2 / 24
第2話 お試し受験で聖女さま。
しおりを挟む
私が彼と婚約したのは、彼が八つ、私が七つになった時だった。
五百年ぶりに現れた、新たな聖女。
自分で言うのも何だけど、私、聖女の力を持っている。
ご先祖さまが竜からじきじきに授かったという「竜の石」を扱う力。
この「竜の石」には、特別で誰も知らないような力が宿っていて、これを扱えるのは聖女しかいないから、扱えたら聖女でしょっていう。ついでに言えば、石を光らせる、扱える以外に「癒やし」とか「祈り」とか、そういった聖女っぽい力は存在しない。
石を光らせることができる=聖女。
これが出来て、かつ、聖女の血筋にあれば、傍流の出であろうとも、聖女として認められる。逆に言えば、光らせられなければ、本家の娘であっても聖女にはなれない。
「こんなのただのお試しだよ。『試しの儀』だし。アリューシアが七つになった記念というか、お祝いというか」
王都に向かう馬車のなかで、父さまがダジャレのようなよくわからないことを言った。
「うちみたいな傍流の傍流、そのまた傍流の、かろうじて血筋にひっかかってたぐらいの末端でも、これだけは受けなくっちゃいけなくてねえ」
慣れない豪華すぎる服。父さまは服がキツくて苦しいのか、流れる汗を何度も拭き、隣の母さまは、父さまに「また太りましたわね」と文句を言う。
私は、生まれて初めての王都と、生まれて初めての豪華な衣装に戸惑っていた。
「まあ、アリューシアが選ばれる……なんてことはないだろうから。終わったら王都を見物でもして帰ろう」
儀式のついでの旅行。いや、旅行ついでの儀式。両親は、おそらく王都見物一泊二日、もしくは日帰りコースを考えてたんだと思う。
私も両親も選ばれるなんて露ほどにも思ってなかったから、着いて早々に行われた儀式の結果に、ひっくり返りそうなほど驚いた。
「アリューシアが、アリューシアがっ!!」
「どうしましょ。この後、おいしいパンケーキを食べに行くつもりでしたのにっ!!」
父さま、語彙不足。
母さま、王都ガイドブック握りしめて右往左往。
当の私はというと、授けられた竜の石の美しさに目を奪われていた。
(きれい……)
紅色くれないいろの雫形の石。
子どもの掌に収まるほどの大きさで、首から下げることができるように、銀で細工をされていた。
手のなかでほんのり光る石。
それは、どこか懐かしいような温かい、不思議な石だった。
私が石を光らせたことに驚いたのは、両親だけじゃなかった。
まさか、こんな傍流の傍流の傍流の……末端の娘が光らせることが出来るなんて思ってなかった本家の家長である公爵さまや国王さまたちは、予想外すぎる結果に大いに頭を悩ませた。
まあ、お試し受験で合格しちゃったんだからねえ。五百年も合格者がいなかったんだから、わからなくもないけど。対策なんて考えてもいなかっただろうし。
――このまま聖女として独身を貫かせ、竜に仕えさせるか?
――いやいや、竜など本当にいるのか疑わしい存在に仕えさせるより、王族の妻にして、王権に聖性を持たせてはどうか?
――子を産んだら、聖女の持つ聖性は無くなってしまうのではないか?
――そんなことはない。いにしえの聖女が王に嫁いだという文献が残っている。
――とするなら、誰と結婚させるべきか?
――だが、聖女は傍流すぎて貴族としての身分はかなり低いぞ? 王族の妻にするにはムリがあるのではないか?
