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「………………ハァッ」
豪華というか、派手というか、映えそうというか、デカいというか。
色とりどりカラフルなパフェを前に、川成が何度目かのため息を吐き出す。
その隣に並んで座る五木も同じ。こっちは、アイスコーヒーを前にしての「ハァッ」。
「なんだよ、二人共元気ねえなあ」
「いや、だって……」
「なあ」
五木と川成が顔を見合わせる。
マンマ・フォルトゥナータの館を出て。フラフラと二人が足を運んだ、川成オススメジャンボパフェのあるカフェ。川成は、ただ単にパフェが食いたかったからかと思ってたんだけど、どうもそうではないらしい。デデドンと運ばれてきたパフェを前に、スプーン一つ持ち上げずにため息をくり返してる。
それは五木も同じで、二人が交互にため息を吐き出す。ため息、可視化できるのなら、きっと目の前のテーブルは、吐き出されまくったため息で埋め尽くされてるに違いない。
「村人……ムラビトかあ……。ハァッ」
「ん? なんだ、川成。お前の前世、〝村人〟なのかよ」
「ああ。おれの前世、村人、百姓だってさ。米育てて、牛飼って」
「悪くねえんじゃねえの?」
「悪くねえけど、これじゃあ、織田信長に太刀打ちできねえ……」
ああ、そういやコイツの同中友だち、前世が織田信長って言われたんだっけ。そしてカノジョが紫式部。
「いいじゃん。もしかしたら、そこから身を立てて、どっかで武士になってるかもしんねえし。それこそ、織田信長に仕えた豊臣秀吉みたいに。百姓の子から一気に太閤殿下に下剋上!」
「それがさあ、百姓で子沢山で、天寿を全うしてるらしんだよ、おれ」
あ。
子どもにたくさん恵まれて、天寿を全うっていうと、それなりに幸せそうだけど、織田信長に比べると迫力ない人生ではあるよな。
「川成はまだいいじゃん。オレなんて、『前世で叶わなかった父母への孝養を尽くせ』だぜ? 『お主の未来は、そこから始まる』ってさ。親孝行ってさ、町をキレイにとか一日一善みたいなレベルの当たり前に言われることじゃん? それで未来がどうこう言われても。ボラれたよな、絶対」
不満!
五木が、カラカラと氷の音を立てて、グラスのコーヒーをかき混ぜる。
「あー、もういい! おれ、レベル100の村人目指すわ!」
立ち直った? 川成が叫ぶ。
「レベル100?」
「んだ。かわいい嫁さもらって、子どもをいっぺえ産んでもらって。でけえ田んぼで米さ作って。銭さ貯めて、銀座で牛飼うだ」
「なんで銀座?」
「さあ」
元ネタがよくわからん。
「ってかさ、そういうお前の前世はなんなんだよ、新里」
「へ? あ、俺?」
俺が頼んだアイスウィンナーコーヒー。そのテッペンに乗せられたクリームをすくい、口に運びかけたスプーンを止める。
「お前だよ、お前。さっきから人の話ばっかりでさ」
「お前はなんて占ってもらったんだよ」
向かいに座る二人からの視線。スプーンごと、クリームをカップにリリース。
「実は、俺もよくわかってねえんだよ」
「わかってない?」
「ああ。俺がさ、前世は誰だったんだ~って聞こうとしたら、それより前に、あっちから先に言われたんだよ。『大切なものを守り通すのが主ぬしの役目』って」
「大切なもの?」
「それって、オレが言われた『孝養を尽くせ』と同じようなもんか?」
「さあ。よくわかんね」
カップの中のクリームを意味もなくかき混ぜる。スプーンを動かすたび、真っ白だったクリームが、下のコーヒーに薄く染まる。
「一応、俺の前世はなんなのかも聞いてみたんだけどさ、『答えはすでに主のなかにある』って言われて、教えてもらえなかったんだよ」
「なんじゃそら」
「やっぱボラれた系?」
「かもなあ」
コーヒー味に染まったクリームをスプーンですくい出す。
分厚い黒のカーテンの向こうに座ってた、怪しさ満載の黒ベールババア。マンマ・フォルトゥナータ。わけわかんなくて、もっと聞きたかったけど、それはあの受付ジプシーに遮られて強制終了されてしまった。
――しがらみなきこの世界で、お二人が幸せになられること、祈念しておりますぞ。
その言葉を残して。
(お二人ってなんだよ、お二人って)
やっぱただのインチキ占い師?
