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第6話 あこがれキラキラ生活。
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ということで、レッツ育児☆ 一条くんのマンションで始まる、ベビーシッター東京生活!!
朝は6時30分に起床。
一日の始まりは清々しく、気持ちよく目覚めて……というわけじゃなく、早起きさんな世那くんにペチペチ頬を叩かれての起床。
ならばせめてものと、キッチンに向かうものの――。
「おはよう、高階。世那」
先客、一条くんのエプロン姿がそこに。
世那くんもだけど、一条くんも早起き体質らしい。
ゴハンができるまでの間に、世那くんを着替えさせ、ついでに自分も替える。
〈朝食〉
・パンケーキ。
市販のホットケーキミックスを利用。規定量より多めの牛乳を使う。
・イチゴとバナナ。
世那くんが手づかみしやすいように小さめにカット。
・フォローアップミルク。
本当は牛乳を飲んだほうがいいんだけど、世那くん牛乳が好きじゃないみたいなので代打。専用のコップで飲むのがお気に入り。
後片付けは私が請け負う。と言っても、食洗機任せだけど。
世那くんの歯磨きまで済ませてから、一条くん、出勤。
世那くんと自分の分だけ洗濯して、ベランダに干す。一条くんのものは、すでに彼が洗濯乾燥収納まで済ませてるので、やることナシ。
世那くんと一緒に、軽く部屋を片付けて、外にお出かけ。帰ってきたら掃除が終わってるように、掃除ロボットスタンバイ。
お出かけ先は特に決めてない。ただ、マンションの敷地内にある小さな広場は使わない。世那くんや一条くんとの関係を訊かれると面倒なので。ついでに夕飯の買い物まですませる。
一時間ほどお出かけしたら、世那くんは家の中で軽く一人遊び。その間に昼食の準備。
〈昼食〉
・シイタケとほうれん草、ちりめんじゃこの卵とじ丼。
出汁と醤油で作った丼。柔らかめのご飯に載せるのがコツ。
シイタケとほうれん草は細かめに切る。ちりめんじゃこは塩分を抜くために湯通しする。
・茹でブロッコリー。
手づかみ対応品。
・ヨーグルト。
これは普通に市販のもの。
ご飯を食べたら、午後の昼寝。グッと長く寝てくれるので、その間に洗濯物をたたんで、夕食の準備を始める。お風呂の支度もここ。
〈夕食〉
・肉じゃが。
お肉は豚肉ではなく、鶏ミンチ。大人用の肉じゃがから一部素材を流用して作る。人参、玉ねぎなど、野菜は多めに。
・豆腐と大根の味噌風味スープ。
これまた大人のメニューから流用。
・鮭のムニエル。
小さめに、手づかみしやすいサイズで作る。鮭の切身は、骨抜きタイプを使う。
・まんまるおにぎり。
一口サイズに丸めたおにぎり。手づかみバンザイ。
・麦茶。
夕食は、帰宅した一条くんと一緒に。
食べたら、世那くんと一条くんはお風呂。世那くんと一条くんの親子スキンシップタイム。
寝かしつけは、私の仕事。夜の8時半ごろ。
絵本を読むのが、世那くんの就眠儀式。あと、布団の脇にはぬいぐるみ。
3LDKのマンション、リビングから続く和室が世那くんの部屋なので、そこに敷いた布団で一緒に横になる。世那くんが寝たら私も自由時間――といきたいところだけど、残念ながら、世那くんの夜泣きもあるので、そのままそこで一緒に就寝することが多い。
一条くんは、自分の部屋で仕事をしたりした後に就寝している……みたい。
ってね。
保育園の先生みたいに、今日は何をしました。どんなものを食べましたって、一条くんに報告してるんだけど。
けど。
実際は――。
ウギャアアァッ!! ウギャアアアアァン!!
朝、一条くんが玄関ドアを出た途端に始まるギャン泣き。
背中を反らして、腕を突っ張って。私の抱っこを、全力拒否。
その声に、一条くんが慌ててすっ飛んでくるんじゃないかってぐらい。これ本当に、あの世那くんなの?って聞きたくなるぐらいの大暴れ。私に懐いてくれてたんじゃないの?
