だって、体が求めてる!

若松だんご

文字の大きさ
上 下
7 / 25

7.デキる女の見せ所?

しおりを挟む
 「――うん。これで悪くないと思う」

 インフルエンザから復活復帰をした課長。
 手渡したインテリア案をめくるその様子。仕草。
 緊張して見守っていたけど、その「悪くない」という一言に、ホッと力が抜ける。
 それは、隣に立つ朝比奈さんも同じだったようで、様子を見ようと視線を向けたら、目を細め、ニコッと笑い返してくれた。クッソ、イケメン。
 先日の店舗見学、インテリア勉強会は、あの後、普通に店を出て、駅で「じゃあ」でサヨナラした。「この後、ディナーでも」とかそういう甘いお誘いは一切ナシ。
 仕事熱心なことでと喜ぶべきか。それとも、「これって脈ナシ?」と落胆するべきか。
 よくわからないまま、目をつむり、軽く息を吐く。

 「ただねえ、ここの部分なんだけど……」

 安心しかけた私達に向かって、課長がパシンと書類を叩く。

 「この、柊くんの部屋なんだけど。少し、殺風景すぎないかい?」

 机の上に置かれたモデル案の写真を、三人で覗き込む。

 「――殺風景、ですか」

 写真にある部屋。
 マンション特有の白い壁、木の質感を味わえる家具。ミルクガラスのペンダントシェード。所々にガラスやスチール素材の家具も配したことで、スッキリしながらも甘さを感じられない、シンプルナチュラルな成人男性の部屋を作ったつもりだけど。

 「う~ん。俺がオッサンなせいもあるのか。なんていうのか、寒々しく感じられるんだよねえ」

 寒々しい? 
 あの柊深雪のコンセプトは「冬」なんだから、それでいいんじゃない? と思うけど、意見は心の奥にグッと押し込める。

 「それに、彼の推し色? がねえ。少ないんだよね、ちょっと。整ったステキな部屋だとは思うけど」

 やっぱり、そこを指摘されたか。
 ここはグッと息を飲む。
 柊深雪のイメージカラー、推し色は、スモークカラー。スモーキーブルーが最適解なんだけど、それって多用しすぎると本気で「寒っ!」って部屋になっちゃう。だから、ソファに置いたクッションをスモーキーブルーのストライプが入ったものにして、ワンポイント的に使ったものにしたんだけど。

 (少なかったか)

 その点を突かれるとちょっと痛い。
 でも。
 
 「では、こちらのプランBはいかがですか?」

 そこでめげないのが私。

 「こちらは、インテリアのコンセプトは同じ。ただ、ベッド横の壁をスモーキーブルーに変更しているプランです」

 「ほう……」

 「へえ……」

 机の上に提示した書類を見た、課長と朝比奈さんが声を上げる。

 「でも、壁を塗り替えるとなると、大変なんじゃないですか?」

 朝比奈さんからの、当然の質問。
 あの部屋は、撮影用に借りただけの賃貸。そこで壁に色をつけるなんて。朝比奈さんでなくても誰もが引っかかる疑問だと思う。

 「大丈夫です。これは、貼ってはがせるタイプの壁紙ですから」

 「壁紙?」

 「はい。朝比奈さん、我が社に、リフォーム部門があること、ご存知ですか?」

 「ええ。水回りとか、壁紙の張替えなど、住まいのリフォーム事業も展開されているんですよね」

 我が大鳥家具は、家具を売るだけの会社じゃない。望みのインテリアを実現するために、リフォームで、お客様の望む部屋をご提案するって事業も展開している。(そして、部屋に似合う家具を買ってもらおうって魂胆)
 
 「リフォーム事業部に確認しましたが、現在、この色の壁紙はリフォームとして提案されています」

 「でも、それだと、彼らが作った部屋という趣旨から外れないかね?」

 口を挟んできた課長。だから、最後まで聞けって。

 「商品開発部にも問い合わせましたが、そのリフォーム事業部で取り扱ってる壁紙。はってはがせるタイプの壁紙にすることも可能らしく。今回のテレビ企画で紹介していただけるのなら、商品として展開させてもいいと許諾を頂いてます」

 今のところ、店舗で貼ってはがせる壁紙なんて取り扱ってないけど、もしこの企画で人気がでるなら商品として取り扱ってもいいと、あちらには話をつけてある。

 「他にも、山咲椿さんのカフェインテリアで使うカフェ風メニューボードや、榎原涼太郎さんのマリンスタイルのヴィンテージ感ある木材風フロアシートなども。企画で取り上げてくださるなら、新商品も悪くないと、前向きなお返事をいただいてます」

 商品がない? なら作ればいいじゃない。
 あのQUARTETTO!の人気がどれだけのものかは知らないけど、彼らが人気だというのなら、彼らと同じ部屋を作るのに、絶対欠かせないアイテムを、ウチの会社で展開すればいいじゃない。ウチの会社なら、安価な上に全国展開。ネット通販もやってる。全国どこにいたって、彼らのファンだろうがそうじゃなかろうが、誰でもできるステキなインテリア作りの助けになれば、それでいい。

 「なるほど。この企画をきっかけに、新たな商品展開。いいんじゃないですか、課長。ウチでならできる、ウチでしかできないことだと思いますよ」

 「ふむ。そうだな。一度あちらと検討してみるか」

 朝比奈さんの意見に、課長が乗っかる。

 「ありがとうございます!」

 やた! 提案通った!

