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第4話
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「このアホクソ、どうやったらこの田舎道で渋滞できんだよボケ」
苛立つほど夏希の独り言は増える。週最終勤務日終業直前に休日出勤が決まったのだからたまらない。それもさっさと済ませて家路につくも珍しく高速道路は渋滞していた。これでは間に合わない。
「来てんよなあこの時間じゃ」
この日は圭奈と秋人の引越し日だった。夏希流に大袈裟な物言いをすれば「家族が増える日」だった。
「引越屋に迷惑でも二人の連絡先教えといてよかった。あれ、鍵持たせたっけ、いや横溝から渡ってんか。いけねえ部屋のスケベグッズ片付け・・・どわーッ!」
割り込んでくる前走車とはほとんど距離が無い。夏希だって相当危険なスピードを出していたけれど、自分のことは棚に上げて罵倒を浴びせる。
「このフ〇ック野郎!命惜しくねえのか!」
口汚い言葉が発せられる理由は結局焦りからか。正直焦る必要も無いのだけれど、できれば主人として玄関から彼女らを迎え入れる、エレガントな想像ばかりは準備していた。
卸したてのシャツと久々に仕立てたジーンズに咥え煙草。時代にそぐわない格好は夢に終わった。そもそも面倒くさくて服は買いにいかなかったし。塗料と錆に汚れた作業衣の一張羅が、仕事終わりじゃこれが精いっぱい。
えらいスピード出して門を潜った。どこぞの引越業者のトラックが荷台を開いて荷物を運び出しているが、もうほとんど終わったのか小物ばかりだった。夏希の半長靴は光らず石畳の汚れみたいに映った。
「あれ、内装もやるんですか。荷物入れちゃったけど」
挨拶抜きの業者の言葉にガクンとくる。「いや、あの・・・家主です」ぺこり頭を下げると業者は慌てた。
「え、あの、あ・・・奥さん」
奥さんと聞いて意味が解らない。まさか圭奈のことかと、甘い妄想はすぐに打ち砕かれた。すると影から、おそらく人生で一番見てきた女性の顔が現れた。
「あら夏くん、お帰り」
生まれた時から変わらない呼び方で母は笑っていた。
「息子なんですよお」大層嬉しそうに業者に手を振る。
「すみません、てっきりリフォームの業者さんかと」
「こんな格好してるものねえ」
こんな格好で悪かったな、と思いながらへばりついた塗膜片を一つ引っぺがした。
「ただいま。お母ちゃん、別に来なくてもよかったのに」
「そうはいっても、家主不在ならその家族くらいはいなくちゃ」
「そうかもしれないけどね。月丘さんと小林君は?会ったんしょ」
「お部屋で引越しの手伝い。いい子ね二人とも」
「はひー」
気の抜けるような息を吐いて玄関へ向かった。重い半長靴をズルくってると、石畳の道がこんなにも長かったのかと溜息出る。僅かに震える吐息は緊張を交えて、新たな家族との対面に胸を高鳴らせていた。
顔合わせだって行ったが今日は違う。家族以外の誰かと日常寝食共にするのは初めてだった。
「月丘さーん、小林さーん」
母が頬に掌当てて二人を呼んだ。パタパタと元気よく駆けてくるのは秋人らしかった。
「旦那さま!」
旦那サマ?夏希は首を傾げた。別に秋人とは自身の呼称についての話はしなかったはずだ。圭奈に吹き込まれたのだろうかと顎に指添え考えていると、出てきた二人の姿に言葉を失った。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おかえりなさい、いえ、おかえりなさいませ!」
メイドと執事。いや、少年の方は執事というより給仕だった。
圭奈は寛二が予言した通り、初対面のブラウスにエプロンドレス、リボンタイを細い首に結えて、カチューシャの方は本場イギリスメイドの物というよりはどことなくアニメチックに両端に小さく赤いリボンが付いている。
