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その2:セーラー服に黒のロングニーソ。絶対領域確保だ――

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 魔法使いと名乗った女は俺を見やって言った。
「玉の輿、乗りたくないのかい?」

 誘うような、甘美な響きを持った言葉であった。

「いいね。乗りたいね。だけど、それは俺の力でだ。このシンデレラの魅力と力で勝ち取る物だよ」
 俺は言った。

「いいねぇ、アンタいいよ。そんなアンタだからこそ、私の魔法をかけてみたくなるね」
「ほう、魔法ね。いいぜ、いつでもかけてみればいい」
「そうかい」
「そうだよ」
 
 俺と魔法使いは言葉のやりとりをしながらも、ポジショニングを気にしていた。
 俺が間合いを詰めると、魔法使いは間合いを空ける。
 俺は、魔法使いと名乗った相手に対し、遠い間合いからの攻撃を想定していた。

 血破・覇極流――
 500年の不敗の歴史に加え、俺はいかなる敵との戦いも想定していた。
 いきなり、異世界に転生して魔物や魔法相手に戦うことも想定内であった。
 それだけではない。
 UMA、エイリアン、サイボーグ、超能力者――
 人の想像力の働く範疇、その全て想定した全方位格闘術である。
 それが、血破・覇極流なのだ。
 その正統後継者がこの俺だ。

「いいのかい? 始まっちまうぜ」
 呼気と共に、俺はつぶやくように言った。

「いや、もう始まっているよ――」
 魔法使いは言った。
 
 すっと間合いを詰めた俺の足元が青白く光る。

 魔法陣――

「バカがぁぁぁ!!!! かかったな、魔法トラップ。ドレスアップ!!!!」
 
 俺の来ていた白いボロボロの服が原子レベルで分解した。そしてフォトンの尾を引きながら再構成していく。
 光りのドレスであった。
 まばゆい光に俺はつつまれた。

「どうだい? 魔法は? 女子力が15アップしたよ」
 睦事をつぶやくように魔法使いが言った。
 声音には欲情の色が見えた。
 シンデレラである俺の魅力は、女も狂わせるのか――
 
 たしかに、俺は見事なドレスにくるまれ、女っぷりがアップした。
 女子力15ポイントのアップも感じる。
 確かに、いい。 
 うん、悪くは無い。

 ただね、それでどうなんだという思いがあった。

 元々、俺はシンデレラなんだよ――
 言っちゃ悪いが、超美少女だ。
 
 アメ公のアニメ絵で想像してはいけない。
 舞浜の電飾パレードのコスプレでもない。

 別だ――
 もっと美しい。

 凄まじい美少女なのだ。俺は鏡で自分を見て、自分が大好きになった。
 サラサラした金髪、コバルトブルーの青い目。おおきな瞳。長いまつ毛。
 透き通るような白い肌。滑らかでいて瑞々しい美少女の柔肌である。
 大きな胸、くびれたウエスト。すっと伸びた腕と脚。抜群のスタイルであった。
 
 美しい……
 超絶的に美しすぎる。

 う つ く し い

 最強の俺は転生して美しさまで手に入れてしまった。
 もう、どうにもならんのである。
 
 そして、美少女がボロボロの服を着ていることで、逆に「萌」があったかもしれない。
 今はその萌が喪失していた。
 今の煌びやかなドレスには、「萌」がなかった。
 
 美少女キャラの本質――
 それを理解していない。そういう種類の魔法であった。

 いまさら、15ポイント程度の女子力アップなど意味は無かった。
 アメ公的な大雑把な魔法である。

「こんな、派手なドレスでどうするんだい?」
「王子に愛されて、玉の輿に乗るんだろ? 私の魔法で王子はいちころだよ」
「ふーん、そうかい」
「そうだね」
「違うんじゃないかな?」
「ほおぅ、魔法使いの私に意見を言うのかい?」

 こぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!
 俺は、空手流の息吹を行った。
 体の中に気を取り込む。そして、気を練り上げる。
 練り上げた気を体の中でさらに精錬する。

 ボン!!!

