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幸せ

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 優は森の中を駆けながら、ある疑問を抱き始めていた。

 「夢にしては、やけに風や葉の感触が生々しい……」

 そうなのだ……夢にしては肌を撫でる風や木々の葉の感触が生々しすぎるのだ。

 だが仮に……夢でないとしたら、これは現実という事になる。

 そんな、目覚めたら漫画のキャラクターになっていましたなんて信じられないし……それに……
 これが夢でないとしたら、見たことのない花々や虫達が存在するこの森は……この世界は一体何なんだ?

 もしかしてあの漫画の世界?

 そう考えて、優は直ぐに頭を振った。

 漫画の世界にこんな場所は出てきていないし、出てきていたとしたら僕が知らない筈が無い。
 
 ーーならば一体ここは……この世界は何なんだ?

 そんな疑問を抱きながら、疾く駆け続けていた時だった……複数の人の気配を感じたのは。

 優は足を止めると声を張り上げた。

 「何者だ!姿を見せろ!」

 その言葉によって姿を現した男達を見て、優の中にあるユティスの本能が自然と察した。
 
 ーーこいつらは裏の世界の者達だと。

 どうやらその予想は当たっていたようで男達は下卑た笑みを浮かべると、優の体を舐め回すように見てきた。

 「すげー上玉だ……こいつは売れるぞ。」
 「へへっ、そうだなぁ……でも、売っちまうのが勿体ねえくらいの美人だなぁ……」
 「そうだ!売る前に俺たちで味見しようぜ!」
 「……そうだなぁ。価値は下がるが、こんな美人味見しねえ方が勿体ねえ。」

 そう言って舌舐めずりをする男達を優は酷く冷めた目で見つめた。
 
 ユティスである僕を……白銀の死神である僕を売る?味見する?
 ……愚かしい。

 「笑わせるな、下郎共が。」

 そう吐き捨てると優は素早くチャクラムを取り出し、投擲した。

 このチャクラムは特別製でブーメランのように手に戻ってくる。
 そうしてチャクラムは同時に二人の男を深く切りつけると、手に戻ってきた。

 男達は突然の事に驚き何かを叫んでいたが、優は一顧だにせず、ただチャクラムに付着した血を見つめていた。
 ……本物の血だ。

 この血が否応なく己に教えてくる。

 ーーこれは夢ではない……現実だ、と。

 僕は……何処かの世界で本当にユティスになったのだ。

 それに優は儚く微笑むと、空を見上げた。

 ……改めてありがとう神様。
 僕をユティスにしてくれて……漫画以外に幸せのなかったあの日々から救い出してくれて。

 ーー僕はこの世界で、ユティスとして幸せになるよ。

 そう決意するとユティスは残りの人攫いの残党を見据えた。

 確かに体はユティスになったが……心は優のままだ。
 漫画の世界の中でユティスは人を殺す事に躊躇していた……だが僕は違う。

 ーー下衆を殺す事に躊躇などしない。

 優はチャクラムを構えると吐き捨てた。

 「死んであの世で後悔しろ。」

 そうして優は男達に向かって、再びチャクラムを投擲した。























 優は男達を殺し終えると、魔法を行使してチャクラムを洗浄した。

 ユティスは暗殺技術もさることながら、魔法にも長けていた。
 ……それ故に、突然優も魔法を行使出来る。

 そうして優は己自身も魔法で洗浄し終えると、一本の木に目を向けた。
 そして冷たく言い放った。

 「そこにいるのは分かっている……出てこい。」

 その言葉と共に木の陰から出てきた人物を見て、優は目を見開いた。
 
 「……子供?」

 てっきり人攫いの残党だと思っていた為、面食らった。
 その子供は縛られていて、至る所に傷を作っていた。
 ……恐らくこの人攫いの男達に捕まっていて、酷い目にあっていたのだろう。

 その子供は震えながら涙目で優を見つめると、勢いよく頭を下げた。

 「こ、殺さないで下さい!」

 その哀れになるほどの必死な叫びに、優は子供にゆっくりと近づくと優しく言葉を紡いだ。
 
 「安心して……殺さないよ。あの男達は返り討ちにしただけ……僕は好んで人を殺すようなことはしない。」

 その言葉に子供……少年は顔を上げると目を丸くし、おずおずと言葉を発した。

 「……本当に僕を殺さない?痛いことしない?」

 それに優は頷くと少年の頭を優しく撫でた。
 最初少年は体をビクビク震わせていたが、次第に涙を零し始めた。

 その様子を優は優しく見つめると微笑んだ。

 「怖い思いをさせてごめんね。」

 その言葉に少年は優にしがみ付くと泣きじゃくった。





























 少年を縛り付けていた縄を解き魔法で体の傷を治すと、優は話しかけた。

 「君、名前は?」
 「……ラミュです。」
 「ラミュはあの男達に捕まっていたの?」

 その言葉にラミュは頷いた。
 それを見て優は痛ましげに顔を歪めると、ラミュの頭を撫でた。
 
 「そう……辛かったね。でも、もう大丈夫。僕が君を家に送っていくから……それで、ラミュは何処に住んでいるの?」
 「それは……あの……」

 その問いに口籠ってしまったラミュだったが、突然縋るような目で優を見つめると勢いよく頭を下げた。

 「……あの!貴方にお願いがあるのです!どうか僕の話を聞いて下さい!分かっています……会ったばかりの貴方にお願いなんて図々しいと……でもこれは強い貴方にしか出来ない事なんです!だからお願いです!僕の話を聞いて下さい!」

 その唐突なラミュの言葉に優は驚いて目を見開いたが、直ぐに柔らかく微笑んだ。

 「分かった……話を聞くよ。」

 その言葉にラミュは目を輝かせると話し始めた。


 

 





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