秋人は短ジャケットの燕尾服が小さな身体にピタリと纏い、キュッと締まったベストにカラー、蝶ネクタイも可愛らしい。
不思議だったのは二人ともきっちり着こなして、少なくとも夏希の作業衣くらいには自然な佇まいを見せていた。夏希がポカンと口を開けて動けずにいると、秋人は頬を染めて照れた。
「あの、旦那さま、僕似合ってますか?月丘さんがこの服くれたんです」
「いや、二人とも似合ってるんだけどホントによく。でも・・・」
状況をよく飲み込めず目を白黒させていると圭奈が一歩前に出た。俄かに近づく宇宙みたいな瞳と淡い花の香に、熱くなって思わず目を逸らした。
「旦那様、もしこの服装がお気に召さなければ着替えて参ります」
「いやいいよ、とてもよくお似合いです。ただちょっとびっくりしただけで。でもお仕着せなんてよく持ってましたね。秋人君の服まで」
「偶然持っていた服がちょうど合いました」
どんな偶然かは知れない。コレクターであるやもしれぬが、それにしたって男物のあんな体格が違う服を持っていることは謎が深まる。秋人も歩み寄ってニコニコ圭奈を褒めた。
「すごいんですよ、メイド服も執事服も、いろんな種類をたくさん持ってるんです」
「君もその服で?」
「えへへ、勧められた時はびっくりしたけど、着てみると楽しくって。いえ、気が引き締まります!」
「ねえこんないい生地使って。可愛らしいしかっこいいわ」
「恐縮です、大奥様」
「大奥様ァ?」
母の呼び方が一等不思議だった。普通母くらいの年齢の既婚者は奥様と呼ぶものではないか。
「旦那様のお母様ですから。大奥様です」
「奥様じゃなくて?」
「奥様は旦那様の配偶者を呼ぶことでは」
「俺配偶者いねえよ」
「まあ~姫って呼んでもいいのよお」
大奥様と呼ばれ悪い気はしないのだろうが、常日頃の悪い冗談を圭奈は真に受けそうで恐ろしくなった。「んじゃまあ大奥様で構いませんよ」慌てて命じると圭奈は頭を下げた。
「はい、仰る通りに」
「あら残念ねえ」
何が残念なものかと、多少恥ずかしくなってきてこの場を離れようとした。
「前も言ったけど、別に服装は何でも構いません。着たければそれ着てください。とてもよく似合ってますよ」
「ではこの服装で過ごしたいと思います。小林さんは、初め私が勧めましたけど、好きになさって構いませんよ」
「いえ!もし月丘さんがよければ僕も借りて着たいと思います。学校はさすがに制服着ていきますけど」
「そうすべきだね。じゃあまた後で・・・」
「あら夏くん、写真撮りましょうよ。今日から三人で暮らすんだから」
母がスマートフォンを取り出す。夏希は写真を撮られるのは構わなかったが、何せ彼だけ小汚い格好だった。
「別にいいよ、俺こんな格好だし」
「いつもの服じゃない」
「二人だってヤでしょ?」
「そんなことはありません。主人となるお方がどんなお姿であろうと嫌などということは絶対有り得ません」圭奈の主張はやや強い。
「僕も気にしませんよ。作業服かっこいいです」
「お世辞言うなや。でもいいってんならこれで撮りましょうか。さ」
上がりかけた玄関から三人の元へ戻ると、横を引越業者が通り過ぎようとした。「これで最後です。大きな物はもう運び終わったと思ったんですけど」彼が抱えているのは古びた椅子だった。家具なんかほとんど備え付けであったけど、と思っていると圭奈が受け取った。
「私の椅子です。少しここで使っていきます。包装を取っても?」
業者から快諾されて取った包装を渡すと、夏希の横にとんと置いた。
「旦那様、ここにお座りください」
「あ、いいの?」
「この家の主人でいらっしゃいますから」
解るような解らないような顔して腰を下ろす。脚を大股に開いて背筋はピンと、拳を作って両腿の付け根に置いた。軍人みたいな座り方だった。圭奈と秋人が半ば後ろの両脇に立つ。
「もうちょっと肩の力抜きなさいな」