そうやって言っておけば、俺が中二病発動させて、「俺にはまだ見ぬ運命の姫が?」とか言って、勝手にロマンス始めるとか思われてる?
(前世、ねえ)
そもそも、前世がどうたらって言い出すこと自体が中二病っぽいし。
――ずっと昔、前世から僕はキミを探し続けてたんだ。
――キミを守る。そのために俺は今、ここにいるんだよ。(キリッ!)
将来さ、つき合ったカノジョにそんなこと言ったらロマンチックか? それともクッソイタいヤツって思われるか? どっちなんだろ。
そんなことを思いながら、上澄み生クリームを完食。続いて差したストローでコーヒーを飲む。
ウィンナーコーヒー。
初めて注文した時は、コーヒーにウィンナーが浮いてんのかと思ってた。真っ黒なコーヒーに、ウィンナー一本浮いてたら面白えよな。ネタになるよな。想像と違って、コーヒーに浮いてたのは、まっき巻きにモッサリ乗った生クリーム。ややカロリー高し。混ぜて飲んでも別々に味わっても美味い、ウィーン風コーヒー。
(俺のなかに答え……ねえ)
そんなもん、どんだけ考えても、「これか!」ってものを見つけられない。
(やっぱボラれただけかな)
なんとなく、頬杖をついて、カフェの窓の外を眺める。
口の中に残るコーヒーの味は、ほんのりかすかに苦かった。
豪華というか、派手というか、映えそうというか、デカいというか。
色とりどりカラフルなパフェを前に、川成が何度目かのため息を吐き出す。
その隣に並んで座る五木も同じ。こっちは、アイスコーヒーを前にしての「ハァッ」。
「なんだよ、二人共元気ねえなあ」
「いや、だって……」
「なあ」
五木と川成が顔を見合わせる。
マンマ・フォルトゥナータの館を出て。フラフラと二人が足を運んだ、川成オススメジャンボパフェのあるカフェ。川成は、ただ単にパフェが食いたかったからかと思ってたんだけど、どうもそうではないらしい。デデドンと運ばれてきたパフェを前に、スプーン一つ持ち上げずにため息をくり返してる。
それは五木も同じで、二人が交互にため息を吐き出す。ため息、可視化できるのなら、きっと目の前のテーブルは、吐き出されまくったため息で埋め尽くされてるに違いない。
「村人……ムラビトかあ……。ハァッ」
「ん? なんだ、川成。お前の前世、〝村人〟なのかよ」
「ああ。おれの前世、村人、百姓だってさ。米育てて、牛飼って」
「悪くねえんじゃねえの?」
「悪くねえけど、これじゃあ、織田信長に太刀打ちできねえ……」
ああ、そういやコイツの同中友だち、前世が織田信長って言われたんだっけ。そしてカノジョが紫式部。
「いいじゃん。もしかしたら、そこから身を立てて、どっかで武士になってるかもしんねえし。それこそ、織田信長に仕えた豊臣秀吉みたいに。百姓の子から一気に太閤殿下に下剋上!」
「それがさあ、百姓で子沢山で、天寿を全うしてるらしんだよ、おれ」
あ。
子どもにたくさん恵まれて、天寿を全うっていうと、それなりに幸せそうだけど、織田信長に比べると迫力ない人生ではあるよな。
「川成はまだいいじゃん。オレなんて、『前世で叶わなかった父母への孝養を尽くせ』だぜ? 『お主の未来は、そこから始まる』ってさ。親孝行ってさ、町をキレイにとか一日一善みたいなレベルの当たり前に言われることじゃん? それで未来がどうこう言われても。ボラれたよな、絶対」
不満!
