猫ネコ☆ドロップ!

若松だんご

文字の大きさ
上 下
11 / 26

11.Is it ture?

しおりを挟む
 「――説明、してくれるよね?」

 志乃さまの部屋。ベッドに腰掛け、腕も足も組む志乃さま。

 「……はい」

 彼の座るベッドの前で、うなだれ、正座するあたし。
 シャワーでびしょ濡れになった服はどうにか着替えさせてもらえたけど、そのままトンズラはさせてもらえなかった。「は? 猫があたしに? やだなあ、佐保宮さん。夢でも見てたんじゃないですかあ?」なんてテキトー強引な誤魔化しは効かなさそうな状況。
 だって、志乃さま、メッチャ怒ってる。さっきまでの猫への優しさなんて、全然残ってない。
 ええい。こうなったら……。かくなる上は……。

 「上様がこのような所に来られるはずがない」――チガウ。
 「おのれ~、上様とて構わぬ、斬れ!斬り捨てい!」――チガウって。
 「もはやこれまで」――チッガーウ!
 「うぬ~、此奴は上様を語る不届き者じゃ、斬れ!切捨てい!」――斬ってどうする!

 自分で自分にツッコミ。それから、深くふかく息を吐いて覚悟を決める。

 「あの、実はですね。あたし、ちょっと不思議なドロップを手に入れまして。こ、これです……」

 おずおずと、水色ドロップ入りのビンを彼に渡す。

 「これは?」

 ビンを光にかざした志乃さま。ビンを少し回してみたり、不思議そうに見つめる。

 「その中身、ドロップなんですけど、それを舐めるとなぜか猫に変身できまして……」

 「これを?」

 「はい」

 信じてないって顔の志乃さま。
 まあ、それが普通の反応だよね。
 ドロップを舐めて猫になった? あたしだって、他の人がそんな話しを始めたら、今の志乃さまみたいな顔をすると思う。喋ってる相手を「こいつ、頭大丈夫か?」って顔。

 「信じられないってのなら、もう一回舐めて猫になりますけど」

 ここで、目の前で舐めて猫になったら信じてもらえる?
 なぜか時間内に人に戻っちゃったけど。でもまた舐めたら猫になれると思う。

 「いや、いい。それより、このドロップはどこから入手した?」

 「えー、あー、それはあ……」

 答える言葉が尻つぼみ。だって。

 「よくわからないんです」

 「は?」

 「いつの間にかポケットに紛れ込んでたり、部屋に置かれてたりしたもので……」

 「じゃあ、キミは、得体の知れないドロップを舐めたってこと?」

 「えっと。そういうことに、なり……ます」

 あ、呆れてる! 志乃さまが呆れてる!
 知らない怪しげドロップまで舐めるような〝いやしいんぼ〟だって呆れてる!

 「あ、あの! 初めて舐めた時は、なんか、その、すっごく舐めたい誘惑があって! 喉も乾いてたし! メチャクチャ美味しそうに見えたし!」

 って、あれ? これ、全然弁護になってないことない?
 〝いやしんぼ〟を自分で肯定したようなもんだぞ?
 聴いた志乃さまも、深くため息つかれてるし。

 「で? 百歩譲ってこのドロップで猫になれるとして。どうして俺の部屋に入り込んできた?」

 「えーっと。それはですねえ……」

 どうしよ。
 これ、話さなきゃいけない? 話すの? マジで?
 逃げ出したい。それか気を失ってしまいたい。それかそれか、巨人でも現れて、マンションごとどうにかしてくれないかな。――くれないな。どうにかされても困るけど。
 ゴクリと唾を飲み込みたいけど、緊張で喉が細くなってるのか、それも上手くいかない。「どうしよう」だけが、ガンガンと頭の中で響く。

 「言えないのか? なら、警察呼んで不法侵入で――」

 言いながら、スマホを取り出した志乃さま。――限界!

 「あのっ! それはアナタがあたしの推しソックリだからです!」

 もはやここまで!

