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第10話 客間にて
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そろそろ大きなイベントが一つ起こる予定なんですが、なかなかそこまで描写が辿り付かず…
日常回ばかりですみません
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別邸から本邸までの道のりは長かった。4時間、決して快適ではない馬車に乗り続けた。これなら馬に乗る方が楽だなあと何度思ったかわからない。
アルトゥールはというと、ずっと緊張しっぱなしだったように見えた。馬車の中でも口数は少なく、物憂げな表情で窓の外を眺めていた。
尻も腰も背中も痛くなった頃、ようやく到着した。
御者が開けた扉から出て脇に立ち、馬車の内側に向けて手を差し伸べる。
そっと触れるように手が置かれ、アルトゥールが地面に降り立った。
「出迎えご苦労」
アルトゥールとルアンが見据えた先には、玄関を真ん中にずらりと並ぶ使用人たちの列があった。
その真ん中にいた男が進み出て、再びアルトゥールに深く頭を下げる。
「お待ちしておりました。アルトゥール様。長い距離のご移動お疲れでしょう。直ちに控え室にご案内いたします」
「ああ、頼む」
アルトゥールは硬い表情のまま、男の後ろについていった。
本邸の中はさすが由緒正しき貴族の屋敷ともいうべきか、ホコリひとつなく艶やかで、品の良い調度品に溢れ、どこか輝いて見えた。シャンデリアに照らされたホールを抜け、通された先は大きな客間であった。
「パーティまでこちらの部屋でお過ごしください。何かあれば遠慮なくお申し付けを」
「ああ」
言葉少なく返事をしながら、アルトゥール中央に置かれたソファーにどっかりと腰を下ろした。
使用人の男が部屋から出るのを見届けて、緊張を解くように大きく息を吐く。
そのまま黙り込んでしまったので、ルアンは思い切って彼に質問してみることにした。
「この部屋は客間のようですが、こちらのお屋敷にはアルトゥール様の自室は用意されていないのでしょうか」
間違いなく踏み込みすぎた質問だが、アルトゥールは答えてくれる気がした。
案の定、アルトゥールはルアンを少し見て諦めたように笑った後、口を開いた。
「どうだろう。多分ないんじゃないかな。僕が小さい頃にはあったんだけれどもね」
「小さい頃には?」
「そう。僕が別邸に移る前まではね。…どうしたんだい、今日はやけに僕に興味を持つね」
アルトゥールがくすくすと笑う。
「いろいろと気になってしまって。その、それこそ別邸のこととか」
「ああ、まあそうだろうね。これでも貴族の家だから、色々あるんだよ。ルアンは、いつも通り仕事をしてくれればいいから」
「かしこまりました」
結局何も教えてもらえなかったが、ルアンは納得して頭を下げるしかない。
それをなぜか少し不満そうに見た後、アルトゥールは壁に掛かった時計を見上げた。
「パーティまでもう少ししかないね。馬車の疲れは全く取れていないが、仕方がない。着衣を整えたいからローデリックを呼んできてくれるかい。君も手伝ってくれ」
「かしこまりました」
部屋の外にいた騎士の1人に声をかければ、すぐにローデリックが部屋へとやってきた。
「ああ、ローデリック。身なりを整えたいんだ。頼む」
「かしこまりました。ルアン、私は御髪を整えますから、あなたは衣装を。時間がないですから急ぎますよ」
「はい。アルトゥール様、一度ジャケットを脱いでいただきますね」
シャツの襟元やスラックスの小さな皺を整えた後、ジャケットについた装飾品などを丁寧に整えていく。
その横で、ローデリックがアルトゥールを椅子に腰掛けさせ、髪を優しく梳いている。本当ならばこのように準備を急ぐ必要など無いはずなのに、とローデリックがぼやいた。
「仕方あるまい。それに、見てみろ」
アルトゥールが椅子から立ち上がり、姿見の前に移動した。すっとルアンの方へ振り返る。
「ジャケットを」
ルアンは促されるままに、ジャケットを羽織らせ、ボタンを止め、胸元の装飾を整えた。
アルトゥールは、自分の姿を鏡で確認して、うん、とひとつ頷く。
「素晴らしい出来だ。我ながら、完璧だ。そうだろう?」
そして、くるりと振り返り、おどけた様子で両手を広げた。
それを見て、ローデリックは珍しく口角を上げた。
「ええ。とてもお美しいです」
ルアンはその様子に少し驚いて、ローデリックへの気遣いなのだと悟った。
かといって、ルアンは自分が何と返事をしたら良いかわからない。美しいという言葉はローデリックが使ってしまったし、適当な言葉で褒めるには失礼な気がした。
ローデリックは黙っているルアンに笑みを引っ込めて、お前も何か返事をしないか、と叱った。
「ああ、申し訳ないです。ええと、とてもよくお似合いで…」
「はは、いいんだ。いや、少し恥ずかしいなあ。自画自賛も甚だしかった」
「そんなこともないと思いますが」
「そうかな?ああ、おかげで緊張もほぐれた。時間もちょうど良いね。会場の方へ移動しようか」
そういって、アルトゥールは扉の方へ歩き出した。
