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18.ふつつかな妻ですので、お手柔らかに
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「――透子さん」
甘く、そして優しくわたしを呼ぶ彼の声。
お墓からの帰り道、タクシーを拾った彼。そのまま連れてこられたのは、メチャクチャお高そうなホテルのロイヤルスイートルーム。ホテルの最上階。
――初めての時ぐらいは、ね?
いや、初めてってなんですか!
あわてたわたしに、追い打ちの「ダメか?」。甘く微笑まれたら、「もったいないからダメです!」は簡単に封じられてしまう。
一応の抵抗として、「お腹空いた」とか「着替えはどうするの?」ってカードを切ったけど、「ルームサービスを頼めばいい」と、「新しいのを届けさせる」で論破されてしまった。
うう。このお金持ちめ。
最後の抵抗、「せめてシャワーだけ浴びさせてください」は了承してもらえたけど、それが済んでしまえば、あとは、あちらのやりたい放題となってしまった。
「おいで」と誘われ、広すぎて縦にも横にも寝られそうなベッドの端に並んで腰掛けると、そこから何度もキスをされた。
あまく、とろけるようにいざなうキス。
くり返されるキスが心地よくて。「ンッ」と息を漏らせば、その隙を狙うように、深く口づけられた。
初めてなのに。
舌が絡み合い、チュクっと口からこぼれた水音に、どうしようもなく身体が熱くなってくる。腰を抱き寄せられれば、それだけで背筋がゾクゾクしてくる。
わたしに、淫乱の気があったの? それとも彼の手管がウマすぎるの?
わからないままに、着直した服も脱がされ、下着すら剥ぎ取られて今に至る。ベッドに裸で横たわるわたしと、おおいかぶさる上半身裸の彼。
「キレイだ」
恥ずかしいのに。裸を見られてすっごく恥ずかしいのに。
その単純な「キレイだ」に、心臓が大きく跳ねる。
窓から差し込む外の明りが、彼の素肌を照らし出し、わたしを見下ろす顔に深い陰影をもたらす。
メガネを外した入海さん。メガネをはめてても充分カッコよかったけど、外した顔もまたイケメン。イケメンすぎて、心臓が暴れすぎて、胸が痛いくらい苦しい。
わたし、こんなステキな人と結婚したんだ――って。
「ちょっ、ちょっと待ってください! カーテン! カーテン閉めましょう!」
最後の抵抗カード、まだあった!
「こんな開けっ放しのままは、さすがにマズいですよ!」
いくらホテルの最上階、ロイヤルスイートルームだったとしても、外から丸見えはさすがにマズい。
それでなくても、わたしたちのスキャンダルを狙ってるヤツがいるかもしれないってのに。
「大丈夫だ。問題ない」
少し驚き、それから笑ってわたしの首筋にキスをした彼。
「この部屋を狙えるような高層ビルはこのあたりにはない」
「で、でもっ、アァン!」
「それに、夫婦がイチャついてて、何が悪い? 狙いたければ狙うといい。写真撮られたところで、なんの問題もない。逆に見せつけてやればいい」
「そ、そうなんですけど、――アアッ」
わたしが恥ずかしいんだってば!
そんなに堂々としてられないっての!
だから、キスやめて、一旦、カーテン閉めて!
さっきから首筋ばかり攻めてくる彼。抵抗するように頭を押したら、大きくため息をついて、ベッドを離れ、カーテンを閉めてくれた。けど。
――呆れられた?
見られるのが恥ずかしいだなんて。堂々とできないだなんて。
でもでもだって、わたし初心者だし! そんな誰かに見られながらするなんて手慣れたことできないし!
「……でもまあ。こんな愛らしい反応するキミを、他のヤツに見せたくはないかな」
「へ?」
「こうして触れるだけで真っ赤になって」
「アアッ!」
「甘い声と匂いで誘ってくる。こんな状態のキミは、夫である僕だけが知っていれば充分だ」
「えっ、あっ、あァン! アアッ……!」
戻ってきた彼の愛撫。さっきまでの情熱的だけど、どこか優しさを感じるキスじゃない。むき出しになったわたしの肌を吸い上げ、肌をなぞり、肌に熱をともしていく。
時に乱暴に荒々しく。時に真綿で包むように優しく。
「透子……」
ささやく彼の声も肌も息も熱い。
「アッ、ふっ、ンッ……」
気持ちよくって、どうにかなりそうで。ギュッと目をつむってこらえるけど、全然こらえられなくて。
気持ちいい。もっとして欲しい。でも、どうにかなりそうで怖い。
「透子……?」
彼の手が止まる。
「もしかして、イヤ……だったか?」
目を開けると、わたしから離れた彼の姿。暗いからよくわからないけど、少し困ったような顔をしてる。
もしかして、「イヤだけど、夫婦だからって色々ガマンしている」ように思われた? これも夫婦の務めだから、頑張ってセックスしようと思われた?
