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26.恋と推しは別腹で
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「つまりは。俺との女よけ契約を解除して、一からやり直す告白をする。そのつもりだったってこと?」
志乃さまの部屋。ベッドに腰掛け、腕も足も組む志乃さま。
「……はい」
彼の座るベッドの前で、うなだれ、正座するあたし。
なんか前にも同じような構図、あったな。
「生まれて初めての告白ですし。その……、ダメだって、見込みなしの玉砕覚悟ではあったんですけど……。それでもズルズルなし崩しはイヤだなって。ちゃんと区切りをつけたいなって――志乃くんっ!?」
ズルズルズルっと、液体化したようにベッドから滑り落ちてきた志乃くん。
「そうだ。のどかって、そういう子だった……」
そのまま体育座り。膝の上に顎を載せて呟く。って、あたし、どういう子なんですか?
「筒井のどかさん」
志乃くんが、姿勢を正して座り直す。聴くあたしも思わず正座で背筋を伸ばす。
「俺も、キミが好きです。見せかけとか女よけじゃなく、正式に、俺とつき合ってください」
「志乃……くん」
「のどかが憧れてるシノさまとは、全然違うけど。それでもよかったら、俺のカノジョになってください」
真摯な志乃くんの目。あまりにキレイな眼差し。
そっと、あたしの両手を包むように取った志乃くんの手。
「――って、え? のどかっ!?」
「あ、ご、ごめんなさいっ、その、う、うれしく、て……」
ボロボロボロボロ。勝手に涙が溢れ、頬を滑り落ちていく。
人って、悲しいとか悔しいとかじゃなくて、うれしくても泣いちゃうんだと初めて知った。
ニセモノカノジョ役を降りたら。ただのお隣さんに戻ったら。
本当はすっごく怖かった。
関係をご破算したら、もう二度と元に戻らないんじゃないかって。志乃くんは、あくまであたしがニセモノカノジョだから、大事にしてくれただけであって、そうじゃなければ相手にもしてくれないんじゃないかって。
なら、このまま偽りを続けたほうがいいんじゃないかって、いっぱい考えた。偽りでも志乃くんなら優しくしてくれる。愛してるフリを続けてくれる。
でも、偽り続けることに心が苦しくなってた。愛されたいのに、愛されてるフリは苦しかった。
フリはイヤ。本物が欲しい。でもそうやって欲をかいたことで、何も無くなってしまったら?
すっごく怖かった。
「――のどか。ごめんな」
泣き続けるあたしを、志乃くんが抱き寄せる。
志乃くんは悪くない。だから、声の代わりに、首を振って否定する。
「俺さ、のどかが引っ越しの挨拶に来た時から、ずっとのどかのこと、気になってたんだ」
え?
「のどかのこと、いいなって思ってたから、猫のキミを助けた時だって、これがなにかのキッカケになればいいなって思ってた。ドロップの件は、キミの弱みに付け込んだ。そこを突破口にして、キミと恋仲になれたらいいなって。のどかは、あれをカモフラージュって思ってたかもしれないけど、俺は真剣におつき合いしてるつもりだったんだよ」
そうなの?
志乃くん、本気であたしを大事にしてくれてたの?
「キミの弱みに付け込んで。だからあの竹芝の言葉は結構堪えた。弱みを握って無理やりとか、卑怯じゃないのかってやつ。俺がやってることは、まさしく卑怯な行為だって」
そうなの?
あの言葉が突き刺さったのは、志乃くんも同じだったの?