世那くんの体重約11キロ。
つまり、世那くん≒米袋。
米袋、米袋が大いに暴れております。私の腕のなかで、手足の生えた米袋が大暴れしております。
こっちも落っことさないように、必死で格闘。足で蹴っ飛ばされようが、グーパンチで顔を殴られようが、髪の毛引っつかまれようが、鼻水だってなんだって、とにかく世那くんの安全確保!! 一条くんの出勤を全力応援。
ああ、疲れる。
その後は、世那くんも泣きつかれたのか、多少は大人しくなってくれるんだけど。
――掃除、片付けなんてさせてくれない。
掃除ロボットを動かすためにも片付けたいのに、片付けた矢先に散らかし続ける世那くん。ああ、「賽の河原の石積み」ってこういうのを言うんだろうな。
洗濯だって、目を離すことできないから、洗濯から乾燥まで全自動で済ませる。乾燥が終わっても取り出してたたむ余裕なんてないから、そのまま放置。で、なんとか、お出かけ兼買い物へ。
ってこれがまた大変なのよ。
あっちへふらり、こっちへふらり。
ベビーカーに乗ってくれるとか、大人しく抱っこされてくれたらもう少しマシなんだけど。外の世界に興味津々の世那くんは、全力乗車拒否。
世那くんの興味はどこにでも広がってく。
側溝の網の蓋の上を何度も往復して踏み鳴らす。街路樹脇にそよぐ雑草を観察、からアリンコ後追いスタート。
愛らしい、微笑ましい瞬間じゃないのよ!!
それがどっか広い野っぱらならいいけどさ。ここは都会、東京の歩道なんだってば!!
車道に飛び出さないか、自転車とぶつからないか、いつもヒヤヒヤ。乗り物好きな彼は車を追いかけてくこともあるから、一瞬たりとも目が離せない。
その上。
ドタッ。
「フェッ……」
歩行者レベル1程度の世那くん。
足元不注意すぎて、バランスを取るのが下手くそすぎてよく転ぶ。膝にはケガ防止のサポーターつけてるし、尻もちついても、オムツがやわらかクッションの役目をはたしてるからそこまで痛くはないと思うんだけど。
「はいはい、ヨシヨシ。痛かったね~」
泣き始めた世那くんを、ヨッコラショっと抱き上げてあやす。
これが買い物に行く途中ならいいんだけどねえ。帰り、荷物満載の時にされると……。荷物+世那くんで、私の腕力は著しく低下。HPギリギリで町の宿屋に帰ってきた勇者よろしく、ヨロヨロとマンションに帰還。
一時間ほどかけて散歩と買い物という任務をすませたら、次は昼食の準備。
いっぱい歩いて疲れるだろう世那くん。ちょっとでも寝てくれたらいいのに……って、世那くん、寝ない!! ネットなんかの情報だと、午前に一回、午後に一回昼寝するのがこの時期の赤ちゃんのライフスタイルだってあるのに。このへんは子供の個人差なのかもしれないけど、世那くん、むしろ元気爆発!! 寝そうにありません、軍曹殿!!(←誰?)
仕方ないので、テレビに世那くんの面倒をみてもらう。無駄に垂れ流す、世那くんお気に入りのDVD。『乗り物大好きシリーズ12 走れ!! みんなの特急~関西編~』。青い兜のようなお顔の「ラピート」、真っ赤に燃える鳥のような「ひのとり」。関西には個性的な電車が多い(らしい)。
テレビやスマホに赤ちゃんの面倒をみさせるのに、批判的な人っているけど、そうでもしなくちゃ、家事をやる時間もひねり出せないのよ!!
そのDVD、約30分の上映の間に、昼食準備。なるべく細かめにしなきゃいけない野菜は、「ブンブンチョッパー」でみじん切り。疲れと、急ぎと、焦りのブン、ブン、ブン!! 材料入れて数回引っ張るだけで、「奥様、御覧ください。みごとなみじん切りです。ほら」「まあ」状態。一人、テレビショッピング展開。それを、離乳食用のだしの素を使って煮込んで、玉子丼の出来上がり……なんだけど。
「わーっ!! 世那くんっ!!」
ワシッと掴まれた卵(と一部のご飯)。世那くんの手のなかで「ネチッ!!」って音に変化。そして。
ベショッ。
床に叩きつけられた。
ここで「こぉら、世那くん!!」って叱っても、泣かれるだけだし。軽く「ダメだよ~」って言うにとどまる。泣いちゃうと、まったく食べてくれなくなるもん。
一歳四ヶ月ってのは、手づかみモグモグ期だってわかってる。だから、対手づかみ用のブロッコリーも用意してあるんだけど。
ブンッ!!
