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25.同担拒否!
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「――のどか!」
日も沈んで、暗い夜道から、公園にいるあたしに呼びかける声がした。
「こんな寒いところで。どうしたの?」
少し走ってきた彼。
その姿に、あたしもベンチから立ち上がる。
公園灯が、あたしとベンチ、そして息の整わない彼をスポットライトのように照らし出す。
「少し、お話しをしたくて」
「話し?」
彼が軽く首を傾げる。
話しなら部屋ででもできる。けど。
「大事なお話です」
チラリとベンチを横目で見る。
大家さん。そして猫ちゃん。少しだけあたしに勇気をください。
指先まで凍るように冷たくなってるのは、寒いからだけじゃない。だから勇気をもらう。
「単刀直入い言います。佐保宮さん。別れてください」
指先を守るように手を握りしめ、ハッキリと彼に伝える。
「――え?」
「これ以上、女よけの役を務めることはできません」
言った。言い切った。
「あたしから願い出るのは間違ってると思います。でも、これ以上カノジョを務めるのは、騙してつき合うのは無理なんです」
「のど……、筒井さんはそれでいいの?」
「はい」
真剣になった彼の目。だから、あたしも真摯に応える。
「――ちょっと待ってくれないか」
動いたのは佐保宮さんだった。片手で顔を覆い、視線を地面に落とす。その辛そうな姿に、自分で決めたことなのに、胸がズキズキ痛くなる。
「――わかった。契約は白紙に戻す。それでいい?」
重く。
重く、身を切られるような言葉。
「はい。ありがとうございます」
女よけ契約は解除。ニセモノカノジョは終了。
そして。
そしてここからが大事。ここからが本番。
「それともう一つ、お伝えしたいことが――」
「やっと別れたのか! 筒井のどか!」
大きく息を吸って。意を決して。言おうとした言葉を遮るように、被ってきた声。誰よ。今、一番緊張してる時なのに! ――って。
「竹芝?」
なんでコイツがここに?
「来たか。ストーカー」
チッと舌打ちした佐保宮さん。
へ? ストーカーってなに?
わからず立ち尽くすあたし。ズンズン近づいてくる竹芝。その間に立ってくれた佐保宮さん。
なにこれ。なにこの構図。
「筒井のどか! ようやく己の所業を悔いたか!」
公園に入ってきた竹芝。
いや、己の所業ってなに? あたしはなにを悔いなきゃいけないわけ?
「ようやく。ようやくこれで……」
感極まったように両手で握りこぶしを作った竹芝。
だから、なにに感極まってるのよ。
その様子に、佐保宮さんが、あたしを守るように手を伸ばす。
「ようやくこれで……っ!」
ダダっと走る竹芝。腰をわずかに下げ、身構えた佐保宮さん。けど。
「ああっ、佐保宮先輩っ!」
竹芝、佐保宮さんにタックル? いや、強烈ハグ。
「え?」
「は?」
あたしと佐保宮さん。二人で、すっごく間抜けな声が出た。そして。
「エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッ!」
「い゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!」
二人そろって声がひっくり返った。
佐保宮さんなんて、どうしたらいいのかわからず、中途半端に両腕を上げて固まってる。
「僕、僕ずっとアナタをお慕いしてたんです! 先輩!」
佐保宮さんに抱きつき、竹芝の告白が続く。
「ずっとずっと。高校生の時から、ずっと。だから、先輩と同じ大学を目指して頑張って。工学部は無理だったけど、なんとか文学部に入学して。同じキャンパスでご一緒させていただいて、いつかは告白しようって決めていたのに。それなのに、それなのにっ!」
プルプル震え始めた竹芝。
「あの女がっ! あの女が、先輩を騙してカノジョになって! 僕が住みたかった先輩の隣の部屋にもちゃっかり居座ってるし!」
「え? あたし?」
キョトンと自分を指差し。
「そうだよ! 僕、先輩の隣で暮らしたくて頑張ってきたのに! お前が先に契約しちゃってるから、僕は、近くのアパートしか借りられなかったんだ!」
「はあ?」
ナニソレ。
完全な八つ当たりじゃん。
あのマンションを借りたのは、佐保宮さん目当てだったからじゃなく、大学からの近さとセキュリティを鑑みてのことなんだけど? 一階に大家さんが暮らしてるのなら安全だろうって、お父さんたちと決めただけ。
「僕と先輩の間に割り込んでくるだけでも図々しいのに、今度は先輩を騙してカノジョになるだなんて! 厚かましいにも程があるぞ、クソ女!」
「はあああっ?」
なんじゃそら。
ケンカ売ってるのか、ワレ。買うぞ、コラ。
いてもうたろか。
なれない関西弁で凄みを利かす。
「どうせお前のことだ。隣に住んだことで掴んだ先輩の弱みでも使ってカノジョになったんだろう? 万死に当たる行為だが、でも、別れたならもういい。赦してやる。お前から別れを切り出すなどおこがましいが。先輩、僕、ずっと先輩のこと、好きだったんです。あの女より僕、先輩のことずっとずっと大事にします。だから僕を恋人にしてください」
からの、強烈ハグ。抱きつく横顔は、まさしく恋する乙女――って。
「ちょっと待ってよ!」
割り込ませてもらうわ、アンタの告白!
