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19.夫婦の営みは、あまく切なく気持ちよく――て痛い

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 「――透子。もう少し力を抜いてくれないか」

 「そ、そんなこと言われ――あぁンっ!」

 答えるより早く、嬌声を上げる。
 さっきから部屋に響く、クチュクチュという水音。自分の脚の間からそんな音がすることに驚いて。そんな水音がするぐらい濡れていることに驚いて。そんなに濡れるぐらい感じてることに驚いて。

 「あっ、ハッ、いっ、アッ、はぁン」

 そんなに感じるぐらいスゴい、彼の手淫に驚く。
 どこを触られても気持ちいいのに、彼の手は、さらに感じるところを探り当てる。

 「ここ、気持ちいいんだな」

 到達した「気持ちいい」探検隊。誰にも触られたことない、未踏の地をグニグニと押して確認する。

 「ヒアアアッ、あっ、アアッ!」

 それ、すっごくヤバいっ!
 
 「あと、ここも」

 「アッ、ダメッ! んアアッ!」

 叫びすぎて息継ぎできない! お願い! 中と外の同時責めはダメェッ!
 指で押しつぶされてこねられる外と、グリグリ押し上げられる中の壁。同時刺激は、強烈すぎて目の前がチカチカしてくる。
 溢れる水音も、クチュクチュからグチュグチュ、ヌチュヌチュと粘りが増してくる。

 「ダメじゃない。もっと感じてくれて構わない」

 いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだってば!

 「アッ、アアッ、はぁアンッ!」

 ヤメロコノヤロッ! ってグーパンかましてやりたいのに、身体はそれどころじゃなくって。

 「アアッ、やぁっ! アッ、アアアッ!」

 目を開いてるのになにも見えない。息のできない開きっぱなしの口から、呑み込みそこねた唾が流れ落ちる。こらえようとしてシーツを掴んだ指は、プルプルと震える。
 気持ち良すぎて怖い。なのに。

 「ああっ、アッ、んああっ」

 腰が浮かび上がる感覚。怖いくせに、やめて欲しいのに、もっとして欲しい。もっと。もっと奥まで。
 恐怖と貪欲。畏怖と快感。
 よくわからない情動が、身体の奥から沸き起こって、何も考えられなくなる。そして。

 「アアアッ……!」

 溜まった何かが、体の奥から、頭の奥にむかって弾け、突き抜ける。

 「あ……、ひ、あ、あ……」

 何かか過ぎ去れば、クタリと身体から力が抜けていく。強く握りしめてたせいで冷たくなってた指先に熱が戻ってくる。

 「イッたな」

 い、今のが、「イク」ってヤツ?
 わからないままに、浅く呼吸を取り戻す。
 わたし。――イッたの? 彼の愛撫で?
 わからないまま、呼吸だけをくり返す。頭がボーっとする。呼吸することで上下する胸の先、乳首が尖りきってることが不思議に思えるぐらい、頭が働かない。

 (あっ……)

 ズルっと抜け落ちた彼の指。
 追いかけるように、腰がヒクついた。
 なんで? どうして?
 今まで、そこになにもないのが普通だったのに。今は、そこになにもないのが寂しい。足りない。ぽっかり穴が空いたみたいな感覚。(孔は常時開いてるんだけどって、そういうことじゃない)
 とにかく。埋めて。戻して。満たして。わたしを。

 「透子……」

 すべてを脱ぎ捨てて戻ってきた彼。
 ううん。脱ぎ捨ててない。大切なそこには、初めて見るゴムがつけられてる。硬く、大きくそそり立つ彼のソレ。
 ああ、そうか。この空虚を埋めるのは、別に指じゃなくてもいいんだ。
 戻ってきた彼とキスをする。何度もなんども角度を変えて。深く。浅く。
 互いの唾液を混ぜ合わせて、呑み込んで。吐息すらも呑み込むようにくり返す。

 (あ……)

 キスをくり返すのは、口だけじゃない。
 開いたままの脚。濡れたそこに、ゴムをつけた彼のソレがクチュクチュと口づける。彼が動くたびに、尖った乳首が彼の胸板にこすれて気持ちいい。
 気持ちいい。気持ちいいの。
 だからもっとちょうだい。
 さっきのあれが「イク」ということなら。わたしは、もっとたくさん彼の手でイキたい。
 求める腕を彼の首に回す。
 わたしは、彼がほしい。

 「――透子」

 クプ、と音がした。
 脚の間、硬いソレが突き立てられる。膣口を押し広げ、挿ってきた陰茎。

 「イッ、あ、ア……」

 痛いっ!
 痛い、痛い、痛いっ!
 なにこれっ、すっごい痛いっ! 気持ちいいどころの騒ぎじゃない!

