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16.怪我の功名? 棚ぼた恋愛実施中♡
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「先日は、すみませんでしたっ!」
次の撮影日。
撮影場所であるマンションの部屋に入った途端、私達を出迎えた体育会系っぽい大謝罪。
アイドル、柊深雪がマネージャーと並んで腰を90度、直角に曲げて謝罪してる。――ってこれナニ?
いくらなんでも面食らう。
「この度は、我が社の柊が、朝比奈様、壬生様に多大なご迷惑をおかけしたこと、重ねてお詫び申し上げます」
先に腰を戻したマネージャーが言った。
「治療費などは、こちらで全額お支払いいたします。プライベートなどでもご不便、ご不自由なことがございましたら、遠慮なくお申し付けください。サポートする者を用意させていただきます」
「そんな。そこまでお気遣いいただかなくても。ただの小指骨折ですし」
「いえ。そうさせてください。でないと……」
そこまで話して、マネージャーがチラリと柊を見る。
「俺が、俺の気がすまないんです」
継いだ柊が語り始める。
「あの時俺が飛び出したりしなかったら。そしたら、そんな怪我を負わせることもなかったのに」
言ってうつむいてしまった柊に、申し訳無さそうな朝比奈さん。
「柊くんは、怪我をしてないかい?」
「はい。俺は、朝比奈さんのおかげで」
「なら良かった」
破顔した朝比奈さん。
「きみときょ……、壬生さんに怪我がなければ御の字だ」
「でも……」
「だから、そんなに気にしないで。僕は、高校時代ハンドボールでキーパーをやっててね。その時にも小指を折っちゃってて。たぶん、クセになってるんだろうな。だから、あれぐらいのことで簡単に折れてしまった」
だから、誰も悪くない。むしろ、私や柊を守れてよかったと、直登さんが笑う。
「ハンドボール、お強いんですか?」
「う~ん、どうだろ。僕の場合、図体がデカいってだけでキーパーに選ばれたようなもんだったし。あれって、ボールを手で受け止めるとかじゃなくて、いかに身体を使ってボールをブロックするかだから。運動神経関係なしに、お前デカいからキーパーやれって感じで選ばれるんだよ」
そうなんだ。
朝比奈さん、ハンドボールやってたんだ。
敵のボールをビシバシブロックする朝比奈さん(の高校時代)。汗を手の甲でグイッと拭って、キーパーとして構え直す姿とか、一息入れてシャツで顔の汗拭いての腰チラを妄想してしまった。
「でもあの頃、キーパーを経験しておいて良かったと思うよ。だって、きみたちを守れたのも、咄嗟に動けるようにキーパーとしてしごかれたからだと思うし」
「朝比奈さん……」
マンションの玄関で、見つめ合う二人。
それはまるで、美しすぎるイケメンBLの世界。キレイな柊とダンディな直登さん。ほら、奥の部屋で用意してるだろうカメラ! 1カメが無理なら2カメ来なさい! すっごいBLショットが撮れるわよ! ――じゃなくて。
(ちょっと待て、柊! アンタ、私への謝罪はないわけっ!?)
そりゃあ、最終的に怪我をしたのは直登さんだけどさ? でもその前に、アンタが部屋から飛び出してきて、私にぶつかりさえしなければ、そもそも直登さんは怪我しなくてすんだんだよ?
直登さんに守ってもらったとはいえ、最初にアンタが靴を履こうとしてた私を押し潰したんだからね?
バラが舞い散りそうなきれいな世界に、一人でムッ。
「プライベートも、特に問題ないから。そこまで気にしてもらわなくても大丈夫だよ」
「朝比奈さん……、お世話してくれるようなカノジョとかいるんですか?」
ドキン。
柊の質問に、アルカイック能面を着けた私の心臓が跳ねた。
「うん。いるよ。ココだけの話、そのカノジョに怪我を理由に甘えられるから、そんなに悪くないんだ」
コソッと直登さんが柊に耳打ちするけど。
(聞こえてますよ、そのカノジョに!)
