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4.夜間進撃
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鋼の唸りが地獄の底に響く。
「撃て! 撃て!」
目標を指示している暇など無い。
土方は砲塔内のペリスコープを覗き吼えた。
前方機銃手の肩に蹴りをいれる。
右肩、左肩で方向を指示していたのだ。
ソ連兵は「ウラー」の叫びとともに突っ込んでくる。
T-34中戦車がまるで督戦するかのように歩兵の後を走る。
鋼の槍衾、火箭に捉えられ、共産主義者が赤い血を噴出し斃れていく。
骸となった戦場労働者だった者の群れ。
「ロスケどもが、撃っても撃ってもきやがる」
歩兵の数では圧倒的にソ連が有利だった。
勇敢さを超越した、イデオロギーの狂気に彩られた共産主義者の群。
何をもってしても止まることはなかった。
鋼鉄の驟雨を受けようともだ。
その先が地獄であろうとも――
そもそもソ連は地獄など認めないであろうが。
「接近を許すな」
歩兵を接近させてしまうことは、戦車にとって危険を冒すことになる。
戦車は陣地を突破し、トーチカを潰し、敵戦車を破壊することが目的の兵器だ。
特殊装甲に包まれた身体は無敵に思えるが、歩兵携行の兵器でも破壊可能だった。
そして戦車は死角の多い兵器だ。
だからこそ、歩兵との連携が必要だ。
それが崩れてしまえば、無抵抗にやられるだけだ。
帝国陸軍の決戦兵器たる「四式中戦車」はその足を止め、歩兵の盾となりながらソ連軍の反撃を支えていた。
旭川市外侵攻中に、有力なソ連師団と遭遇。
狂ったような――
大地を根こそぎ削るつもりかと思わせる重砲、ロケット弾《カチューシャ》
の攻撃を食らった。
それでも、後退することなく、現地を死守し、戦闘を続けていた。
いきなりの衝撃――
T-34の砲撃が砲塔を直撃した。
「被害なし! 撃て! 右40」
土方の命令により砲塔が旋回。
狙いを定めた高初速75ミリ弾が打ち出される。
音速の二倍以上の速度で空間を削り取り、ソ連製の装甲版を粉砕。
メタルジェットの奔流を車内に流し込んだ。
絶対死の一撃で、T-34は活動を停止した。
(くそ、味方は? どうなっている)
視界の悪いペリスコープから周囲を見る。
「くそがっ!」
後方で味方の一式中戦車が吹っ飛んだ。
砲塔が宙を舞い、玩具の車輪のように大地を転がる。
この距離では、一式中戦車の50ミリ装甲はなんら身の安全を担保してはくれなかった。
歩兵の放った八九式重擲弾筒だろうか、ソ連兵の蝟集する場所で炸裂した。
口径50ミリの歩兵が単独で携行できる軽迫撃砲は、被害半径10メートル近い。
一斉射撃を行えば、中隊レベルではアメリカ軍の投射弾量を超える。
「進め! 少しでも、少しでも、進むんだ!」
ギアの入る音が響き、ジーゼルの咆哮が鋼鉄を振るわせる。
マンガン合金のキャタピラが大地を削り、40トンを超える鋼の獣を前進させる。
戦車を鏃のように突き出した日本軍は、石狩川と平行に凍土の原野を突き進んでいた。
国家として存在の限界に達しようとした大日本帝国の繰り出した一撃――
それも最後の一撃であったかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
すでに日は落ち、急激に気温が下がっていた。
はく息に含まれた水分が真っ白な結晶となる。
この地にとっては薄いといえる積雪により周囲は明るい。
激戦でボロボロになった兵たちが、それでも明日に備え動き回っていた。
ソ連の支配する旭川市の防御体制はさすがに凄まじいものだった。
それでも――
なけなしの航空戦力、地上戦力をつぎ込んだ落日の帝国の反撃は、その支配地に楔を打ち込むことに成功していた。
すでに――
札幌市から函館市へ、函館市から本土へと民間人の退避が行われているはずだった。
「函館の地方人の退避はどうなっているんだ」
「特に連絡はありません」
「そうか」
無線を操作していた市村一等兵が答える。
「ひゃー、装甲板が凹んでますよ。土方中尉殿ぉ」
沖田軍曹が、砲塔を見つめ言った。
75ミリという過去の国産戦車に比し別格ともいえる装甲厚。
それでも、1000メートル内外からのT-34の76ミリ砲の直撃にはなんとか耐えられる。
ただ、距離をつめられたら分からない。
また、ソ連にはT-34以上の砲撃力をもった戦車も存在する。
ただ、極東までの輸送、山地が多く狭隘で運用環境が大陸とは異なる日本では十分な機動力を発揮できるとは思えなかった。
30トンの四式中戦車ですらギリギリなのであるから。
食事は乾麺棒で済ます。
簡単な整備を行い、残弾を確認する。
(まだいけるか……)
土方中尉は報告を聞き思う。
