魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

中七七三

文字の大きさ
上 下
41 / 41

40.〇〇よ、蒼穹を飛べ!

しおりを挟む
「私の無警告の斬撃(ざんげき)を軽くかわすし―― 師匠のお姉さんだって言ったんで……」
「お姉さまです。私はウェルガーの育ての親にして、お姉さまなのですから」

 新居の外、一緒にやってきたカターナとニュウリーンは言った。
 無警告であの大剣で斬りかかるカターナも大概だが、それを平然とかわす、ニュウリーンもどうかしている。
 いや、この狂気の変態サイコ師匠が、どうかしているのは、昔からだが。
 ウェルガーはそんなことを考えながら、やってきたふたりを見やった。

(この非常時に、クソめんどくさい奴が……)

「ウェルガー」
「はい、お姉さま」

 ニュウリーンの呼びかけに返事をするウェルガー。
 面倒くさいのでウェルガーは彼女が望んでいる「お姉さま」という呼び名を使う。
 長い黒髪を揺らし満足そうな表情を浮かべるニュウリーン。
 年齢不詳の飛び抜けた美貌の持ち主だが、その美貌の下は悪魔性と変態性と狂気がパンパンに詰まっている。

「アナタの嫁がいきなり斬りつけてきたときには、驚きました―― いつの間にか腕を上げていましたね……」
「嫁ってだれ?」
「え? この赤い髪をした…… 嫁では無かったのでしたっけ?」
「違います……」

 ウェルガーはそういうしかなかった。

 脳が半分以上溶けているのか?
 オマエは寝ると記憶が溶けてなくなるどこかの探偵さんですか?
 むしろ、老年性アルツハイマーではないかと疑念が浮かぶレベルのニュウリーンを見つめ、ウェルガーは思う。

「嫁じゃないよ、師匠の弟子。勇者ウェルガーの弟子だよ。お姉さん。さっきも言ったじゃん」
「そうでしたっけ?」

 カターナが斬りかかったあと、どんなやり取りがあったかは、分からないが、カターナとの会話も忘れているようだった。
 もはや、自分が自分でなくなることを恐れ、安楽死でもするような末期に近いんじゃないかと思った。
 
 ただ、カターナをウェルガーの嫁であるリルリルと勘違いした(どうすればそれが可能なのか不明だが)せいで、惨劇は防がれたようなのだった。
 もうそろそろ「種ぇぇぇ、種ぇぇぇ」とか妄言を吐きながら、「あいまい」になって徘徊するようになるんじゃないかとウェルガーは思う。

(この、トンデモない非常事態に……)

「しかし、ウェルガー」
「なんですか」
「殺気が2度―― 2度目は私の接近のせいですか…… 一度目はなんですか?」

 妖刀の刃が発する滑る光のような眼差しを向け、ニュウリーンは言った。
 そんな、普通の人間の感じないことは覚えている。そんな脳内の海馬がどんな状態になっているのか?
 ウェルガーは心底疑問に思う。

(説明するのかよ…… 仕方ねェか……)
 
「王国からの船が襲撃された、海上で――」
「え! 本当ですか!」

 一瞬、喜色を浮かべ、慌てて深刻な顔に切り替えたのをウェルガーは見逃さなかった。
 この師匠は、兇悪で変態で悪魔でサイコな上に、あいまいで記憶障害な凶状持ちなのだ。
 王宮付の賢者をボコボコにして、ウェルガーの力を解放できる方法をゲロさせ、アイテムを奪ってきたのだ。

(こんなとこで、時間を無駄にしている暇はないんだ!! マジでよぉぉぉ)

 ウェルガーは心の中で叫んだ。
 しかし、遠く離れた海上へ素早くいく方法が無いのも事実であり、どちらにせよ無情に時間は過ぎていくのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

「確かに途中で、この量を空中で補給をすれば、魔力の問題は解決します」
「飛べるのか」
「問題ありません。マイマスター」

 ウェルガー、ニュウリーン、カターナ、マリュオンは漁師たちの港に来ていた。
 港といっても、小型の漁船十数隻。そして悪党三人組から奪った船が、砂浜に引き上げられているだけの場所だ。

 ウェルガーは、リルリルには「ちょっと、仕事で出かけてくる」と言ってきてある。
 当然、柔らかいホッペへのスリスリと行ってきますの「ベロチュウ」はした。

 リルリルは「もぉぉ、激しすぎるのぉぉぉ~ らめぇぇ~」とキスが終わると蕩けた目で言った。
 ウェルガーにガチ惚れの10歳エルフの幼妻にベロチュウは、元の世界であれば犯罪行為。
 しかし、この世界では聖なる愛の行為であった。

 ウェルガーとリルリルは新婚でラブラブなので当然だった。

「ちょっと風がありますね。でも、追い風ですね」
 
 黒く長い髪をなびかせ、ニュウリーンが言った。
 視線は水平線の向こうに向けられている。 

「どうだ? マリュオン」
「時速91キロプラス大気速度になります。推定時速100キロ――」

 マリュオンには、元の世界の単位にする換算方法を教えた。
 彼女はその単位で回答した。

 転生しても、そっちの方がピンとくる。
 生きてる時間はここでは18年、向こうでは40年近いのだ。

「ウェルガーの旦那ぁ、食糧の積み込みは終わりましたが」
「すまない。代金はキチリに請求しておいてくれ」
「そんな、固てぇことは、いいでさぁ―― 水くせぇぜ、旦那」