耳打ちしながら、チラッとこっちに視線をよこしたし。
これは「今日も、甘えさせて?」ってサインなのかな。昨日の夜みたいに、手が使いにくい直登さんにゴハンを食べさせてあげたりとか、そのままセックスする流れになって、彼に代わって私がシャツのボタンを外してあげたりとか、私の方から彼を愛撫してあげたりとか。左手使えないのって不便ですよねってことで、いろいろこちらから(いっぱい)ご奉仕した。
アレを、今日もおねだりしてるの? その顔。
考えるだけで、身体の奥がキュンと疼く。
「それより、今日は柊くんの撮影だったっけ?」
直登さんが、話題を仕事にシフトさせる。
「いえ。今日は美萩野です。俺は、こうして謝りたかったから来ただけで……」
「そっか。今日は、別のところで仕事?」
「はい。お昼に仙台でドラマの撮影があって、夜は大阪でラジオの生放送です」
昼に仙台で、夜は大阪?
それって、かなりハードじゃない?
それなのに、こうして謝罪に訪れるなんて。
「えっと。きみの分の撮影って、明日……だよね」
直登さんも、同じことを考えてたらしい。
「ええ。明日はここでの撮影と、雑誌の取材だけですから。一日東京にいられるので楽です」
東京にいられるので楽って。
「無理、しないでね」
「はい! では!」
さっきまでと打って変わって元気に明るくなった柊。謝罪が受け入れられてホッとしたのかなんなのか。うれしそうに部屋を飛び出し、もう一人の事務所の人(アシスタントマネージャーとか?)と走り去っていった。もしかしたら、「新幹線、間に合いませんよ! 急いで!」ってやつなのかもしれない。
「――アイドルって、大変だね」
「そうですね」
直登さんと二人で感想を漏らす。
テレビやネットで観てるだけではわからなかった、超過密ハードスケジュール。
大御所ならともかく、人気急上昇中、駆け出しのアイドルってのは、それぐらい仕事をやらないと、ビッグになれないのかもしれない。
「さて。僕も仕事、頑張らなきゃな」
んーっと、腕を伸ばした直登さん。
「いっぱい頑張って。仕事から帰ったら、味気ない自炊料理じゃなくて、カノジョの温かい手料理が待ってる。本当に、怪我して良かったって思うよ。不謹慎だけどね」
「ソウデスネ」
声が強張った。
周りには、QUARTETTO!のマネージャーもいるし、他にもテレビ局のスタッフもいる。だから、そういう表現をしたんだろうけど。
(よっしゃ、私も頑張るべ!)
仕事だけじゃなく、その後も。
直登さんが望むような温かい手料理だけじゃない。たくさん愛してセックスして、彼の心も身体も満たしてあげるわ。
次の撮影日。
撮影場所であるマンションの部屋に入った途端、私達を出迎えた体育会系っぽい大謝罪。
アイドル、柊深雪がマネージャーと並んで腰を90度、直角に曲げて謝罪してる。――ってこれナニ?
いくらなんでも面食らう。
「この度は、我が社の柊が、朝比奈様、壬生様に多大なご迷惑をおかけしたこと、重ねてお詫び申し上げます」
先に腰を戻したマネージャーが言った。
「治療費などは、こちらで全額お支払いいたします。プライベートなどでもご不便、ご不自由なことがございましたら、遠慮なくお申し付けください。サポートする者を用意させていただきます」
「そんな。そこまでお気遣いいただかなくても。ただの小指骨折ですし」
「いえ。そうさせてください。でないと……」
そこまで話して、マネージャーがチラリと柊を見る。
「俺が、俺の気がすまないんです」
継いだ柊が語り始める。
「あの時俺が飛び出したりしなかったら。そしたら、そんな怪我を負わせることもなかったのに」
言ってうつむいてしまった柊に、申し訳無さそうな朝比奈さん。
「柊くんは、怪我をしてないかい?」
「はい。俺は、朝比奈さんのおかげで」
「なら良かった」
破顔した朝比奈さん。
「きみときょ……、壬生さんに怪我がなければ御の字だ」
「でも……」
「だから、そんなに気にしないで。僕は、高校時代ハンドボールでキーパーをやっててね。その時にも小指を折っちゃってて。たぶん、クセになってるんだろうな。だから、あれぐらいのことで簡単に折れてしまった」
だから、誰も悪くない。むしろ、私や柊を守れてよかったと、直登さんが笑う。
「ハンドボール、お強いんですか?」
「う~ん、どうだろ。僕の場合、図体がデカいってだけでキーパーに選ばれたようなもんだったし。あれって、ボールを手で受け止めるとかじゃなくて、いかに身体を使ってボールをブロックするかだから。運動神経関係なしに、お前デカいからキーパーやれって感じで選ばれるんだよ」
そうなんだ。
朝比奈さん、ハンドボールやってたんだ。
敵のボールをビシバシブロックする朝比奈さん(の高校時代)。汗を手の甲でグイッと拭って、キーパーとして構え直す姿とか、一息入れてシャツで顔の汗拭いての腰チラを妄想してしまった。
「でもあの頃、キーパーを経験しておいて良かったと思うよ。だって、きみたちを守れたのも、咄嗟に動けるようにキーパーとしてしごかれたからだと思うし」
「朝比奈さん……」
マンションの玄関で、見つめ合う二人。
それはまるで、美しすぎるイケメンBLの世界。キレイな柊とダンディな直登さん。ほら、奥の部屋で用意してるだろうカメラ! 1カメが無理なら2カメ来なさい! すっごいBLショットが撮れるわよ! ――じゃなくて。
(ちょっと待て、柊! アンタ、私への謝罪はないわけっ!?)
