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「いいかー、ここの部分は次のテストに出すからなー、ちゃんと覚えておけよ~」
「うぇ~い」
テンションのまったく上がらない生徒の反応。
四限目の授業、化学。
この化学教師、宝田は、なんでも説明の末尾に「テストに出すからな~」をつけるんだよなあ。
出るぞ、出るぞのでるでるお化け。化学だから化けて出る?
最初は、「そうか、大事な部分なのか」と真面目に受け取って、「POINT!」とか「重要!」とか印をつけてたんだけど。実際、テストを受けてみれば、その半分程度しかテストに出てなくって。この間の中間テスト、残りの「出るぞ」はどこにも出没してなかった。でるでる詐欺。
出る出る言うことで、俺たちに授業の内容を覚えさせようとしているのか、それとも、出るぞと言ったことを先生自身が忘れているのか。白髪交じりのじいちゃん先生だから、真実は不明。忘れてる説がやや優勢。
(平和だよなぁ~)
そんな授業を受けつつ、窓の外を眺める。
11月にしては、少し暖かい日差し。窓の外、グラウンドでは、どっかのクラスが体育でサッカーやってる。
学校を縁取るように生えてる木々は、赤や黄色に色褪せかけてて、この間掃除したところにも、また落ち葉を積もらせるんだろうなって思う。
学校が高台、丘の上にあるせいか、木々の向こうに、海へと続く栄津の市街が一望できる。そんなに大きな港じゃないし、町だってそこまで大きいわけじゃない。海に近づけば、家とか建物がギッチリ詰まってるかんじだけど、手前に視線を戻せば、民家もまばらで、田畑なのか緑や茶色の部分が増えてくる。そのグラデーションのような町を貫く電車の線路と、並走する国道。
とても平和で、とても眠たくなる町の景色。
窓から降り注ぐ日差しは暖かくて。ちょっと暑いなって思ったところにタイミングよく風が吹くから、窓際席は最高のお昼寝席。授業も退屈だし。
(って、そういや、桜町のあの小説。あれに出てくるの地名。確か「千栄津」って書いてあったよな)
小説のヒロイン、千寿姫の父親の居城。千栄津城ちえづじょう。
(あれって、ここの地名をもじったもんなのか?)
眼下に広がる街、栄津市。
「栄」の字の読み方と、上に「千」があるかないかだけど、すごく似た地名。
(桜町がテキトーにつけた名前なんかな)
とりあえず、小説書くのにつけた名前。後で書き換えるかもしれない、仮の地名。
(小説……なあ……)
戦国時代を舞台にした桜町の小説。
ヒロイン、千寿姫の父親が守る城が、敵の久慈真保に落とされたところから物語が始まる。領民を守るため、一人山中で敵と戦い負傷する。真保に助けられるけど、自害を禁じられた上、真保に凌辱され、無理やり妻にされてしまう。
(あれで、あそこから恋愛が発展するって言われてもなあ)
自分を辱めた男を、どうやったら好きになれるっていうんだ?
