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40.〇〇よ、蒼穹を飛べ!
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「私の無警告の斬撃(ざんげき)を軽くかわすし―― 師匠のお姉さんだって言ったんで……」
「お姉さまです。私はウェルガーの育ての親にして、お姉さまなのですから」
新居の外、一緒にやってきたカターナとニュウリーンは言った。
無警告であの大剣で斬りかかるカターナも大概だが、それを平然とかわす、ニュウリーンもどうかしている。
いや、この狂気の変態サイコ師匠が、どうかしているのは、昔からだが。
ウェルガーはそんなことを考えながら、やってきたふたりを見やった。
(この非常時に、クソめんどくさい奴が……)
「ウェルガー」
「はい、お姉さま」
ニュウリーンの呼びかけに返事をするウェルガー。
面倒くさいのでウェルガーは彼女が望んでいる「お姉さま」という呼び名を使う。
長い黒髪を揺らし満足そうな表情を浮かべるニュウリーン。
年齢不詳の飛び抜けた美貌の持ち主だが、その美貌の下は悪魔性と変態性と狂気がパンパンに詰まっている。
「アナタの嫁がいきなり斬りつけてきたときには、驚きました―― いつの間にか腕を上げていましたね……」
「嫁ってだれ?」
「え? この赤い髪をした…… 嫁では無かったのでしたっけ?」
「違います……」
ウェルガーはそういうしかなかった。
脳が半分以上溶けているのか?
オマエは寝ると記憶が溶けてなくなるどこかの探偵さんですか?
むしろ、老年性アルツハイマーではないかと疑念が浮かぶレベルのニュウリーンを見つめ、ウェルガーは思う。
「嫁じゃないよ、師匠の弟子。勇者ウェルガーの弟子だよ。お姉さん。さっきも言ったじゃん」
「そうでしたっけ?」
カターナが斬りかかったあと、どんなやり取りがあったかは、分からないが、カターナとの会話も忘れているようだった。
もはや、自分が自分でなくなることを恐れ、安楽死でもするような末期に近いんじゃないかと思った。
ただ、カターナをウェルガーの嫁であるリルリルと勘違いした(どうすればそれが可能なのか不明だが)せいで、惨劇は防がれたようなのだった。
もうそろそろ「種ぇぇぇ、種ぇぇぇ」とか妄言を吐きながら、「あいまい」になって徘徊するようになるんじゃないかとウェルガーは思う。
(この、トンデモない非常事態に……)
「しかし、ウェルガー」
「なんですか」
「殺気が2度―― 2度目は私の接近のせいですか…… 一度目はなんですか?」
妖刀の刃が発する滑る光のような眼差しを向け、ニュウリーンは言った。
そんな、普通の人間の感じないことは覚えている。そんな脳内の海馬がどんな状態になっているのか?
