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第22話 泣く子と姫にゃあ逆らえない。 (侍女の視点)

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 「どうしましょう……オルガ」

 いつものように、いつもの朝。
 寝所で散々お楽しみだったんだろうなって想像のつくシーツを外していたら、声をかけられた。
 お湯を使ってあそこもキレイにしたし、ちゃんと手当てもしたから、問題はないと思うんだけど。
 チョコンと椅子に腰かけた姫さまのお顔は、少し青い。

 「なにがあったんですか?」

 ずっと黙っていたのがこうして声をかけてきたのだ。よほど、思いつめるようなことがあったに違いない。 
 まあ、姫さまの「どうしましょう」は、そこまで「どうしましょう」じゃないんだけどね。

 「あの、あのね……。わたくし、昨日、陛下に愛されたでしょう」

 うん。そんなことは前置き的に言われなくても、わかるって。

 「その、それでね。陛下は、たくさん愛してくださったのだけど……、その」

 モジモジと足をすり合わせる。

 なに? なんなのよ。もどかしいなあ。

 「わたくしね、いっぱい感じてしまって。気持ちよくなりすぎてしまって……」

 だから、なによ。

 「おっ、お漏らしをしてしまったみたいなのっ!」

 わっと両手で顔を隠してしまった。隠れなかった耳が真っ赤っか。

 って、……お漏らし?

 「途中でねっ、その、すっごく用を足したいようなムズムズした感覚が襲ってきてっ! でも、気持ちいいし、離れたいって言いだすことも出来なくて、ガマンしてたんだけど」

 焦ったように訴える姫さまの顔は、サルのケツより赤い。

 「花芽を揺すられて、中をいじられて、どうにもならなくなって、わたくし、わたくしっ、陛下のお顔にお漏らしをっ……!」

 再び顔を隠された。漏れる声から察するに、おそらく泣いてる。

 …………あー、はいはい。

 要は、陛下の技がスゴすぎて、感じすぎて潮吹いて。それが陛下に命中してしまったと。
 そういうことね。
 いやー、陛下、やるじゃん。
 そこまで感じさせるってさ。
 初めての時、前戯なしでまぐわおうってしたヤツと同一人物とは思えないわ。
 ボリボリと頭を掻いて、そんなことを考える。
 潮吹きなんて、まあ、感じすぎたら誰にだって起こる現象なんだけど。尿意に近い感覚だから、間違うことも多いんだよね。
 ただ吹くだけならまだしも、陛下のお顔にかけちゃったから、二重の意味でショックを受けてるみたい。
 さっきから、「漏らすなんて」とか、「陛下のお顔に」とかブツブツ呟いてるもん。

 「陛下をあのようなめに。……わたくし、嫌われてしまわないかしら」

 グズグズと泣き続ける姫さま。こりゃ、相当ショックだったんだろうなあ。

 「あの、姫さま。それはお漏らしとは違いますよ」

 とりあえず、誤解を解いておかねば。

 「姫さまがなされたのは、『潮吹き』という、生理現象の一つですわ」

 「……潮吹き?」

 「ええ。女性は感じすぎると、濡れるだけでなく、前から潮を吹くことがあるんでございます」

 「でも、おしっこをしたい気分になったわ」

 「似てますからね、潮吹きは。でも、出るものは全く違いますよ。出した後は、ふわっとした解放感がありませんでしたか?」

 「……恥ずかしさと驚きで。覚えてないわ」

 まあ、そうか。初めてならそうなるか。それも顔射つきだし。

 「潮には臭いもありませんし、透明ですから、そのあたりで失禁とは違うと判断することもできます。いずれにせよ、感じすぎて出るものですから、陛下もお気になさらないはずです」

 それどころか、女性の潮吹きに喜ぶ男もいるもんね。オレをめっちゃ感じてくれたのかーってさ。

 「実際、その後も、陛下は愛してくださったのでしょう?」

 「ええ。たくさん子種をくださったわ」

 ……そこは、恥じらわずにサラッと報告するんかい。

 「それなら、大丈夫ですよ。陛下が姫さまを嫌ってなどいらっしゃいませんよ。むしろ好ましく思われているのではないですか」

 私の言葉に、少しづつ姫さまの緊張、不安がほぐれていく。

 ……やれやれ。これなら、大丈夫そうね。

 その様子に、軽くため息を吐きだす。
 姫さまの閨相談係も楽じゃないわ。

 「じゃあ、わたくし、気持ちいいのをガマンしたりしなくていいのね」

 パンッとうれしそうに手を叩く。

 「そうですね。陛下に好きなだけ愛されたらよろしいんではないですか」

 最初はあんなに感じ悪い夫婦だったのに、いつの間にか、とんでもなくラブラブになっている。
 まあ、身体を繋げると、こういうことは自然に……ね。
 それまでなんとも思っていなかった相手でも、そういうことを一度体験しちゃうと、スゴくステキに見えちゃったりするんだよね。
 身体の相性っていうのもあるし。
 世の男どもには、巨根信仰みたいなのがあって、大きければ女は満足するだろって考えるヤツいるけど、あれ、全然そんなことないからなあ。デカければ、絶倫ならばいいだろって考えなんだろうけど、女のアソコはガバガバじゃねえっての。高速抽送なんて死ぬほど痛いときあるしさ、合わないデカさなら、なおさら悲惨なことになるのよね。処女でもないのに、痛みに叫びそうになるし。それで絶倫ときたら……。死ぬ。本気で死ぬ。愛してるんじゃなくて、殺されるんだよ、それは。
 幸い、陛下のそれは姫さまともピッタリだったみたいで、互いに気持ちよくなってるみたいだけど。
 潮吹くほどだもんね。バッチリじゃん。
 悩みが消えて晴れやかなお顔の姫さま。まあ、これなら大丈夫か。

 「ねえ、オルガ。オルガはどんなかんじでルシアンに愛されてるの?」

 「…………は?」

 いきなり、なにを言い出すのよ。

 「オルガも、毎晩ルシアンに愛されてるんでしょう? ねえ、どんなかんじで愛されてるの!? 教えて、オルガ」

 そっ、どっ、どうしてそっち方向に興味を持つのさっ!

 「あ、あの。そういうことは、ちょっと……」

 やめて、訊かないで、話させないでぇっ!

 「みんなはどうしているのか、わたくし、わからなくって。ねえ、教えてオルガ。アナタはどんなふうに愛されてるの? オルガも潮を吹くことがあるの?」

 下心のない澄んだ目で見つめられる。両手を組んでのお願いポーズ。

 あ~、う~、そのぉ~、え~っと……。

 結局、前戯から、体位から、気持ちのいいところから。
 ルシアンとの交わりを洗いざらい話させられた。

 ……ごめんなさい、ルシアン。

 この姫さまの前では、わたしたちに、プライベートなるものは存在しないようです。はい。
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