桜町があんな、スケベ要素ありな小説を書いてるって事実より、その展開の方に驚いた。エッチをしたら相手を好きになるってのは、エロ漫画のご都合主義展開だけだろ。
(俺なら、望み通りその首掻き切ってやらあっ! ってなるけどな)
もしくは盛ってるソレを圧し折る。それか、ぶら下がるナニを叩き潰す。男として、人として。二度と立ち上がれないぐらい、メッタメタのギッタギタにしてやる。
ナニがどう転んだって、俺なら真保との恋愛小説展開は起こり得ない。
「こら、新里! なにをホケッとしとるか! 教科書、続きを読め!」
「え? ふぁっ!?」
慌てて教科書を持って立ち上がる。――けど。
「なんだよ、五木」
大きく息を吐き出し座り直す。勢いつけて立ち上がったせいで、座り心地、ケツのポジショニング失敗の着席。
「シシッ。似てただろ? 宝田の真似」
「いんや、全然」
せめてもの負け惜しみ。俺が立ち上がったのは、その声真似がそっくりだったからビビッたんじゃなくて、急に声かけられて驚いただけだってアピール。
「それより、川成は?」
強引に話題を変える。
「購買。パンを買いに行った」
そっか。
というか、いつの間にか授業終わってたのか。
教室内を見れば、それぞれ気の合う友だちと、机を椅子を向かい合わせ、弁当を食べる準備を始めてる。教室内で食べる予定のヤツ。弁当片手に教室を出ていくヤツ。弁当より先にスマホをチェックしてるヤツ。「ソースカツパンゲット!」、グリコポースで凱旋してくるヤツ……って川成だ、それ。
「今日はな、ハムマヨロールもゲットできたんだぜ!」
めちゃくちゃうれしそうな川成。隣の席の五木と、後ろの席の川成。こういう場合、女子とかだったりすると、それぞれの机を向かい合わせて座ったりするんだろうけど。面倒くさいが先立つ俺たちは、二人の方に向けた俺の机に、椅子だけ持って集まる。
「それになあ、ほら、ツイストリングも! 薄皮たまごパンも!」
紙袋から取り出した戦利品を、次々俺の机の上に並べ始める。
「邪魔」
「オレらが食っていいのなら、並べてもいいけど?」
「ヤだね。その唐揚げ二個くれるってのなら、考えてもいいけど?」
川成が、俺の弁当の中身を指差す。本日のメインディッシュ、鶏の唐揚げ(四個)。
「こっちのかぼちゃの煮物とならトレードしてやるぞ」
ホレホレ。
本日の添え物、かぼちゃの煮物(二個)。なんのことはない、昨日の夕飯の残り物。
かぼちゃが嫌いなわけじゃないけど、2日連続のかぼちゃは飽きる。
「かぼちゃなんて食いたくねえよ」
ハムッ。
トレードに失敗した川成が、俺たちにとられまいと、急いでソースカツパンにかぶりつく。
その様子に、五木と軽く目を合わせて笑うと、俺たちもそれぞれの弁当攻略に取りかかる。
黙々と目の前の食料を、口に運んで飲み込んでいく。今、俺たちの口は、会話より入れた食べ物の咀嚼に忙しい。高校男子は、女子と違って、会話より食べ物で腹と心を満たす。
かぼちゃの煮物、海苔を載せたご飯、卵焼き、海苔を載せたご飯、唐揚げ、かぼちゃの煮物、唐揚げの下のキャベツ(コンソメ味)、海苔が載ってない部分のご飯。一応なるべく三角食べ。全体的に冷めてるけど、しっかり下味をつけてもらってるからか、それなりに旨い。
(――――ん? なんだ?)
焦げ臭い? というか。
「煙っ!? 火事かっ!?」
窓から流れてきた匂いに、驚き立ち上がる。ふり返ってみれば、窓のむこう、校庭の外にある木の間から煙が漂い出している。
「落ち着け、新里。ありゃただの〝野焼き〟だ」
弁当持ったまま立ち上がった俺と違って、冷静に弁当を食ってる五木。
「野焼き? 野焼きってあの枯れ草とか落ち葉を燃やす、あの野焼きか?」
「他に何があるってんだよ」
冷静なのは川成も同じで、ソースカツパンの次、薄皮たまごパンを旨そうに頬張っている。
「ってか、野焼きって禁止されてんじゃなかったのか?」
ダイオキシンが出るとかなんとか。たしか法律で禁じられてた気がする。
「それは、一般家庭のゴミを燃やした場合。農業に伴う野焼きは、例外として認められてるんだよ。俺のじいちゃん農家やってるからさ、冬になるとよくやってるぜ、野焼き。田んぼの土手を焼いたりするんだ。正確には畦焼きって言うんだけどな」
そうなんだ。
「そういや新里んちは、港の方だったよな。野焼き、見たことないのか?」
「ない」
俺んちのほうは、港に近いせいか家がひしめいてて、田畑とかそういう場所はないし、あったとしても、近隣の迷惑になるから野焼きはやってないと思う。あんな密集地でやったら、確実に火事になる。
「でも、見たことないからって、さっきのは驚きすぎだろ。『煙っ!? 火事かっ!?』ってさ。弁当持ったままキョロキョロしてんの」
川成がパンを持って再現。
「うっさいな。ちょっと驚いただけだ――って、あ、コラ! 唐揚げ!」
ムカついて、ピシャッと閉めた窓。その隙をつくように、川成が残ってた唐揚げをパクッていった。うめえ~って顔の川成。ムカつきポイントアップ。
「でもさ、そうやって『火事か?』って思うこと、大事だと思うぜ?」
五木が流れを変えた。
「最近さ、なんか火事が多くなってるんだって、じいちゃんが言ってた。この間もお城公園のとこで不審火があったんだっって」
「お城公園?」
どこだ、それ。
「あそこだよ。ほら、そこのポコッと木が生い茂ってるとこ」
五木が窓の外を指差す。学校から海へと続くなだらかな平地に、ポコッと平らになることに抵抗してるデベソみたいな木の塊がある。あれが、お城公園?