ウェルガーは心底疑問に思う。
(説明するのかよ…… 仕方ねェか……)
「王国からの船が襲撃された、海上で――」
「え! 本当ですか!」
一瞬、喜色を浮かべ、慌てて深刻な顔に切り替えたのをウェルガーは見逃さなかった。
この師匠は、兇悪で変態で悪魔でサイコな上に、あいまいで記憶障害な凶状持ちなのだ。
王宮付の賢者をボコボコにして、ウェルガーの力を解放できる方法をゲロさせ、アイテムを奪ってきたのだ。
(こんなとこで、時間を無駄にしている暇はないんだ!! マジでよぉぉぉ)
ウェルガーは心の中で叫んだ。
しかし、遠く離れた海上へ素早くいく方法が無いのも事実であり、どちらにせよ無情に時間は過ぎていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
「確かに途中で、この量を空中で補給をすれば、魔力の問題は解決します」
「飛べるのか」
「問題ありません。マイマスター」
ウェルガー、ニュウリーン、カターナ、マリュオンは漁師たちの港に来ていた。
港といっても、小型の漁船十数隻。そして悪党三人組から奪った船が、砂浜に引き上げられているだけの場所だ。
ウェルガーは、リルリルには「ちょっと、仕事で出かけてくる」と言ってきてある。
当然、柔らかいホッペへのスリスリと行ってきますの「ベロチュウ」はした。
リルリルは「もぉぉ、激しすぎるのぉぉぉ~ らめぇぇ~」とキスが終わると蕩けた目で言った。
ウェルガーにガチ惚れの10歳エルフの幼妻にベロチュウは、元の世界であれば犯罪行為。
しかし、この世界では聖なる愛の行為であった。
ウェルガーとリルリルは新婚でラブラブなので当然だった。
「ちょっと風がありますね。でも、追い風ですね」
黒く長い髪をなびかせ、ニュウリーンが言った。
視線は水平線の向こうに向けられている。
「どうだ? マリュオン」
「時速91キロプラス大気速度になります。推定時速100キロ――」
マリュオンには、元の世界の単位にする換算方法を教えた。
彼女はその単位で回答した。
転生しても、そっちの方がピンとくる。
生きてる時間はここでは18年、向こうでは40年近いのだ。
「ウェルガーの旦那ぁ、食糧の積み込みは終わりましたが」
「すまない。代金はキチリに請求しておいてくれ」
「そんな、固てぇことは、いいでさぁ―― 水くせぇぜ、旦那」
漁師をまとめる元締めの男はニッコリと笑って言った。
手伝いに集まってきた他の漁師たちも頷いている。
本当に、この島の人間は良い奴ばかりなのだとウェルガーは思う。
人類は対魔族戦争に勝利したが、世界は大きな傷を負ったのだ。
この島とて、食料を含め、物資が豊潤にあるわけではない。
その貴重な食料が、小型の漁船に詰み込まれていた。
ひとりの人間が消費する一週間分くらいの食糧だ。
「悪いな……」
(しかし、魔力の供給は食事なのか…… 寝れば回復するというものではないのか。やはりゲームとは違うのだな)
この世界もエネルギー保存の法則は生きている。
魔力を発するエネルギー元は、食糧だった。
要するに「魔力がなければ、ご飯を食べればいいじゃないですか」ということだ。
「船を抱えても飛べるってことだよな」
「そうです。魔力の供給さえあれば、小舟程度は問題ありません」
「頼もしいな…… オマエは…」
なんか、最近、周囲に変なのばかり集まるなぁと思っていたウェルガーだった。
このマリュオンに対しても「変な奴」のひとりだったのだ。
しかし、それが「頼もしい魔法使い」へとクラスチェンジした。
ウェルガーの心の中でだ。
「早く行こうぜ! 師匠ぉぉ!」
すでに漁船に乗りこんだ、カターナが言った。
真紅の長い髪が大きく風の中で揺れていた。
「そうですね。行きましょう。ウェルガー。一刻も無駄にできません」
ニュウリーンが、風の中で乱れる長い髪を押さえて言った。
なんで、彼女が一緒に行くと言いだしたのか、よく分からない。
(王国の関係者が溺れていたら、助ける代わりに取り引きでもする気なのか…… 記憶力は壊滅的だが狡い知恵だけは回りやがるからなぁ)
そもそも、このアイデアを思い付いたのは、ニュウリーンだった。
だから「狡い知恵」と彼女のことを悪くいうのもちょっと躊躇われる部分もある。
ニュウリーンは勇者の育成を王国に任せられているだけに、魔法、錬金術に関する知識もあった。
そして、マリュオンが魔法使いだと知ると、この考えを提案したのだ。
そしてそれは、マリュオンの魔力なら可能なことだった。
ニュウリーンは『食料を搭載した船を抱えて、飛べばいいのです。その娘(こ)の魔力は食料で回復します。更に船があれば、現地での救出に使えます』と言ったのだ。
こうやってときどき正気になって、頼りになるだけに、ウェルガーはこの師匠をどうにも憎めない。
恐怖心とぬぐいきれないトラウマはあるが。
(頼りにはなるが…… せめて変態じゃなければなぁ……)
ウェルガーは心の底からそう思った。
彼を勇者にしてくれた師匠であることは間違いない。
恐怖と残虐性と嗜虐に彩られた育て方にしてもだ。
「小さな少年」に向ける特殊性癖の変態性だけは、勇者修行とは無関係だったとしても。
今のところ島の少年の親から子どもが性的イタズラを受けたとか、痴女が出現したとかの報告は無い。しかし、安心はできない。
(いや、とにかく今は、船だ。ラシャーラだ!)
