恋をするなら、キミとがいい

  「シズルって、女みたいだよな」

 中学の時、そう言って自分を笑っていたのは、幼馴染で友達だと思っていた相手、井高翔太(イダカ ショウタ)。
 なんだよ。幼馴染なんだから、そういう噂とかを、一番に怒ってくれてもいいのに。お前が、一番に笑うのかよ。
 それまで、「ショウタくん」と呼んでいた相手。その相手の裏切りに、志弦は傷つき、彼とは違う高校に進学し、彼とは違う東京の大学に進学した。学ぶ学部だって、ヤツとか被らせない。
 これで、実家に帰らない限り、アイツと人生が交差することはない。
 そう思っていたのに。

  「今日から、よろしくお願いしまっす!」

 志弦のバイト先に入ってきた、同じ大学の工学部の後輩、氷鷹陽翔(ヒダカ ハルト)。
 似てるけど、名前も違う。年齢だって。顔だって。
 「イダカ」と「ヒダカ」。全然違う。なのに。

 ――どうしようもなく、アイツを思い出してしまう。

 氷鷹の持つ明るさのせいか。それとも、その強引なまでにこっちを引っ張ってく性格のせいか。
 離れたい。だけど、状況が志弦を離してくれなくて。

  「俺、佐波先輩に何かしましたか?」
 
 志弦の態度に不審がる氷鷹。でも、「なぜ」も「どうして」も説明できなくて。

  「ゴメン。キミは悪くない。悪くないんだけど……」

 氷鷹と仲良くやることはできない。どうしても過去を思い出して、苦しいんだ。
 そんな志弦の態度に、めげることなく距離を縮めてくる氷鷹。

 「俺、ちょっくら役所行って、名前、変えてきます! ついでにその〝イダカ〟ってヤツも殴ってきていいっすか?」

 志弦のために。志弦と仲良くなりたいから。
 そんな氷鷹の態度に、硬く閉じこもっていた志弦の心はほぐれてゆき――。

  「オレ、氷鷹に会えてよかったよ」

 過去のことは彼に出会うために、彼を大事に思えるようになるために用意されてた、ただのステップ。
 そう思えるようになった志弦は、氷鷹の差し出す手を、自ら掴む。
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