「この市の名前の由来になった城があるんだ――って、新里、お前郷土の歴史に疎すぎ」
「仕方ねえだろ。俺、中学になってからこっちに引っ越してきたんだし」
俺の生まれはここじゃない。この栄津市の北隣のある街が俺の出生地。親父の転勤に合わせて、こっちに引っ越してきたんだけど。
「――なあ、その城ってさ、〝千栄津城〟って名前だったりするのか?」
「よく知ってたな、新里」
驚く五木。
けど、五木以上に俺の方がもっと驚いた。
(桜町の小説と同じ地名?)
たまたまか? たまたま、桜町が命名を面倒くさがって小説に引用したのか?
海を、港を擁する千栄津の地。その港から上がる富を狙われ、久慈真保に落とされた城、千栄津城。あの小説の舞台は、恐ろしいこの街に似ている。
――これは、あくまでフィクション。僕が勝手に作り上げたフィクションだから。
そう桜町は言ってた。けど。
(あれ? 千栄津が栄えていたって、小説に書いてあったか?)
記憶がおかしい。千栄津の富って、どこから来た情報だ? 千栄津に港があったって、どうして知ってる?
「新里? どうした?」
煙を見た時から続く動悸。どうしてだ? どうしてこんなに胸が締めつけられる?
「卵焼き、いらねえならもらうぞ?」
言うと同時に、川成の指が最後の卵焼きをつまむ。卵焼きだけじゃない。残ってたかぼちゃの煮物も。
俺は、その光景を、誰かの目を通してみてるような感覚で眺めていた。
「うぇ~い」
テンションのまったく上がらない生徒の反応。
四限目の授業、化学。
この化学教師、宝田は、なんでも説明の末尾に「テストに出すからな~」をつけるんだよなあ。
出るぞ、出るぞのでるでるお化け。化学だから化けて出る?
最初は、「そうか、大事な部分なのか」と真面目に受け取って、「POINT!」とか「重要!」とか印をつけてたんだけど。実際、テストを受けてみれば、その半分程度しかテストに出てなくって。この間の中間テスト、残りの「出るぞ」はどこにも出没してなかった。でるでる詐欺。
出る出る言うことで、俺たちに授業の内容を覚えさせようとしているのか、それとも、出るぞと言ったことを先生自身が忘れているのか。白髪交じりのじいちゃん先生だから、真実は不明。忘れてる説がやや優勢。
(平和だよなぁ~)
そんな授業を受けつつ、窓の外を眺める。
11月にしては、少し暖かい日差し。窓の外、グラウンドでは、どっかのクラスが体育でサッカーやってる。
学校を縁取るように生えてる木々は、赤や黄色に色褪せかけてて、この間掃除したところにも、また落ち葉を積もらせるんだろうなって思う。
学校が高台、丘の上にあるせいか、木々の向こうに、海へと続く栄津の市街が一望できる。そんなに大きな港じゃないし、町だってそこまで大きいわけじゃない。海に近づけば、家とか建物がギッチリ詰まってるかんじだけど、手前に視線を戻せば、民家もまばらで、田畑なのか緑や茶色の部分が増えてくる。そのグラデーションのような町を貫く電車の線路と、並走する国道。
とても平和で、とても眠たくなる町の景色。
窓から降り注ぐ日差しは暖かくて。ちょっと暑いなって思ったところにタイミングよく風が吹くから、窓際席は最高のお昼寝席。授業も退屈だし。
(って、そういや、桜町のあの小説。あれに出てくるの地名。確か「千栄津」って書いてあったよな)
小説のヒロイン、千寿姫の父親の居城。千栄津城ちえづじょう。
(あれって、ここの地名をもじったもんなのか?)
