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第8話 追加実験条件

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 「大変だ、ガトー」

 俺が帰るなり、顔を青くして駆け寄ってきたアグネス。
 何が? 何が大変なんだ?
 見回したところ、研究所にはなんの異変もなさそう。あるとすれば、なぜか、アグネスが頭からスッポリと毛布をかぶって、身を包んでることなんだが。――なんで毛布? 寒いのか?

 「実験について、大事な条件を忘れていた」

 「大事な条件?」

 物質を実験対象とする化学実験において、実験条件はかなり重要な案件。温度、湿度、気圧。生物を対象とする場合は、その内的状況も重要な実験条件となる。

 「そうだ。実験の条件として、私が感じてることが重要だとわかったんだ」

 ブッ。

 「かか、感じてるっ!?」

 「そうだ。私が腟内でエトーの陰茎の存在を感じて、いわゆる〝絶頂〟という状況下にないと、実験の成功確率が減るというのだ」

 どこ情報だ、それ。

 「だから、今日の実験からは、ちゃんと感じさせて、絶頂させてくれ」

 「え、えーっと。あの……〝絶頂〟の意味、わかってます?」

 セックス中、何度もイッてると思ってたんだけど?

 「知ってるぞ。絶頂。物事の上り詰めたところ。頂点。そういう意味だ」

 「いや、まあ、そうなんですけど……」

 山のテッペン。そういう意味で使われることもあるけど、この場合、どっちかというと「イクイクイク~」って意味の絶頂。セックスで感じすぎて、気持ちいいのが弾けるみたいな意味を含む。

 「ということで、私を絶頂状態にしてから、精液を注いでくれないか」

 …………。
 それって、「私をイカせて、射精しろ」ってことか?
 できるかできないかと問われれば、「できる」一択なんだけど。というか、今までもやってきたと思うんだけど。

 「では、早速始めるぞ」

 「は? もう、ですか?」

 まだ、ラオの家から帰ってきたばかり。夕飯もまだなら、日も落ちてない夕方。
 
 「うむ。早くしないと……寒い」

 寒い? まさか、風邪でもひい――

 バッ。

 「え゛っ!?」

 勢いよく毛布を脱ぎ捨てたアグネス。その下から顕れたものに、「風邪引いてるくせに実験なんて」とか、そういう意見はどっか吹き飛ぶ。

 「あの、その格好は……」

 「ララリアから借りた。これも実験条件として必要なものらしい」

 (ラ~ラ~リ~アァ~!!)

 グッと握りしめた拳に力がこもる。
 毛布の下のアグネス。
 胸を隠しただけ、少ない布面積の上衣、みぞおちから下、ヘソなんかは丸出し。下腹部からは、長い紗の帯で留めたスカートがあるけど、それも脚にまとわりつくような、膨らみのない巻きスカート。脚を広げれば、巻きを少しずらせば、秘めやかな部分が簡単に現れる仕様。胸を隠す布だって、その谷間にある紐を解けば、容易にすべてをさらけ出してくれる。
 熱帯の南皇国ならではの装い、これでベールなんか被れば完璧な南皇国衣装なんだが。
 素性のわからない用心すべき人物かもしれないのに。「何やってるんだ!」より、「ありがとう!」と感謝を捧げたくなる。
 小柄で華奢なくせに豊かに熟れた胸が強調されて。とんでもなくエロい。
 