 さっきの指とは違う圧倒的質量。熱。硬さ。
 それが、わたしの膣を切り裂き、押し広げ、奥へと進んでくる。
 まるで、焼きごてを当てられ、刃物で切り裂かれてるみたい。
 熱い、痛い、苦しい、やめて!
 思わず、指に力を入れて爪を立てる。

 「すまない、透子。もう少しだけガマンしてくれ」

 「あぁあっ! むっ、ムリィっ!」

 なんで? どうして?
 さっきはあんなに気持ちよかったのに? どうして今はこんなに痛いの? こんなのガマンできないっ!
 逃げたい。こんな痛いの、速攻逃げたい。
 けど。

 「ひぃああっ……!」

 彼は止まってくれなくて。それどころか、逃げ腰のわたしの身体を抑え込んで。

 「あっ、いっ、イヤアッ!」

 無理やり膣を押し開き、その硬く大きい陰茎をわたしの中に収めてしまう。膣の奥に切っ先がぶつかる衝撃と、互いの恥骨がぶつかる衝撃が同時に響いた。

 「すまない。痛い……よな」

 「わかってる、ならっ、きかない、でっ!」

 啜り上げる涙。
 ジンジン、ズキズキ。今もぶっ叩いてやりたいぐらい痛い。

 「すまない。だが、しばらくこのままで」

 「う……、ん。わかった」

 こんなに痛いの、別に彼が悪いわけじゃない。
 初めては、トンデモなく痛いっていうし。彼は、わたしが少しでも痛くないように、ちゃんと前戯してくれたし。それもイクまでやってくれた。
 この痛みは、彼と夫婦になった証。一生忘れちゃいけない、誰かと愛し合った証。
 わたしだって、彼を欲しいと思ったのだから、これ以上彼を責めちゃいけない。
 だから、反省の意味も込めて、ギュッと彼を抱きしめる。彼だって、きっと辛い。わたしが処女だから、いたわらなきゃいけないってのもあるけど、それ以外に、こうして別の誰かを抱くのは、心が辛いんじゃないのかな。
 だって、彼はずっと亡くなった咲良さんを想い慕っていたから。今、こうしてわたしを抱いてたとしても、きっと彼の心は咲良さんを忘れていない。

 「入海さん……」

 手を伸ばし、その頬に触れる。
 彼女を忘れて欲しいとは言わない。わたしだけのものになってとも言わない。こうしてわたしを抱いてる今も、心の片隅で咲良さんを想っていてくれても構わない。けど。
 今だけは、わたしを想って。
 わたしが、痛みを身体に刻みつけたように。アナタもわたしを想って。

 「透子……」

 わたしの手のひらに、彼が口づける。愛おしそうに何度もなんども。
 そして。

 「アッ、はぁン、ああっ……」

 少しずつ揺れ始めた彼の腰。わたしの反応を確かめるように、ゆっくりと。次第に荒く、速く、深く。律動を刻み、抽送がくり返される。
 溢れる水音が、グチュグチュジュプジュプいってただけなのに、そこに、バチュバチュと肉のぶつかる音まで混じる。

 「透子! 透子っ!」

 わたしの身体を強く抱きしめ、彼がうわ言のようにわたしを呼ぶ。

 「あっ、ひっ、あっ、アアッ、あっ……!」

 痛い。でもどこか、遠くで明滅する光のように、かすかな快感も訪れる。

 「透子っ! グッ……!」

 「あっ、アアアアッ……!」

 ズンッと響いた衝撃。貫かれ、弾けた彼の熱。それが、溜まったわたしの快感とともに爆ぜて、全身を駆け巡る。

 「あ……、ひ、あ、ああ……」

 さっきの「イク」よりもっとスゴいもの。頭が真っ白になるだけじゃない。つま先まで強くこわばって、小刻みに震える。

 「――透子」

 嵐のような激情が収まって。
 彼が、汗で額に張りついた髪を梳いてくれた。優しく、いたわるように、愛情を込めて。

 「翔平さん……」

 初めて。
 初めて夫の名前を呼んでみる。
 すると、お返しにキスが唇に落とされた。あまく、優しく、とろけるようなキス。
 見つめる視線もとても柔らかい。
 
 わたし、この人と結婚できて幸せだ。

 深く息を吐き出し、目を閉じて感じた想いに浸った。
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