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6.乱射して確保
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ゾンビの腹が凹んだのがどうしても気になった。
有紀は双眼鏡をもう一度覗くが、それだけではよく分からない。
膝から下が吹っ飛んだ状態で下半身は血まみれ状態。ゾンビはただ横たわっている。
――出て行って中に運び込んで……
良く観察するためには、ホームセンターの中に運び込む必要がある。
となれば、外に出なければいけないのは、当然だ。
有紀は一階に降りる。階段を降る途中でガムを口に放り込む。
落ち着け。足が止まる。階下に行く足が止まったのだ。
――危険を冒してまでやる意味があるのか?
自問自答する。
息を吸い込み頭の中で状況を整理する。
妊婦のようなゾンビがいた。
正確には、両脚はパイプ爆弾で吹っ飛ばした後で「妊婦のような腹」をしていることに気づいた。
何故か、ムカムカして「AK-47」で頭をぶち抜いた。
数日後――
膨らんでいた腹が凹んでいるのを確認したわけだ。
なんとも、不気味で気になることだった。
そもそも、ゾンビが溢れる世界で、赤ん坊のゾンビが生まれたとしても――
大して状況は変わらないかもしれない。なんとも、薄気味悪い話ではあるけれども。
――やっぱり確認したい。
気持ちは決まった。
「妊婦のゾンビ」をしっかり調べたい。
一階に降りた。
ベルトには予備弾倉を挟み込んである。
念のため鉄パイプ爆弾も三発もっている。
ゾンビを調べるのだからそれなりの準備も必要だ。
有紀は雨合羽とレインパンツを身につける。
ビニール製の薄い使い捨て手袋もはめる。
マスクをして、薄い色のサングラスをした。
ゾンビの血液や肉片に直接触れないようにするためだった。
未知の細菌やウィルスだけではなく、普通の腐敗細菌であっても、危険はある。
ホームセンターの一般出入り口のシャッターを二〇センチほど持ち上げる。
「AK-47」をいつもの単射ではなく連射に切り替える。
「あ~ いるなぁ。結構いるいる……」
低い視界に無数のゾンビが映る。なんの法則性も見出せない動きで徘徊を続けている。
このまま、外に出たらかなり危険なのは考えるまでもなかった。
有紀は鉄パイプ爆弾の導火線に火をつけた。
間髪入れず、シャッターの隙間から外へ勢い良く投げた。
コン、コン、とコンクリートの上を跳ねていく鉄パイプ爆弾。
シャッターを閉じて、耳を塞ぐ。
心の中でカウントダウン。
固形化した空気の塊がシャッターに叩きつけられる。
耳を塞いでいても、ビリビリとした空気の振動が感じられた。
硝酸アンモニウムが化学変化を起こし爆轟。エネルギーを放出したのだ。
ゆっくりと、シャッターを開けると焦げ臭い匂いが流れ込んでくる。
視界内のゾンビは倒れ、足掻くようにして蠢いているのが多数。
爆発で完全に斃された物もいるようだ。
とにかく、空隙ができていた。
有紀はシャッタを勢い良く上げると外に飛び出した。
同時にこちらを向いたゾンビ――まだ動いている――に銃口を向けた。
引き金を引く。
毎分六〇〇発のレートでたたき出される7.62×39ミリ弾。
なぎ払うようにして、ゾンビを打ち倒す。反動で銃身が浮くのをなんとか堪える。
生白い肌が弾け、どす赤い血肉が吹き飛んでいく。
五秒足らずで弾倉は空っぽになる。
――落ち着け。
有紀は自分に言い聞かせながら、弾倉を交換した。カチャカチャと音をたてるだけで中々嵌らない。
焦っているからだ。
ガチッと嵌った。誰でも使えるという前評判の割りに「AK-47」の弾倉交換にはコツがいった。
思いの他の速度で突っ込んでくるゾンビがいた。
銃口を向け、引き金を引く。火を吹く「AK-47」。
血の詰まったバルーンが爆ぜるように、ゾンビの頭部が吹っ飛んだ。