ルアンはふと思い立って、その後ろ姿に言葉を投げかける。
「やっぱり緊張なさっていたんですね」
アルトゥールは立ち止まりルアンの方を振り返って、これは一本取られたよと笑った。
日常回ばかりですみません
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別邸から本邸までの道のりは長かった。4時間、決して快適ではない馬車に乗り続けた。これなら馬に乗る方が楽だなあと何度思ったかわからない。
アルトゥールはというと、ずっと緊張しっぱなしだったように見えた。馬車の中でも口数は少なく、物憂げな表情で窓の外を眺めていた。
尻も腰も背中も痛くなった頃、ようやく到着した。
御者が開けた扉から出て脇に立ち、馬車の内側に向けて手を差し伸べる。
そっと触れるように手が置かれ、アルトゥールが地面に降り立った。
「出迎えご苦労」
アルトゥールとルアンが見据えた先には、玄関を真ん中にずらりと並ぶ使用人たちの列があった。
その真ん中にいた男が進み出て、再びアルトゥールに深く頭を下げる。
「お待ちしておりました。アルトゥール様。長い距離のご移動お疲れでしょう。直ちに控え室にご案内いたします」
「ああ、頼む」
アルトゥールは硬い表情のまま、男の後ろについていった。
本邸の中はさすが由緒正しき貴族の屋敷ともいうべきか、ホコリひとつなく艶やかで、品の良い調度品に溢れ、どこか輝いて見えた。シャンデリアに照らされたホールを抜け、通された先は大きな客間であった。
「パーティまでこちらの部屋でお過ごしください。何かあれば遠慮なくお申し付けを」
「ああ」
言葉少なく返事をしながら、アルトゥール中央に置かれたソファーにどっかりと腰を下ろした。
使用人の男が部屋から出るのを見届けて、緊張を解くように大きく息を吐く。
そのまま黙り込んでしまったので、ルアンは思い切って彼に質問してみることにした。
「この部屋は客間のようですが、こちらのお屋敷にはアルトゥール様の自室は用意されていないのでしょうか」
間違いなく踏み込みすぎた質問だが、アルトゥールは答えてくれる気がした。
案の定、アルトゥールはルアンを少し見て諦めたように笑った後、口を開いた。
「どうだろう。多分ないんじゃないかな。僕が小さい頃にはあったんだけれどもね」
「小さい頃には?」
「そう。僕が別邸に移る前まではね。…どうしたんだい、今日はやけに僕に興味を持つね」
アルトゥールがくすくすと笑う。
「いろいろと気になってしまって。その、それこそ別邸のこととか」
「ああ、まあそうだろうね。これでも貴族の家だから、色々あるんだよ。ルアンは、いつも通り仕事をしてくれればいいから」
「かしこまりました」
結局何も教えてもらえなかったが、ルアンは納得して頭を下げるしかない。
それをなぜか少し不満そうに見た後、アルトゥールは壁に掛かった時計を見上げた。
「パーティまでもう少ししかないね。馬車の疲れは全く取れていないが、仕方がない。着衣を整えたいからローデリックを呼んできてくれるかい。君も手伝ってくれ」
「かしこまりました」
部屋の外にいた騎士の1人に声をかければ、すぐにローデリックが部屋へとやってきた。
「ああ、ローデリック。身なりを整えたいんだ。頼む」
「かしこまりました。ルアン、私は御髪を整えますから、あなたは衣装を。時間がないですから急ぎますよ」
「はい。アルトゥール様、一度ジャケットを脱いでいただきますね」
シャツの襟元やスラックスの小さな皺を整えた後、ジャケットについた装飾品などを丁寧に整えていく。
その横で、ローデリックがアルトゥールを椅子に腰掛けさせ、髪を優しく梳いている。本当ならばこのように準備を急ぐ必要など無いはずなのに、とローデリックがぼやいた。
「仕方あるまい。それに、見てみろ」
アルトゥールが椅子から立ち上がり、姿見の前に移動した。すっとルアンの方へ振り返る。
「ジャケットを」
ルアンは促されるままに、ジャケットを羽織らせ、ボタンを止め、胸元の装飾を整えた。
アルトゥールは、自分の姿を鏡で確認して、うん、とひとつ頷く。
「素晴らしい出来だ。我ながら、完璧だ。そうだろう?」
そして、くるりと振り返り、おどけた様子で両手を広げた。
それを見て、ローデリックは珍しく口角を上げた。
「ええ。とてもお美しいです」
ルアンはその様子に少し驚いて、ローデリックへの気遣いなのだと悟った。
かといって、ルアンは自分が何と返事をしたら良いかわからない。美しいという言葉はローデリックが使ってしまったし、適当な言葉で褒めるには失礼な気がした。
ローデリックは黙っているルアンに笑みを引っ込めて、お前も何か返事をしないか、と叱った。
「ああ、申し訳ないです。ええと、とてもよくお似合いで…」
「はは、いいんだ。いや、少し恥ずかしいなあ。自画自賛も甚だしかった」
「そんなこともないと思いますが」
「そうかな?ああ、おかげで緊張もほぐれた。時間もちょうど良いね。会場の方へ移動しようか」
そういって、アルトゥールは扉の方へ歩き出した。
ルアンはふと思い立って、その後ろ姿に言葉を投げかける。
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