――養女にすればいいだろう。公爵家の娘ということにすれば問題ない。
人の未来を、意見も聞かずに決めないでよ。
勝手すぎるわ。
そう思ったけど、地方の男爵でしかなかった父母に発言権はなく、私は本家である公爵家の養女となって、王国の第一王子の婚約者とされた。
それが七つの時。
慌ただしく執り行われた婚約式。そこで私は、初めて婚約者となるセイラムに出会った。
「はじめまして、アリューシア」
いきなり両親から引き離され、聖女だなんだともてはやされて困惑していた私に、セイラムは優しかった。
「これからは、ぼくがきみをたいせつにするね」
一つ年上なだけなのに、セイラムは王子さまらしくしっかりしていた。
私が不安になって泣きそうになると「大丈夫」って言ってくれたし、お菓子を持って遊びに来てくれたりと、いろいろ気にかけてくれていた。気晴らしにと、実家に連れて行って、両親に会わせてくれたこともある。
まるで、お兄ちゃん。
「婚約者」とか「結婚」だとか言われてもピンときてない私に、セイラムは優しいお兄ちゃんとして接してくれた。
(わたし、この人とけっこんするんだなあ)
泣き虫であっても、子どもであっても、女は女。
私も、漠然とセイラムとの未来を楽しみにしていた。
あんなに優しいセイラムだもの。あんなに素敵なセイラムだもの。
結婚したら、おとぎ話のように「幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」になると思ってた。幸せな結婚を思い描いてた。
けど。
異変は、婚約してすぐに起きた。
五百年ぶりに現れた、新たな聖女。
自分で言うのも何だけど、私、聖女の力を持っている。
ご先祖さまが竜からじきじきに授かったという「竜の石」を扱う力。
この「竜の石」には、特別で誰も知らないような力が宿っていて、これを扱えるのは聖女しかいないから、扱えたら聖女でしょっていう。ついでに言えば、石を光らせる、扱える以外に「癒やし」とか「祈り」とか、そういった聖女っぽい力は存在しない。
石を光らせることができる=聖女。
これが出来て、かつ、聖女の血筋にあれば、傍流の出であろうとも、聖女として認められる。逆に言えば、光らせられなければ、本家の娘であっても聖女にはなれない。
「こんなのただのお試しだよ。『試しの儀』だし。アリューシアが七つになった記念というか、お祝いというか」
王都に向かう馬車のなかで、父さまがダジャレのようなよくわからないことを言った。
「うちみたいな傍流の傍流、そのまた傍流の、かろうじて血筋にひっかかってたぐらいの末端でも、これだけは受けなくっちゃいけなくてねえ」
慣れない豪華すぎる服。父さまは服がキツくて苦しいのか、流れる汗を何度も拭き、隣の母さまは、父さまに「また太りましたわね」と文句を言う。
私は、生まれて初めての王都と、生まれて初めての豪華な衣装に戸惑っていた。
「まあ、アリューシアが選ばれる……なんてことはないだろうから。終わったら王都を見物でもして帰ろう」
儀式のついでの旅行。いや、旅行ついでの儀式。両親は、おそらく王都見物一泊二日、もしくは日帰りコースを考えてたんだと思う。
私も両親も選ばれるなんて露ほどにも思ってなかったから、着いて早々に行われた儀式の結果に、ひっくり返りそうなほど驚いた。
「アリューシアが、アリューシアがっ!!」
「どうしましょ。この後、おいしいパンケーキを食べに行くつもりでしたのにっ!!」
父さま、語彙不足。
母さま、王都ガイドブック握りしめて右往左往。
当の私はというと、授けられた竜の石の美しさに目を奪われていた。
(きれい……)
紅色くれないいろの雫形の石。
子どもの掌に収まるほどの大きさで、首から下げることができるように、銀で細工をされていた。
手のなかでほんのり光る石。
それは、どこか懐かしいような温かい、不思議な石だった。
私が石を光らせたことに驚いたのは、両親だけじゃなかった。
まさか、こんな傍流の傍流の傍流の……末端の娘が光らせることが出来るなんて思ってなかった本家の家長である公爵さまや国王さまたちは、予想外すぎる結果に大いに頭を悩ませた。
まあ、お試し受験で合格しちゃったんだからねえ。五百年も合格者がいなかったんだから、わからなくもないけど。対策なんて考えてもいなかっただろうし。
――このまま聖女として独身を貫かせ、竜に仕えさせるか?
――いやいや、竜など本当にいるのか疑わしい存在に仕えさせるより、王族の妻にして、王権に聖性を持たせてはどうか?
――子を産んだら、聖女の持つ聖性は無くなってしまうのではないか?
――そんなことはない。いにしえの聖女が王に嫁いだという文献が残っている。
――とするなら、誰と結婚させるべきか?
――だが、聖女は傍流すぎて貴族としての身分はかなり低いぞ? 王族の妻にするにはムリがあるのではないか?
――養女にすればいいだろう。公爵家の娘ということにすれば問題ない。
人の未来を、意見も聞かずに決めないでよ。
勝手すぎるわ。
そう思ったけど、地方の男爵でしかなかった父母に発言権はなく、私は本家である公爵家の養女となって、王国の第一王子の婚約者とされた。
それが七つの時。
慌ただしく執り行われた婚約式。そこで私は、初めて婚約者となるセイラムに出会った。
「はじめまして、アリューシア」
いきなり両親から引き離され、聖女だなんだともてはやされて困惑していた私に、セイラムは優しかった。
「これからは、ぼくがきみをたいせつにするね」
一つ年上なだけなのに、セイラムは王子さまらしくしっかりしていた。
私が不安になって泣きそうになると「大丈夫」って言ってくれたし、お菓子を持って遊びに来てくれたりと、いろいろ気にかけてくれていた。気晴らしにと、実家に連れて行って、両親に会わせてくれたこともある。
まるで、お兄ちゃん。
「婚約者」とか「結婚」だとか言われてもピンときてない私に、セイラムは優しいお兄ちゃんとして接してくれた。
(わたし、この人とけっこんするんだなあ)
泣き虫であっても、子どもであっても、女は女。
私も、漠然とセイラムとの未来を楽しみにしていた。
あんなに優しいセイラムだもの。あんなに素敵なセイラムだもの。
結婚したら、おとぎ話のように「幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」になると思ってた。幸せな結婚を思い描いてた。
けど。
異変は、婚約してすぐに起きた。
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる