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第11話 深夜十二時のコーヒーはほろ苦い。
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コロコロコロコロ~。
コロコロコロコロコロコロ~。
ゴンロゴロゴロゴロゴロゴロ~。
あの公園での遊び以来、世那くんのことが少しわかった気がする。
世那くんが夜、なかなか寝つかないのは、昼間の運動不足が原因だった。
あの日、タップリとボールで遊んだ世那くんは、お風呂から上がるなり、パチンとスイッチを切ったかのようにあっさり寝てくれた。
他の日も同じ。
日中、トコトン体を動かした日は、ゴハンもパクパク食べてくれるし、夜もすんなり寝てくれる。おそらく、食事はエネルギー補填行為、睡眠は一日分のエネルギーを使い切った証なんだろう。
ってことで、「公園で思いっきり体を動かす」というのが、お世話の項目に追加された。
世那くんお気に入りの青いボール。私が買ってあげたやつだけど、それを持って、一時間ぐらい外遊びをするのが日課。
雨の日は、部屋のなかで「イモムシゴーロゴロ」。ボールの代わりに世那くんと私が転がります。ゴロゴロゴロ、ドシーン。私と体がぶつかることがお気に入りみたいです、世那くん。和室の端からゴロンゴロンと転がってくる。――目、回んない?
部屋であんまりはしゃぐと、階下の人から苦情くるかなって心配したけど、「防音、しっかりしてるから大丈夫」って一条くんに言われた。言われて気づいたけど、この部屋、窓を閉めてると、他の音が何も聞こえてこない。それほど静か。
だから、世那くんがあれだけギャン泣きしても、どこからも苦情をもらわなかったのかと、一人納得。そして、安心。よくある「マンショントラブル」は気にしなくてよかったわけね。
タップリ遊んでシッカリ食べると、世那くんが夜泣きすることはない。寝るのもストンと眠りに落ちてくれるので、こっちにも余裕ができる。
(よっしゃ、寝た)
世那くんの安定した寝息を確認して、身を起こす。
座ってしばらく状況監視。世那くん、――変化なし。
上掛けを直して、布団から離れる。世那くん、――変化なし。
音を立てずに和室のふすまを開ける。世那くん、――変化なし。
「おやすみ、世那くん」と小さく声をかけ、ふすまを閉める。世那くん、――変化なし。
和室、脱出成功!! ヤタッ!!
思わず両手ガッツポーズ。
もしかしたら夜泣きしちゃうかもしれないし、和室に舞い戻らなきゃいけないかもしれないけど、とりあえずの自由時間は確保!!
これなら、私の部屋で一人寝できる日も近い?
ここで居候をするにあたって一条くんに用意してもらった部屋けど、今のところ、荷物置き兼更衣室としてしか稼働していない。ベッドもあるけど、日中の世那くん用トランポリン状態。
ま、離れて寝て、「世那くん大丈夫かな~」なんて気にするぐらいなら、一緒に寝たほうが心のためにもいいんだけどね。
ただ。ただね。
コキコキと首を鳴らす。肩を押さえつつ、腕をグリングリン回す。
背中も肩も首もバッキバキなんですわ。枕ナシで寝るから。
世那くんに添い寝する以上、枕は隣に置けない。世那くんが寝返りを打って、枕に顔を埋めちゃったりしたら。生まれたばかりの新生児じゃないから大丈夫かもしれないけど、万が一ってこともある。窒息を避けるためにも、枕、それも大人用のものは使わない。で、肩こり。
仕方ないっちゃあ、仕方ない。
「あれ、高階?」
キッチンの手元灯しか点いてなかった薄暗い空間に、光の筋が伸びる。廊下に通じるドアが開けられたのだ。
「どうしたの?」
「いや、目覚ましに何か飲もうかなって。世那は、――寝た?」
入り口にあるスイッチに手をかけた一条くんがその動きを止める。
「うん。よく寝てるよ」
「そっか」
和室とリビングの間、ふすまは閉めているから、灯を点けても世那くんは起きないかもしれない。けど、遠慮した一条くんはそのまま手をおろし、リビングを暗いままにした。声もかなりトーンダウンさせてる。
「コーヒーでも淹れようっか? ブラック? それともミルクとかいる?」
「じゃあ、ブラックで」
「オーケー」
リビングの代わり、和室から離れた位置にあるダイニングのペンダントライトだけ灯す。ここなら、寝てる世那くんに影響はないだろう。
静かに、音もなく椅子を引き、腰掛けた一条くん。
その彼の前にコトリとマグカップを置く。
「ありがとう……って、高階も飲むの?」
トレーを持ったまま向かい側の席に着いた私を、不思議そうに一条くんが眺めた。
「うん。久しぶりに飲みたいなって。ダメだった?」
一緒にお茶するの、不満?