「俺、それと同時に、竹芝がのどかに気があるんじゃないかって疑ってた。のどかが好きだから、あんなふうに俺と別れることを強く言ってきたのかって。だから、俺――」
言葉を切った志乃くん。その視線が、棚の上にあるビンに向けられる。――ん? ビンの中身、ドロップの数、かなり減ってない? あたしがここに持ってきたときはビンの半分ぐらいは入っていたのに。今は残すところあと二、三個。
「猫になって竹芝の行動を調べてたんだよ。アイツがのどかを好きなんじゃないかって疑ってたから、どうすればアイツを牽制できるか、調べてたんだ」
「そう……なんだ」
だから、放課後一緒に帰れなかったんだ。
「あーあ。俺、バカみたいだよなあ。アイツを牽制しようとして、買い物デートしたりしてさ。全然牽制になってなかったし」
フウッと大きく息を吐いた志乃くん。
「って、あのデート、竹芝の牽制だったの?」
「そうだよ。あのフラッペを売ってた店、竹芝のバイト先なんだ。だから、あそこで仲良くジュースでも飲んで、ラブラブなところを見せつけられたらって。まさかのどかから、間接キスのススメをされるとは思わなかったけど」
えーっと。あれは、そのですねえ……。
カーっと顔に血が昇ってくる。おかげで涙がどっかすっこんだ。
「俺さ、のどかみたいに正直者でもないし、狭量だし、嫉妬深いし、ヤキモチ焼きだし。ストイックでもなければ、向上心なんてほとんどないし、とってもわがままで独占欲まみれ。そんな俺でも、のどかは受け入れてくれる?」
再び真剣な志乃くんの顔。
「声とか、顔とか、そういうのは忘れて。佐保宮志乃として、俺を見てくれる?」
あたし、最初は志乃くんが、「ナンキミ」のシノさまにソックリだって思ってた。ソックリだからいいなって、シノさまを推すのと同時に志乃くんも推してた。
けど今は違う。
シノさまに似てるから好きなんじゃない。志乃くんだから好きなんだ。だから。
「志乃くん……」
言葉にできない思いを乗せて。志乃くんの首に飛びつく。
(ああ、なんてあたし大胆なんだろ)
今のあたしのテンションはすっごく変。だからできた、こんな恥ずかしくって勇気のいること。
「のどか……」
志乃くんの手が、あたしの背中を抱きしめる。最初はおっかなびっくり、優しく。次第に力を込めてシッカリと。
抱き合ったことで、互いの熱と鼓動が響き合う。
少しだけ上を向けば、そこに志乃くんの優しい眼差しがあって。
「のどか」
名前を呼ばれると同時に、降りてきた唇。
(ヒロインも、こんな気持ちだったのかな)
唇を重ねながら、そんなことを思う。
ゲームのラスト、ヒロインとシノさまがキスをするスチルがあった。あの時は、「キャーッ! 尊い!」ぐらいの胸キュンだったけれど今は違う。
目眩を起こしそうなほど、圧倒的な幸せ。
志乃くんを好きになって良かった。心の底からそう思った。
* * * *
「のどかぁ。準備できた?」
「うん。えっと、はい! 完了です!」
トントンと、軽く靴のつま先で玄関床を叩く。それから、ちょっとだけ髪を整え直す。
(ヨシ!)
ちょっと明るい気分になって、ドアを開ける。
「お待たせしました」
ドアの先で待っていたのは、志乃くん。自分の部屋から出てきたあたしを見て、一瞬だけ、志乃くんが目を大きく見開く。そして。
「うん。今日もかわいい」
ストレートな褒め言葉が出た。
今日のあたしは黒のフレアスカートに、淡いピンクのニットセーター。ベレー帽は被っていない。自分がかわいいかどうか知らないけど、志乃くんが「かわいい」と言ってくれるんだから、かわいいんだろう。そう思う。
そして、今日も志乃くん、かっこいい。尊い。クラリ。
「ところで。今日はどこに行くの?」
志乃くんが問う。
今日のデート、実はずっと行く先を内緒にしていた。だって。
「えっとですね。今日はファミレスに行きます」
キャーッ! 言っちゃった! 言っちゃった!
「ファミレス?」
一人照れて盛り上がるあたしの横で、志乃くんが首を傾げる。なんでファミレス? 仕草が彼の気持ちを代弁する。
「今日からですね、『ナンキミ』のコラボ、やってるんですよ!」
「――は?」
「もちろん、かなちゃんとも行くつもりですけどっ! でも初日は外せないなって思ってて!」
「ナンキミ」とのコラボ。ファンとして、その初日は外せない。
「対象のコラボメニューを注文するとクリアファイルがもらえるんですが! 絵柄はランダムだから、当たる確率を上げたくて! それに、二千円以上注文すると目当てのキャラのポストカードがもらえるんですけど、自分ひとりで二千円は厳しいから、誰かに手伝っていただきたかったんです!」
「それが……俺?」
「はい!」
コラボメニュー、シノのマロングラッセとか、シノの包み焼きハンバーグとか。シノのブルーソーダとか。飲みたいもの食べたいものはいっぱいあるけど、一人じゃ全部踏破できない!
