正しいホムンクルスの作り方。

 「悪いが、セイシを分けてくれないか? 180ccほどでいい。なるべく新鮮なものを出してくれ」
 唐突に、突きつけられたフラスコ。
 は? なにを? なにを分けろと?
 「いやいやいやいや、ムリッ! ムリですよ、アグネス!」
 いくらなんでもそれはムリ。「精子を出せ」→「はい、わかりました。ちょっと出しますから待っててください」ってヤツじゃないでしょ、精子ってもんは!
 「研究所では、アグネスではなく、〝博士〟と呼べ、カトー」
 フラスコ片手に胸を反らす博士、アグネス。
 大きすぎる丸メガネに、大きすぎる胸のせいではち切れそうな白衣姿。十年前、浜に打ち上げられてた俺を助け、「サイトー」と名付けた人。……密かに、俺の好きな人。
 「ホムンクルスを作りたいのだ。だから出せ」
 いや、「出せ」って言われても。ってか俺、好きな女に、何を要求されてんだ?
 聞けば、最強の武器になる「カワイイ」を研究するため、カワイイの塊である赤子が必要らしく。ここに赤子はいないから、代替でホムンクルスを作ろうと思い立ったのだとか、なんとか。
 このトンチキ思考博士め。
 ため息と同時に、底意地悪いイタズラを思いつく。
 「博士。俺の精子を差し上げることは構いませんが、その代わり、もう少し別の方法を試してみませんか?」
 「別の方法?」
 「フラスコじゃなく、博士のお腹で醸成させるんです」
 ようはただのセックスだけど。
 「わかった。ぜひ、やってみよう。ジトー」
 ……俺の名前、サイトーじゃなかったっけ?
 こじらせ片思い助手✕一般常識欠落トンチキ女博士の、順番手順間違い恋愛物語。
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