戦場でネクタイを締めて

千音 兎輝

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戦外

戦う紳士

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「黒船がきたぞー!」
 時刻は零時。江戸は黒船の奇襲攻撃を受けていた。
「くっ、七英雄様はまだなのか!?」
 三時間にも及ぶ戦闘。
 さすがに全員の顔に疲労が浮かんだそのときだった。
「遅くなりました、七英雄が一人、隼 千影見参」
 男たちの後方から声がした。
「こ、この声は!」 
 その男は現代でいうスーツを着ていて、とても戦いに赴く格好ではなかった。だが――
「千影様がいらしたぞ!」
「やった! これで勝てる!」
 皆の疲労しきった顔に希望の光が宿った。
「では・・・・・・参る!」
 千影は戦場へ飛び出した。
 この戦場は今、軍服を着たアメリカ兵25人の手で翻弄されていた。
「ハハハッ、弱すぎだな、これが日本の力かよ?」
 機関銃を片手に余裕の表情のアメリカ兵は、何かが接近してくる音を聞いた。
「ん? なんだ?」
 とりあえず銃身を音のする方向に向けた。
「我らが国土を踏んだからには、生きて帰れると思うなよ」
 千影が、無謀とも取れるような速度で突っ込んできた。
「敵だ! 撃ち方初め!」
「「「「「イエッサー!」」」」
 バララッ! 機関銃が一斉に火を吹いた。
「ハハハッ、やったな」
 きっと突撃してきた男は、蜂の巣だろうと誰しもがそう思った。だが――
「グハッ!?」
 急にアメリカ兵の一人が倒れた。
「ジョニー? どうし・・・・・・お前! なぜ生きている!」
 千影は生きていた、しかもスーツには傷も、汚れひとつない。
「こんなもんか?」
 千影が手に握るのは、だらりと垂れたネクタイ。この時アメリカ兵は、皆、千影の奇妙な格好に驚いていた。
「そうか、お前が七英雄か」
 隊長が納得したようにつぶやいた。
「確かに強い。だが、所詮は東洋の島国のサムライ! この近代兵器の前には手も足も出まい!」
「そうかも知れないな。だが、俺はお前らを・・・・・・殺す!」
 千影はネクタイを鞭のように構えた。
「ハッ!」
千影から放たれたネクタイは、意志を持っているかのような動きをし、アメリカ兵の一人の首に巻き付いた。
 ゴキリ、鈍い嫌な音が響いた。
「うわぁぁぁぁ!」
「おい! 撃つな! 撃ち方止」
「はいさようなら」
 千影のネクタイにより、隊長は首を落とされた。
 これにより統制のとれなくなったアメリカ兵たちは、戦場の紳士に殺された。
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