魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

中七七三

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31.自分は、お前のモノに成りに来た

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 三人で街から山の中の森に続く道を歩く。
 ウェルガーにとって、ラシャーラとの別れは寂しいものだった。
 それは事実だ。嘘偽りのない心だ。

 しかし「これで、リルリルとふたりきりで、遠慮なしでいちゃラブラブでエッチな生活だぁ~」という嬉しさもあった。
 そもそも、あれで遠慮していたのかという突っ込みは無粋だ。全ては主観の問題だ。

 人間は複雑な生き物であり、同時に相反する思いを抱くこともできる。
 で、ウェルガーは人外の身体能力を持つとはいえ人間である。それもかなり常識的な方に入ると本人は思っている。

「はは、すごいねぇ。山奥だ。なんか、故郷を思い出すよ」

 押しかけ弟子となったカターナは上機嫌だった。
 足取りも軽く「ルンルン」という感じだが、よく考えると兇悪な大剣を背負い「ルンルン」という比喩はどうかという感じもする。

「木の実とか、山菜もいっぱい獲れます」
「そうなんだ。一緒に獲りにいきたいなぁ。奥方様」
「はい、今度行きましょう」

 ラシャーラがいなくなった寂しさが、カターナの存在で少しだけ埋まっているのかもしれない。
 剣呑な雰囲気をまとっていたカターナもリルリルの前では優しげに語る。
 そんな、ふたりの様子をウェルガーは見つめる。

(リルリルの可愛さが無敵なのだろうなぁ。やはり――)

 もはや、答えはそれしかないのだ。
 自分の嫁であり、エルフの超絶美少女、リルリルはどんな人間の心も蕩かしてしまうのだろう。
 であれば――

 リルリルに夢中になり、彼女に溺れるように、いちゃラブエッチな生活をするのは当然だと、ウェルガーは思う。
 なぜなら、彼はリルリルを究極的に愛している夫であるからだ。
 己の愛で妻を包み込むのは当然だった。
 本当は「子作り行為」という最高の愛の行為をしたいのであるが、リルリルの身体の準備がまだなのだ。
 今は、その準備運動期間のようなものだ。

「んッ―― 人……」

 カターナが怪訝けげんな声で言った。

「どうしたのですか? カターナさん」
「奥方様、自宅は集落の中じゃなく、森の中の一軒家だろ?」

 奥方様と言いながら、完全にため口のカターナだった。
 リルリルもそれを全く気にしないどころか、喜んでいる感じすらある。

「不意に人の気配が、まるで空から降ってきたみたいだ……」

「ふーん。そうかぁ?」
 
 ウェルガーは言った。
 まあ、山の中に全く人がいないわけではない。
 伐採作業をしたり、魚を届けてくれたりする人がいる。
 
 ただ、そういった人たちは、空からいきなり降ってこない。絶対に。

「師匠は、気づきませんか?」

 ウェルガーは訊かれたが、その辺りの感覚は、かなり鈍っている。
 師匠のニュウリーンであれば、その危険な変態的サイコな気配をレーダー並みの遠距離から察知できる。
 リルリルが悲しんでいる時の気配であるなら人外レベルの距離から探知できることも証明済みだ。
 
 しかし、それ以外はどうにも、分かりはしないというのが、ウェルガーの現状だ。

「伐採している人が、家に立ち寄ったのかな? まあ、飛んでこないけど――」

「う~ん。不意に気配が上から下に移動したように感じたのですが……」

 師匠としてウェルガーにだけは一応、敬語で話すカターナだった。

「行ってみれば分かりますよ。お客さんかもしれません」

 リルリルはそう言うと、トトトトトと、小走りで走っていく。
 空からやってくる客というか、知人は少なくともウェルガーにはいない。
 多分、リルリルにもいないだろう。

「ちょっと、待ってリルリル。万が一のこともあるから、先に行っちゃだめだ」
「はーい!」
 
 ウェルガーを悶絶死させるかのようなかのような可愛い仕草で返事をするリルリル。
 素直で、優しく、可愛くて、愛らしくて、可憐で、美しいエルフの少女だ。

「では、ワタシが前で――」

 カターナが前、その次をウェルガー、後ろをリルリルが歩く。
 
(やべぇぇ! 後が気になるぅぅぅ!! 視界に! 視界にリルリルがいないとアカン!)