「なんだよ。お前はもう関係ないんだから静かにフェードアウトしろよ」
ムッとした竹芝。
「誰がフェードアウトするもんですか! あたしはね、まだ大事なことを伝えてないのよ!」
「謝罪なら後で聞く」
「謝罪じゃないわよ! あたしはね、志乃くんに『好き』って伝えたいの! ちゃんと告白したいのよ!」
「え?」
「は?」
見ようによっては、熱い抱擁中の二人が驚く。
「どこまで厚かましい女なんだ、お前は」
は、竹芝のセリフ。
「うっさい! あたしはね! 契約とかそういうのを一度リセットして、それから告白するつもりだったの!」
こうして邪魔されてしまったけど、当初の目的はそれ。
一度、女よけ契約を解除して、改めて告白するつもりだった。
「先輩の顔に惚れたとかどうとか。ミーハーのくせに」
「はあっ? 顔だけじゃないわよ!」
あたし、そんなルッキズムじゃないわよ!
「フン。どうだか」
竹芝が抱きついたまま、鼻を鳴らす。
「学校で、いっつも『シノさま、シノさま』騒いでたじゃないか」
う。それは……。
「どうせ、先輩がイケメンだから、そんなイケメンをカレシにできたあたしすごい! 程度の考えだろ」
「んなわけあるかあっ!」
声の限り叫ぶ。
「あたしはね! そりゃあ最初はカッコいいから好きになったよ? でも一緒にいて、志乃くんの優しいところも何もかも好きになっていったの!」
猫になって困ってたあたしを助けてくれる優しさ。
ドロップがバレて窮地に陥ったあたしを、さらに追い詰め契約を持ち込むズルさ。
ニセモノカノジョのあたしをエスコートしてくれる気遣い。
時折振り回される、イタズラ好きなところ。
その全部を好きになった。シノさまに似てるからじゃない。志乃くんだから好きになってた。好きになってたから、ニセモノを演じるのが苦しくなってた。
「アンタがどれだけ志乃くんを長く慕ってたかなんて知らない! あたしのほうが慕って期間は短いかもしれない! でも、あたしだってアンタに負けないぐらい、ううん。アンタよりもっと深く強く、志乃くんのことを想ってるんだから!」
この気持ち、絶対負けない!
「――離してくれないか、竹芝」
それまでずっと黙っていた(固まっていた)志乃くんが言った。
「悪いけど。俺はキミの気持ちに応えられない」
「先輩……」
竹芝の腕から力が抜ける。その腕からスルリと抜け出した志乃くん。
「俺が好きなのは、筒井のどかさんだ」
(え?)
あたしに近づくなり、ギュッとあたしを抱き寄せた志乃くん。――今、なんて言ったの?
あたしを……好き?
