神嫁、はじめました。

若松だんご

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10.所顕し、所信表明

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 いやあ、めでたい、めでたい。
 これで町も安泰。めでたいことじゃ。

 喜び、笑い合う町のジジババども。
 私がここに来て三日目の夜。
 なんか知らないけど、入れ代わり立ち代わりいろんな捧げ物(?)を持ってくる。
 それまで完全放置状態だったのに、いきなりナニ?
 自分ちの畑で採れた野菜!! ってのから始まって、めでたいから鯛!! とか、今の若い子はこんなの好きじゃろ? ってケーキまで。スナック菓子やジュースも持ち込まれたけど、一番の問題は、薬屋が持ってきた「これ飲んでお気張りやす」なギンギンドリンク。……意味深すぎて叩きかえしたい。

 「みな、いましを歓迎しておるのだ。そうむくれるでない」

 「あのねえ。すっぽんドリンクもらって、『ありがとうございます~。頑張っちゃいますね~』って言えるわけないでしょ?」

 そもそも頑張る気もないし。
 とりあえず持ってきてもらったものは、(主に神様野郎が)受け取ったけど、だからって「お祝いいただき、ありがとうございます~」なんて顔、できるわけない。したくもない。
 でもまあ、食べ物に罪はない。
 もらった中から賞味期限が一番近そうなケーキを取り出す。
 町で唯一のケーキ屋ケンちゃん(じじい)の苺ショートケーキ。なんのひねりもない、シンプルな苺が乗っかっただけのケーキ。

 「待て、日菜子。それよりもこちらを食すがよい」

 スイッと神様が押し出してきたのは、三方の上、敷かれた和紙の上に盛り付けられた小さな紅白のお餅。

 「ナニコレ」

 「餅だ」

 いや、それは見たらわかるけどさ。

 「けぇきもよいが、こちらを先に食せ」

 「なんで? ……って、アンタも食べるの?」

 「うむ。なかなか美味いぞ」

 小さなひとくちサイズの紅白の餅。それをヒョイッとつまんで食べる神様。美味いと言われれば気になるし、お餅嫌いじゃないし。ってか、早く食べないと全部食べられちゃいそうな勢い。

 「……美味いであろう?」

 私がひとつ食べると、なぜか神様がうれしそうに目を細めた。……美味しい? 普通に、あんこも何もないただの「餅!」だけど。上目遣いに思案しながら、餅を味わう。不味いとは言わないけど、だからって「美味い!」ってほどのものでも……。

 「三日夜の餅みかよのもちひだ。今宵のために用意させた」

 「ふぅん」

 なんで今日のために? 今日ってなんかあったっけ。十五夜なら団子だし。そもそも今日が満月かどうかも知らないんだけど。

 「所顕ところあらわし、三日夜の餅みかよのもちひ。これで名実ともにいましの妻、吾妹わぎもとなったのだ」

 「――――は?」

 ナンデスト?

 「夫が妻のもとに忍び通って三日目、二人で三日夜の餅みかよのもちひを食す。そして、夫婦となったことを周囲に知らせ、祝ってもらう所顕ところあらわしをする。結婚とはそういうものであろう?」

 「いや、ちょっと待って。何時代の結婚よ、それ」

 少なくとも私はそんな結婚を知らない。ってか、この餅、そういう意味の餅だったの? 飲み込んじゃったことが悔しい。吐き出したいけど、餅はすでに私の胃のなか、腹のなか。

 「最新のやり方だと思ったのだが……違うのか?」

 「違うわよ!!」

 ってツッコんじゃったけど。

 「結婚ってのはねえ!! 三々九度って言って夫婦でお酒を酌み交わしたり、『病める時も健やかなる時も~』って神様の前で問われて『誓います』ってやるもんなの!!」

 「の前で誓うのか?」

 神様が首を傾げた。

 「とにかく!! 私が言いたいのは、こんな結婚認めないってこと!! こんな騙し討ちみたいな結婚、ノーカンよ!! ノーカン!!」

 「ノウカン?」

 「ノーカウント!! 数に数えない、なかったことって意味!!」

 それでなくても、戸籍改ざんっていう外堀を埋められてるのに、よくわかんないまま餅を食べさせられて「結婚成立!!」されてたまるか。

 「私はねえ、アンタと結婚したいとも思ってないし、結婚したつもりもないの!!」

 怒りに任せて立ち上がると、キョトンとしたままの神様を見下ろす。

 「町の人を脅しに使ったり、勝手に結婚したことにする!! そんなことするアンタとは、何があってもぜったい夫婦にならないっ!!」

 「日菜子……」

 「私のことを嫁にしたいぐらい大切に思ってるのなら、少しは私の気持ちも考えなさいよ、バカ!!」

 言い終わるより早く、目から涙が溢れた。くっそう。こんなことで泣きたくなんかないのに。こんなやつの前で涙なんて見せたくないのに。
 拳を握って唇噛んで。頑張ってるのに涙は勝手に溢れてきて。

 「アンタなんて、大っきらいっ!!」

 叫んだ途端、グラッと揺れた視界。

 「――日菜子!!」

 自分が倒れたんだって知ったのは、神様が私の体を支えようと手を伸ばしたから。

 (勝手に触んないで……)

 暗く閉じてく意識のなかで、そんなことを思う。アンタなんかに助けてもらっても、ちっともうれしくないんだから。
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