 「お前を興奮させたほうがいい結果が得られると言われてな。なんだ、ガトーは気に入らない、か?」

 深くため息を漏らした俺に、アグネスが不安そうな顔をする。

 「白衣のほうがいいか? それとも早く脱いだほう――ンッ!」

 アグネスが言い切るよりも早く、その体を抱きしめキスをする。深く喉の奥を突くように舌を差し入れ、唾液を啜り上げる。

 「ンッ、ンンッ、ンムッ……」

 雪崩れるように転がったベッドの上。キスで押さえ込みながら、空いた手で胸元の紐を解く。タユンと揺れてこぼれた胸。紐は思っていたより長い。

 「アッ、ハッ、なっ、何をする!」

 キスから解放され、息をするのに必死だったアグネスが驚きの声を上げる。

 「絶頂のための準備ですよ」

 掴んだ彼女の両手首を、頭の上、紐で一つに結わえる。

 「ああ、そうだ。これも必要ですね」

 次いで、腰にあった紗の帯も解く。

 「な、なに、を……」

 俺の動きにアグネスが怯える。けど、そんなことお構いなしに、メガネごと、水色の目を帯で隠す。

 「俺は、こっちのほうがより興奮します」

 言ってから「変態じみた答えだな」と思う。好きな女を拘束して興奮するなんて。変態の極みじゃないか。
 だが。

 (そそられる……)

 帯を解いたことでゆるくなったスカートの包みを、そっと剥がす。
 露わになった肢体。見えなくてもすべてが晒されてることに気づいたアグネスが、キュッと太ももをこすり合わせる。それが、さらに男の情欲を掻き立てるとも知らずに。

 「ダメですよ。脚、閉じないでください」

 恥ずかしがってることはわかってる。けど、それをあえて無視するように、足首を掴んで、すべてを目の前に晒させる。

 「アッ、ヤアッ、こ、これっ……」

 見えない恐怖か。それともこの先への不安か。期待か。
 アグネスが、ピク、ピクと尖らせた乳首を震わせる。脚を開いているだけなのに。膣からはトロリと蜜が滴り落ちる。息も幾分熱っぽく荒れてきた。

 (絶頂を知らない?)

 そんなわけあるか。これまで何度もイカせてきた。何度もイカせて、何度もオスを教えてきたからこそ、体はこんな反応を示す。

 「ヒャァン……!」

 その肌のどこに触れるでもなく、顔を寄せる。吹きかける息、かすかに伝わる俺の熱。感じるたびに、アグネスが悲鳴を上げた。

 「ねえ、サイトー、もっ、許し、てぇ……!」

 何を許したらいいのか。俺は触れてもいなければ、何もしていない。勝手にアグネスが感じてるだけなのに。

 「ねえ、おっ、お願、い……アッ!」

 胸の頂きにフッと息を吹きかけると、大きくアグネスの背が反った。

 「ヒアッ……」

 チュプッと勃った乳首を吸うと、喜ぶように体が揺れる。もっと吸って。押しつけるように胸が動く。だが。

 「ヤッ……」

 乳首から離れ、代わりに太ももを高く持ち上げる。脚を開け、俺の目の前に蜜に濡れた孔を晒させる。

 「あ、や、な、なに……?」

 自分がどういう格好をして、なにを晒しているのか。不安げにアグネスが問う。

 「なんでもありませんよ。実験条件を満たしているか。確認してるだけです」

 「そ、そうなの?」

 「ええ。問題はなさそうですが」

 孔の周り、ぷっくら膨れた大陰唇を指で開く。

 「ヒアッ!」

 コポリとまた蜜が溢れ出た。赤く濡れた花びらのような、甘い香りのする孔。
 「見られてる」だけで感じているのか。動かずジッと見つめていると、またコポンと蜜が溢れてきた。

 (限界かな)

 アグネスじゃなく、俺が。
 この体。隅々まで堪能したい。

 「アアッ!」

 濡れた孔の奥、膣に指を差し込む。指は最初から二本。勝手に感じていた体は、やすやすとそれを受け入れた。

 「ンアッ、サイッ、サイトォッ……!」

 蜜が指にまとわりつき、出し入れするたびにジュブジュブと音を立てて掻き出される。膣壁が、指を歓待しキュウキュウと締め付ける。

 (これで感じてないわけないだろ)

 絶頂とまではいかなくても、この体はオスを求めて蠢き始めている。

 「アッ、アアッ、サイトッ、アッ!」

 指の代わりに舌を膣に入れる。
 口の中の唾液を啜ったように、溢れる蜜も余すことなく啜り上げる。

 (やっぱりこっちのが好きだな)