「ち、違うの!」
あわててわたしも身を起こす。
「あの、あのね! その、そういうんじゃなくて! わたし、えっと、その……、は、初めてだから!」
勢いついて話してるのに、どこか腰が引ける。
「イヤとかそういうんじゃなくて、怖いっていうのか、もっとしてほしいっていうのか、気持ちいいっていうのか、どういう反応したらいいのかっていうのか、そういうのよくわかんなくて、いっぱいいっぱいで……」
えーん。わたし、なに言っちゃってんのようっ!
処女ってだけでもドン引き対象なのに、ベラベラと内情話しちゃてる!
でも、恋愛経験もなければ、セックス経験だってゼロなんだってば!
「――わかった」
あー、ほら、彼、引いちゃってるよ。絶対心の内で笑ってるよ!
「――善処する」
ほら、「ゼンショする」って言っちゃってるし! って、――ゼンショ? 善処? 善処って、ナニ?
「え? あっ。ああン!」
コテンとまた倒された身体。そのまま彼が首筋にキスをする。キスだけじゃない。時折、舌で舐めて、なぞって……。
「アアッ、アッ、ンンッ!」
「初めてなら、透子がどこに触れたら気持ちいいのか。しっかり探っておかなくては」
「さ、探るって……、あっ!」
「とりあえず。この首のあたり、気持ちいいみたいだな」
チロチロ。チュッ。
「ヒァン!」
「声が変わった」
クスリと笑った、彼の息が首に触れる。
「アァン……!」
そのせいで、またヘンな声が出た。わたしの声、どうなっちゃってるの? さっきから、聞いたことないような奇声ばっかり口からこぼれる。
「辛かったり、イヤだったら、いつでも言ってくれ。言うのならムリなら、グーパンでもいい」
いや、さすがにそれは。
「アッ、はっ、アアッ……!」
唇だけじゃない。キスだけじゃない。彼の細く長い指が、わたしの気持ちいいところを求めて身体の上を這い回る。
その動き。
気持ち良すぎて、少なくともグーパンは必要なさそう。
「ひぃあぁっ、あぁン……!」
鎖骨を吸い上げられ、暗い部屋にひときわ大きいわたしの声が響き渡った。
甘く、そして優しくわたしを呼ぶ彼の声。
お墓からの帰り道、タクシーを拾った彼。そのまま連れてこられたのは、メチャクチャお高そうなホテルのロイヤルスイートルーム。ホテルの最上階。
――初めての時ぐらいは、ね?
いや、初めてってなんですか!
あわてたわたしに、追い打ちの「ダメか?」。甘く微笑まれたら、「もったいないからダメです!」は簡単に封じられてしまう。
一応の抵抗として、「お腹空いた」とか「着替えはどうするの?」ってカードを切ったけど、「ルームサービスを頼めばいい」と、「新しいのを届けさせる」で論破されてしまった。
うう。このお金持ちめ。
最後の抵抗、「せめてシャワーだけ浴びさせてください」は了承してもらえたけど、それが済んでしまえば、あとは、あちらのやりたい放題となってしまった。
「おいで」と誘われ、広すぎて縦にも横にも寝られそうなベッドの端に並んで腰掛けると、そこから何度もキスをされた。
あまく、とろけるようにいざなうキス。
くり返されるキスが心地よくて。「ンッ」と息を漏らせば、その隙を狙うように、深く口づけられた。
初めてなのに。
舌が絡み合い、チュクっと口からこぼれた水音に、どうしようもなく身体が熱くなってくる。腰を抱き寄せられれば、それだけで背筋がゾクゾクしてくる。
わたしに、淫乱の気があったの? それとも彼の手管がウマすぎるの?
わからないままに、着直した服も脱がされ、下着すら剥ぎ取られて今に至る。ベッドに裸で横たわるわたしと、おおいかぶさる上半身裸の彼。
「キレイだ」
恥ずかしいのに。裸を見られてすっごく恥ずかしいのに。
その単純な「キレイだ」に、心臓が大きく跳ねる。
窓から差し込む外の明りが、彼の素肌を照らし出し、わたしを見下ろす顔に深い陰影をもたらす。
メガネを外した入海さん。メガネをはめてても充分カッコよかったけど、外した顔もまたイケメン。イケメンすぎて、心臓が暴れすぎて、胸が痛いくらい苦しい。
わたし、こんなステキな人と結婚したんだ――って。
「ちょっ、ちょっと待ってください! カーテン! カーテン閉めましょう!」
最後の抵抗カード、まだあった!