ウェルガーは気持ちを切り替え、自分も漁船に乗りこんだ。
胸の奥底から不安、心配、 憂患、憂慮、懸念とまるで、ネットで「不安」の類義語を調べたかのような言葉が浮かび上がる。
心がざわめくような思い。それを抑え込む。
(大丈夫―― 俺は無敵無双。俺は無敵なり。俺の前に不可能など無い――)
「行け!! マリュオン!! 船持って飛べ!!」
「イエス! マイマスター」
帆をはっていないマストの先端にマリュオンはチョコンと立っていた。
魔力で船を包み込み、持ち上げ空を飛ばすためにだ。
ふわりと漁船が動いた。視界が上がっていくのが分かる。
「すげぇぇ、さすが、勇者の旦那だぜぇ――」
集まっている漁師たちが歓声を上げた。
響く歓声に押し上げられるかのように漁船は蒼穹に浮かび上がっていく。
そして、沖に向け徐々に加速を開始する。
時速91キロ+追い風の流れにのった漁船が青い空を突き抜けていく。
「マリュオン!! 全速だ!!」
「イエス! マイマスター!」
普段は抑揚や感情を一切見せないマリュオンの声。
今は「昂り」のような感情が混じっているかのように聞こえた。
魔力に包まれたぐんぐんと加速する。
舳先に身を乗り出したウェルガーの顔に台風のような風が叩きつけられている。
時速91キロなら、風速30メートルはあるわけだ。
「無事でいろよ―― ラシャーラ……」
風の中、ウェルガーはその思いを口にしていた。
「お姉さまです。私はウェルガーの育ての親にして、お姉さまなのですから」
新居の外、一緒にやってきたカターナとニュウリーンは言った。
無警告であの大剣で斬りかかるカターナも大概だが、それを平然とかわす、ニュウリーンもどうかしている。
いや、この狂気の変態サイコ師匠が、どうかしているのは、昔からだが。
ウェルガーはそんなことを考えながら、やってきたふたりを見やった。
(この非常時に、クソめんどくさい奴が……)
「ウェルガー」
「はい、お姉さま」
ニュウリーンの呼びかけに返事をするウェルガー。
面倒くさいのでウェルガーは彼女が望んでいる「お姉さま」という呼び名を使う。
長い黒髪を揺らし満足そうな表情を浮かべるニュウリーン。
年齢不詳の飛び抜けた美貌の持ち主だが、その美貌の下は悪魔性と変態性と狂気がパンパンに詰まっている。
「アナタの嫁がいきなり斬りつけてきたときには、驚きました―― いつの間にか腕を上げていましたね……」
「嫁ってだれ?」
「え? この赤い髪をした…… 嫁では無かったのでしたっけ?」
「違います……」
ウェルガーはそういうしかなかった。
脳が半分以上溶けているのか?
オマエは寝ると記憶が溶けてなくなるどこかの探偵さんですか?
