ。見苦しいったらありゃしない」
イルゼ。アンタがそれを言うか?
幸せそうにアクアパッツァに食らいついたアンタが。ついでに言えば、アンタも玉の輿(王子以外で)狙ってたんだし、同じ穴のムジナなのでは?
「あの方たちは、家のためにも妃の地位が必要なのでしょうし。上の方は、家の期待も背負っていらっしゃるだろうし。大変なのよ、きっと」
ユリアナの微妙なフォロー。
まあ、王子、それも次期国王となる跡取り王子との結婚ともなれば、生家の地位も権力も格段にアップするし、将来はこの国の国母、ファーストレディになれるわけだし。家のためにも自分のためにも必死になるのもわからないでもない。
でも……。
「王子もかわいそうね~」
完全に他人事だから言えるんだけど。
自分を好きになって、自分を想ってアタックしてきてくれるのならいいのに、「アナタの地位に惚れましたっ!!」、「実家の権力のために結婚してくださいっ!!」って近寄ってこられてもなあ。
わたしなら萎える。
逃げ出したくなる気持ち、わからなくもない。
あ、でも、王子だって強制的に令嬢を集めて(それも年齢とかの条件付きで)、その中から結婚相手を選ぼうとしてるんだからなあ。
かたや、顔じゃないのよ、性格じゃないのよ、お金と地位だけなのよという令嬢たち。女は若けりゃいいんだ、あと連れ添うのに問題なさそうな身分と顔って感じの王子。
割れ鍋にとじ蓋?
牛は牛連れ、馬は馬連れ?
蓼食う虫も好き好き?
どっちもどっちかもね。
ま、わたしみたいな底辺令嬢には関係のない話だけど。
目の前にあった、小さく切られて一口大になってた鶏モモのローストをヒョイッと口に入れる。フィッシュの次はミートでしょ。少食のフリする令嬢用に切られた肉は、ちょっと物足りない。モモ肉ってのは、こう骨付きで手で持って、ガツッとガブッとやりたいよなあ。令嬢としてはあるまじき食べ方だけど。ドレス汚れるし。
なんて思いながら食べてたんだけど……。
「ねえ……」
「どうしたの? アデル」
「あの令嬢に囲まれてる人さ」
「うん、王子殿下のこと?」
「あの人って、兄弟いたっけ?」
「兄弟? いないよ? 一人っ子だし」
「従兄弟とか、そういうのも?」
「いたと思うけど、まだ幼いって話だから、ここにはいないと思うよ?」
「影武者がいるなんてことは……」
「王子だからいてもおかしくないと思うけど。アデル、どうしたの?」
手にした肉をポロッと落としても気づかないわたしに、質問に答えてくれていたイルゼが不審がる。
キラキラしい(というかキラキラしすぎる)令嬢たちより頭一つ分抜きん出た男性。大勢の令嬢に囲まれてるにも関わらず、こっちに視線を向けてくる。
まっすぐこっちを見ているというか、睨みつけてるというか。……眉間、ものすごいシワなんだけど? イケメンな分、メッチャ怖いんですけどっ!?
そして竜巻のように周囲に令嬢をまとわせたまま、こっちに近づいてくる~っ!!
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
血の気が一気に引いて、足元で滞ってる感覚。
鶏モモ味だった口腔内がイヤな味で満たされる。
薄暗がりだった控え室で見た顔。
豪華すぎるシャンデリアの灯りの下で見る顔。
間違いであってほしいのに、その顔はどうやら同一のものらしくて。
ムダな肉のない、精悍そうな顎には、わたしの殴ったままにうっすら赤くなった痕が残っていて……。
他人の空似であってほしいのに、そんな願いもむなしく王子だろう人が、わたしの目の前に立つ。
「一曲、お相手願えますか?」
言葉は丁寧。
誘う仕草も優雅。
整った顔には余裕のある笑み。
けど。
目っ!!
全然笑ってないんだけどっ!!
……正直、怖い。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
【完結】転生令嬢はハッピーエンドを目指します!
かまり
恋愛
〜転生令嬢 2 〜 連載中です!
「私、絶対幸せになる!」
不幸な気持ちで死を迎えた少女ティアは
精霊界へいざなわれ、誰に、何度、転生しても良いと案内人に教えられると
ティアは、自分を愛してくれなかった家族に転生してその意味を知り、
最後に、あの不幸だったティアを幸せにしてあげたいと願って、もう一度ティアの姿へ転生する。
そんなティアを見つけた公子は、自分が幸せにすると強く思うが、その公子には大きな秘密があって…
いろんな事件に巻き込まれながら、愛し愛される喜びを知っていく。そんな幸せな物語。
ちょっと悲しいこともあるけれど、ハッピーエンドを目指してがんばります!
〜転生令嬢 2〜
「転生令嬢は宰相になってハッピーエンドを目指します!」では、
この物語の登場人物の別の物語が現在始動中!
【完結】悪役令嬢に転生したのでこっちから婚約破棄してみました。
ぴえろん
恋愛
私の名前は氷見雪奈。26歳彼氏無し、OLとして平凡な人生を送るアラサーだった。残業で疲れてソファで寝てしまい、慌てて起きたら大好きだった小説「花に愛された少女」に出てくる悪役令嬢の「アリス」に転生していました。・・・・ちょっと待って。アリスって確か、王子の婚約者だけど、王子から寵愛を受けている女の子に嫉妬して毒殺しようとして、その罪で処刑される結末だよね・・・!?いや冗談じゃないから!他人の罪で処刑されるなんて死んでも嫌だから!そうなる前に、王子なんてこっちから婚約破棄してやる!!
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる