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27.弟子入り志願の真紅の隻眼少女
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その漁師が聞いた少女の言葉は本当だった。
対魔族戦争の間、人類最後の砦となったアルデガルド王国。
その王国からの船が到着したのは正に太陽が真南に上がっているときだった。
魔族の攻撃で多くの船が破壊された中、奇跡的に残った大型船のひとつだ。
復興途上の王国にとっても、貴重な船と言える。
その船が月一回、この島に来航する。
その事実は、王国が忘恩の輩ではないということを証明していた。
人類、王国を救ったウェルガーの島に対する支援は続いていた。
船の大きさに比べ、頼りない桟橋であるが、そこに船は停泊する。
そして、次々と積み荷が降ろされていく。
ロープの先に網(モッコ)をつけ、人力でそれを下げて行く。
結構大変な作業だ。
「う~ん、動滑車とテコを使えば、デリッククレーンを作れないかな……」
頭の中におぼろげながら、こんな感じで造れそうな気がするという物は浮かぶ。
ただ、そんな物を造った経験は前世でもない。
(まあ、暇ができたら挑戦してみるか――)
今は、優先してやるべきことも多いのだ。
ウェルガーは妥当なところで、考えを落とし込んだ。
降ろされる積み荷は「小麦」「野菜」などの食料。
その他、島の開発に必要な「建設工具・部品」や生活に必要な「日用品」だ。
復興中の王国でもそれは、数多く余っているわけではない。
「数はしっかり確認すること。大事な物資だ。本国にだって余っているわけではないのだ」
島の実質的開発責任者であるキチリが物資管理の指揮をとっている。
彼は、自給出来るモノはなるべく島で自給すべきだと主張している。
ただ、小麦にしても、野菜にしても、収穫が本格化し自給できるのは、しばらく先になるだろう。
その代わり、この島からも王国に物資は送られている。
今は、バーター交換のような形で、物資が行き交いしているのだ。
島からは塩漬けにした魚を樽に詰めたもの。
そして、南の島に降り注ぐ日差しの強さを利用した塩田も作っている。
大した量ではないが「塩」も王国に送ってはいる。
今は明らかに、交易というよりは「援助」だ。
しかし、いずれは対等な交易ができるようになりたいとウェルガーは思っている。
それは、この島が豊かになるということであり、リルリルが幸せになるということもでもあるからだ
「今回の受け入れは五〇人だったかな」
「そうですね。まあ、あの連中をいれて八〇人の人口増加となりますが、問題はないでしょう」
連中とは、ラシャーラを誘拐しようとした船に乗っていた者たちだった。
生粋の悪人ではないとうことで、島に受け入れることになったのだ。
微々たるものであるが、戦争で故郷を失った者たち、その希望者の受け入れも行っている。
今回、島にやってきたのは五〇人ほどだ。
「住宅の建設は進んでおります。後は、職能に応じてなにをしてもらうかですが」
「もう、そのあたりは、キチリに任せるわ」
「期待に添えるように、尽力します。元勇者様――」
ニッと笑ってキチリが言った。
彼もまた、人類を救った元勇者ウェルガーに惹かれていた。
自分の力を評価し、自由裁量に任せてくれるのだ。こんないい上司はいない。
「ほら、行くぞ」
陸に続く桟橋、その陸地の方で声が聞こえた。
「もう、言われなくても、分かってるわよ」
「つったく、こんなギチギチに縛りやがって、服が皺になるぜ」
「姐さん、兄貴ぃ、俺らどうなるんだろうなぁ」
「さあどうかしら…… 縛り首かしらねぇ。火あぶりは嫌だわ……」
縄で上半身をグルグル巻きに縛られ、脚は歩ける程度に両足首が縄で繋がれている三人組だった。
前から股間を通して、後ろに縄が伸びている。
その縄を、島の人間が握っていた。
どうみても、逃げられる形には見えない。また、彼らも逃げる気は毛頭なさそうだった。
「ちょっといいか――」
「はい」
ウェルガーはキチリにそう言うと、三人組のところに小走りで寄って行った。
「なによ? 元勇者様? 別れの挨拶かしら」
カマーヌが悪党らしくない屈託のない笑みを浮かべながら言った。
「いや、訊きたいことが一つだけある」
ウェルガーは小さな声で言った。
カマーヌは「ん?」と不思議そうな顔をする。
もう、尋問は散々したはずだった。
「あの機械での通信はしたんだよな」
「したわよ。アイツラに言われた通りトン・ツー・トン・ツーでね」
それはすでに確認したことの繰り返しだった。
「この島でラシャーラを捕らえた後だよな」
「そうよ、それはもう言ったわよね」
「でだ、返信はなかったのか?」
「返信?」
カマーヌは小太りの男、デピッグを見やった。
「どうだったの? アンタでしょやってたの」
「ん~ 無かったと思うなぁ。ずっと耳当てしてたわけじゃないから、わかんねーけどさ」
「だってさ―― ま、この期に及んで、嘘はいってないわよ」
そう言って三人組は、桟橋を渡り船に向かって言った。
(最後に電波を発したのは、ラシャーラをこの島で捕獲したときだ―― モールス電波で位置の特定ができるのか?)