「そんなのウソです。僕を遠ざけるためのウソでしょ?」
「違うよ。これは本気」
「でもさっき、ニセモノ、女よけ契約だって……」
「お前、そこまで聞いていたのか」
フウッと、志乃くんが空に息を吐き出す。
「契約は俺が持ちかけたんだ。見せかけでもいいから、のどかにカノジョになってほしくて。まさか、あんなふうに契約解除を持ちかけられると思ってみなかったけど」
「あー、えっと。……ゴメンナサイ」
間抜けな謝罪しか出来なかった。
「いいよ。それより竹芝。お前、のどかのこと、好きだったんじゃないのか?」
「へ?」
「は?」
竹芝とあたし。不本意だけど声が重なる。
「ありえませんよ、こんな女!」
「あたしだって、ありえたくないです!」
一ミリだって願いたくない、そんなこと!
考えようとするだけで、背筋がゾクゾクするし、サブイボでるわ!
「……そっか。じゃあ、全部俺の杞憂だったってわけか」
再び吐き出された息。ため息じゃなくて、ホッと、安堵した息に感じる。
「じゃあ、竹芝。俺を好きだというのなら、そろそろ席を外してくれないか?」
「え?」
「俺とのどか。両思いなことがわかって、これから良いところ……なんだけど?」
ようするに、「お前はおじゃま虫。消えろ」ってこと?
「ヒドいっ!」
グズっと鼻を啜り上げた竹芝。そして。
「でも俺、絶対諦めませんからね! ずっとずっと好きですから!」
不穏なことを言い残して、うわーんと泣いて走り去っていった。
(な、なんなんだ、あれ)
ホッとしたというのか、力が抜けたというのか。
「フー、やれやれ」
それは志乃くんも同じだったみたいで、あたしを抱く手から、少しだけ力が抜けた。
「……さて、と」
訂正。すぐに腕に力がこもり直す。
「さっきの契約解除といい、告白といい。ちゃんと説明してくれるよね?」
「あの、えっと……」
覚悟は決めてたけど、さっきの騒動で、覚悟がどっか抜け落ちた! 改めて言うの、超恥ずかしい!
「続きは、あったかい部屋で。ね?」
天使のように美しく、悪魔のように恐ろしい笑み。
日も沈んで、暗い夜道から、公園にいるあたしに呼びかける声がした。
「こんな寒いところで。どうしたの?」
少し走ってきた彼。
その姿に、あたしもベンチから立ち上がる。
公園灯が、あたしとベンチ、そして息の整わない彼をスポットライトのように照らし出す。
「少し、お話しをしたくて」
「話し?」
彼が軽く首を傾げる。
話しなら部屋ででもできる。けど。
「大事なお話です」
チラリとベンチを横目で見る。
大家さん。そして猫ちゃん。少しだけあたしに勇気をください。
指先まで凍るように冷たくなってるのは、寒いからだけじゃない。だから勇気をもらう。
「単刀直入い言います。佐保宮さん。別れてください」
指先を守るように手を握りしめ、ハッキリと彼に伝える。
「――え?」
「これ以上、女よけの役を務めることはできません」
言った。言い切った。
「あたしから願い出るのは間違ってると思います。でも、これ以上カノジョを務めるのは、騙してつき合うのは無理なんです」
「のど……、筒井さんはそれでいいの?」
「はい」
真剣になった彼の目。だから、あたしも真摯に応える。
「――ちょっと待ってくれないか」
動いたのは佐保宮さんだった。片手で顔を覆い、視線を地面に落とす。その辛そうな姿に、自分で決めたことなのに、胸がズキズキ痛くなる。
「――わかった。契約は白紙に戻す。それでいい?」
重く。
重く、身を切られるような言葉。
「はい。ありがとうございます」
女よけ契約は解除。ニセモノカノジョは終了。
そして。
そしてここからが大事。ここからが本番。
「それともう一つ、お伝えしたいことが――」
「やっと別れたのか! 筒井のどか!」
大きく息を吸って。意を決して。言おうとした言葉を遮るように、被ってきた声。誰よ。今、一番緊張してる時なのに! ――って。
「竹芝?」
なんでコイツがここに?
「来たか。ストーカー」
チッと舌打ちした佐保宮さん。
へ? ストーカーってなに?
