へし折れ、フラグ!!

若松だんご

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第2話 お試し受験で聖女さま。

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 私が彼と婚約したのは、彼が八つ、私が七つになった時だった。
 五百年ぶりに現れた、新たな聖女。
 自分で言うのも何だけど、私、聖女の力を持っている。
 ご先祖さまが竜からじきじきに授かったという「竜の石」を扱う力。
 この「竜の石」には、特別で誰も知らないような力が宿っていて、これを扱えるのは聖女しかいないから、扱えたら聖女でしょっていう。ついでに言えば、石を光らせる、扱える以外に「癒やし」とか「祈り」とか、そういった聖女っぽい力は存在しない。
 石を光らせることができる=聖女。
 これが出来て、かつ、聖女の血筋にあれば、傍流の出であろうとも、聖女として認められる。逆に言えば、光らせられなければ、本家の娘であっても聖女にはなれない。

 「こんなのただのお試しだよ。『試しの儀』だし。アリューシアが七つになった記念というか、お祝いというか」

 王都に向かう馬車のなかで、父さまがダジャレのようなよくわからないことを言った。

 「うちみたいな傍流の傍流、そのまた傍流の、かろうじて血筋にひっかかってたぐらいの末端でも、これだけは受けなくっちゃいけなくてねえ」

 慣れない豪華すぎる服。父さまは服がキツくて苦しいのか、流れる汗を何度も拭き、隣の母さまは、父さまに「また太りましたわね」と文句を言う。
 私は、生まれて初めての王都と、生まれて初めての豪華な衣装に戸惑っていた。
 
 「まあ、アリューシアが選ばれる……なんてことはないだろうから。終わったら王都を見物でもして帰ろう」

 儀式のついでの旅行。いや、旅行ついでの儀式。両親は、おそらく王都見物一泊二日、もしくは日帰りコースを考えてたんだと思う。
 私も両親も選ばれるなんて露ほどにも思ってなかったから、着いて早々に行われた儀式の結果に、ひっくり返りそうなほど驚いた。
 
 「アリューシアが、アリューシアがっ!!」
 「どうしましょ。この後、おいしいパンケーキを食べに行くつもりでしたのにっ!!」

 父さま、語彙不足。
 母さま、王都ガイドブック握りしめて右往左往。

 当の私はというと、授けられた竜の石の美しさに目を奪われていた。
 
 (きれい……)

 紅色くれないいろの雫形の石。
 子どもの掌に収まるほどの大きさで、首から下げることができるように、銀で細工をされていた。
 手のなかでほんのり光る石。
 それは、どこか懐かしいような温かい、不思議な石だった。

 私が石を光らせたことに驚いたのは、両親だけじゃなかった。
 まさか、こんな傍流の傍流の傍流の……末端の娘が光らせることが出来るなんて思ってなかった本家の家長である公爵さまや国王さまたちは、予想外すぎる結果に大いに頭を悩ませた。
 まあ、お試し受験で合格しちゃったんだからねえ。五百年も合格者がいなかったんだから、わからなくもないけど。対策なんて考えてもいなかっただろうし。
  
 ――このまま聖女として独身を貫かせ、竜に仕えさせるか?
 ――いやいや、竜など本当にいるのか疑わしい存在に仕えさせるより、王族の妻にして、王権に聖性を持たせてはどうか? 
 ――子を産んだら、聖女の持つ聖性は無くなってしまうのではないか?
 ――そんなことはない。いにしえの聖女が王に嫁いだという文献が残っている。
 ――とするなら、誰と結婚させるべきか?
 ――だが、聖女は傍流すぎて貴族としての身分はかなり低いぞ? 王族の妻にするにはムリがあるのではないか?
 ――養女にすればいいだろう。公爵家の娘ということにすれば問題ない。
  
 人の未来を、意見も聞かずに決めないでよ。
 勝手すぎるわ。
 そう思ったけど、地方の男爵でしかなかった父母に発言権はなく、私は本家である公爵家の養女となって、王国の第一王子の婚約者とされた。
 それが七つの時。
 慌ただしく執り行われた婚約式。そこで私は、初めて婚約者となるセイラムに出会った。

 「はじめまして、アリューシア」

 いきなり両親から引き離され、聖女だなんだともてはやされて困惑していた私に、セイラムは優しかった。

 「これからは、ぼくがきみをたいせつにするね」

 一つ年上なだけなのに、セイラムは王子さまらしくしっかりしていた。
 私が不安になって泣きそうになると「大丈夫」って言ってくれたし、お菓子を持って遊びに来てくれたりと、いろいろ気にかけてくれていた。気晴らしにと、実家に連れて行って、両親に会わせてくれたこともある。
 まるで、お兄ちゃん。
 「婚約者」とか「結婚」だとか言われてもピンときてない私に、セイラムは優しいお兄ちゃんとして接してくれた。

 (わたし、この人とけっこんするんだなあ)

 泣き虫であっても、子どもであっても、女は女。
 私も、漠然とセイラムとの未来を楽しみにしていた。
 あんなに優しいセイラムだもの。あんなに素敵なセイラムだもの。
 結婚したら、おとぎ話のように「幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」になると思ってた。幸せな結婚を思い描いてた。
 けど。

 異変は、婚約してすぐに起きた。
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