オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご

文字の大きさ
上 下
19 / 26

19.うまい話にゃ、愛がある?

しおりを挟む
 (う、ん……)

 まぶたに明るさを感じて、少し眉を動かす。なんだろ。頭が重い。
 頭だけじゃない。体も重い。動かない。というか動かせない。
 ――なにかが乗っかってる?
 胸のあたり、すごく重い……って。

 (かっ、かかっ、かっ、課長ぉっ!?)

 一気に目が覚めた。ってか、目が覚めたどころの騒ぎじゃない。
 開いたまぶたの先、ドアップで見えた課長の寝顔。そして、あたしの上には、のしっと課長の腕。
 驚きすぎて、目ン玉スッポーンって飛んできそう。それか、心臓が驚きでボガンと破裂する。

 (なな、なんで課長があたしの隣にっ!?)

 窓から差し込む白っぽい日差し。スヤスヤ眠る課長の髪が少し光に透けてキレイ――じゃなくて!

 (なんで、どうして、こうなってるのっ!?)

 昨日の記憶、カムバック! あたし、課長を待って、ノンアル飲んでただけのハズ!
 窓の外では、チュンチュンとスズメの鳴き声。少し乱れたシーツの上。あたしはスッポリ課長の腕のなか。
 完璧なる「朝チュン」シチュエーション。

 (ということは、あたし、課長とそういうことを致しちゃったの?)

 目の前、あたしを抱いたまま眠る課長は、少しボタンも外したワイシャツ姿。

 (漫画とかだと、全裸にならなくても、そういうことをしちゃってるけど)
 
 でもあの場合、男性は着衣のままでも、女性は裸だし? 
 男性は、アレさえポロンと出せればいいから、シャツとか着たままだけど。キスとか胸とかアソコとか。男性に愛撫されるためなのか、ヒロインは素っ裸にされるのが常。

 (あ、でもあたし脱いでない――よね?)

 体を動かした感じ、昨日と同じルームウェアを着てるみたい。脱がされたかんじはない。(行為のあとに着せられたのだとしたら――知らん)

 「ン……、起きたか」

 「……はい」

 眠たげな問いかけに、小さく返す。それが精一杯。

 「どうした?」

 「いえ」

 (あたし、課長とそういうこと致しちゃったんですかー!)

 訊きたいけど訊けない。知りたいけど、口が裂けても訊けない。

 「真白……」

 ほへ?

 「ンッ……」

 突然重なった唇――って、ナニ?

 「ンっ、んウッ……」

 ついばむように、押し付けるように。何度もくり返すキス。
 いつの間にか、両頬を押さえられ、キスから逃げられなくなってる。

 「真白、聴け」

 課長の目が、あたしを捉える。

 「俺は、お前が好きだ。お前を愛している。どんなに卑怯な手を使ってでも、お前を手に入れたいと思うぐらいに好きだ」

 課長の目に映ったあたしの顔。どうしよう。心臓がギュッと縮こまって、そのまま止まりそう。

 「手に入れて。そのまま自分のものにしたかった。キスだけじゃない。その先のことも。お前の体に俺を刻みつけたかった」

 「課長……」

 「お前を俺のものにして。誰にも奪われないよう俺の腕のなかに閉じ込めて。お前を壊すぐらい、メチャクチャに愛してみたい。俺の愛だけを注ぎたい」

 止まりかけてた心臓が、今度は胸から飛び出しそうなほど暴れ出す。

 「だが、それでは本当にお前を愛してることにはならない。怖がってるお前を、情動のままに抱くのは、お前を愛してる証にはならない。それはただのエゴだ。愛情じゃない」

 だからあの時、キスだけで踏みとどまったの?
 あたしが怖がってたから? あたしが怯えてたから?

 「真白。俺はお前を待つつもりだ。キスだけで体を強張らせてるお前が、いつか俺を受けられるまで。ゆっくりでいい。焦るな」

 「は、い……」

 ポンッと軽く頭をなでてくれた課長。
 あたしを見る目が、急に柔らかく、甘く、優しくなる。
 心臓が、キュッとなって、フワッと軽くなった。

 「さて。起きるぞ」

 言って、課長が身を起こす。
 さっきまでの甘いカレシモードから、怖いオオカミ課長モードに変わった。
 ものすごくテキパキと、脱ぎ散らかしてあったジャケットとネクタイを拾い上げ始める。