わからず立ち尽くすあたし。ズンズン近づいてくる竹芝。その間に立ってくれた佐保宮さん。
なにこれ。なにこの構図。
「筒井のどか! ようやく己の所業を悔いたか!」
公園に入ってきた竹芝。
いや、己の所業ってなに? あたしはなにを悔いなきゃいけないわけ?
「ようやく。ようやくこれで……」
感極まったように両手で握りこぶしを作った竹芝。
だから、なにに感極まってるのよ。
その様子に、佐保宮さんが、あたしを守るように手を伸ばす。
「ようやくこれで……っ!」
ダダっと走る竹芝。腰をわずかに下げ、身構えた佐保宮さん。けど。
「ああっ、佐保宮先輩っ!」
竹芝、佐保宮さんにタックル? いや、強烈ハグ。
「え?」
「は?」
あたしと佐保宮さん。二人で、すっごく間抜けな声が出た。そして。
「エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ッ!」
「い゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!」
二人そろって声がひっくり返った。
佐保宮さんなんて、どうしたらいいのかわからず、中途半端に両腕を上げて固まってる。
「僕、僕ずっとアナタをお慕いしてたんです! 先輩!」
佐保宮さんに抱きつき、竹芝の告白が続く。
「ずっとずっと。高校生の時から、ずっと。だから、先輩と同じ大学を目指して頑張って。工学部は無理だったけど、なんとか文学部に入学して。同じキャンパスでご一緒させていただいて、いつかは告白しようって決めていたのに。それなのに、それなのにっ!」
プルプル震え始めた竹芝。
「あの女がっ! あの女が、先輩を騙してカノジョになって! 僕が住みたかった先輩の隣の部屋にもちゃっかり居座ってるし!」
「え? あたし?」
キョトンと自分を指差し。
「そうだよ! 僕、先輩の隣で暮らしたくて頑張ってきたのに! お前が先に契約しちゃってるから、僕は、近くのアパートしか借りられなかったんだ!」
「はあ?」
ナニソレ。
完全な八つ当たりじゃん。
あのマンションを借りたのは、佐保宮さん目当てだったからじゃなく、大学からの近さとセキュリティを鑑みてのことなんだけど? 一階に大家さんが暮らしてるのなら安全だろうって、お父さんたちと決めただけ。
「僕と先輩の間に割り込んでくるだけでも図々しいのに、今度は先輩を騙してカノジョになるだなんて! 厚かましいにも程があるぞ、クソ女!」
「はあああっ?」
なんじゃそら。
ケンカ売ってるのか、ワレ。買うぞ、コラ。
いてもうたろか。
なれない関西弁で凄みを利かす。
「どうせお前のことだ。隣に住んだことで掴んだ先輩の弱みでも使ってカノジョになったんだろう? 万死に当たる行為だが、でも、別れたならもういい。赦してやる。お前から別れを切り出すなどおこがましいが。先輩、僕、ずっと先輩のこと、好きだったんです。あの女より僕、先輩のことずっとずっと大事にします。だから僕を恋人にしてください」
からの、強烈ハグ。抱きつく横顔は、まさしく恋する乙女――って。
「ちょっと待ってよ!」
割り込ませてもらうわ、アンタの告白!
「なんだよ。お前はもう関係ないんだから静かにフェードアウトしろよ」
ムッとした竹芝。
「誰がフェードアウトするもんですか! あたしはね、まだ大事なことを伝えてないのよ!」
「謝罪なら後で聞く」
「謝罪じゃないわよ! あたしはね、志乃くんに『好き』って伝えたいの! ちゃんと告白したいのよ!」
「え?」
「は?」
見ようによっては、熱い抱擁中の二人が驚く。
「どこまで厚かましい女なんだ、お前は」
は、竹芝のセリフ。
「うっさい! あたしはね! 契約とかそういうのを一度リセットして、それから告白するつもりだったの!」
こうして邪魔されてしまったけど、当初の目的はそれ。
一度、女よけ契約を解除して、改めて告白するつもりだった。
「先輩の顔に惚れたとかどうとか。ミーハーのくせに」
「はあっ? 顔だけじゃないわよ!」
あたし、そんなルッキズムじゃないわよ!