「いや、ダメってわけじゃなくて。眠れなくならないか?」
「大丈夫だよ。私のは砂糖ミルクタップリだし」
「コーヒー」というより、もはや「コーヒー風味の牛乳」。砂糖もだけど、ミルクかなり多め。カフェオレなんていう、カッコいいものでもなく、ただのコーヒー牛乳。(牛乳コーヒー?)
「それに、疲れてたら何飲んだって眠れるよ」
所詮は、粉を溶かしただけのインスタントコーヒーだし。カフェインがどうのって気にするほどじゃない。
「疲れてるの?」
「うーん、まあね」
まったく疲れてないと言えば嘘になる。
「最初はさ、世那くんに振り回されてヘロヘロバタンキュ~だったけど、今はそうじゃないんだよ」
ん~っと軽く手を組み、腕を伸ばしてストレッチ。
「それにね。世那くんの寝顔とか見てると、疲れとかそういうのがどうでもよくなっちゃって、ホニャ~ンって気分になるんだよね、不思議と」
おそらくだけど、世の中のお母さんお父さんは、そうやって我が子の寝顔に癒やされながら、日々を押しこなしているんだろう。どれだけ疲れても、しんどくても、この寝顔を見てればすべてがリセットされる。明日も頑張るだけのエネルギーを得ることが出来る。
「自分なんかに赤ちゃんの世話ができるのかって不安だったから、今は少しホッとしてる」
なんとなくだけど、自分、やれてんじゃんって褒めたくなる。なんたって、甥っ子のお世話では、あまりにポンコツすぎて戦力外通告受けてた身だし。
始めて会った時、すごく懐いてくれた世那くん。ならお世話なんて簡単だろうっていうこっちの目論見はあっさりギャン泣きで打ち砕かれたけど、少しずつ状況は改善してきている。まあ、昼寝の後のグズグズは治んないけど。
この間なんて、私がいないだけで大泣きしてたしね。あれは、一条くんは大変だったかもしれないけど、私にとって、ものすごく自信につながる出来事だった。私、そこまで必要とされてるんだって。
世那くんが私を見て笑ってくれると、それだけでうれしい。お節介の天元突破で提案した「居候シッター」だけど、どうにかうまくやれてるみたいで、「言ってよかった」って思える。
「高階はよく頑張ってくれてるよ。本当に」
一条くんが言った。
「世那があそこまで懐くなんて、今まで誰にもなかったことだし。それに、高階が面倒を見てくれてるおかげで、僕は仕事に打ち込むことができてる。本当に助かってるよ」
「いやいや、そんな……」
なんか照れるな。面と向かって言われると。
「けど……」
一条くんが言いよどむ。柔らかく微笑んだ顔から笑みが抜ける。
「――就活、進んでる?」
「え? いや、まだ全然……」
今のところ、就活の「し」の字も進んでない。ゼロ進捗。今だって、スマホをいじる気はあったけど、そういうサイトを見るんじゃなくて、新しい漫画でも買うか、それか育児系の情報を検索するつもりだった。
「世那のことは本当に助かってるけど、高階は自分のことにも目を向けて。早くここを出て行けとかそう言うんじゃなくて、腰をすえてやってもらってかまわないけど、でも……」
一条くんが言葉を切り、ふいっと顔をそむけた。軽く後頭部を掻き、顔をしかめる。
「高階の人生は高階のものだから。いい就職先が見つかったら遠慮なく言って。世那のこととか、気にしなくていいから」
「え、う、うん……」
どう答えたらいいかわかんなくなって、目の前のカップを手に、コーヒーをすする。甘いはずのコーヒーは、妙に苦く感じられた。
「じゃあ、僕は部屋に戻るよ。コーヒー、ごちそうさま」
カタンと、一条くんが椅子から立ち上がった。いつも通り、少しだけ笑った一条くんの姿。
「ねえ。この後も仕事、するの?」
「うん。もう少しだけね」
そのための眠気覚まし。そのためのブラックコーヒー。