むしろ、老年性アルツハイマーではないかと疑念が浮かぶレベルのニュウリーンを見つめ、ウェルガーは思う。
「嫁じゃないよ、師匠の弟子。勇者ウェルガーの弟子だよ。お姉さん。さっきも言ったじゃん」
「そうでしたっけ?」
カターナが斬りかかったあと、どんなやり取りがあったかは、分からないが、カターナとの会話も忘れているようだった。
もはや、自分が自分でなくなることを恐れ、安楽死でもするような末期に近いんじゃないかと思った。
ただ、カターナをウェルガーの嫁であるリルリルと勘違いした(どうすればそれが可能なのか不明だが)せいで、惨劇は防がれたようなのだった。
もうそろそろ「種ぇぇぇ、種ぇぇぇ」とか妄言を吐きながら、「あいまい」になって徘徊するようになるんじゃないかとウェルガーは思う。
(この、トンデモない非常事態に……)
「しかし、ウェルガー」
「なんですか」
「殺気が2度―― 2度目は私の接近のせいですか…… 一度目はなんですか?」
妖刀の刃が発する滑る光のような眼差しを向け、ニュウリーンは言った。
そんな、普通の人間の感じないことは覚えている。そんな脳内の海馬がどんな状態になっているのか?
ウェルガーは心底疑問に思う。
(説明するのかよ…… 仕方ねェか……)
「王国からの船が襲撃された、海上で――」
「え! 本当ですか!」
一瞬、喜色を浮かべ、慌てて深刻な顔に切り替えたのをウェルガーは見逃さなかった。
この師匠は、兇悪で変態で悪魔でサイコな上に、あいまいで記憶障害な凶状持ちなのだ。
王宮付の賢者をボコボコにして、ウェルガーの力を解放できる方法をゲロさせ、アイテムを奪ってきたのだ。
(こんなとこで、時間を無駄にしている暇はないんだ!! マジでよぉぉぉ)
ウェルガーは心の中で叫んだ。
しかし、遠く離れた海上へ素早くいく方法が無いのも事実であり、どちらにせよ無情に時間は過ぎていくのだった。
◇◇◇◇◇◇
「確かに途中で、この量を空中で補給をすれば、魔力の問題は解決します」
「飛べるのか」
「問題ありません。マイマスター」
ウェルガー、ニュウリーン、カターナ、マリュオンは漁師たちの港に来ていた。
港といっても、小型の漁船十数隻。そして悪党三人組から奪った船が、砂浜に引き上げられているだけの場所だ。
ウェルガーは、リルリルには「ちょっと、仕事で出かけてくる」と言ってきてある。
当然、柔らかいホッペへのスリスリと行ってきますの「ベロチュウ」はした。
リルリルは「もぉぉ、激しすぎるのぉぉぉ~ らめぇぇ~」とキスが終わると蕩けた目で言った。
ウェルガーにガチ惚れの10歳エルフの幼妻にベロチュウは、元の世界であれば犯罪行為。
しかし、この世界では聖なる愛の行為であった。
ウェルガーとリルリルは新婚でラブラブなので当然だった。
「ちょっと風がありますね。でも、追い風ですね」
黒く長い髪をなびかせ、ニュウリーンが言った。
視線は水平線の向こうに向けられている。
「どうだ? マリュオン」
「時速91キロプラス大気速度になります。推定時速100キロ――」
マリュオンには、元の世界の単位にする換算方法を教えた。
彼女はその単位で回答した。
転生しても、そっちの方がピンとくる。
生きてる時間はここでは18年、向こうでは40年近いのだ。
「ウェルガーの旦那ぁ、食糧の積み込みは終わりましたが」
「すまない。代金はキチリに請求しておいてくれ」
「そんな、固てぇことは、いいでさぁ―― 水くせぇぜ、旦那」
漁師をまとめる元締めの男はニッコリと笑って言った。
手伝いに集まってきた他の漁師たちも頷いている。
本当に、この島の人間は良い奴ばかりなのだとウェルガーは思う。
人類は対魔族戦争に勝利したが、世界は大きな傷を負ったのだ。
この島とて、食料を含め、物資が豊潤にあるわけではない。
その貴重な食料が、小型の漁船に詰み込まれていた。
ひとりの人間が消費する一週間分くらいの食糧だ。
「悪いな……」
(しかし、魔力の供給は食事なのか…… 寝れば回復するというものではないのか。やはりゲームとは違うのだな)