 安全のため、後ろにリルリルを回したが、視界に幼妻が入ってこない。
 ウェルガーは、それで精神がかき乱される。意外にもろい精神だった。

 キュッと細い指がウェルガーの服を掴んだ。
 
「リルリル」
「えへへ、アナタ、掴んじゃダメ?」

(良いに決まってんだろぉぉぉぉ!!)

 心で絶叫し、キュッと服を掴むリルリルの指の感触に神経を集中するウェルガーだった。
 そこから「リルリル成分」が身体の中に流れ込んでくるようだ。

「あれ? 人だ―― やっぱり」

「あ、女の子か……」

「え? 本当です。小さな子です」

 カターナ、ウェルガー、リルリルが順番に目に捉えたモノを言葉で表現した。
 つまり、家の前には、女の子が立っていたのだ。

 ポツーンと一人でだ。

 黒ずくめの服に、黒く尖った縁の大きな帽子をかぶっている。

(もう、見るからに、何者か分かる格好だな……)

 転生者であり、勇者でもあったウェルガーはこの格好をしている存在を知っていた。
 黒ずくめの格好で、尖がった縁の広い帽子をかぶった存在――

 魔法使い以外にありえない。

 ただ、知り合いに魔法使いがいるかといえばいない。
 少なくとも、この目の前の少女は、知り合いではなかった。

 黒ずくめの少女が、すっと歩を進め、近づいてきた。
 敵意とか殺気とか以前に、こちらが目に入っていないような無造作な動作だった。

「師匠―― 殺しますか? ぶち殺しますか?」

 ニィィッと笑みを浮かべ、小声で、恐ろしい許可を求める弟子のカターナ。
 リルリルには聞こえていないようだった。 

(オマエは、出会った人間をとりあえず、殺すんか!)

 ウェルガーは心で突っ込むが、口に出す気にはならない。
 バカバカしすぎる。

「何の用だい? ここは、俺の家なんだけど」

 ウェルガーは黒ずくめの少女に言った。
 すると、どこを見ているか分からなかった少女の視線がすっとウェルガーの方に向いた。
 まるで、機巧からくり細工のような動きだった。
 
(うひゃぁッ―― こりゃ、キレイな顔して……)

 ウェルガーは思った、キレイな顔。ただ、そこにはなんの感情も読み取れない。
 まるで、精緻に作りこまれた人形のような顔だった。
 美麗な顔というか、パーツのバランスの歪みが不自然なくらいに存在しない顔だ。

「アナタが、勇者ウェルガー?」

 黒ずくめの少女は顔を上げて言った。
 見た目のイメージそのままの、無感情で淡々とした声だった。

 帽子からは銀色の細い髪の毛がはみ出し、白い肌の上に重なっている。
 その肌の色も血が通ってないかのような白さだ。リルリルのような柔らかい白さとは違う硬質の白さだった。

 身長は一四〇センチのリルリルよりは、少し高い程度だろう。
 一五〇センチあるかどうかだ。

「そうだが? 君は?」
「マリュオン」

 彼女はそう名乗った。
 千切って捨てるような言い方だった。

「マリュオン? えっと…… 俺に用かな」
「自分は、お前のモノに成りに来た」
「はい?」
「自分は、お前のモノだ。好きにしろ。肉奴隷でも家畜でもなんでもよい」

 唐突な来訪者が、唐突で意味不明なことを言った。
 ウェルガーはその場で、言葉無く呆然とするしかなかった。
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