空を切り、唸るブロッコリー。放物線を描いて壁に激突。白い壁に緑の潰れかけオブジェ完成……じゃないって。あーあ。掃除確定じゃん。床も壁も世那くんの手も、全部ベショベショ。
それでもまあ、なんとか食べさせ終えると、今度こそ昼寝……ってこれがまた、なかなか寝てくれないのよ。カーテン閉めて部屋を暗くして、世那くんのお気に入り絵本を読んでって、入眠儀式みたいなのをするんだけど。
「ア、ア、ウ~ア!!」
親分。人ってもんは、ゴハンを食べたら眠くなるって体にインプットされてる生き物なんじゃないんですかねえ。血糖値が変化するからとか、生体リズムがそうなってるからとか、とにかく大人でも眠くなるもんなんですがねえ。それがどうして元気満々になるんっすかねえ。食べてないのに、添い寝してる私がこれだけ眠くなってるってのに。
読み聞かせるはずの絵本は、世那くんの手によって、ガツッ、ワシッと早送りページめくり。ホットケーキを作るくまの本。材料集めたところで、次の瞬間完成しちゃってる。――三分クッキングもビックリスピード展開。
それでもまあ、なんとか少しは寝てくれるから、その間に、一緒に寝たい体を無理やり起こして、猛スピードでゴハンをかきこむ。
ゆっくり噛んで食え? バランスよく食え?
知るかそんなもん。ゴハンは簡単レトルトカレーだよ。カレーは液体。ザザッと流し込む。
それから、食洗機に入れっぱなしになってた、朝の食器を片付けて、昼の分を投入。洗面所、乾燥をかけたままになってた洗濯物を取り出して、たたむ。うーん、家電って素晴らしい。掃除ロボットと合わせて、頼れる私の三銃士。
世那くんのお昼寝タイムは、私の自由時間!!なんだけど。ここで静かに動かないと――。
フェッ……、フェェェンッ。
ってことになる。
世那くん、音に敏感ですぐに起きちゃうんだよね。昼寝中の和室の隣、リビングで雑誌のページ一つめくるだけで泣いちゃうときもある。
だからなるべく、抜き足差し足忍び足。日中なのにカーテンを締め切った薄暗い空間でうごめく私はニンジャ。闇に隠れて生きる――ってそれは妖怪人間か。
ジックリ寝て、上手く昼寝から起きた日はいいんだけど、中途半端に起きた日は……。
ウギャアアァッ!! ウギャアアアアァン!!
怪獣!! 怪獣が現れます!!
ダタタン ダタタン ダタタタタタタン ダタタン ダタタン ダタタタタタタン。
怪獣が東京湾から――もとい、和室からハイハイで現れます。ヨダレ、涙でベショベショの顔で。
こうなったら仕方なく抱っこ。洗濯物をたたむのもストップ。夕飯の支度もストップ。泣き止むまで全部の作業は中止。再開の目処は立たず。
朝の大暴れとはまた違う、泣きぐずり。いつまでもグズグズと泣き続け、抱っこした私の服をつかんで離さない。積み木や電車のオモチャで誘導しても全くダメ。DVDを再開させても知らんぷり。私の抱っこしか勝たん状態。こりゃ、おばさんが腰を痛めるのも納得の展開。
日が落ちて、一条くんが帰ってくるまでそのベッタリ、グズグズは続く。
仕事で疲れてるだろう一条くんには申し訳ないけど、お風呂だけでもお世話をしてもらえるのは、ホント助かる。一条くんがいると、世那くんも大人しくゴハンを食べてくれるし、だっこをせがんだりしないんだよね。
ただ、寝かしつけだけは私じゃないと嫌みたいで、一条くんが一緒に横になっても寝ないんだよね。パパがいて、興奮しちゃうから……なのかな?