「無理しないで」
「ありがとう」
来た時と同じように、音を立てないように、すべるようにドアから出ていった一条くん。
時計を見ると、針はもうすぐ12時を指そうとしていた。
(いったい何時まで起きてるつもりなんだろ)
家にまで仕事を持ち帰るのは、世那くんのことを心配してのことだろう。早く帰ってきて育児をすることで、私の負担も減らそうとしてくれてる。その上、私の人生まで気にしてくれてる。
(一条くんの休む時間ってあるんだろうか)
あっちで、おばさんに頼って子育てしてる時は、新幹線で毎日往復するなんてとんでもないことをやってた。私に助けを求めるまで、ずっと無茶してた一条くん。
それが育児、子を持つ親になった責任なんだって言えばそうなのかもしれないけど。
――世那のため、だからね。
あの日、夜の公園で聞いたセリフ。あの時見た、一条くんの世那くんを見る優しい眼差し。
すべては世那くんのために。
(一条くん……)
まったく。
こんないい人すぎる旦那を置いて、どこ行っちゃったのよ、嫁!!
世那くんもあんなにかわいいんだし、置いて出ていくような理由がどこにあるっていうのよ!!
育児は女がするものなんて言う気はないけどさ、それでもアンタにも子供を産んだ責任ってもんがあるんじゃないの? 父親だけに責任を背負わせる気?
戻ってくることがあったら、顔を会わせる機会があったら、絶対、一言二言、いや十言、百言ぐらい言ってやんなきゃ気がすまないわ。
見たこともない一条くんの嫁に、ムカつきポイントがアップした。
コロコロコロコロコロコロ~。
ゴンロゴロゴロゴロゴロゴロ~。
あの公園での遊び以来、世那くんのことが少しわかった気がする。
世那くんが夜、なかなか寝つかないのは、昼間の運動不足が原因だった。
あの日、タップリとボールで遊んだ世那くんは、お風呂から上がるなり、パチンとスイッチを切ったかのようにあっさり寝てくれた。
他の日も同じ。
日中、トコトン体を動かした日は、ゴハンもパクパク食べてくれるし、夜もすんなり寝てくれる。おそらく、食事はエネルギー補填行為、睡眠は一日分のエネルギーを使い切った証なんだろう。
ってことで、「公園で思いっきり体を動かす」というのが、お世話の項目に追加された。
世那くんお気に入りの青いボール。私が買ってあげたやつだけど、それを持って、一時間ぐらい外遊びをするのが日課。
雨の日は、部屋のなかで「イモムシゴーロゴロ」。ボールの代わりに世那くんと私が転がります。ゴロゴロゴロ、ドシーン。私と体がぶつかることがお気に入りみたいです、世那くん。和室の端からゴロンゴロンと転がってくる。――目、回んない?
部屋であんまりはしゃぐと、階下の人から苦情くるかなって心配したけど、「防音、しっかりしてるから大丈夫」って一条くんに言われた。言われて気づいたけど、この部屋、窓を閉めてると、他の音が何も聞こえてこない。それほど静か。
だから、世那くんがあれだけギャン泣きしても、どこからも苦情をもらわなかったのかと、一人納得。そして、安心。よくある「マンショントラブル」は気にしなくてよかったわけね。
タップリ遊んでシッカリ食べると、世那くんが夜泣きすることはない。寝るのもストンと眠りに落ちてくれるので、こっちにも余裕ができる。
(よっしゃ、寝た)
世那くんの安定した寝息を確認して、身を起こす。
座ってしばらく状況監視。世那くん、――変化なし。
上掛けを直して、布団から離れる。世那くん、――変化なし。
音を立てずに和室のふすまを開ける。世那くん、――変化なし。
「おやすみ、世那くん」と小さく声をかけ、ふすまを閉める。世那くん、――変化なし。
和室、脱出成功!! ヤタッ!!