そして、一時間後――
土方中尉の四式中戦車と、その周囲を守る歩兵、工兵(一個分隊規模)は進撃を開始した。
「撃て! 撃て!」
目標を指示している暇など無い。
土方は砲塔内のペリスコープを覗き吼えた。
前方機銃手の肩に蹴りをいれる。
右肩、左肩で方向を指示していたのだ。
ソ連兵は「ウラー」の叫びとともに突っ込んでくる。
T-34中戦車がまるで督戦するかのように歩兵の後を走る。
鋼の槍衾、火箭に捉えられ、共産主義者が赤い血を噴出し斃れていく。
骸となった戦場労働者だった者の群れ。
「ロスケどもが、撃っても撃ってもきやがる」
歩兵の数では圧倒的にソ連が有利だった。
勇敢さを超越した、イデオロギーの狂気に彩られた共産主義者の群。
何をもってしても止まることはなかった。
鋼鉄の驟雨を受けようともだ。
その先が地獄であろうとも――
そもそもソ連は地獄など認めないであろうが。
「接近を許すな」
歩兵を接近させてしまうことは、戦車にとって危険を冒すことになる。
戦車は陣地を突破し、トーチカを潰し、敵戦車を破壊することが目的の兵器だ。
特殊装甲に包まれた身体は無敵に思えるが、歩兵携行の兵器でも破壊可能だった。
そして戦車は死角の多い兵器だ。
だからこそ、歩兵との連携が必要だ。
それが崩れてしまえば、無抵抗にやられるだけだ。
帝国陸軍の決戦兵器たる「四式中戦車」はその足を止め、歩兵の盾となりながらソ連軍の反撃を支えていた。
旭川市外侵攻中に、有力なソ連師団と遭遇。
狂ったような――
大地を根こそぎ削るつもりかと思わせる重砲、ロケット弾《カチューシャ》
の攻撃を食らった。
それでも、後退することなく、現地を死守し、戦闘を続けていた。
いきなりの衝撃――
T-34の砲撃が砲塔を直撃した。
「被害なし! 撃て! 右40」
土方の命令により砲塔が旋回。
狙いを定めた高初速75ミリ弾が打ち出される。
音速の二倍以上の速度で空間を削り取り、ソ連製の装甲版を粉砕。
メタルジェットの奔流を車内に流し込んだ。
絶対死の一撃で、T-34は活動を停止した。
(くそ、味方は? どうなっている)
視界の悪いペリスコープから周囲を見る。
「くそがっ!」
後方で味方の一式中戦車が吹っ飛んだ。
砲塔が宙を舞い、玩具の車輪のように大地を転がる。
この距離では、一式中戦車の50ミリ装甲はなんら身の安全を担保してはくれなかった。
歩兵の放った八九式重擲弾筒だろうか、ソ連兵の蝟集する場所で炸裂した。
口径50ミリの歩兵が単独で携行できる軽迫撃砲は、被害半径10メートル近い。
一斉射撃を行えば、中隊レベルではアメリカ軍の投射弾量を超える。
「進め! 少しでも、少しでも、進むんだ!」
ギアの入る音が響き、ジーゼルの咆哮が鋼鉄を振るわせる。
マンガン合金のキャタピラが大地を削り、40トンを超える鋼の獣を前進させる。
戦車を鏃のように突き出した日本軍は、石狩川と平行に凍土の原野を突き進んでいた。
国家として存在の限界に達しようとした大日本帝国の繰り出した一撃――
それも最後の一撃であったかもしれない。
◇◇◇◇◇◇
すでに日は落ち、急激に気温が下がっていた。
はく息に含まれた水分が真っ白な結晶となる。
この地にとっては薄いといえる積雪により周囲は明るい。
激戦でボロボロになった兵たちが、それでも明日に備え動き回っていた。
ソ連の支配する旭川市の防御体制はさすがに凄まじいものだった。
それでも――
なけなしの航空戦力、地上戦力をつぎ込んだ落日の帝国の反撃は、その支配地に楔を打ち込むことに成功していた。
すでに――
札幌市から函館市へ、函館市から本土へと民間人の退避が行われているはずだった。
「函館の地方人の退避はどうなっているんだ」
「特に連絡はありません」
「そうか」
無線を操作していた市村一等兵が答える。
「ひゃー、装甲板が凹んでますよ。土方中尉殿ぉ」
沖田軍曹が、砲塔を見つめ言った。
75ミリという過去の国産戦車に比し別格ともいえる装甲厚。
それでも、1000メートル内外からのT-34の76ミリ砲の直撃にはなんとか耐えられる。
ただ、距離をつめられたら分からない。
また、ソ連にはT-34以上の砲撃力をもった戦車も存在する。
ただ、極東までの輸送、山地が多く狭隘で運用環境が大陸とは異なる日本では十分な機動力を発揮できるとは思えなかった。
30トンの四式中戦車ですらギリギリなのであるから。
食事は乾麺棒で済ます。
簡単な整備を行い、残弾を確認する。
(まだいけるか……)
土方中尉は報告を聞き思う。
そして、一時間後――
土方中尉の四式中戦車と、その周囲を守る歩兵、工兵(一個分隊規模)は進撃を開始した。
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