世那くんが寝ると同時に、こちらのライフゲージもほぼゼロに。立ち上がる気力も、スマホを触る気力もない。
世那くんの夜泣きに備えて添い寝……ではなく、自分の部屋に戻るだけの体力もないから、ここで「返事がない。しかばねのようだ」になるしかない。
そういや、横になって5分以内に意識を失うのは、「眠る」じゃなくて「気絶」なんだって聞いたことがあるけど、今の私って、まさしくその通り、気絶よね。パタッて意識なくなるもん。
世の中のお母さんたちは、毎日これをくり返して子育てしてるのかなあ。
子育てなんて楽勝っしょ。世那くん、私に懐いてくれてるし――な~んて思ってた以前の私を殴ってやりたい。これのどこが楽勝なのよって。
自分の時間なんてどこにもない。二十四時間、いつでもフル稼働。
世の中のお母さん。ホント、ご苦労さまです。
朝は6時30分に起床。
一日の始まりは清々しく、気持ちよく目覚めて……というわけじゃなく、早起きさんな世那くんにペチペチ頬を叩かれての起床。
ならばせめてものと、キッチンに向かうものの――。
「おはよう、高階。世那」
先客、一条くんのエプロン姿がそこに。
世那くんもだけど、一条くんも早起き体質らしい。
ゴハンができるまでの間に、世那くんを着替えさせ、ついでに自分も替える。
〈朝食〉
・パンケーキ。
市販のホットケーキミックスを利用。規定量より多めの牛乳を使う。
・イチゴとバナナ。
世那くんが手づかみしやすいように小さめにカット。
・フォローアップミルク。
本当は牛乳を飲んだほうがいいんだけど、世那くん牛乳が好きじゃないみたいなので代打。専用のコップで飲むのがお気に入り。
後片付けは私が請け負う。と言っても、食洗機任せだけど。
世那くんの歯磨きまで済ませてから、一条くん、出勤。
世那くんと自分の分だけ洗濯して、ベランダに干す。一条くんのものは、すでに彼が洗濯乾燥収納まで済ませてるので、やることナシ。
世那くんと一緒に、軽く部屋を片付けて、外にお出かけ。帰ってきたら掃除が終わってるように、掃除ロボットスタンバイ。
お出かけ先は特に決めてない。ただ、マンションの敷地内にある小さな広場は使わない。世那くんや一条くんとの関係を訊かれると面倒なので。ついでに夕飯の買い物まですませる。
一時間ほどお出かけしたら、世那くんは家の中で軽く一人遊び。その間に昼食の準備。
〈昼食〉
・シイタケとほうれん草、ちりめんじゃこの卵とじ丼。
出汁と醤油で作った丼。柔らかめのご飯に載せるのがコツ。
シイタケとほうれん草は細かめに切る。ちりめんじゃこは塩分を抜くために湯通しする。
・茹でブロッコリー。
手づかみ対応品。
・ヨーグルト。
これは普通に市販のもの。
ご飯を食べたら、午後の昼寝。グッと長く寝てくれるので、その間に洗濯物をたたんで、夕食の準備を始める。お風呂の支度もここ。
〈夕食〉
・肉じゃが。
お肉は豚肉ではなく、鶏ミンチ。大人用の肉じゃがから一部素材を流用して作る。人参、玉ねぎなど、野菜は多めに。
・豆腐と大根の味噌風味スープ。
これまた大人のメニューから流用。
・鮭のムニエル。
小さめに、手づかみしやすいサイズで作る。鮭の切身は、骨抜きタイプを使う。
・まんまるおにぎり。
一口サイズに丸めたおにぎり。手づかみバンザイ。
・麦茶。
夕食は、帰宅した一条くんと一緒に。
食べたら、世那くんと一条くんはお風呂。世那くんと一条くんの親子スキンシップタイム。
寝かしつけは、私の仕事。夜の8時半ごろ。
絵本を読むのが、世那くんの就眠儀式。あと、布団の脇にはぬいぐるみ。
3LDKのマンション、リビングから続く和室が世那くんの部屋なので、そこに敷いた布団で一緒に横になる。世那くんが寝たら私も自由時間――といきたいところだけど、残念ながら、世那くんの夜泣きもあるので、そのままそこで一緒に就寝することが多い。
一条くんは、自分の部屋で仕事をしたりした後に就寝している……みたい。
ってね。
保育園の先生みたいに、今日は何をしました。どんなものを食べましたって、一条くんに報告してるんだけど。
けど。
実際は――。
ウギャアアァッ!! ウギャアアアアァン!!
朝、一条くんが玄関ドアを出た途端に始まるギャン泣き。
背中を反らして、腕を突っ張って。私の抱っこを、全力拒否。
その声に、一条くんが慌ててすっ飛んでくるんじゃないかってぐらい。これ本当に、あの世那くんなの?って聞きたくなるぐらいの大暴れ。私に懐いてくれてたんじゃないの?