思わず両手ガッツポーズ。
もしかしたら夜泣きしちゃうかもしれないし、和室に舞い戻らなきゃいけないかもしれないけど、とりあえずの自由時間は確保!!
これなら、私の部屋で一人寝できる日も近い?
ここで居候をするにあたって一条くんに用意してもらった部屋けど、今のところ、荷物置き兼更衣室としてしか稼働していない。ベッドもあるけど、日中の世那くん用トランポリン状態。
ま、離れて寝て、「世那くん大丈夫かな~」なんて気にするぐらいなら、一緒に寝たほうが心のためにもいいんだけどね。
ただ。ただね。
コキコキと首を鳴らす。肩を押さえつつ、腕をグリングリン回す。
背中も肩も首もバッキバキなんですわ。枕ナシで寝るから。
世那くんに添い寝する以上、枕は隣に置けない。世那くんが寝返りを打って、枕に顔を埋めちゃったりしたら。生まれたばかりの新生児じゃないから大丈夫かもしれないけど、万が一ってこともある。窒息を避けるためにも、枕、それも大人用のものは使わない。で、肩こり。
仕方ないっちゃあ、仕方ない。
「あれ、高階?」
キッチンの手元灯しか点いてなかった薄暗い空間に、光の筋が伸びる。廊下に通じるドアが開けられたのだ。
「どうしたの?」
「いや、目覚ましに何か飲もうかなって。世那は、――寝た?」
入り口にあるスイッチに手をかけた一条くんがその動きを止める。
「うん。よく寝てるよ」
「そっか」
和室とリビングの間、ふすまは閉めているから、灯を点けても世那くんは起きないかもしれない。けど、遠慮した一条くんはそのまま手をおろし、リビングを暗いままにした。声もかなりトーンダウンさせてる。
「コーヒーでも淹れようっか? ブラック? それともミルクとかいる?」
「じゃあ、ブラックで」
「オーケー」
リビングの代わり、和室から離れた位置にあるダイニングのペンダントライトだけ灯す。ここなら、寝てる世那くんに影響はないだろう。
静かに、音もなく椅子を引き、腰掛けた一条くん。
その彼の前にコトリとマグカップを置く。
「ありがとう……って、高階も飲むの?」
トレーを持ったまま向かい側の席に着いた私を、不思議そうに一条くんが眺めた。
「うん。久しぶりに飲みたいなって。ダメだった?」
一緒にお茶するの、不満?
「いや、ダメってわけじゃなくて。眠れなくならないか?」
「大丈夫だよ。私のは砂糖ミルクタップリだし」
「コーヒー」というより、もはや「コーヒー風味の牛乳」。砂糖もだけど、ミルクかなり多め。カフェオレなんていう、カッコいいものでもなく、ただのコーヒー牛乳。(牛乳コーヒー?)