 「推し?」

 「そうですよ! 佐保宮さんがあたしの最推し『ナンキミ』シノ・グランディールさまにソックリだったから! だから現実でもリアルな推しを感じたくて猫のフリしてここに来てたんです!」

 フン!
 開き直った!
 早口だけど言い切った!
 あー、スッキリ。

 「ちょ、ちょっと待って。なに? そのシノなんとかって……」

 「シノ・グランディールさま。あたしの好きなゲーム『何度でもキミと恋する約束を』略して『ナンキミ』に出てくるキャラクターで主人公の聖女を守る騎士なんですが最初はとってもクールで『キミを聖女と認められない』とかおっしゃて主人公を拒否するポジションで目の色は流石に違いますけど顔立ちとか髪型とか佐保宮さんを二次元に落とし込んだらきっとこんなふうなんだろうなって容貌をしてて声なんて双子でもここまで似てないんじゃないかってぐらいそっくりで常にストイックに上を目指して鍛錬を重ねていてだから同じだけの努力を主人公にも求めていて――」

 「ちょっ、ちょっと待った! 待って待って! 頼むから!」

 ストップ。
 志乃さまが、あたしに手を突き出す。
 そこから、天井に向かって大きく息を吐き出された。
 あたしも息継ぎナシだったので、ここで呼吸を整え直す。ゼイゼイ。

 「それで? 俺がそのシノなんとかに似てるから、ここに通ってたってこと?」

 「推し活の一環です!」

 「推しに逢う」、「推しに触れる」、「推しを感じる」。
 そこに追加されてた「推し(似)に逢う」、「推し(似)に触れる」、「推し(似)を感じる」。
 ゲームに会いに行ったり、グッズを揃えたり、コラボイベントに参加したり、推しを布教したり。そんな数ある推し活のなかで、ちょっと特殊な推し活形態、推し(似)観察。
 推しがいるだけで、毎日が楽しい。充実してる。落ち込んだ時も辛い時も励まされる。
 その一翼を、志乃さまも担ってた。調子に乗っちゃったけど、それだけ、志乃さまに会えることは、すごく楽しかった。調子に乗っちゃうぐらい楽しかったんだ。

 (けど、それももうおしまいか)

 あたしが引っ越すか、志乃さまが引っ越されるか。
 いくらなんでも、バレちゃった以上、隣で暮らすことは無理だろう。

 (お母さんたちにどう説明しようかな)

 こんな入学半年で引っ越しだなんて。事情は詳しく説明できないし。
 やけのやんぱち、開き直って説明したけど、ズンッとお腹の底が重くなる。

 (って、あれ? これ、もしかして大学とかそういうとこに通報されちゃう案件だったりする?)

 いくら推し活の一環だからって、あたし志乃さまの部屋に不法侵入してたんだよね? 「好きだから」、「推し似だから」で許される案件?

 (どどっ、どうしようっ!?)

 さっきから志乃さま、スマホいじってるし! もしかしてもしかすると、通報先とか調べてたり――する?

 「あ、あのっ!」

 勇気を出して声を上げる。

 「もうこんなことしませんから。ですから通報だけはしないでいただけますか?」

 「え?」

 「気味が悪いとおっしゃるなら、あたし、引っ越します。大学でも近づいたりしません。ですから、学校とか親に通報するのだけは止めてもらえませんか?」

 お願い。
 お母さんたちを悲しませたくない。
 
 「ふぅん」

 お願いお祈りポースのあたしを睥睨する志乃さま。
 発した「ふうん」が、どういう意味の「ふうん」かわからない。だから、必死に目を瞑ってお願いポーズ。

 「いいけど?」

 その赦しの声にパッと顔を上げる。

 「でも一つだけ、こっちの出す条件を呑むなら、だけど」

 「え? 条件?」

 驚くあたしに、ニヤッと笑う志乃さま。

 「俺のカノジョになってよ」

 は? 志乃さまの? か、かかっ、かっ――

 「カノジョォオォッ!?」

 声も思考もグルングルン。
 カノジョってどういうことよ! カノジョって!
 それも相手、あたしよ? あたしなんだよ? ストーカー気味オタクのあたしなんだよ?
 顔も平凡だし、チビだし、取り柄もないし、オタクだし。ドコをとってもいいトコなしのあたしだよ?
 そんなあたしを、志乃さまが? カノジョにって?
 ゲームじゃないんだから、「主人公は無条件に愛される」なんてのはないわけで――。ハッ、もしかして!