「別に力入れてる訳じゃないけど」
「ほら、もうちょっと笑って」
「んもう」
うんと結んだ口元を僅かに緩めた。背後の二人がもう一歩分足音近づいて、母はスマホのボタンを押した。
「私もご一緒していいかしら」
顔の前からスマホを降ろすと母はニコニコしている。圭奈と秋人の方を見上げると、二人は頷いてじっとした。「撮りましょうか?」帰りがけの引越業者が気を利かせてくれた。
「じゃあお母ちゃん座ってえな」
「あらいいのに」
「おっかさん差し置いて息子が座ってると気が引ける」
母に椅子を譲って、後ろから背もたれに両手を添えてポーズのつもり。三人は変わらない顔だったが母は満面の笑みでレンズに収まった。母は礼を言ってスマホを受け取り、写真を検めた。
「いいお顔よ三人とも。でも、パパや陽士とも一緒に撮りたいわね」
他の家族のことも少し気になる。夏希には遠くへ働きに出ている兄がいた。
「陽士なかなか帰ってこねえもんな」
「お兄様ですか」
「そう、俺と五歳差。訪ねてきたらまた紹介するさ」
「はい。喜んで」
「お父さんやお兄さんのことはなんてお呼びしたらいいですか?」
秋人がまっすぐな瞳で問いかけてくる。夏希は苦笑して肩を叩いた。
「オヤジは、この分だと大旦那サマ、兄貴は、そうだな、まあお兄様でいいんじゃないか」
「分かりました!」
「でもハナから呼ばれたら腰抜かすな。お母さん伝えといてよ」
「そうね、また言っておくわ。でもパパは連れてくるわね」
「大旦那様とお会いできること、心待ちにしております」
キュッと首を垂れると慌てて秋人も続いた。母は「まあ」と口に掌当てると頬を染める。美少女と美少年から本物の使用人からの儀礼を受けたのだ。無理もないだろう。夏希は慣れかけていた。
「私も住んじゃおうかしら」
夏希は呑み込みかけた唾でむせた。「管理できねえからって俺に住まわせた癖してェ」母はカラカラ笑った。
「冗談よ。代わりにお家に遊びにいらっしゃないな。いつでもお気軽に待ってるわ」
「はい。是非とも」
二人は再び、恭しくお辞儀した。
苛立つほど夏希の独り言は増える。週最終勤務日終業直前に休日出勤が決まったのだからたまらない。それもさっさと済ませて家路につくも珍しく高速道路は渋滞していた。これでは間に合わない。
「来てんよなあこの時間じゃ」
この日は圭奈と秋人の引越し日だった。夏希流に大袈裟な物言いをすれば「家族が増える日」だった。
「引越屋に迷惑でも二人の連絡先教えといてよかった。あれ、鍵持たせたっけ、いや横溝から渡ってんか。いけねえ部屋のスケベグッズ片付け・・・どわーッ!」
割り込んでくる前走車とはほとんど距離が無い。夏希だって相当危険なスピードを出していたけれど、自分のことは棚に上げて罵倒を浴びせる。
「このフ〇ック野郎!命惜しくねえのか!」
口汚い言葉が発せられる理由は結局焦りからか。正直焦る必要も無いのだけれど、できれば主人として玄関から彼女らを迎え入れる、エレガントな想像ばかりは準備していた。
卸したてのシャツと久々に仕立てたジーンズに咥え煙草。時代にそぐわない格好は夢に終わった。そもそも面倒くさくて服は買いにいかなかったし。塗料と錆に汚れた作業衣の一張羅が、仕事終わりじゃこれが精いっぱい。
えらいスピード出して門を潜った。どこぞの引越業者のトラックが荷台を開いて荷物を運び出しているが、もうほとんど終わったのか小物ばかりだった。夏希の半長靴は光らず石畳の汚れみたいに映った。
「あれ、内装もやるんですか。荷物入れちゃったけど」
挨拶抜きの業者の言葉にガクンとくる。「いや、あの・・・家主です」ぺこり頭を下げると業者は慌てた。
「え、あの、あ・・・奥さん」
奥さんと聞いて意味が解らない。まさか圭奈のことかと、甘い妄想はすぐに打ち砕かれた。すると影から、おそらく人生で一番見てきた女性の顔が現れた。
「あら夏くん、お帰り」