眼下に広がる街、栄津市。
「栄」の字の読み方と、上に「千」があるかないかだけど、すごく似た地名。
(桜町がテキトーにつけた名前なんかな)
とりあえず、小説書くのにつけた名前。後で書き換えるかもしれない、仮の地名。
(小説……なあ……)
戦国時代を舞台にした桜町の小説。
ヒロイン、千寿姫の父親が守る城が、敵の久慈真保に落とされたところから物語が始まる。領民を守るため、一人山中で敵と戦い負傷する。真保に助けられるけど、自害を禁じられた上、真保に凌辱され、無理やり妻にされてしまう。
(あれで、あそこから恋愛が発展するって言われてもなあ)
自分を辱めた男を、どうやったら好きになれるっていうんだ?
桜町があんな、スケベ要素ありな小説を書いてるって事実より、その展開の方に驚いた。エッチをしたら相手を好きになるってのは、エロ漫画のご都合主義展開だけだろ。
(俺なら、望み通りその首掻き切ってやらあっ! ってなるけどな)
もしくは盛ってるソレを圧し折る。それか、ぶら下がるナニを叩き潰す。男として、人として。二度と立ち上がれないぐらい、メッタメタのギッタギタにしてやる。
ナニがどう転んだって、俺なら真保との恋愛小説展開は起こり得ない。
「こら、新里! なにをホケッとしとるか! 教科書、続きを読め!」
「え? ふぁっ!?」
慌てて教科書を持って立ち上がる。――けど。
「なんだよ、五木」
大きく息を吐き出し座り直す。勢いつけて立ち上がったせいで、座り心地、ケツのポジショニング失敗の着席。
「シシッ。似てただろ? 宝田の真似」
「いんや、全然」
せめてもの負け惜しみ。俺が立ち上がったのは、その声真似がそっくりだったからビビッたんじゃなくて、急に声かけられて驚いただけだってアピール。
「それより、川成は?」
強引に話題を変える。
「購買。パンを買いに行った」
そっか。
というか、いつの間にか授業終わってたのか。
教室内を見れば、それぞれ気の合う友だちと、机を椅子を向かい合わせ、弁当を食べる準備を始めてる。教室内で食べる予定のヤツ。弁当片手に教室を出ていくヤツ。弁当より先にスマホをチェックしてるヤツ。「ソースカツパンゲット!」、グリコポースで凱旋してくるヤツ……って川成だ、それ。
「今日はな、ハムマヨロールもゲットできたんだぜ!」
めちゃくちゃうれしそうな川成。隣の席の五木と、後ろの席の川成。こういう場合、女子とかだったりすると、それぞれの机を向かい合わせて座ったりするんだろうけど。面倒くさいが先立つ俺たちは、二人の方に向けた俺の机に、椅子だけ持って集まる。
「それになあ、ほら、ツイストリングも! 薄皮たまごパンも!」
紙袋から取り出した戦利品を、次々俺の机の上に並べ始める。
「邪魔」
「オレらが食っていいのなら、並べてもいいけど?」
「ヤだね。その唐揚げ二個くれるってのなら、考えてもいいけど?」
川成が、俺の弁当の中身を指差す。本日のメインディッシュ、鶏の唐揚げ(四個)。
「こっちのかぼちゃの煮物とならトレードしてやるぞ」
ホレホレ。
本日の添え物、かぼちゃの煮物(二個)。なんのことはない、昨日の夕飯の残り物。
かぼちゃが嫌いなわけじゃないけど、2日連続のかぼちゃは飽きる。
「かぼちゃなんて食いたくねえよ」
ハムッ。
トレードに失敗した川成が、俺たちにとられまいと、急いでソースカツパンにかぶりつく。
その様子に、五木と軽く目を合わせて笑うと、俺たちもそれぞれの弁当攻略に取りかかる。
黙々と目の前の食料を、口に運んで飲み込んでいく。今、俺たちの口は、会話より入れた食べ物の咀嚼に忙しい。高校男子は、女子と違って、会話より食べ物で腹と心を満たす。
かぼちゃの煮物、海苔を載せたご飯、卵焼き、海苔を載せたご飯、唐揚げ、かぼちゃの煮物、唐揚げの下のキャベツ(コンソメ味)、海苔が載ってない部分のご飯。一応なるべく三角食べ。全体的に冷めてるけど、しっかり下味をつけてもらってるからか、それなりに旨い。
(――――ん? なんだ?)
