上 下
34 / 39
7.7月のキミに伝えたいこと

(三)

しおりを挟む
 ――山野が好きだ。

 それで自分はどうしたい?
 家に帰ってからも、ずっと自分に問いかける。
 想いを告白するか? それともずっと秘めておくか?
 告白したらどうなる? 山野はそれを受け入れてくれるのか? それとも僕は粉々に砕け散ってしまうのか?
 冷静に。なるべく客観的に今の状況を鑑みる。
 今、僕は健太の計画で、山野のカレシ(仮)にされている。計画が始まった時、山野はそれを嫌がったり、反対したりしなかった。それどころか、「自分でよかったのか?」と、すごく不安そうにしてた。そして、僕が「このままでいい」と答えると、うれしそうに「うん!」って言ってくれた。
 あれは、僕を嫌ってない証拠にならないだろうか。
 少しだけ自惚れる。
 他にも、作ってきた弁当のおにぎりの大きさを恥ずかしがったり――って、これは女子として恥ずかしい! なのかもしれない。僕を好いてるポイントにはならない。
 あ、でも僕があげたアメちゃんは大事にするって言ってくれた。これってポイント高くないか?
 それに、ネギのおすそ分けしたら、ネギ入り卵焼きを作ってきてくれた。これは、ただのおすそ分け。もらったからには、お返し必須の田舎ルールだ。ポイントにならず。
 他にも、いっしょに帰ってくれるとか、いっしょに神社に行ったとか(強引に僕がついていっただけ)、競技会まで出かけたとか(みんなで)。好いてるポイントは上がってるのかどうなのか微妙なところで止まる。「山野が僕を好き」のボーダーラインもあやふやだから、結局好かれてるのかどうなのかは、わからないまま。

 じゃあ、告白しないでこのままにするか?

 このまま仁木島のいい友達として、高校を卒業するか。
 おそらくだけど、どこの大学を選ぶにしろ、僕はきっとここを離れる。二度とここには戻らないだろう。

 ――たぶん、ずっと。ずっとわたしはここにいる。

 大きな夢があるという山野。どんな夢かは教えてくれなかったけど、仁木島に残るとは言っていた。
 なら、僕と山野の関係は、高校を卒業したら終わる。そりゃあ同窓会とかあったら絶対戻ってくるけど、その先の人生が交わることはないだろう。

 (それに、山野カワイイし)

 今の二年で、誰か山野を狙うってヤツはいないけど、上の三年、下の一年が山野に惚れるって可能性はゼロじゃない。航太さんみたいなモーレツアタックをするヤツが現れたら、それこそ優しい山野のことだ。相手をかわいそうに思って、寧音ねねさんよりも安く、オッケーを出してしまうかもしれない。
 それは困る。僕が嫌だ。

 告白して前に進みたいのか。それとも砕けるのを恐れて友達のまま終えるのか。
 ゴロ。ゴロゴロ、ゴロ。
 枕を抱えて、布団の上で右へ左へ身体を転がす。
 
 (なんだ、この乙女チック思考は)

 好きな人のことを考えて、寝返り打つなんて、少女マンガのヒロインだろ、そんなの。
 思うけど、煩悶しながら転がることをやめない。
 けど。でもな。だけど。
 逆接の接続詞が延々と続く。
 ここでヒロインなら、花占いでもするのかもしれない。
 「スキ、キライ、スキ、キライ……」と。
 当たり前だけど、この部屋に花なんてない。勉強道具と机、布団しかない僕の部屋。どっちを向いても答えは転がってるはずもなく、悩む自分だけがそこにある。

 (よし、こうなったら!)

 枕を抱きしめたまま、意を決して身を起こす。

 (ここは一つ、健太を見習おう!)

 やや強引に。明音あかねちゃんにアタックを続けている健太。アオハルオーバードーズ計画なんて回りくどいやり方で、明音あかねちゃんの様子を確かめながら、その距離を縮めようと必死だ。
 僕も健太に倣って、山野が嫌がってないか、僕を好きなのかどうか。じっくりゆっくり観察して見極めよう。そして、ジワジワと距離を詰めていくんだ。
 偽物でも今はカレシ。山野に惚れる男を牽制することはできる。

 (ありがとな、健太)

 僕をお前の恋路に巻き込んでくれて。
 僕もお前を見習って――って。

 (具体的に何をしたらいいんだ?)

 問題に行き詰まる。
 健太と違って、少女マンガを読んだ経験がない。調べようにも、じいちゃんの部屋にそんなものは置いてない。

 (どうしたらいいんだ?)

 ボフッと、そのまま仰向けに倒れる。
 結局、妙案が思いつかない以上、思考はずっと堂々巡り。

 (とりあえず、明日から様子を見よう!)

 作戦を立てるのはそれからだ。
 
*     *     *     *

 (あれ? 留守?)

 翌朝、山野を迎えに行ったら、彼女の家には誰もいなかった。
 いつもなら鍵なんてかけない玄関も、きっちり戸締まりされてて、中からは誰も反応がない。

 (寧音ねねさんも出勤してないのか)

 彼女が通勤に使ってるスクーターも庭に置いてある。代わりに山野のお父さんが乗ってる車が無くなってる。

 (家族で出かけた? でもどこへ)

 電話やメールをしてみても、反応がない。既読もなにもつかない。

 (親戚の法事とかそういうのか?)

 それなら、昨日のうちに休むこととか話しないか?
 不審に思いながら、学校に向かう。
 クラスの誰か、山野から聞いていないか。女子なら、夏鈴かりんならなにか。
 僕の願いに反して、友達どころか先生もなにも知らなかった。

 (どうしたんだ、山野)

 この間みたいにあとから遅れてやってくる?
 その予想も虚しく、山野が登校することはなかった。
 そして、その次の日、土曜日も。
 何度足を運んでも、山野の家は鍵のかかったまま。
 スマホも、ずっと沈黙を続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...