 香り袋など使わなくても。アグネス本来の匂いのほうが俺は好きだ。

 「サイトッ、なんか、ンアッ、ヘ、ヘンッ! ヘンなん、だっ!」

 喘ぎ混じりにアグネスが訴える。

 「頼む、いったん、アッ、止めて、ンヒッ、解い、てっ!」

 「どうしたんですか、博士」

 口淫を止め、代わりに指で孔とその周りを弄ぶ。

 「どこが異常なのか。教えてもらえませんか?」

 言ってる間もずっと指は蜜を溢れさせる。

 「な、なんか、背中から頭に、かっ、駆け上っ、アアッ、アッ!」

 「弾けそうなんですか?」

 「ンッ、そ、そうなんだっ! お前が指を動かす、とっ! ンアッ!」

 「頭が真っ白になる?」

 「そう、なんだっ。だ、だから……、アアッ、ヒアッ!」

 「構いません。弾けて真っ白になってください」

 「で、でもっ! アアッ、ヤメッ、アッ、ヒッ、アアァッ……!」

 指と舌。そのすべてでアグネスを犯す。キュウッと締まった膣。つま先まで強ばった脚。
 そして。

 プシュ。

 孔とは違う場所から、吹き出した透明なもの。

 (潮吹き?)
 
 驚き、アグネスの体を放す。絶頂はともかくとして、今、潮を吹いたのか? 潮を吹くぐらい感じたのか?

 「……だから、止めろと言ったのに」

 解放された体を横向きにしたアグネス。よほど恥ずかしかったのだろう。身を丸めて縮こめ恨み言を述べる。

 「すみません。調子に乗りました」

 謝るけど、悪いとは思っていない。むしろうれしい。塩を吹くまで感じてくれたなんて。

 「――解いて」

 言われるまま、シュルッと目隠しを外す。現れた、涙目になってこちらを睨むアグネスの真っ赤な顔。
 口をムッとへし折って、怒っているようなのに、とても愛しく感じる。

 「こっちも」

 次いで結ばれたままの手も差し出されるけど。

 「ダメです。これは解きません」

 代わりに、ベッドの上に腰掛けた俺の首に、その手の輪を掛ける。

 「サ、サイトー!?」

 俺の首に手を回されたことで、胸が押しつぶされ、不安顔になったアグネス。

 「博士、さっき、感じましたよね。潮を吹くぐらいに」

 「潮? 粗相したのではなくて?」

 「違いますよ。あれは〝潮吹き〟。女性が感じた、絶頂を得た時、稀に起きる生理現象なんです」

 「くわしいな、サイトー」

 「まあ、それはそれなりに。ですから、何も恥じることはありませんし、なんならちょうどいい実験条件が整ってる証でもあるんですよ」

 「そうなのか?」

 「そうなんです。ですから、博士。どうします? 実験、続けますか?」

 俺の陰茎は、痛いぐらい張り詰めて勃ち上がってる。ちょっと腰を動かすと、先走りがアグネスの腹の上にヌラヌラとこすりつけられた。

 「……つ、続けてくれ」

 茹でたように赤い顔のアグネス。小さな呟き。

 「ええ。でもその前に、これを飲んでください。ラオさんに用意してもらった薬です」

 丸薬と水を自分の口に含み、口移しですべてを飲み込ませる。

 「じゃあ、再開しましょうか。大丈夫です。条件は揃いましたから。実験は成功しますよ」

 「うん。頼む」

 口づけを交わし、その火照って力の入らない体を持ち上げる。

 「ア、ンッ、フッ……」

 ズブズブと身の内に沈んでいった陰茎。代わりにアグネスが深く息を吐き出す。

 (実験は成功……か)

 彼女をもっとよがらせたくて、腰を動かし自虐する。
 どれだけ体を重ねようと。どれだけ絶頂を味わおうと。
 実験は成功しない。子はできない。
 
 (すまない。アグネス)

 一際大きく突き上げ、彼女の奥へと欲望をぶちまける。
 
 「アッ、アアッ、ア……」

 ガクガクと震えたその体を力いっぱい抱きしめる。
 口腔に、丸薬の苦味がいつまでも消えずに残った。
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