「フン。どうだか」
竹芝が抱きついたまま、鼻を鳴らす。
「学校で、いっつも『シノさま、シノさま』騒いでたじゃないか」
う。それは……。
「どうせ、先輩がイケメンだから、そんなイケメンをカレシにできたあたしすごい! 程度の考えだろ」
「んなわけあるかあっ!」
声の限り叫ぶ。
「あたしはね! そりゃあ最初はカッコいいから好きになったよ? でも一緒にいて、志乃くんの優しいところも何もかも好きになっていったの!」
猫になって困ってたあたしを助けてくれる優しさ。
ドロップがバレて窮地に陥ったあたしを、さらに追い詰め契約を持ち込むズルさ。
ニセモノカノジョのあたしをエスコートしてくれる気遣い。
時折振り回される、イタズラ好きなところ。
その全部を好きになった。シノさまに似てるからじゃない。志乃くんだから好きになってた。好きになってたから、ニセモノを演じるのが苦しくなってた。
「アンタがどれだけ志乃くんを長く慕ってたかなんて知らない! あたしのほうが慕って期間は短いかもしれない! でも、あたしだってアンタに負けないぐらい、ううん。アンタよりもっと深く強く、志乃くんのことを想ってるんだから!」
この気持ち、絶対負けない!
「――離してくれないか、竹芝」
それまでずっと黙っていた(固まっていた)志乃くんが言った。
「悪いけど。俺はキミの気持ちに応えられない」
「先輩……」
竹芝の腕から力が抜ける。その腕からスルリと抜け出した志乃くん。
「俺が好きなのは、筒井のどかさんだ」
(え?)
あたしに近づくなり、ギュッとあたしを抱き寄せた志乃くん。――今、なんて言ったの?
あたしを……好き?
「そんなのウソです。僕を遠ざけるためのウソでしょ?」
「違うよ。これは本気」
「でもさっき、ニセモノ、女よけ契約だって……」
「お前、そこまで聞いていたのか」
フウッと、志乃くんが空に息を吐き出す。
「契約は俺が持ちかけたんだ。見せかけでもいいから、のどかにカノジョになってほしくて。まさか、あんなふうに契約解除を持ちかけられると思ってみなかったけど」
「あー、えっと。……ゴメンナサイ」
間抜けな謝罪しか出来なかった。
「いいよ。それより竹芝。お前、のどかのこと、好きだったんじゃないのか?」
「へ?」
「は?」
竹芝とあたし。不本意だけど声が重なる。
「ありえませんよ、こんな女!」
「あたしだって、ありえたくないです!」
一ミリだって願いたくない、そんなこと!
考えようとするだけで、背筋がゾクゾクするし、サブイボでるわ!
「……そっか。じゃあ、全部俺の杞憂だったってわけか」
再び吐き出された息。ため息じゃなくて、ホッと、安堵した息に感じる。
「じゃあ、竹芝。俺を好きだというのなら、そろそろ席を外してくれないか?」
「え?」
「俺とのどか。両思いなことがわかって、これから良いところ……なんだけど?」
ようするに、「お前はおじゃま虫。消えろ」ってこと?
「ヒドいっ!」
グズっと鼻を啜り上げた竹芝。そして。
「でも俺、絶対諦めませんからね! ずっとずっと好きですから!」
不穏なことを言い残して、うわーんと泣いて走り去っていった。
(な、なんなんだ、あれ)
ホッとしたというのか、力が抜けたというのか。
「フー、やれやれ」
それは志乃くんも同じだったみたいで、あたしを抱く手から、少しだけ力が抜けた。
「……さて、と」
訂正。すぐに腕に力がこもり直す。
「さっきの契約解除といい、告白といい。ちゃんと説明してくれるよね?」
「あの、えっと……」
覚悟は決めてたけど、さっきの騒動で、覚悟がどっか抜け落ちた! 改めて言うの、超恥ずかしい!
「続きは、あったかい部屋で。ね?」
天使のように美しく、悪魔のように恐ろしい笑み。
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