生まれた時から変わらない呼び方で母は笑っていた。
「息子なんですよお」大層嬉しそうに業者に手を振る。
「すみません、てっきりリフォームの業者さんかと」
「こんな格好してるものねえ」
こんな格好で悪かったな、と思いながらへばりついた塗膜片を一つ引っぺがした。
「ただいま。お母ちゃん、別に来なくてもよかったのに」
「そうはいっても、家主不在ならその家族くらいはいなくちゃ」
「そうかもしれないけどね。月丘さんと小林君は?会ったんしょ」
「お部屋で引越しの手伝い。いい子ね二人とも」
「はひー」
気の抜けるような息を吐いて玄関へ向かった。重い半長靴をズルくってると、石畳の道がこんなにも長かったのかと溜息出る。僅かに震える吐息は緊張を交えて、新たな家族との対面に胸を高鳴らせていた。
顔合わせだって行ったが今日は違う。家族以外の誰かと日常寝食共にするのは初めてだった。
「月丘さーん、小林さーん」
母が頬に掌当てて二人を呼んだ。パタパタと元気よく駆けてくるのは秋人らしかった。
「旦那さま!」
旦那サマ?夏希は首を傾げた。別に秋人とは自身の呼称についての話はしなかったはずだ。圭奈に吹き込まれたのだろうかと顎に指添え考えていると、出てきた二人の姿に言葉を失った。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おかえりなさい、いえ、おかえりなさいませ!」
メイドと執事。いや、少年の方は執事というより給仕だった。
圭奈は寛二が予言した通り、初対面のブラウスにエプロンドレス、リボンタイを細い首に結えて、カチューシャの方は本場イギリスメイドの物というよりはどことなくアニメチックに両端に小さく赤いリボンが付いている。
秋人は短ジャケットの燕尾服が小さな身体にピタリと纏い、キュッと締まったベストにカラー、蝶ネクタイも可愛らしい。
不思議だったのは二人ともきっちり着こなして、少なくとも夏希の作業衣くらいには自然な佇まいを見せていた。夏希がポカンと口を開けて動けずにいると、秋人は頬を染めて照れた。
「あの、旦那さま、僕似合ってますか?月丘さんがこの服くれたんです」
「いや、二人とも似合ってるんだけどホントによく。でも・・・」
状況をよく飲み込めず目を白黒させていると圭奈が一歩前に出た。俄かに近づく宇宙みたいな瞳と淡い花の香に、熱くなって思わず目を逸らした。
「旦那様、もしこの服装がお気に召さなければ着替えて参ります」
「いやいいよ、とてもよくお似合いです。ただちょっとびっくりしただけで。でもお仕着せなんてよく持ってましたね。秋人君の服まで」
「偶然持っていた服がちょうど合いました」
どんな偶然かは知れない。コレクターであるやもしれぬが、それにしたって男物のあんな体格が違う服を持っていることは謎が深まる。秋人も歩み寄ってニコニコ圭奈を褒めた。
「すごいんですよ、メイド服も執事服も、いろんな種類をたくさん持ってるんです」
「君もその服で?」
「えへへ、勧められた時はびっくりしたけど、着てみると楽しくって。いえ、気が引き締まります!」
「ねえこんないい生地使って。可愛らしいしかっこいいわ」
「恐縮です、大奥様」
「大奥様ァ?」
母の呼び方が一等不思議だった。普通母くらいの年齢の既婚者は奥様と呼ぶものではないか。
「旦那様のお母様ですから。大奥様です」
「奥様じゃなくて?」
「奥様は旦那様の配偶者を呼ぶことでは」
「俺配偶者いねえよ」
「まあ~姫って呼んでもいいのよお」
大奥様と呼ばれ悪い気はしないのだろうが、常日頃の悪い冗談を圭奈は真に受けそうで恐ろしくなった。「んじゃまあ大奥様で構いませんよ」慌てて命じると圭奈は頭を下げた。
「はい、仰る通りに」
「あら残念ねえ」
何が残念なものかと、多少恥ずかしくなってきてこの場を離れようとした。
「前も言ったけど、別に服装は何でも構いません。着たければそれ着てください。とてもよく似合ってますよ」