 漁師をまとめる元締めの男はニッコリと笑って言った。
 手伝いに集まってきた他の漁師たちも頷いている。

 本当に、この島の人間は良い奴ばかりなのだとウェルガーは思う。

 人類は対魔族戦争に勝利したが、世界は大きな傷を負ったのだ。
 この島とて、食料を含め、物資が豊潤にあるわけではない。  
 その貴重な食料が、小型の漁船に詰み込まれていた。
 ひとりの人間が消費する一週間分くらいの食糧だ。
 
「悪いな……」

(しかし、魔力の供給は食事なのか…… 寝れば回復するというものではないのか。やはりゲームとは違うのだな)

 この世界もエネルギー保存の法則は生きている。
 魔力を発するエネルギー元は、食糧だった。
 要するに「魔力がなければ、ご飯を食べればいいじゃないですか」ということだ。

「船を抱えても飛べるってことだよな」
「そうです。魔力の供給さえあれば、小舟程度は問題ありません」
「頼もしいな…… オマエは…」

 なんか、最近、周囲に変なのばかり集まるなぁと思っていたウェルガーだった。
 このマリュオンに対しても「変な奴」のひとりだったのだ。
 しかし、それが「頼もしい魔法使い」へとクラスチェンジした。
 ウェルガーの心の中でだ。

「早く行こうぜ! 師匠ぉぉ!」
 
 すでに漁船に乗りこんだ、カターナが言った。
 真紅の長い髪が大きく風の中で揺れていた。

「そうですね。行きましょう。ウェルガー。一刻も無駄にできません」

 ニュウリーンが、風の中で乱れる長い髪を押さえて言った。
 なんで、彼女が一緒に行くと言いだしたのか、よく分からない。
 
(王国の関係者が溺れていたら、助ける代わりに取り引きでもする気なのか…… 記憶力は壊滅的だが狡い知恵だけは回りやがるからなぁ)

 そもそも、このアイデアを思い付いたのは、ニュウリーンだった。
 だから「狡い知恵」と彼女のことを悪くいうのもちょっと躊躇われる部分もある。

 ニュウリーンは勇者の育成を王国に任せられているだけに、魔法、錬金術に関する知識もあった。
 そして、マリュオンが魔法使いだと知ると、この考えを提案したのだ。
 そしてそれは、マリュオンの魔力なら可能なことだった。

 ニュウリーンは『食料を搭載した船を抱えて、飛べばいいのです。その娘(こ)の魔力は食料で回復します。更に船があれば、現地での救出に使えます』と言ったのだ。
 
 こうやってときどき正気になって、頼りになるだけに、ウェルガーはこの師匠をどうにも憎めない。
 恐怖心とぬぐいきれないトラウマはあるが。

(頼りにはなるが…… せめて変態じゃなければなぁ……)
 
 ウェルガーは心の底からそう思った。
 
 彼を勇者にしてくれた師匠であることは間違いない。
 恐怖と残虐性と嗜虐に彩られた育て方にしてもだ。
「小さな少年」に向ける特殊性癖の変態性だけは、勇者修行とは無関係だったとしても。

 今のところ島の少年の親から子どもが性的イタズラを受けたとか、痴女が出現したとかの報告は無い。しかし、安心はできない。

(いや、とにかく今は、船だ。ラシャーラだ!)

 ウェルガーは気持ちを切り替え、自分も漁船に乗りこんだ。
 胸の奥底から不安、心配、 憂患、憂慮、懸念とまるで、ネットで「不安」の類義語を調べたかのような言葉が浮かび上がる。
 心がざわめくような思い。それを抑え込む。

(大丈夫―― 俺は無敵無双。俺は無敵なり。俺の前に不可能など無い――)

「行け!! マリュオン!! 船持って飛べ!!」
「イエス! マイマスター」

 帆をはっていないマストの先端にマリュオンはチョコンと立っていた。
 魔力で船を包み込み、持ち上げ空を飛ばすためにだ。

 ふわりと漁船が動いた。視界が上がっていくのが分かる。
 
「すげぇぇ、さすが、勇者の旦那だぜぇ――」
 
 集まっている漁師たちが歓声を上げた。

 響く歓声に押し上げられるかのように漁船は蒼穹に浮かび上がっていく。
 そして、沖に向け徐々に加速を開始する。 
 時速91キロ+追い風の流れにのった漁船が青い空を突き抜けていく。
 
「マリュオン!! 全速だ!!」
「イエス! マイマスター!」

 普段は抑揚や感情を一切見せないマリュオンの声。
 今は「昂り」のような感情が混じっているかのように聞こえた。

 魔力に包まれたぐんぐんと加速する。
 舳先に身を乗り出したウェルガーの顔に台風のような風が叩きつけられている。
 時速91キロなら、風速30メートルはあるわけだ。

「無事でいろよ―― ラシャーラ……」

 風の中、ウェルガーはその思いを口にしていた。
しおりを挟む
第11回恋愛小説大賞にノミネート中です
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
面白いと思ったら、投票してくれるとうれしいです!こっちのお話も頑張ります!

↓ツギクルさんへのリンクです
ツギクルバナー

WEB小説執筆や書評(小説、漫画、一般書)などあれこれ書いています
ネット小説書きの戯言
よろしければどうぞ。
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

2021.11.26 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
2021.11.26 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
白面金毛九尾

まだ、3話しか読んでないですが、リルリル可愛いすぎですね。
俺も、こんな幼妻が欲しいです

解除

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。