 爆ぜた。
 ドレスである。
 光りのドレスは粉々に爆ぜた。
 下着も吹き飛んだ。
 長いサラサラの金髪が風に舞った。

 俺であるところのシンデレラは、素っ裸になった。
 そして、魔法使いの前に立った。

「どうだい? どんなドレスよりもまぶしいだろ?」

 俺は若く美しい肢体を魔法使いに晒したのである。

 シンデレラの体は芸術品といっていい完成度であった。
 美の極限である。3次元でもやるときはやるのである。

 魔法使いはアホウのような表情で俺の裸に釘付けになっていた。
 当然である。
 シンデレラだから。

 俺は、500年無敗の格闘技「血破・覇極流」の正統継承者である。
 超無敵であるが、俺は童貞だった。

 俺が転生してまず最初にやったこと。 

 それは、自分の体を色々いじくりまわすことであった。
 シンデレラの体。
 凄いね! 女の体!
 夢のようであった。
 俺はシンデレラに転生したことには満足していたのだ。
 これも、悪くないのである。

 シンデレラに転生した俺。

 基本、闘ってばかりで、女には縁が無い生活をしていたのだ。
 性欲はあった。人一倍あった。
 ビール瓶の口に差し込んで、一気に膨張させる。
 一瞬でビール瓶を破砕する。
 そのようなことも可能な童貞力を持っていた。

 清い体であったのだ。
 当然、理由はある。

 その理由まず1だ。
 まず、金でどうこう出来る女は嫌だった。そんな初体験は嫌だった。
 そして、ブスは嫌いだ。
 近くで息をするもの禁止したいくらい。空気が汚染される。
 俺の間合いに入ったブスは無条件で殴ることにしていた。
 
 みんな、なぐり殺してやりたかった。殺せばよかった。
 地球環境が浄化できたはずである。

 地球にやさしい格闘家でありたかったのである。

 そして理由の2だ。
 最強の俺の初体験には、それにふさわしい女の子でなければいけないのである。
 当然、処女である。
 初潮は来ていてもいい。俺はロリコンではないのだ。
 人妻や、お姉さんの教えてあげるシチュエーションも、悪くは無い。
 確かに悪くは無いのだが、やはり処女がよかった。
 そこは、最強の俺としては譲れぬ一線であったのだ。

 そして、俺は相手が処女かどうか見抜くことができた。
「血破・覇極流」奥義、視姦光殺法である。
 この技で、処女で無い女は死ぬ。
 即死である。
 ビッチ死すべしであった。俺は全方位的に正しく正義であった。しかも最強である。

 まあいい。
 シンデレラになった今。童貞であったとか、童貞でなかったとか意味が無い。
 今は女である。
 王子の玉の輿に乗る事。それが一番の目標だ。そのためには手段は選ばぬ。
 俺には覚悟と決意があったのである。

 そして、俺は証明しなければならないのである。

 俺の最強を――
 俺の不敗を――
 血破・覇極流の不敗の歴史を、その伝説を――

 相手が魔法使いであっても引くわけにはいかないのである。
 血破・覇極流に、撤退の二文字は無い。

 俺はシンデレラである。
 そして、シンデレラは何も身に着けない方が美しい。
 そもそも、美少女は着飾る必要はないのだ。
 裸、裸体、マッパ、それが最高である。

 王子だって、最終的には、シンデレラをマッパにすることが目的なのだ。
 なら、いいじゃないか?
 最初からマッパだ。
 それでいい。マッパで玉の輿だ。
 転生前の俺なら、確実にノーチェンジだ。
 いいね! シンデレラ!
 
「そんな、恰好で王子の前にでるのかい?」
 魔法使いが言った。

「まずいかい?」
「まずいね――」
「ほう、なんで?」
「裸だからね」
「裸はまずいかい?」
「いや、常識的にまずいね」
「そうかい」
「そうだね」

 俺は少し考えた。腕を組んで首をひねる。

 俺は服を着ることにした。
 よく考えてみたら、外は寒いのである。
 裸で出て行って風邪をひいたらまずい。
 玉の輿にのれなくなるのだ。
 格闘家にとって、健康管理は重要だ。

 しかし、煌びやかな光のドレスなど意味はない。
 過剰装飾である。
 贅沢な料理にはちみつをかける愚行だ。

「お前の魔法の力見せてほしいんだがね? 衣装を出してもらえるかい?」
「ほう」

「セーラー服に黒のロングニーソ。絶対領域確保だ――」
「はあ?」
「さらに、ネコ耳のカチューシャだな」
「はあ?」
「下着は水色シマシマ模様。それ以外は却下だ」

 シンデレラの美を強化する最強の装備である。
 対玉の輿決戦兵器の完成である。
 死角がない。
 完成してしまう。シンデレラが完成してしまう。
 さすが、俺である。

 黙って俺を見つめる魔法使い。
 そして、口を開く。

「お前、バカなのか?」

 魔法使いは俺にそう言った。
 その言葉が、夜気に混じり、部屋の中に溶け込んでいった。

 そう、既に日は落ち、夜となっていたのである――
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