 「それにしても。さすがです、壬生さん。インテリアだけじゃなく、新たな商品展開まで提案するとは」

 「いえいえ。たまたまあちら、商品開発課に同期がいたもので。ちょっと相談に乗ってもらっただけです」

 「ちょっと」じゃなくて、「たっぷり」「ウザく」「しつこく」相談に乗ってもらったけど。「できる。できるけどそんなポンポン、昼夜関係なしに質問してくるなあ!」と嘆かれたけど。それは笑って秘密にしておく。

 「でも、このままだと、僕の仕事ことが無くなっちゃいそうだなあ」

 え?
 立ち上がった課長の背中を見送りながら、朝比奈さんのセリフに驚く。
 私、なんかやりすぎた?

 「それほど、完璧な仕事っぷりだってことですよ。『さすが』以外の言葉が出てきません。僕も同じ企画に携わってる者として、頑張らなくては」

 驚く私に、ニッコリ笑いかけてくださる朝比奈さん。

 「そうだ、壬生さん。今日の帰り、お時間ありますか?」

 へ? 帰り? お時間?

 「もしよかったら、一緒に夕飯、食べに行きませんか? ちょっと気になってるイタリアンのお店があるんです」

 ええーっと。
 それは、「気になるお店=インテリアの勉強場所として」ってこと? それとも「仕事が上手くいくことを祈念して、乾杯!」ってこと? それとも、それとも、それともっ!?
 期待しちゃいけない。期待したって、この間みたいな展開ガックリだってある。
 慎重に。なんでもないふりして、慎重に。

 「私で、よければ……」

 どういうお誘いか見当がつかなくて、おずおずと答える。イタリアンっていったら、そんなシャレオツなところでゴハンっていったら。でもでもでも……!

 「よかった。なら、終業後に。楽しみですね、イタリアン」

 ホッとしたように、うれしそうに笑った朝比奈さん。

 「となったら、僕も頑張らないと」

 言い置いて、その場を去っていくけど。

 (カッコよすぎでしょうがぁぁっ!)

 サラリと誘ってみたり、うれしそうに笑ってみたり。
 その一挙手一投足にドキドキバクバクする心臓。時折キュンっとギュギュ~っと、苦しいほどに締め付けられて。

 (いつか、朝比奈さんに殺されそう)

 心拍乱高下する胸を押さえ、本気でそう思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お酒の席でナンパした相手がまさかの婚約者でした 〜政略結婚のはずだけど、めちゃくちゃ溺愛されてます〜

Adria
恋愛
イタリアに留学し、そのまま就職して楽しい生活を送っていた私は、父からの婚約者を紹介するから帰国しろという言葉を無視し、友人と楽しくお酒を飲んでいた。けれど、そのお酒の場で出会った人はその婚約者で――しかも私を初恋だと言う。 結婚する気のない私と、私を好きすぎて追いかけてきたストーカー気味な彼。 ひょんなことから一緒にイタリアの各地を巡りながら、彼は私が幼少期から抱えていたものを解決してくれた。 気がついた時にはかけがえのない人になっていて―― 表紙絵/灰田様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

契約結婚のはずが、幼馴染の御曹司は溺愛婚をお望みです

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
旧題:幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。 夢破れて帰ってきた故郷で、再会した彼との契約婚の日々。 ★第17回恋愛小説大賞(2024年)にて、奨励賞を受賞いたしました!★ ☆改題&加筆修正ののち、単行本として刊行されることになりました!☆ ※作品のレンタル開始に伴い、旧題で掲載していた本文は2025年2月13日に非公開となりました。  お楽しみくださっていた方々には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませ。

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~

けいこ
恋愛
密かに想いを寄せていたあなたとのとろけるような一夜の出来事。 好きになってはいけない人とわかっていたのに… 夢のような時間がくれたこの大切な命。 保育士の仕事を懸命に頑張りながら、可愛い我が子の子育てに、1人で奔走する毎日。 なのに突然、あなたは私の前に現れた。 忘れようとしても決して忘れることなんて出来なかった、そんな愛おしい人との偶然の再会。 私の運命は… ここからまた大きく動き出す。 九条グループ御曹司 副社長 九条 慶都(くじょう けいと) 31歳 × 化粧品メーカー itidouの長女 保育士 一堂 彩葉(いちどう いろは) 25歳

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...