世那くんの体重約11キロ。
つまり、世那くん≒米袋。
米袋、米袋が大いに暴れております。私の腕のなかで、手足の生えた米袋が大暴れしております。
こっちも落っことさないように、必死で格闘。足で蹴っ飛ばされようが、グーパンチで顔を殴られようが、髪の毛引っつかまれようが、鼻水だってなんだって、とにかく世那くんの安全確保!! 一条くんの出勤を全力応援。
ああ、疲れる。
その後は、世那くんも泣きつかれたのか、多少は大人しくなってくれるんだけど。
――掃除、片付けなんてさせてくれない。
掃除ロボットを動かすためにも片付けたいのに、片付けた矢先に散らかし続ける世那くん。ああ、「賽の河原の石積み」ってこういうのを言うんだろうな。
洗濯だって、目を離すことできないから、洗濯から乾燥まで全自動で済ませる。乾燥が終わっても取り出してたたむ余裕なんてないから、そのまま放置。で、なんとか、お出かけ兼買い物へ。
ってこれがまた大変なのよ。
あっちへふらり、こっちへふらり。
ベビーカーに乗ってくれるとか、大人しく抱っこされてくれたらもう少しマシなんだけど。外の世界に興味津々の世那くんは、全力乗車拒否。
世那くんの興味はどこにでも広がってく。
側溝の網の蓋の上を何度も往復して踏み鳴らす。街路樹脇にそよぐ雑草を観察、からアリンコ後追いスタート。
愛らしい、微笑ましい瞬間じゃないのよ!!
それがどっか広い野っぱらならいいけどさ。ここは都会、東京の歩道なんだってば!!
車道に飛び出さないか、自転車とぶつからないか、いつもヒヤヒヤ。乗り物好きな彼は車を追いかけてくこともあるから、一瞬たりとも目が離せない。
その上。
ドタッ。
「フェッ……」
歩行者レベル1程度の世那くん。
足元不注意すぎて、バランスを取るのが下手くそすぎてよく転ぶ。膝にはケガ防止のサポーターつけてるし、尻もちついても、オムツがやわらかクッションの役目をはたしてるからそこまで痛くはないと思うんだけど。
「はいはい、ヨシヨシ。痛かったね~」
泣き始めた世那くんを、ヨッコラショっと抱き上げてあやす。
これが買い物に行く途中ならいいんだけどねえ。帰り、荷物満載の時にされると……。荷物+世那くんで、私の腕力は著しく低下。HPギリギリで町の宿屋に帰ってきた勇者よろしく、ヨロヨロとマンションに帰還。
一時間ほどかけて散歩と買い物という任務をすませたら、次は昼食の準備。
いっぱい歩いて疲れるだろう世那くん。ちょっとでも寝てくれたらいいのに……って、世那くん、寝ない!! ネットなんかの情報だと、午前に一回、午後に一回昼寝するのがこの時期の赤ちゃんのライフスタイルだってあるのに。このへんは子供の個人差なのかもしれないけど、世那くん、むしろ元気爆発!! 寝そうにありません、軍曹殿!!(←誰?)
仕方ないので、テレビに世那くんの面倒をみてもらう。無駄に垂れ流す、世那くんお気に入りのDVD。『乗り物大好きシリーズ12 走れ!! みんなの特急~関西編~』。青い兜のようなお顔の「ラピート」、真っ赤に燃える鳥のような「ひのとり」。関西には個性的な電車が多い(らしい)。
テレビやスマホに赤ちゃんの面倒をみさせるのに、批判的な人っているけど、そうでもしなくちゃ、家事をやる時間もひねり出せないのよ!!
そのDVD、約30分の上映の間に、昼食準備。なるべく細かめにしなきゃいけない野菜は、「ブンブンチョッパー」でみじん切り。疲れと、急ぎと、焦りのブン、ブン、ブン!! 材料入れて数回引っ張るだけで、「奥様、御覧ください。みごとなみじん切りです。ほら」「まあ」状態。一人、テレビショッピング展開。それを、離乳食用のだしの素を使って煮込んで、玉子丼の出来上がり……なんだけど。
「わーっ!! 世那くんっ!!」
ワシッと掴まれた卵(と一部のご飯)。世那くんの手のなかで「ネチッ!!」って音に変化。そして。
ベショッ。
床に叩きつけられた。
ここで「こぉら、世那くん!!」って叱っても、泣かれるだけだし。軽く「ダメだよ~」って言うにとどまる。泣いちゃうと、まったく食べてくれなくなるもん。
一歳四ヶ月ってのは、手づかみモグモグ期だってわかってる。だから、対手づかみ用のブロッコリーも用意してあるんだけど。
ブンッ!!