 「課長」

 「なんだ?」

 「ハグください」

 「――は?」

 「あたし、一日も早く、そういうことに慣れたいんです。課長が怖くないってこと、体に覚えさせたいので」

 はい。
 ベッドの上、座ったまま課長に向けて両手を広げる。

 「……お前、俺を殺す気か?」

 あたしが? 課長を殺す?
 あたし、そんな大層な牙は持ち合わせておりませんが? ウサギですし。
 課長の小さなつぶやきに、首を傾げた。

*     *     *     *

 こうして。
 こうして、あたしは課長と両思いなことを確認しあった。
 恋愛超初心者、なんなら「つい最近までアレルギーだと勘違いしてました」なあたしを、課長は待っていてくれる。あたしがキス以上のことを受け入れられるまで。あたしが、「大丈夫」と、安心して前に進めるようになるまで。

 (課長、優しい……)

 あんなに目つきは鋭いのに。オオカミみたいに怖いのに。
 その心遣いは、とてもとても染み入るように優しい。

 (だから、あたしもがんばるべ!)

 と思うんだけど。
 キスだけじゃない。いっしょに寝るだけじゃない。
 その先へ。少しでも前に進めるように。待っててくれる課長のもとに進めるように。
 けどさ。

 (その対象と会えなきゃ、進みようがないんだってば!)

 課長との生活。
 先日社長に言われた通り、課長は仕事が多忙となった。
 朝は、あたしより早く出社するし、帰りはあたしが寝た後。(これでも精一杯起きて待ってるんだけど、帰ってこないのよ)
 会社に行けば会えるし、(業務連絡)だけど会話はできる。
 でも。でもね。

 (普通、恋愛始まったばっかりのカップルって、もうちょっとイチャイチャするもんじゃないのぉぉっ!)

 ほら、帰り道にいっしょに買い食いしたりとか。どこかで、意味もないくだらないこと喋ったり。休日には映画を観に行ったり、買い物に出かけたり。「次の休みはどこに行こうか?」「水族館行きたいなあ」みたいな予定立ててみたり!(課長に「次の休み~」を言わせる妄想をして、「違うな」と思った。課長なら「(水族館に)行くぞ」だな)
 そりゃあ、会社に行けば、それなりに目は合うし、合えば、ちょっとだけ(ほんの一瞬)目を細めて笑ってくれるし。「愛してる」って言葉はウソじゃないんだなってわかるけど。

 (業務連絡じゃなくて、もっと別のことを話したいのよ!)

 「書類確認お願いします」じゃなくて、「この書類を必要分コピーしておいてくれ」でもなくて! もっと、こう、甘~い胸キュン会話をしたいの!
 そしてあわよくば、その手とか、ちょっと触れてみたい。その長くキレイな指で触ってもらいたい。
 ゔゔ。

 (社長のバカ)

 課長がそこまで忙しくなってるのって、全部社長のせいだもん。社長、あらかじめ「ゴメンね」って謝ってくれたけど、くれたけど……っ!

 ――さみしいよ。
 ――会いたいです。

 そんなメール送ってみたい。
 けど。

 (課長なら、「会社で会ってるだろう?」で終わるんだろうな)

 たぶん、きっとそう。
 毎日会ってるじゃないか。それのどこが不満なんだ。不満を言うヒマがあるなら仕事しろ。
 だって、一度もさみしそうな顔しないし。仕事の鬼だから、きっとそのへんは割り切ってるんだろう。

 (大判焼き、買って帰ろ)

 恋の甘さを感じられないのなら、食べ物の甘味で甘さを補給。
 でないとあたし、甘さ不足で干からびちゃいそう。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

駆け引きから始まる、溺れるほどの甘い愛

玖羽 望月
恋愛
 雪代 恵舞(ゆきしろ えま)28歳は、ある日祖父から婚約者候補を紹介される。  アメリカの企業で部長職に就いているという彼は、竹篠 依澄(たけしの いずみ)32歳だった。  恵舞は依澄の顔を見て驚く。10年以上前に別れたきりの、初恋の人にそっくりだったからだ。けれど名前すら違う別人。  戸惑いながらも、祖父の顔を立てるためお試し交際からスタートという条件で受け入れる恵舞。結婚願望などなく、そのうち断るつもりだった。  一方依澄は、早く婚約者として受け入れてもらいたいと、まずお互いを知るために簡単なゲームをしようと言い出す。 「俺が勝ったら唇をもらおうか」  ――この駆け引きの勝者はどちら? *付きはR描写ありです。 エブリスタにも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

処理中です...