「あ、もちろん、志乃くんとのデートも楽しみですし。昨日だって、ワクワクして眠れなかったんですよ」
ほら、と、寝不足の顔を指差す。クマはできてないから、寝不足感少ないけど。
「お昼はそのファミレスとして。今日はいっぱい楽しみましょうね!」
コラボも気になるけど、それより楽しみなのは志乃くんとのデート。以前のデートとは違う。純粋に、恋人としてのデート。何しようかなあ。プランとしては、街をブラブラするぐらいにしか予定立ててないけど。だって、志乃くんとなら、ブラブラするだけでもきっと楽しいだろうし。
あ、でも。また洋服を選んでもいいかも。以前選んだやつは、志乃くんが「シノさま似」だったから選んだカラーの服だし。今度は志乃くんに一番似合う服を選んでみたい。そしてまた、おそろいコーデを志乃くんに選んでもらいたい。
それと、あとマグカップも2つ、おそろいで。
志乃くんの部屋にいる時用。一緒にコーヒー飲むときとかに使いたいって。キャーッ! あたしってば、何考えてんのよ!
勝手にモダモダ。頬をペシペシ。
「あ、それと、途中本屋さんにも寄っていいですか?」
「本屋?」
「はい! 今日、好きなコミックの新刊発売日なんですよ。だから」
今日じゃなきゃダメってことはないけど、続きが気になるから、できれば今日買っておきたい。
「――どオタク」
「へ? なにか言いましたか?」
立ち止まった志乃くんの呟き。よく聞き取れなかったんだけど。
「コラボも本屋もいいけどさ。俺も見てくれないと――、またドロップ舐めさせちゃうよ?」
「へ?」
驚くあたしの前で、紙に包まれたドロップを取り出した志乃くん。え? ええっ? ここで? これからデートなのに、猫にされちゃう?
「しししっ、志乃くんっ!?」
そ、それだけは、ご勘弁の程を!
「――冗談。今日はのどかの好きなように楽しんでいいよ」
クスっと笑った志乃くん。固まったあたしの頭をポンポンと優しく叩く。
「行こう」
あたしの手を取り、指を絡める。
マンションのエントランスを抜け、二人恋人らしく連れ立って歩き出す。
そんなあたしたちの姿を見ていた灰色猫が、「ブミャ」とアクビ紛れの声を上げた。
志乃さまの部屋。ベッドに腰掛け、腕も足も組む志乃さま。
「……はい」
彼の座るベッドの前で、うなだれ、正座するあたし。
なんか前にも同じような構図、あったな。
「生まれて初めての告白ですし。その……、ダメだって、見込みなしの玉砕覚悟ではあったんですけど……。それでもズルズルなし崩しはイヤだなって。ちゃんと区切りをつけたいなって――志乃くんっ!?」
ズルズルズルっと、液体化したようにベッドから滑り落ちてきた志乃くん。
「そうだ。のどかって、そういう子だった……」
そのまま体育座り。膝の上に顎を載せて呟く。って、あたし、どういう子なんですか?
「筒井のどかさん」
志乃くんが、姿勢を正して座り直す。聴くあたしも思わず正座で背筋を伸ばす。
「俺も、キミが好きです。見せかけとか女よけじゃなく、正式に、俺とつき合ってください」
「志乃……くん」
「のどかが憧れてるシノさまとは、全然違うけど。それでもよかったら、俺のカノジョになってください」
真摯な志乃くんの目。あまりにキレイな眼差し。
そっと、あたしの両手を包むように取った志乃くんの手。
「――って、え? のどかっ!?」
「あ、ご、ごめんなさいっ、その、う、うれしく、て……」
ボロボロボロボロ。勝手に涙が溢れ、頬を滑り落ちていく。
人って、悲しいとか悔しいとかじゃなくて、うれしくても泣いちゃうんだと初めて知った。
ニセモノカノジョ役を降りたら。ただのお隣さんに戻ったら。
本当はすっごく怖かった。
関係をご破算したら、もう二度と元に戻らないんじゃないかって。志乃くんは、あくまであたしがニセモノカノジョだから、大事にしてくれただけであって、そうじゃなければ相手にもしてくれないんじゃないかって。
なら、このまま偽りを続けたほうがいいんじゃないかって、いっぱい考えた。偽りでも志乃くんなら優しくしてくれる。愛してるフリを続けてくれる。
でも、偽り続けることに心が苦しくなってた。愛されたいのに、愛されてるフリは苦しかった。
フリはイヤ。本物が欲しい。でもそうやって欲をかいたことで、何も無くなってしまったら?
