魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

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28.リルリル成分吸収

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「アナタぁぁ~」

 一瞬で空気が清浄になるかのような美しく可愛い声が響く。
 ウェルガーの全神経はその声の方向に集中される。
 
「リルリル!!」

 パタパタとリルリルが走ってきた。走る姿も可愛いらしい。超絶的だ。反論の余地などない。認めない。
 緩いウェイブを描く長い金髪をたなびかせ、長い耳を激しく振って駆けてくる。

 トンッ―― とウェルガーに体当たりしてくる。
 その心地よく、柔らかい衝撃で、脳が溶けそうになる。
 ウェルガーとリルリルは、新婚ラブラブ幸福シールドの中に入った。
 
「走って来たのか? リルリルゥゥ~ もう、好きすぎて、俺、ヤバいんだけどぉぉぉ~」

 ウェルガーはリルリルを抱きかかえ、ほっぺにスリスリする。
 材質解析不可能の柔らかさをもつ、彼女の肌が俺の肌と触れあう。
 それだけで、気分はヘブンである。

「もぉぉぉ♡、ラシャーラが見てるのぉぉぉ♡らめぇぇ、今はらめなのぉぉぉ♡~」

 彼女がいるのは当然だった。ラシャーラは今日来た船に乗るのだ。
 一端、アルデガルド王国に行って、諸々やらねばならぬことがある。

「ラシャーラ……」 
「まあ…… おかまいなく――」

 ウェルガーは、すっと優しくリルリルを降ろす。
 小さく可憐な一〇歳エルフの幼妻は「もう、アナタはぁぁ」と言いながらも長い耳をパタパタさせていた。
 ラシャーラは「毎度のことなので、もう慣れてますので」という苦笑を浮かべ、ふたりを見ていた。

「家のこととか、ラシャーラにお弁当作っていたら遅くなちゃった」

 リルリルは「えへへへ♡」と笑みを浮かべ、濃藍のうあいの瞳でウェルガーを見つめた。
 ただ、その笑みの中に、少しばかりの寂しさがあるのを夫であるウェルガーは感じだ。
 
「こんなにたくさん、いただいて」
「私の焼いたパンは日持ちするから、王国に着く間、お腹すいたらいつでも食べてね」
「はい。リルリルのパンはとっても美味しいですから」

 褐色肌をしたエルフは優雅な笑みを浮かべて答えた。

(あの硬いパンを、なぜ細いアゴをしたエルフは平気でポリポリ食べるんだ?)

 ウェルガーは思う。
 そして、ラシャーラを見やった。一つ一つの所作が確かに優雅に見えてくる。
 思えば、その所作は最初から身分のある者のものだったのだ。
 こうして、笑みを見ているとウェルガーはその思いを更に強くする。
 
(でも、似ているよなぁ―― 肌の色が違うけど……)

 ウェルガーは思う。
 自分の幼妻であるリルリルとラシャーラはよく似ている。
 肌の色は全く違うが、雰囲気や顔の作りなどは、姉妹のようだ。

 島の他の人間は「エルフはみんな綺麗だなぁ」のレベルだ。
 そもそもエルフの顔の見分けがつかないので、似ているのは当然だと思っているようだった。
 だから、誰も不思議には思わない。

「ラシャーラ様、今回の航海の付き添い、及びご案内をさせていただく、事務官アールにございます」
「ラシャーラ様、同じく事務官ベータにございます」

 ふたりの男がやってきて、うやうやしく頭を下げる。
 これ以上下げたら土下座しかないというくらいに頭を下げてる
 王族に対する正式な礼だ。

「頭をお上げください。堅苦しいのは好きではありませんので」

 彼女は見る者を、一発で魅了するような笑みを浮かべ言った。
 
「行っちゃうの……」

 ショボーンとした感じで、リルリルの長い耳がたれ下がる。
 濃藍の大きな瞳からは、今にも涙がこぼれそうだった。
 ウェルガーはそれを見て、自分の胸まで苦しくなる。心臓を万力に掛けられたかのような苦しさだ。
 リルリルの寂しそうな姿を見るだけで、それが一〇〇倍になってウェルガーに跳ね返ってくるかのようだった。