空を切り、唸るブロッコリー。放物線を描いて壁に激突。白い壁に緑の潰れかけオブジェ完成……じゃないって。あーあ。掃除確定じゃん。床も壁も世那くんの手も、全部ベショベショ。
それでもまあ、なんとか食べさせ終えると、今度こそ昼寝……ってこれがまた、なかなか寝てくれないのよ。カーテン閉めて部屋を暗くして、世那くんのお気に入り絵本を読んでって、入眠儀式みたいなのをするんだけど。
「ア、ア、ウ~ア!!」
親分。人ってもんは、ゴハンを食べたら眠くなるって体にインプットされてる生き物なんじゃないんですかねえ。血糖値が変化するからとか、生体リズムがそうなってるからとか、とにかく大人でも眠くなるもんなんですがねえ。それがどうして元気満々になるんっすかねえ。食べてないのに、添い寝してる私がこれだけ眠くなってるってのに。
読み聞かせるはずの絵本は、世那くんの手によって、ガツッ、ワシッと早送りページめくり。ホットケーキを作るくまの本。材料集めたところで、次の瞬間完成しちゃってる。――三分クッキングもビックリスピード展開。
それでもまあ、なんとか少しは寝てくれるから、その間に、一緒に寝たい体を無理やり起こして、猛スピードでゴハンをかきこむ。
ゆっくり噛んで食え? バランスよく食え?
知るかそんなもん。ゴハンは簡単レトルトカレーだよ。カレーは液体。ザザッと流し込む。
それから、食洗機に入れっぱなしになってた、朝の食器を片付けて、昼の分を投入。洗面所、乾燥をかけたままになってた洗濯物を取り出して、たたむ。うーん、家電って素晴らしい。掃除ロボットと合わせて、頼れる私の三銃士。
世那くんのお昼寝タイムは、私の自由時間!!なんだけど。ここで静かに動かないと――。
フェッ……、フェェェンッ。
ってことになる。
世那くん、音に敏感ですぐに起きちゃうんだよね。昼寝中の和室の隣、リビングで雑誌のページ一つめくるだけで泣いちゃうときもある。
だからなるべく、抜き足差し足忍び足。日中なのにカーテンを締め切った薄暗い空間でうごめく私はニンジャ。闇に隠れて生きる――ってそれは妖怪人間か。
ジックリ寝て、上手く昼寝から起きた日はいいんだけど、中途半端に起きた日は……。
ウギャアアァッ!! ウギャアアアアァン!!
怪獣!! 怪獣が現れます!!
ダタタン ダタタン ダタタタタタタン ダタタン ダタタン ダタタタタタタン。
怪獣が東京湾から――もとい、和室からハイハイで現れます。ヨダレ、涙でベショベショの顔で。
こうなったら仕方なく抱っこ。洗濯物をたたむのもストップ。夕飯の支度もストップ。泣き止むまで全部の作業は中止。再開の目処は立たず。
朝の大暴れとはまた違う、泣きぐずり。いつまでもグズグズと泣き続け、抱っこした私の服をつかんで離さない。積み木や電車のオモチャで誘導しても全くダメ。DVDを再開させても知らんぷり。私の抱っこしか勝たん状態。こりゃ、おばさんが腰を痛めるのも納得の展開。
日が落ちて、一条くんが帰ってくるまでそのベッタリ、グズグズは続く。
仕事で疲れてるだろう一条くんには申し訳ないけど、お風呂だけでもお世話をしてもらえるのは、ホント助かる。一条くんがいると、世那くんも大人しくゴハンを食べてくれるし、だっこをせがんだりしないんだよね。
ただ、寝かしつけだけは私じゃないと嫌みたいで、一条くんが一緒に横になっても寝ないんだよね。パパがいて、興奮しちゃうから……なのかな?
世那くんが寝ると同時に、こちらのライフゲージもほぼゼロに。立ち上がる気力も、スマホを触る気力もない。
世那くんの夜泣きに備えて添い寝……ではなく、自分の部屋に戻るだけの体力もないから、ここで「返事がない。しかばねのようだ」になるしかない。
そういや、横になって5分以内に意識を失うのは、「眠る」じゃなくて「気絶」なんだって聞いたことがあるけど、今の私って、まさしくその通り、気絶よね。パタッて意識なくなるもん。
世の中のお母さんたちは、毎日これをくり返して子育てしてるのかなあ。
子育てなんて楽勝っしょ。世那くん、私に懐いてくれてるし――な~んて思ってた以前の私を殴ってやりたい。これのどこが楽勝なのよって。
自分の時間なんてどこにもない。二十四時間、いつでもフル稼働。
世の中のお母さん。ホント、ご苦労さまです。
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ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
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