すっごく怖かった。
「――のどか。ごめんな」
泣き続けるあたしを、志乃くんが抱き寄せる。
志乃くんは悪くない。だから、声の代わりに、首を振って否定する。
「俺さ、のどかが引っ越しの挨拶に来た時から、ずっとのどかのこと、気になってたんだ」
え?
「のどかのこと、いいなって思ってたから、猫のキミを助けた時だって、これがなにかのキッカケになればいいなって思ってた。ドロップの件は、キミの弱みに付け込んだ。そこを突破口にして、キミと恋仲になれたらいいなって。のどかは、あれをカモフラージュって思ってたかもしれないけど、俺は真剣におつき合いしてるつもりだったんだよ」
そうなの?
志乃くん、本気であたしを大事にしてくれてたの?
「キミの弱みに付け込んで。だからあの竹芝の言葉は結構堪えた。弱みを握って無理やりとか、卑怯じゃないのかってやつ。俺がやってることは、まさしく卑怯な行為だって」
そうなの?
あの言葉が突き刺さったのは、志乃くんも同じだったの?
「俺、それと同時に、竹芝がのどかに気があるんじゃないかって疑ってた。のどかが好きだから、あんなふうに俺と別れることを強く言ってきたのかって。だから、俺――」
言葉を切った志乃くん。その視線が、棚の上にあるビンに向けられる。――ん? ビンの中身、ドロップの数、かなり減ってない? あたしがここに持ってきたときはビンの半分ぐらいは入っていたのに。今は残すところあと二、三個。
「猫になって竹芝の行動を調べてたんだよ。アイツがのどかを好きなんじゃないかって疑ってたから、どうすればアイツを牽制できるか、調べてたんだ」
「そう……なんだ」
だから、放課後一緒に帰れなかったんだ。
「あーあ。俺、バカみたいだよなあ。アイツを牽制しようとして、買い物デートしたりしてさ。全然牽制になってなかったし」
フウッと大きく息を吐いた志乃くん。
「って、あのデート、竹芝の牽制だったの?」
「そうだよ。あのフラッペを売ってた店、竹芝のバイト先なんだ。だから、あそこで仲良くジュースでも飲んで、ラブラブなところを見せつけられたらって。まさかのどかから、間接キスのススメをされるとは思わなかったけど」
えーっと。あれは、そのですねえ……。
カーっと顔に血が昇ってくる。おかげで涙がどっかすっこんだ。
「俺さ、のどかみたいに正直者でもないし、狭量だし、嫉妬深いし、ヤキモチ焼きだし。ストイックでもなければ、向上心なんてほとんどないし、とってもわがままで独占欲まみれ。そんな俺でも、のどかは受け入れてくれる?」
再び真剣な志乃くんの顔。
「声とか、顔とか、そういうのは忘れて。佐保宮志乃として、俺を見てくれる?」
あたし、最初は志乃くんが、「ナンキミ」のシノさまにソックリだって思ってた。ソックリだからいいなって、シノさまを推すのと同時に志乃くんも推してた。
けど今は違う。
シノさまに似てるから好きなんじゃない。志乃くんだから好きなんだ。だから。
「志乃くん……」
言葉にできない思いを乗せて。志乃くんの首に飛びつく。
(ああ、なんてあたし大胆なんだろ)
今のあたしのテンションはすっごく変。だからできた、こんな恥ずかしくって勇気のいること。
「のどか……」
志乃くんの手が、あたしの背中を抱きしめる。最初はおっかなびっくり、優しく。次第に力を込めてシッカリと。
抱き合ったことで、互いの熱と鼓動が響き合う。
少しだけ上を向けば、そこに志乃くんの優しい眼差しがあって。
「のどか」
名前を呼ばれると同時に、降りてきた唇。
(ヒロインも、こんな気持ちだったのかな)
唇を重ねながら、そんなことを思う。
ゲームのラスト、ヒロインとシノさまがキスをするスチルがあった。あの時は、「キャーッ! 尊い!」ぐらいの胸キュンだったけれど今は違う。
目眩を起こしそうなほど、圧倒的な幸せ。
志乃くんを好きになって良かった。心の底からそう思った。
* * * *
「のどかぁ。準備できた?」
「うん。えっと、はい! 完了です!」
トントンと、軽く靴のつま先で玄関床を叩く。それから、ちょっとだけ髪を整え直す。
(ヨシ!)