「それに、疲れてたら何飲んだって眠れるよ」
所詮は、粉を溶かしただけのインスタントコーヒーだし。カフェインがどうのって気にするほどじゃない。
「疲れてるの?」
「うーん、まあね」
まったく疲れてないと言えば嘘になる。
「最初はさ、世那くんに振り回されてヘロヘロバタンキュ~だったけど、今はそうじゃないんだよ」
ん~っと軽く手を組み、腕を伸ばしてストレッチ。
「それにね。世那くんの寝顔とか見てると、疲れとかそういうのがどうでもよくなっちゃって、ホニャ~ンって気分になるんだよね、不思議と」
おそらくだけど、世の中のお母さんお父さんは、そうやって我が子の寝顔に癒やされながら、日々を押しこなしているんだろう。どれだけ疲れても、しんどくても、この寝顔を見てればすべてがリセットされる。明日も頑張るだけのエネルギーを得ることが出来る。
「自分なんかに赤ちゃんの世話ができるのかって不安だったから、今は少しホッとしてる」
なんとなくだけど、自分、やれてんじゃんって褒めたくなる。なんたって、甥っ子のお世話では、あまりにポンコツすぎて戦力外通告受けてた身だし。
始めて会った時、すごく懐いてくれた世那くん。ならお世話なんて簡単だろうっていうこっちの目論見はあっさりギャン泣きで打ち砕かれたけど、少しずつ状況は改善してきている。まあ、昼寝の後のグズグズは治んないけど。
この間なんて、私がいないだけで大泣きしてたしね。あれは、一条くんは大変だったかもしれないけど、私にとって、ものすごく自信につながる出来事だった。私、そこまで必要とされてるんだって。
世那くんが私を見て笑ってくれると、それだけでうれしい。お節介の天元突破で提案した「居候シッター」だけど、どうにかうまくやれてるみたいで、「言ってよかった」って思える。
「高階はよく頑張ってくれてるよ。本当に」
一条くんが言った。
「世那があそこまで懐くなんて、今まで誰にもなかったことだし。それに、高階が面倒を見てくれてるおかげで、僕は仕事に打ち込むことができてる。本当に助かってるよ」
「いやいや、そんな……」
なんか照れるな。面と向かって言われると。
「けど……」
一条くんが言いよどむ。柔らかく微笑んだ顔から笑みが抜ける。
「――就活、進んでる?」
「え? いや、まだ全然……」
今のところ、就活の「し」の字も進んでない。ゼロ進捗。今だって、スマホをいじる気はあったけど、そういうサイトを見るんじゃなくて、新しい漫画でも買うか、それか育児系の情報を検索するつもりだった。
「世那のことは本当に助かってるけど、高階は自分のことにも目を向けて。早くここを出て行けとかそう言うんじゃなくて、腰をすえてやってもらってかまわないけど、でも……」
一条くんが言葉を切り、ふいっと顔をそむけた。軽く後頭部を掻き、顔をしかめる。
「高階の人生は高階のものだから。いい就職先が見つかったら遠慮なく言って。世那のこととか、気にしなくていいから」
「え、う、うん……」
どう答えたらいいかわかんなくなって、目の前のカップを手に、コーヒーをすする。甘いはずのコーヒーは、妙に苦く感じられた。
「じゃあ、僕は部屋に戻るよ。コーヒー、ごちそうさま」
カタンと、一条くんが椅子から立ち上がった。いつも通り、少しだけ笑った一条くんの姿。
「ねえ。この後も仕事、するの?」
「うん。もう少しだけね」
そのための眠気覚まし。そのためのブラックコーヒー。
「無理しないで」
「ありがとう」
来た時と同じように、音を立てないように、すべるようにドアから出ていった一条くん。
時計を見ると、針はもうすぐ12時を指そうとしていた。
(いったい何時まで起きてるつもりなんだろ)
家にまで仕事を持ち帰るのは、世那くんのことを心配してのことだろう。早く帰ってきて育児をすることで、私の負担も減らそうとしてくれてる。その上、私の人生まで気にしてくれてる。
(一条くんの休む時間ってあるんだろうか)
あっちで、おばさんに頼って子育てしてる時は、新幹線で毎日往復するなんてとんでもないことをやってた。私に助けを求めるまで、ずっと無茶してた一条くん。
それが育児、子を持つ親になった責任なんだって言えばそうなのかもしれないけど。
――世那のため、だからね。
あの日、夜の公園で聞いたセリフ。あの時見た、一条くんの世那くんを見る優しい眼差し。
すべては世那くんのために。
(一条くん……)
まったく。
こんないい人すぎる旦那を置いて、どこ行っちゃったのよ、嫁!!
世那くんもあんなにかわいいんだし、置いて出ていくような理由がどこにあるっていうのよ!!
育児は女がするものなんて言う気はないけどさ、それでもアンタにも子供を産んだ責任ってもんがあるんじゃないの? 父親だけに責任を背負わせる気?
戻ってくることがあったら、顔を会わせる機会があったら、絶対、一言二言、いや十言、百言ぐらい言ってやんなきゃ気がすまないわ。
見たこともない一条くんの嫁に、ムカつきポイントがアップした。
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