五木が、カラカラと氷の音を立てて、グラスのコーヒーをかき混ぜる。
「あー、もういい! おれ、レベル100の村人目指すわ!」
立ち直った? 川成が叫ぶ。
「レベル100?」
「んだ。かわいい嫁さもらって、子どもをいっぺえ産んでもらって。でけえ田んぼで米さ作って。銭さ貯めて、銀座で牛飼うだ」
「なんで銀座?」
「さあ」
元ネタがよくわからん。
「ってかさ、そういうお前の前世はなんなんだよ、新里」
「へ? あ、俺?」
俺が頼んだアイスウィンナーコーヒー。そのテッペンに乗せられたクリームをすくい、口に運びかけたスプーンを止める。
「お前だよ、お前。さっきから人の話ばっかりでさ」
「お前はなんて占ってもらったんだよ」
向かいに座る二人からの視線。スプーンごと、クリームをカップにリリース。
「実は、俺もよくわかってねえんだよ」
「わかってない?」
「ああ。俺がさ、前世は誰だったんだ~って聞こうとしたら、それより前に、あっちから先に言われたんだよ。『大切なものを守り通すのが主ぬしの役目』って」
「大切なもの?」
「それって、オレが言われた『孝養を尽くせ』と同じようなもんか?」
「さあ。よくわかんね」
カップの中のクリームを意味もなくかき混ぜる。スプーンを動かすたび、真っ白だったクリームが、下のコーヒーに薄く染まる。
「一応、俺の前世はなんなのかも聞いてみたんだけどさ、『答えはすでに主のなかにある』って言われて、教えてもらえなかったんだよ」
「なんじゃそら」
「やっぱボラれた系?」
「かもなあ」
コーヒー味に染まったクリームをスプーンですくい出す。
分厚い黒のカーテンの向こうに座ってた、怪しさ満載の黒ベールババア。マンマ・フォルトゥナータ。わけわかんなくて、もっと聞きたかったけど、それはあの受付ジプシーに遮られて強制終了されてしまった。
――しがらみなきこの世界で、お二人が幸せになられること、祈念しておりますぞ。
その言葉を残して。
(お二人ってなんだよ、お二人って)
やっぱただのインチキ占い師?
そうやって言っておけば、俺が中二病発動させて、「俺にはまだ見ぬ運命の姫が?」とか言って、勝手にロマンス始めるとか思われてる?
(前世、ねえ)
そもそも、前世がどうたらって言い出すこと自体が中二病っぽいし。
――ずっと昔、前世から僕はキミを探し続けてたんだ。
――キミを守る。そのために俺は今、ここにいるんだよ。(キリッ!)
将来さ、つき合ったカノジョにそんなこと言ったらロマンチックか? それともクッソイタいヤツって思われるか? どっちなんだろ。
そんなことを思いながら、上澄み生クリームを完食。続いて差したストローでコーヒーを飲む。
ウィンナーコーヒー。
初めて注文した時は、コーヒーにウィンナーが浮いてんのかと思ってた。真っ黒なコーヒーに、ウィンナー一本浮いてたら面白えよな。ネタになるよな。想像と違って、コーヒーに浮いてたのは、まっき巻きにモッサリ乗った生クリーム。ややカロリー高し。混ぜて飲んでも別々に味わっても美味い、ウィーン風コーヒー。
(俺のなかに答え……ねえ)
そんなもん、どんだけ考えても、「これか!」ってものを見つけられない。
(やっぱボラれただけかな)
なんとなく、頬杖をついて、カフェの窓の外を眺める。
口の中に残るコーヒーの味は、ほんのりかすかに苦かった。
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