有紀は走った。
とにかく全力で。
ひっくり返った「妊婦ゾンビ」の腕を掴む。
手袋越しでも、ぬるりとした感触が伝わってきた。
寒気がする。
強引に引っ張ると、濡れた紙のように、皮膚が引き千切れそうな感じがした。
それでも、のんびりはしていられない。
両脚と頭部の殆どを失った「妊婦ゾンビ」は軽いといえば軽かったかもしれない。
有紀は「妊婦ゾンビ」を引きずって、ホームセンターの中に転がり込む。
獲物も中に引きずり込む。
追ってきたゾンビどもに「AK-47」で一連射を叩き込む。
血肉の煙を上げて、ゾンビが斃れていく。死の上に死が上書きされ重なり合う。
シャッターを乱暴に閉めた。消魂しい音を発しシャッターが降りた。
突撃してきたゾンビがガシャ、ガシャとシャッターを掻き毟る。
「はぁぁぁ~ しんどかったぁ」
視界に入った人間を襲ってくるという定番ともいえる攻撃性を見せるゾンビ。
逆に言えば視界に入らなければ、人間に対して無頓着とも言えた。
シャッターを叩く音は、やがて止んだ。
――こいつを確認しないと
血まみれの上に、爆発に巻き込まれボロクズのようになった服。
やはり、腹は凹んでいた。
蹴りをいれて、横向きの体勢から腹を上にしてみた。
AK-47の銃身を使って、服を剥がした。
ボロボロの服は簡単に剥がれた。
「うわッ…… なにこれ」
有紀は息を飲んだ。
鋭利な刃物で削ぎ取られたかのように、腹の肉がなくなっていた。
まるで「キャトルミューティレーション」のようだった。
異星人が家畜(主に牛)の体の一部を削ぎ取ったものと話題になった物だ。
なんの目的で地球まで来てそんなことをするのは知らないが。
ただ、この件は野犬などが家畜を襲ったということで反証がなされていたはずだった。
――ここでは野犬なんてみたことないけど。
ゾンビを見やる。
出産したというような形跡は見つからない。
「はぁ、無駄だったかぁ…… でもなんだろう」
ずっとゾンビを眺めている気もなかった。
シャッターを少し空け、そこから「ゾンビの死体」を蹴り出した。
有紀は双眼鏡をもう一度覗くが、それだけではよく分からない。
膝から下が吹っ飛んだ状態で下半身は血まみれ状態。ゾンビはただ横たわっている。
――出て行って中に運び込んで……
良く観察するためには、ホームセンターの中に運び込む必要がある。
となれば、外に出なければいけないのは、当然だ。
有紀は一階に降りる。階段を降る途中でガムを口に放り込む。
落ち着け。足が止まる。階下に行く足が止まったのだ。
――危険を冒してまでやる意味があるのか?
自問自答する。
息を吸い込み頭の中で状況を整理する。
妊婦のようなゾンビがいた。
正確には、両脚はパイプ爆弾で吹っ飛ばした後で「妊婦のような腹」をしていることに気づいた。
何故か、ムカムカして「AK-47」で頭をぶち抜いた。
数日後――
膨らんでいた腹が凹んでいるのを確認したわけだ。
なんとも、不気味で気になることだった。
そもそも、ゾンビが溢れる世界で、赤ん坊のゾンビが生まれたとしても――
大して状況は変わらないかもしれない。なんとも、薄気味悪い話ではあるけれども。
――やっぱり確認したい。
気持ちは決まった。
「妊婦のゾンビ」をしっかり調べたい。
一階に降りた。
ベルトには予備弾倉を挟み込んである。
念のため鉄パイプ爆弾も三発もっている。
ゾンビを調べるのだからそれなりの準備も必要だ。
有紀は雨合羽とレインパンツを身につける。
ビニール製の薄い使い捨て手袋もはめる。
マスクをして、薄い色のサングラスをした。
ゾンビの血液や肉片に直接触れないようにするためだった。
未知の細菌やウィルスだけではなく、普通の腐敗細菌であっても、危険はある。
ホームセンターの一般出入り口のシャッターを二〇センチほど持ち上げる。
「AK-47」をいつもの単射ではなく連射に切り替える。
「あ~ いるなぁ。結構いるいる……」