「大丈夫! すぐに戻ってくるんだ! なあ、ラシャーラ」
「ええ、そうですよ。リルリル、ちょっとの間ですから」

 そう言うラシャーラの長い耳もズルズルと下の方に下がっていく。
 リルリルのように幼くないラシャーラは、耳で感情があからさまにすることはあまりない。
 エルフも大人になってくるとそうなるのかと、ウェルガーは思っていた。
 それでも、強い感情は外に漏れだしてしまうのだ。

(あれ? 俺も…… なんだこれ…・・・ 泣いてる? 俺……)

 鬼畜・悪鬼の変態サイコ師匠の勇者修行を受けてすら、滅多に泣いたことすらない。
 そのウェルガーが自分の眼から何かが流れているのを感じていた。

(くそやべ…… リルリルの感情がぁぁぁ、俺に流れ込んできているんだぁぁぁ)

 ウェルガーは慌てて上を向き、顔をそむける。
 くしゃみで鼻と口を押さえる振りをした。

「潮風に当たりすぎて、目が痛くなったのかもしれんなぁ――」
「ふふ、そうですね……」
「ラシャーラァァァ~ やだよぉぉぉぉ。やっぱり、やだよぉぉぉ~」
 
 リルリルがトンと前に進み、ラシャーラの服を引っ張った。
 キュッとラシャーラがリルリルを抱きかかええた。

「すぐ戻りますから。アナタは勇者のお嫁さんなのですから、ちゃんとしないと――」
「れもぉぉぉ~」

 ウェルガーの前で、他の者が彼の幼妻であるリルリルを抱きかかえる。
 それは、その者の死を招くことと同意だ。

 しかし、例外はある――
 ラシャーラは例外だ。
 リルリルにとってはこの島で唯一のエルフの同族であり、友人であり、姉のような存在だったのだ。
 短い期間であったかもしれないが、心が惹き合うのに時間の長さなど関係ない。
 
「だ、大丈夫だからぁぁぁぁ、も、戻ってくるからぁぁぁ、リルリルゥゥゥ、泣かないでぇぇぇ、マジでぇぇぇ、えぐ、えぐ、えぐ、えぐ、えぐ、えぐ~」

 リルリルの哀しみに、ウェルガーの精神が耐えられそうになくなってきた。
 このままでは、己の心が崩壊するのではないかと、彼は思った。
 そこには、人類を救った最強無双の勇者のだった男の姿は無かった。
 ただ、滂沱ぼうだ)の涙を流し「えぐ、えぐ」と嗚咽を繰り返すだけの存在が立っていた。
 
 哀しんでいるリルリルをどうする事も出来ない――
 ウェルガーは、そんな無力な自分に涙するしかなかったのだ。

「え?、アナタ……」

 リルリルは振り返って、自分の夫を見やる。
 最強無双、人類の救世主であった勇者ウェルガー。そして今はリルリルの優しい最愛の夫だ。
 勇者を引退したとはいえ、その頼もしさはリルリルにとっては、変わらない。
 その彼がグズグズになって泣いていた。

 ラシャーラの腕がすっとリルリルから離れた。無言で「行きなさい」言っているかのようだった。
 ふたりのエルフの視線が絡み合う。ラシャーラの瞳が小さく頷いていた。
 
 リルリルはクルリと反転し、ウェルガーの胸に飛び込んでいく。
 ウェルガーはしゃがみこんで、幼妻をギュッと抱きしめた。 

「アナタも泣かないでぇぇぇ~」
「リルリルゥゥゥゥ~」
「アナタァァァァ~」

 今度は、夫婦二人が抱き合って泣きだした。

 ラシャーラは、そんなふたりを見て、少し悲しさ、寂しさが紛れてきたような気がした。
 自分のことをこんなに思ってくれる人がいる。

 彼女の心の中には幾分の「嬉しさ」すら生じていた。
 このふたりが、本当に好きなのだとラシャーラは思った。
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