「こんな開けっ放しのままは、さすがにマズいですよ!」
いくらホテルの最上階、ロイヤルスイートルームだったとしても、外から丸見えはさすがにマズい。
それでなくても、わたしたちのスキャンダルを狙ってるヤツがいるかもしれないってのに。
「大丈夫だ。問題ない」
少し驚き、それから笑ってわたしの首筋にキスをした彼。
「この部屋を狙えるような高層ビルはこのあたりにはない」
「で、でもっ、アァン!」
「それに、夫婦がイチャついてて、何が悪い? 狙いたければ狙うといい。写真撮られたところで、なんの問題もない。逆に見せつけてやればいい」
「そ、そうなんですけど、――アアッ」
わたしが恥ずかしいんだってば!
そんなに堂々としてられないっての!
だから、キスやめて、一旦、カーテン閉めて!
さっきから首筋ばかり攻めてくる彼。抵抗するように頭を押したら、大きくため息をついて、ベッドを離れ、カーテンを閉めてくれた。けど。
――呆れられた?
見られるのが恥ずかしいだなんて。堂々とできないだなんて。
でもでもだって、わたし初心者だし! そんな誰かに見られながらするなんて手慣れたことできないし!
「……でもまあ。こんな愛らしい反応するキミを、他のヤツに見せたくはないかな」
「へ?」
「こうして触れるだけで真っ赤になって」
「アアッ!」
「甘い声と匂いで誘ってくる。こんな状態のキミは、夫である僕だけが知っていれば充分だ」
「えっ、あっ、あァン! アアッ……!」
戻ってきた彼の愛撫。さっきまでの情熱的だけど、どこか優しさを感じるキスじゃない。むき出しになったわたしの肌を吸い上げ、肌をなぞり、肌に熱をともしていく。
時に乱暴に荒々しく。時に真綿で包むように優しく。
「透子……」
ささやく彼の声も肌も息も熱い。
「アッ、ふっ、ンッ……」
気持ちよくって、どうにかなりそうで。ギュッと目をつむってこらえるけど、全然こらえられなくて。
気持ちいい。もっとして欲しい。でも、どうにかなりそうで怖い。
「透子……?」
彼の手が止まる。
「もしかして、イヤ……だったか?」
目を開けると、わたしから離れた彼の姿。暗いからよくわからないけど、少し困ったような顔をしてる。
もしかして、「イヤだけど、夫婦だからって色々ガマンしている」ように思われた? これも夫婦の務めだから、頑張ってセックスしようと思われた?
「ち、違うの!」
あわててわたしも身を起こす。
「あの、あのね! その、そういうんじゃなくて! わたし、えっと、その……、は、初めてだから!」
勢いついて話してるのに、どこか腰が引ける。
「イヤとかそういうんじゃなくて、怖いっていうのか、もっとしてほしいっていうのか、気持ちいいっていうのか、どういう反応したらいいのかっていうのか、そういうのよくわかんなくて、いっぱいいっぱいで……」
えーん。わたし、なに言っちゃってんのようっ!
処女ってだけでもドン引き対象なのに、ベラベラと内情話しちゃてる!
でも、恋愛経験もなければ、セックス経験だってゼロなんだってば!
「――わかった」
あー、ほら、彼、引いちゃってるよ。絶対心の内で笑ってるよ!
「――善処する」
ほら、「ゼンショする」って言っちゃってるし! って、――ゼンショ? 善処? 善処って、ナニ?
「え? あっ。ああン!」
コテンとまた倒された身体。そのまま彼が首筋にキスをする。キスだけじゃない。時折、舌で舐めて、なぞって……。
「アアッ、アッ、ンンッ!」
「初めてなら、透子がどこに触れたら気持ちいいのか。しっかり探っておかなくては」
「さ、探るって……、あっ!」
「とりあえず。この首のあたり、気持ちいいみたいだな」
チロチロ。チュッ。
「ヒァン!」
「声が変わった」
クスリと笑った、彼の息が首に触れる。
「アァン……!」
そのせいで、またヘンな声が出た。わたしの声、どうなっちゃってるの? さっきから、聞いたことないような奇声ばっかり口からこぼれる。
「辛かったり、イヤだったら、いつでも言ってくれ。言うのならムリなら、グーパンでもいい」
いや、さすがにそれは。
「アッ、はっ、アアッ……!」
唇だけじゃない。キスだけじゃない。彼の細く長い指が、わたしの気持ちいいところを求めて身体の上を這い回る。
その動き。
気持ち良すぎて、少なくともグーパンは必要なさそう。
「ひぃあぁっ、あぁン……!」
鎖骨を吸い上げられ、暗い部屋にひときわ大きいわたしの声が響き渡った。
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