ちょっと明るい気分になって、ドアを開ける。
「お待たせしました」
ドアの先で待っていたのは、志乃くん。自分の部屋から出てきたあたしを見て、一瞬だけ、志乃くんが目を大きく見開く。そして。
「うん。今日もかわいい」
ストレートな褒め言葉が出た。
今日のあたしは黒のフレアスカートに、淡いピンクのニットセーター。ベレー帽は被っていない。自分がかわいいかどうか知らないけど、志乃くんが「かわいい」と言ってくれるんだから、かわいいんだろう。そう思う。
そして、今日も志乃くん、かっこいい。尊い。クラリ。
「ところで。今日はどこに行くの?」
志乃くんが問う。
今日のデート、実はずっと行く先を内緒にしていた。だって。
「えっとですね。今日はファミレスに行きます」
キャーッ! 言っちゃった! 言っちゃった!
「ファミレス?」
一人照れて盛り上がるあたしの横で、志乃くんが首を傾げる。なんでファミレス? 仕草が彼の気持ちを代弁する。
「今日からですね、『ナンキミ』のコラボ、やってるんですよ!」
「――は?」
「もちろん、かなちゃんとも行くつもりですけどっ! でも初日は外せないなって思ってて!」
「ナンキミ」とのコラボ。ファンとして、その初日は外せない。
「対象のコラボメニューを注文するとクリアファイルがもらえるんですが! 絵柄はランダムだから、当たる確率を上げたくて! それに、二千円以上注文すると目当てのキャラのポストカードがもらえるんですけど、自分ひとりで二千円は厳しいから、誰かに手伝っていただきたかったんです!」
「それが……俺?」
「はい!」
コラボメニュー、シノのマロングラッセとか、シノの包み焼きハンバーグとか。シノのブルーソーダとか。飲みたいもの食べたいものはいっぱいあるけど、一人じゃ全部踏破できない!
「あ、もちろん、志乃くんとのデートも楽しみですし。昨日だって、ワクワクして眠れなかったんですよ」
ほら、と、寝不足の顔を指差す。クマはできてないから、寝不足感少ないけど。
「お昼はそのファミレスとして。今日はいっぱい楽しみましょうね!」
コラボも気になるけど、それより楽しみなのは志乃くんとのデート。以前のデートとは違う。純粋に、恋人としてのデート。何しようかなあ。プランとしては、街をブラブラするぐらいにしか予定立ててないけど。だって、志乃くんとなら、ブラブラするだけでもきっと楽しいだろうし。
あ、でも。また洋服を選んでもいいかも。以前選んだやつは、志乃くんが「シノさま似」だったから選んだカラーの服だし。今度は志乃くんに一番似合う服を選んでみたい。そしてまた、おそろいコーデを志乃くんに選んでもらいたい。
それと、あとマグカップも2つ、おそろいで。
志乃くんの部屋にいる時用。一緒にコーヒー飲むときとかに使いたいって。キャーッ! あたしってば、何考えてんのよ!
勝手にモダモダ。頬をペシペシ。
「あ、それと、途中本屋さんにも寄っていいですか?」
「本屋?」
「はい! 今日、好きなコミックの新刊発売日なんですよ。だから」
今日じゃなきゃダメってことはないけど、続きが気になるから、できれば今日買っておきたい。
「――どオタク」
「へ? なにか言いましたか?」
立ち止まった志乃くんの呟き。よく聞き取れなかったんだけど。
「コラボも本屋もいいけどさ。俺も見てくれないと――、またドロップ舐めさせちゃうよ?」
「へ?」
驚くあたしの前で、紙に包まれたドロップを取り出した志乃くん。え? ええっ? ここで? これからデートなのに、猫にされちゃう?
「しししっ、志乃くんっ!?」
そ、それだけは、ご勘弁の程を!
「――冗談。今日はのどかの好きなように楽しんでいいよ」
クスっと笑った志乃くん。固まったあたしの頭をポンポンと優しく叩く。
「行こう」
あたしの手を取り、指を絡める。
マンションのエントランスを抜け、二人恋人らしく連れ立って歩き出す。
そんなあたしたちの姿を見ていた灰色猫が、「ブミャ」とアクビ紛れの声を上げた。
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