そりゃあ、最終的に怪我をしたのは直登さんだけどさ? でもその前に、アンタが部屋から飛び出してきて、私にぶつかりさえしなければ、そもそも直登さんは怪我しなくてすんだんだよ?
直登さんに守ってもらったとはいえ、最初にアンタが靴を履こうとしてた私を押し潰したんだからね?
バラが舞い散りそうなきれいな世界に、一人でムッ。
「プライベートも、特に問題ないから。そこまで気にしてもらわなくても大丈夫だよ」
「朝比奈さん……、お世話してくれるようなカノジョとかいるんですか?」
ドキン。
柊の質問に、アルカイック能面を着けた私の心臓が跳ねた。
「うん。いるよ。ココだけの話、そのカノジョに怪我を理由に甘えられるから、そんなに悪くないんだ」
コソッと直登さんが柊に耳打ちするけど。
(聞こえてますよ、そのカノジョに!)
耳打ちしながら、チラッとこっちに視線をよこしたし。
これは「今日も、甘えさせて?」ってサインなのかな。昨日の夜みたいに、手が使いにくい直登さんにゴハンを食べさせてあげたりとか、そのままセックスする流れになって、彼に代わって私がシャツのボタンを外してあげたりとか、私の方から彼を愛撫してあげたりとか。左手使えないのって不便ですよねってことで、いろいろこちらから(いっぱい)ご奉仕した。
アレを、今日もおねだりしてるの? その顔。
考えるだけで、身体の奥がキュンと疼く。
「それより、今日は柊くんの撮影だったっけ?」
直登さんが、話題を仕事にシフトさせる。
「いえ。今日は美萩野です。俺は、こうして謝りたかったから来ただけで……」
「そっか。今日は、別のところで仕事?」
「はい。お昼に仙台でドラマの撮影があって、夜は大阪でラジオの生放送です」
昼に仙台で、夜は大阪?
それって、かなりハードじゃない?
それなのに、こうして謝罪に訪れるなんて。
「えっと。きみの分の撮影って、明日……だよね」
直登さんも、同じことを考えてたらしい。
「ええ。明日はここでの撮影と、雑誌の取材だけですから。一日東京にいられるので楽です」
東京にいられるので楽って。
「無理、しないでね」
「はい! では!」
さっきまでと打って変わって元気に明るくなった柊。謝罪が受け入れられてホッとしたのかなんなのか。うれしそうに部屋を飛び出し、もう一人の事務所の人(アシスタントマネージャーとか?)と走り去っていった。もしかしたら、「新幹線、間に合いませんよ! 急いで!」ってやつなのかもしれない。
「――アイドルって、大変だね」
「そうですね」
直登さんと二人で感想を漏らす。
テレビやネットで観てるだけではわからなかった、超過密ハードスケジュール。
大御所ならともかく、人気急上昇中、駆け出しのアイドルってのは、それぐらい仕事をやらないと、ビッグになれないのかもしれない。
「さて。僕も仕事、頑張らなきゃな」
んーっと、腕を伸ばした直登さん。
「いっぱい頑張って。仕事から帰ったら、味気ない自炊料理じゃなくて、カノジョの温かい手料理が待ってる。本当に、怪我して良かったって思うよ。不謹慎だけどね」
「ソウデスネ」
声が強張った。
周りには、QUARTETTO!のマネージャーもいるし、他にもテレビ局のスタッフもいる。だから、そういう表現をしたんだろうけど。
(よっしゃ、私も頑張るべ!)
仕事だけじゃなく、その後も。
直登さんが望むような温かい手料理だけじゃない。たくさん愛してセックスして、彼の心も身体も満たしてあげるわ。
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