この世界もエネルギー保存の法則は生きている。
魔力を発するエネルギー元は、食糧だった。
要するに「魔力がなければ、ご飯を食べればいいじゃないですか」ということだ。
「船を抱えても飛べるってことだよな」
「そうです。魔力の供給さえあれば、小舟程度は問題ありません」
「頼もしいな…… オマエは…」
なんか、最近、周囲に変なのばかり集まるなぁと思っていたウェルガーだった。
このマリュオンに対しても「変な奴」のひとりだったのだ。
しかし、それが「頼もしい魔法使い」へとクラスチェンジした。
ウェルガーの心の中でだ。
「早く行こうぜ! 師匠ぉぉ!」
すでに漁船に乗りこんだ、カターナが言った。
真紅の長い髪が大きく風の中で揺れていた。
「そうですね。行きましょう。ウェルガー。一刻も無駄にできません」
ニュウリーンが、風の中で乱れる長い髪を押さえて言った。
なんで、彼女が一緒に行くと言いだしたのか、よく分からない。
(王国の関係者が溺れていたら、助ける代わりに取り引きでもする気なのか…… 記憶力は壊滅的だが狡い知恵だけは回りやがるからなぁ)
そもそも、このアイデアを思い付いたのは、ニュウリーンだった。
だから「狡い知恵」と彼女のことを悪くいうのもちょっと躊躇われる部分もある。
ニュウリーンは勇者の育成を王国に任せられているだけに、魔法、錬金術に関する知識もあった。
そして、マリュオンが魔法使いだと知ると、この考えを提案したのだ。
そしてそれは、マリュオンの魔力なら可能なことだった。
ニュウリーンは『食料を搭載した船を抱えて、飛べばいいのです。その娘(こ)の魔力は食料で回復します。更に船があれば、現地での救出に使えます』と言ったのだ。
こうやってときどき正気になって、頼りになるだけに、ウェルガーはこの師匠をどうにも憎めない。
恐怖心とぬぐいきれないトラウマはあるが。
(頼りにはなるが…… せめて変態じゃなければなぁ……)
ウェルガーは心の底からそう思った。
彼を勇者にしてくれた師匠であることは間違いない。
恐怖と残虐性と嗜虐に彩られた育て方にしてもだ。
「小さな少年」に向ける特殊性癖の変態性だけは、勇者修行とは無関係だったとしても。
今のところ島の少年の親から子どもが性的イタズラを受けたとか、痴女が出現したとかの報告は無い。しかし、安心はできない。
(いや、とにかく今は、船だ。ラシャーラだ!)
ウェルガーは気持ちを切り替え、自分も漁船に乗りこんだ。
胸の奥底から不安、心配、 憂患、憂慮、懸念とまるで、ネットで「不安」の類義語を調べたかのような言葉が浮かび上がる。
心がざわめくような思い。それを抑え込む。
(大丈夫―― 俺は無敵無双。俺は無敵なり。俺の前に不可能など無い――)
「行け!! マリュオン!! 船持って飛べ!!」
「イエス! マイマスター」
帆をはっていないマストの先端にマリュオンはチョコンと立っていた。
魔力で船を包み込み、持ち上げ空を飛ばすためにだ。
ふわりと漁船が動いた。視界が上がっていくのが分かる。
「すげぇぇ、さすが、勇者の旦那だぜぇ――」
集まっている漁師たちが歓声を上げた。
響く歓声に押し上げられるかのように漁船は蒼穹に浮かび上がっていく。
そして、沖に向け徐々に加速を開始する。
時速91キロ+追い風の流れにのった漁船が青い空を突き抜けていく。
「マリュオン!! 全速だ!!」
「イエス! マイマスター!」
普段は抑揚や感情を一切見せないマリュオンの声。
今は「昂り」のような感情が混じっているかのように聞こえた。
魔力に包まれたぐんぐんと加速する。
舳先に身を乗り出したウェルガーの顔に台風のような風が叩きつけられている。
時速91キロなら、風速30メートルはあるわけだ。
「無事でいろよ―― ラシャーラ……」
風の中、ウェルガーはその思いを口にしていた。
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