「ではこの服装で過ごしたいと思います。小林さんは、初め私が勧めましたけど、好きになさって構いませんよ」
「いえ!もし月丘さんがよければ僕も借りて着たいと思います。学校はさすがに制服着ていきますけど」
「そうすべきだね。じゃあまた後で・・・」
「あら夏くん、写真撮りましょうよ。今日から三人で暮らすんだから」
母がスマートフォンを取り出す。夏希は写真を撮られるのは構わなかったが、何せ彼だけ小汚い格好だった。
「別にいいよ、俺こんな格好だし」
「いつもの服じゃない」
「二人だってヤでしょ?」
「そんなことはありません。主人となるお方がどんなお姿であろうと嫌などということは絶対有り得ません」圭奈の主張はやや強い。
「僕も気にしませんよ。作業服かっこいいです」
「お世辞言うなや。でもいいってんならこれで撮りましょうか。さ」
上がりかけた玄関から三人の元へ戻ると、横を引越業者が通り過ぎようとした。「これで最後です。大きな物はもう運び終わったと思ったんですけど」彼が抱えているのは古びた椅子だった。家具なんかほとんど備え付けであったけど、と思っていると圭奈が受け取った。
「私の椅子です。少しここで使っていきます。包装を取っても?」
業者から快諾されて取った包装を渡すと、夏希の横にとんと置いた。
「旦那様、ここにお座りください」
「あ、いいの?」
「この家の主人でいらっしゃいますから」
解るような解らないような顔して腰を下ろす。脚を大股に開いて背筋はピンと、拳を作って両腿の付け根に置いた。軍人みたいな座り方だった。圭奈と秋人が半ば後ろの両脇に立つ。
「もうちょっと肩の力抜きなさいな」
「別に力入れてる訳じゃないけど」
「ほら、もうちょっと笑って」
「んもう」
うんと結んだ口元を僅かに緩めた。背後の二人がもう一歩分足音近づいて、母はスマホのボタンを押した。
「私もご一緒していいかしら」
顔の前からスマホを降ろすと母はニコニコしている。圭奈と秋人の方を見上げると、二人は頷いてじっとした。「撮りましょうか?」帰りがけの引越業者が気を利かせてくれた。
「じゃあお母ちゃん座ってえな」
「あらいいのに」
「おっかさん差し置いて息子が座ってると気が引ける」
母に椅子を譲って、後ろから背もたれに両手を添えてポーズのつもり。三人は変わらない顔だったが母は満面の笑みでレンズに収まった。母は礼を言ってスマホを受け取り、写真を検めた。
「いいお顔よ三人とも。でも、パパや陽士とも一緒に撮りたいわね」
他の家族のことも少し気になる。夏希には遠くへ働きに出ている兄がいた。
「陽士なかなか帰ってこねえもんな」
「お兄様ですか」
「そう、俺と五歳差。訪ねてきたらまた紹介するさ」
「はい。喜んで」
「お父さんやお兄さんのことはなんてお呼びしたらいいですか?」
秋人がまっすぐな瞳で問いかけてくる。夏希は苦笑して肩を叩いた。
「オヤジは、この分だと大旦那サマ、兄貴は、そうだな、まあお兄様でいいんじゃないか」
「分かりました!」
「でもハナから呼ばれたら腰抜かすな。お母さん伝えといてよ」
「そうね、また言っておくわ。でもパパは連れてくるわね」
「大旦那様とお会いできること、心待ちにしております」
キュッと首を垂れると慌てて秋人も続いた。母は「まあ」と口に掌当てると頬を染める。美少女と美少年から本物の使用人からの儀礼を受けたのだ。無理もないだろう。夏希は慣れかけていた。
「私も住んじゃおうかしら」
夏希は呑み込みかけた唾でむせた。「管理できねえからって俺に住まわせた癖してェ」母はカラカラ笑った。
「冗談よ。代わりにお家に遊びにいらっしゃないな。いつでもお気軽に待ってるわ」
「はい。是非とも」
二人は再び、恭しくお辞儀した。
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