低い視界に無数のゾンビが映る。なんの法則性も見出せない動きで徘徊を続けている。
このまま、外に出たらかなり危険なのは考えるまでもなかった。
有紀は鉄パイプ爆弾の導火線に火をつけた。
間髪入れず、シャッターの隙間から外へ勢い良く投げた。
コン、コン、とコンクリートの上を跳ねていく鉄パイプ爆弾。
シャッターを閉じて、耳を塞ぐ。
心の中でカウントダウン。
固形化した空気の塊がシャッターに叩きつけられる。
耳を塞いでいても、ビリビリとした空気の振動が感じられた。
硝酸アンモニウムが化学変化を起こし爆轟。エネルギーを放出したのだ。
ゆっくりと、シャッターを開けると焦げ臭い匂いが流れ込んでくる。
視界内のゾンビは倒れ、足掻くようにして蠢いているのが多数。
爆発で完全に斃された物もいるようだ。
とにかく、空隙ができていた。
有紀はシャッタを勢い良く上げると外に飛び出した。
同時にこちらを向いたゾンビ――まだ動いている――に銃口を向けた。
引き金を引く。
毎分六〇〇発のレートでたたき出される7.62×39ミリ弾。
なぎ払うようにして、ゾンビを打ち倒す。反動で銃身が浮くのをなんとか堪える。
生白い肌が弾け、どす赤い血肉が吹き飛んでいく。
五秒足らずで弾倉は空っぽになる。
――落ち着け。
有紀は自分に言い聞かせながら、弾倉を交換した。カチャカチャと音をたてるだけで中々嵌らない。
焦っているからだ。
ガチッと嵌った。誰でも使えるという前評判の割りに「AK-47」の弾倉交換にはコツがいった。
思いの他の速度で突っ込んでくるゾンビがいた。
銃口を向け、引き金を引く。火を吹く「AK-47」。
血の詰まったバルーンが爆ぜるように、ゾンビの頭部が吹っ飛んだ。
有紀は走った。
とにかく全力で。
ひっくり返った「妊婦ゾンビ」の腕を掴む。
手袋越しでも、ぬるりとした感触が伝わってきた。
寒気がする。
強引に引っ張ると、濡れた紙のように、皮膚が引き千切れそうな感じがした。
それでも、のんびりはしていられない。
両脚と頭部の殆どを失った「妊婦ゾンビ」は軽いといえば軽かったかもしれない。
有紀は「妊婦ゾンビ」を引きずって、ホームセンターの中に転がり込む。
獲物も中に引きずり込む。
追ってきたゾンビどもに「AK-47」で一連射を叩き込む。
血肉の煙を上げて、ゾンビが斃れていく。死の上に死が上書きされ重なり合う。
シャッターを乱暴に閉めた。消魂しい音を発しシャッターが降りた。
突撃してきたゾンビがガシャ、ガシャとシャッターを掻き毟る。
「はぁぁぁ~ しんどかったぁ」
視界に入った人間を襲ってくるという定番ともいえる攻撃性を見せるゾンビ。
逆に言えば視界に入らなければ、人間に対して無頓着とも言えた。
シャッターを叩く音は、やがて止んだ。
――こいつを確認しないと
血まみれの上に、爆発に巻き込まれボロクズのようになった服。
やはり、腹は凹んでいた。
蹴りをいれて、横向きの体勢から腹を上にしてみた。
AK-47の銃身を使って、服を剥がした。
ボロボロの服は簡単に剥がれた。
「うわッ…… なにこれ」
有紀は息を飲んだ。
鋭利な刃物で削ぎ取られたかのように、腹の肉がなくなっていた。
まるで「キャトルミューティレーション」のようだった。
異星人が家畜(主に牛)の体の一部を削ぎ取ったものと話題になった物だ。
なんの目的で地球まで来てそんなことをするのは知らないが。
ただ、この件は野犬などが家畜を襲ったということで反証がなされていたはずだった。
――ここでは野犬なんてみたことないけど。
ゾンビを見やる。
出産したというような形跡は見つからない。
「はぁ、無駄だったかぁ…… でもなんだろう」
ずっとゾンビを眺めている気もなかった。
シャッターを少し空け、そこから「ゾンビの死体」を蹴り出した。
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