 「そ、それって、〝女よけ〟とかそういうの……ですか?」

 「は?」

 「ほら、よくあるじゃないですか。女性にモテてモテて仕方ないんだけど、『今は恋愛に興味がない』とかの理由で、〝女よけ〟に『なんであんな女が』みたいな平凡ブスをニセモノカノジョにするっていうパターン!」

 女よけ偽装カノジョ。
 マンガなんかでよくあるやつ。
 「ナンキミ」でも、そういう展開になる攻略対象者がいた。
 派生型として、「結婚よけに偽装婚約者を作る」ってのがある。そういうマンガは、その後、「おかしい偽装だったはずなのに」になって、「お前が好きだ」って展開になるけど、あたしと志乃さまなら、そういうことは起きずに、「偽装、ありがとうございました。じゃ」で、終わるだろうけど。
 志乃さま、カッコいいから、きっといろんな女性から言い寄られてるだろうし。どういう事情で〝女よけ〟が必要なのか知らないけど、あたしなんかに頼むんだから、よほど困っていらっしゃるのかも知れない。

 「――そう……そうなんだ。実はちょっと困ってて」

 フッと息を吐き、軽く前髪を掻き上げた志乃さま。その憂いを帯びたお顔。
 推理、間違ってなかったのね! というか、現実にもあるんだ、そういうこと。ほえ~。

 「キミが〝女よけ〟になってくれるなら、これまでのこと、黙っててあげるけど、――どうする?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

灰かぶり侍女とガラスの靴。

若松だんご
恋愛
 ―― 一曲お相手願えませんか!?  それは、誰もが憧れる王子さまのセリフ。魔法で変身したシンデレラの夢。  だけど、魔法が解けてしまえば、自分はタダのメイド。彼と過ごした時間は、一夜限りの夢。  それなのに。夜会の翌日、彼がレイティアのもとへとやってくる。  あの令嬢と結婚したい――と。  レイティアの女主人に令嬢を紹介して欲しいと、屋敷にやって来たのだ。  彼は気づかない。目の前にいるメイドがその令嬢だということに。  彼は惹かれていく。目の前にいるメイド、その人に。  本当のことを知られたら。怒る!? それとも幻滅する!?  うれしいのに悲しい。  言いたいのに言えない。  そんな元令嬢のメイドと、彼女を想う青年の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

びわ湖でイケメン男子を拾ったら、まさかの九尾様でしたっ!!

碧桜
キャラ文芸
落ち込んだ気分を癒やそうと、夕日の綺麗な琵琶湖にやって来たら、まさに入水?しようとするイケメン男子がいて!?とにかく自宅へ連れて帰ったら、なんと平安時代から眠らされていた九尾様だった! 急に始まった自由すぎる九尾様との同棲生活は、いろいろと刺激的! でも、彼には平安時代に愛した姫の姿を、千年の眠りから覚めた今もなお探し求め続けるという切ない恋をしていた。そこへ私の職場の先輩がなんと蘆屋道満の末裔で、妖である九尾を封印しようとしていて、また過去に封印した安倍晴明の孫の生まれ変わりまで出てきて、急に私の周囲がややこしいことに。九尾様の愛した姫の魂はまだこの世にあり、再会?出来たのだけど、九尾様が千年の眠りについた原因は彼女の願いだった。 いったいこの先、私と九尾様はどうなるの!?ラブコメ✕あやかし✕ちょっぴり切ない恋のお話スタートです!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...