魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

中七七三

文字の大きさ
上 下
40 / 41

39.時速は91キロです

しおりを挟む
 まずはキッチンカウンターで、たっぷり水を飲まされた。木のお椀で三杯。一度に飲む量としては多過ぎる。三杯目を拒否しようとしたら、「俺に飲ませて欲しいのか?」とロルガが口の端を片方あげて、何かを企むような顔をしたので、あわてて流し込んだ。
 そして食糧庫へとむかった。
 ここに初めて入った時はひとりで、天井まで続く棚に納められた食料の多さに圧倒されたのを思い出す。ロルガとの二人暮らしで食料はだいぶ減り、中にはもう何もない段もある。
「なんで食糧庫なの?」
 いナントカ——俺の発音できない何かは正体不明だし、サウナに入るという話はどこにいったのか。困惑する俺をよそにロルガは楽しそうだ。
 ロルガの足なら、五歩もしないで突き当たりまでいけるはずなのに、なかなか進まない。転がっていたイモをサッカーのリフティングの要領で蹴り上げて棚に戻したり、目に入った蜂蜜の瓶を指で弾いたりと忙しない。
「さて、行くか」
 気が済んだらしいロルガが指差した先には初めて見る引き戸があった。いつもは薪が山積みになっている場所だ。ロルガが勢いよく戸を開けると、ぶるり、俺の体が震える。そこは外だった。
「え、え、えぇ~?」
 すぐ目の前には小さなログハウスが建っている。平屋の物置にしては立派なそれまでは三歩も行けば入れそうだが、道のりはもちろん雪が積もっている。腰布一枚で震えながら辺りを見回すと視界の端で何かが動いた。そちらに気を取られていたら、ロルガに後ろから背中を押され、右足が雪に触れた。
「つめたッ」
「なんだ、だらしない。これくらいで」
「だって!」
 振り向いて抗議しようとしたら、体がふわりと浮いた。まるでフィギュアスケーターがパートナーを持ち上げるように、ロルガは後ろから俺の腰を掴んだ。両足が空を蹴る。
「ひぇ……」
 ロルガだってターザンみたいな毛皮しかないのに、寒そうなそぶりは見せずに素足のまま雪の上を歩いた。
「開けろ」
 目の前のドアに手を伸ばすと、それだけで熱を感じる。開けると共に押し寄せる熱気に一瞬呼吸が止まった。確かに、サウナだ。鼻を通り抜ける匂いにベーコンが頭に浮かんだ。
 小屋の中の光源は、屋根の近くにある小さな明かりとりの窓から入る日差ししかないので、薄暗い。広さは四畳くらいだろうか。部屋の奥には煉瓦で組んだ腰ぐらいの高さの立方体があり、上には真っ黒な石が山のように積まれている。昔テレビで見た北欧の古いサウナにもそっくりなサウナストーブが出てきた。小窓の奥をみると真っ白な灰が積もっているからきっと同じ役目を果たすのだろう。
 ロルガは俺を抱き上げたまま壁に近寄り、階段状になった作り付けの腰掛けの前で止まった。
「初めてだから加減した。あまり熱くはしていないが、心配なら手前の下段が良い。奥の上に行くほど熱くなるがどこに座る?」
「じゃあ、……真ん中で」
 三段あるうちの二段目中央に下ろされると、熱い木の感触に息がもれる。ロルガは俺よりも熱源寄りの上段に腰を下ろした。俺の横に投げ出されたロルガの足が目に入る。筋肉の筋に沿って、早くも汗がたれた。気がつけば俺も鼻の頭に汗をかいている。
「あぁ、あつい……」
「そうか。無理はするな。熱すぎるなら一段下に座れば良い」
「うん。大丈夫。きもちいい」
 熱された空気に息を吸うにも慎重になる。懐かしい感覚を思い出しながら、細く、長く、ゆっくりと呼吸を繰り返す。自分の肌の上に浮いた汗がしずくとなって流れていくのを目で追っていた。
 体が熱に慣れ余裕が生まれてくると、ロルガの呼吸する音が聞こえてきた。自然とリズムが近づき、やがて重なる。ぱた、ぱた、と汗が垂れる音が加わり、互いのつばを飲み込む音さえわかる。鋭くなった神経が何かを感じ、振り返るとロルガと目が合った。軽く脚を開き、膝に腕を預けてこちらを見ている。表情はないが、瞳の奥で何かが燃えていた。
 今のロルガはむき出しだ、と思う。
 いつもは隠されている感情が顔を出していた。だけど、それが何かわからない。
 俺に向けられた感情の正体が知りたいが、恐ろしくもあった。知ったら、きっと何かが変わってしまう。そんな予感があった。
 恐々とためらいながらもロルガへと手を伸ばす。どうしたいのかもわからない無意識の行動だったが、ロルガはそれを待っていたかのように俺の手を取り、自分の座っている最上段へと引き上げた。
 熱に慣れたはずの体が再び悲鳴をあげる。また、一から呼吸を整えなければいけない。
 細く、長く、ゆっくりと。
 考えなくても、自分の体が導いてくれる。
 研ぎ澄まされていく感覚が捉えるのは、隣に座るロルガのことだった。言葉も交わさず、膝の上に座っているわけでもないが、自分の一部のように近く感じる。

 どれだけの時間が経ったのだろう。
「そろそろ出るか」
 ロルガに声をかけられた俺は両腕を広げる。何も言わなくても、当然のように抱き上げられて小屋を後にした。
しおりを挟む
第11回恋愛小説大賞にノミネート中です
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
面白いと思ったら、投票してくれるとうれしいです!こっちのお話も頑張ります!

↓ツギクルさんへのリンクです
ツギクルバナー

WEB小説執筆や書評(小説、漫画、一般書)などあれこれ書いています
ネット小説書きの戯言
よろしければどうぞ。
感想 12

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...