神嫁、はじめました。

 「申し訳ありませんが、この書類は受理できません」
 パスポート取得のため、戸籍謄本を取りに行った役所で言われたこと。申請書の苗字が違う。住所が違う。そして。
 「倉橋日菜子さん。アナタ、結婚されてますよね?」
 ――は?
 私、これからカレシと、うれしはずかし海外旅行に出かけるはずだったんですけど?

 結婚? いつの間に? 誰が? 誰と?

 ややこしい女はゴメンだと、カレシにフラれ(フリ返した)、向かった先は野賀崎町。私の曽祖父母が暮らす、一次産業と年寄りしか残ってない町。こんなしょぼくれた町だから、老眼ヒドすぎで戸籍を書き間違えたのよ。そうよ。そうに決まってるわ。
 
 「よう来たなあ」

 意気込んで町にたどり着いた私を待ち受けてた曽祖父母と、なぜか町の人たち?

 「さあ、行くぞ、日菜子」

 どこへ?
 質問する間もなく、無理やり着替えさせられ運ばれたのは、山の中腹にある神社。

 「待っていたぞ、吾妹子よ」

 そこに立っていた青年。ってか、「ワギモコ」ってナニ?

 「吾妹。つまり、吾の妻ということ。汝は吾の妻なのだ」

 はぁあぁあっ!?
 なに言ってんの、この人。顔はいいのに、中身は残念な人?

 「吾は人ではない。この野賀崎を守る神だ」

 なんかますますヤバい人ですけど???

 どうやら、幼い頃に山で迷子になったのを助けてくれたのがこの(自称)神様で。その時、将来をともにすることを約束してたとかなんとかで。だから、(勝手に)私と入籍させてたんだとか。

 「日菜子に悪い虫がつきそうだったからな」

 だったからな――って。

 「勝手に戸籍改ざんすんなっ!」

 神様だって何様だって、勝手に結婚させられてうれしいわけない! 私を元の倉橋日菜子に戻して!


 
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