焦げ臭い? というか。
「煙っ!? 火事かっ!?」
窓から流れてきた匂いに、驚き立ち上がる。ふり返ってみれば、窓のむこう、校庭の外にある木の間から煙が漂い出している。
「落ち着け、新里。ありゃただの〝野焼き〟だ」
弁当持ったまま立ち上がった俺と違って、冷静に弁当を食ってる五木。
「野焼き? 野焼きってあの枯れ草とか落ち葉を燃やす、あの野焼きか?」
「他に何があるってんだよ」
冷静なのは川成も同じで、ソースカツパンの次、薄皮たまごパンを旨そうに頬張っている。
「ってか、野焼きって禁止されてんじゃなかったのか?」
ダイオキシンが出るとかなんとか。たしか法律で禁じられてた気がする。
「それは、一般家庭のゴミを燃やした場合。農業に伴う野焼きは、例外として認められてるんだよ。俺のじいちゃん農家やってるからさ、冬になるとよくやってるぜ、野焼き。田んぼの土手を焼いたりするんだ。正確には畦焼きって言うんだけどな」
そうなんだ。
「そういや新里んちは、港の方だったよな。野焼き、見たことないのか?」
「ない」
俺んちのほうは、港に近いせいか家がひしめいてて、田畑とかそういう場所はないし、あったとしても、近隣の迷惑になるから野焼きはやってないと思う。あんな密集地でやったら、確実に火事になる。
「でも、見たことないからって、さっきのは驚きすぎだろ。『煙っ!? 火事かっ!?』ってさ。弁当持ったままキョロキョロしてんの」
川成がパンを持って再現。
「うっさいな。ちょっと驚いただけだ――って、あ、コラ! 唐揚げ!」
ムカついて、ピシャッと閉めた窓。その隙をつくように、川成が残ってた唐揚げをパクッていった。うめえ~って顔の川成。ムカつきポイントアップ。
「でもさ、そうやって『火事か?』って思うこと、大事だと思うぜ?」
五木が流れを変えた。
「最近さ、なんか火事が多くなってるんだって、じいちゃんが言ってた。この間もお城公園のとこで不審火があったんだっって」
「お城公園?」
どこだ、それ。
「あそこだよ。ほら、そこのポコッと木が生い茂ってるとこ」
五木が窓の外を指差す。学校から海へと続くなだらかな平地に、ポコッと平らになることに抵抗してるデベソみたいな木の塊がある。あれが、お城公園?
「この市の名前の由来になった城があるんだ――って、新里、お前郷土の歴史に疎すぎ」
「仕方ねえだろ。俺、中学になってからこっちに引っ越してきたんだし」
俺の生まれはここじゃない。この栄津市の北隣のある街が俺の出生地。親父の転勤に合わせて、こっちに引っ越してきたんだけど。
「――なあ、その城ってさ、〝千栄津城〟って名前だったりするのか?」
「よく知ってたな、新里」
驚く五木。
けど、五木以上に俺の方がもっと驚いた。
(桜町の小説と同じ地名?)
たまたまか? たまたま、桜町が命名を面倒くさがって小説に引用したのか?
海を、港を擁する千栄津の地。その港から上がる富を狙われ、久慈真保に落とされた城、千栄津城。あの小説の舞台は、恐ろしいこの街に似ている。
――これは、あくまでフィクション。僕が勝手に作り上げたフィクションだから。
そう桜町は言ってた。けど。
(あれ? 千栄津が栄えていたって、小説に書いてあったか?)
記憶がおかしい。千栄津の富って、どこから来た情報だ? 千栄津に港があったって、どうして知ってる?
「新里? どうした?」
煙を見た時から続く動悸。どうしてだ? どうしてこんなに胸が締めつけられる?
「卵焼き、いらねえならもらうぞ?」
言うと同時に、川成の指が最後の卵焼きをつまむ。卵焼きだけじゃない。残ってたかぼちゃの煮物も。
俺は、その光景を、誰かの目を通してみてるような感覚で眺めていた。
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