転生者とはいえ、電波の専門家ではない彼には分からない。
ただ、可能性は否定できない。
とにかく、この世界――
この異世界に、自分以外に転移してきた者がいることは確かだ。
そして、それが「ハーケンクロイツ」の旗印を持つ組織。
ドイツ第三帝国――
ナチス・ドイツという可能性が非常に高い。
どの時点のナチスなのか?
国家丸ごと転移してきたのか?
一部の組織が転移してきたのか?
本当に自分のいた世界のナチスなのか?
となると、七〇年以上も前の世界から来たのか?
偶然、同じ旗印の全く別の存在なのか?
今は、訳の分からんことだらけで、推測しかできない。
だが、確かなことが一つある。
ナチスらしき組織が、ラシャーラを狙っているということだ。
この島で捕獲したという連絡を受けたかもしれない。
しかし、その船が着かない――
(一応、警戒すべきこととして、王国には報告の書類を送ったが……)
魔族ではない未知の未知組織・国家が、この島の南東にあり、今回の事件の黒幕になっていること。
それは、王国に伝える。
しかし、王国は積極的には動かないだろうとは思う。
今、この世界の人類は対魔族戦争からの復興が第一優先だ。
エルフの王女を狙っているとはいえ、直接的な脅威の程度が不明な「謎の集団」に対し動く余裕はない。
とにかく、現状では、こちらからは積極的に動くことが出来ない。
しかしだ――
ウェルガーは思う。
既に己の心の中には、揺るがぬ決心はあるのだ。
(もし、この島にやって来るなら…… ボコボコにしてやる。徹底的にだ―― ナチスだろうが米軍だろうが関係ねェ)
近代兵器を備えたナチスであろうが、なんであろうが関係なかった。
リルリルと自分の「いちゃラブえっち三昧の生活」を邪魔する存在。
そして、リルリルを不幸にするような存在は、絶対に許さない。
そのときは、勇者の力一〇分の一を解放する。
そして、その相手を殲滅する。死にこましていいと思う。
それだけは彼の中で完全な決定事項であった。
「ねえ、もしかして、アナタが勇者ウェルガー」
ウェルガーが決心を固く決め、拳を握っているところに、いきなり声を掛けられた。
若い女の声だった。
振り向くウェルガー。
そこに立っていたのは、声の通りの若い女だった。
まるで鮮血をぶちまけたような真紅の髪をした少女だ。
背中には物騒な物を背負っている。
でっかい剣だ――
少女自身もスラリとした長身だ。180センチ以上あるウェルガーに目の位置が近い。
そして、その瞳がルビーのような色をしている。片方だけだ。
もう片方は黒い眼帯をしていた。
隻眼の少女だった――
美しいといっていい。美麗な顔をしている。スタイルもいい。
ただ、その全身から発している美しさは、まるで「研ぎ澄まされた刀剣の美」のようなものだった。
(あれ? どこかであったことあるかな……)
なぜか、見覚えのあるような感じの少女にウェルガーは黙って少女を見て、記憶を掘り返していた。
「アナタが、ウェルガーじゃないの? あの人が、そう言っていたけど」
そう言って、荷揚げの指揮をとっているキチリを指さした。
「まあ、そうだ―― この島の領主のウェルガーだが」
もう勇者ではない。公式には発表されたことではないが、勇者は引退しているのだ。
彼の言葉を聞いた瞬間だった。
一瞬の動きだ。鍛えられたウェルガーですら、驚くような速さ。
彼女はその速度で、いきなり土下座していた。
「勇者様! 弟子に! ワタシを弟子にしてください! お願いします!」
真紅の髪をした剣呑な雰囲気の美少女は、土下座しながら弟子入りを志願したのであった。
対魔族戦争の間、人類最後の砦となったアルデガルド王国。
その王国からの船が到着したのは正に太陽が真南に上がっているときだった。
魔族の攻撃で多くの船が破壊された中、奇跡的に残った大型船のひとつだ。
復興途上の王国にとっても、貴重な船と言える。
その船が月一回、この島に来航する。
その事実は、王国が忘恩の輩ではないということを証明していた。
人類、王国を救ったウェルガーの島に対する支援は続いていた。
船の大きさに比べ、頼りない桟橋であるが、そこに船は停泊する。
そして、次々と積み荷が降ろされていく。
ロープの先に網(モッコ)をつけ、人力でそれを下げて行く。
結構大変な作業だ。
「う~ん、動滑車とテコを使えば、デリッククレーンを作れないかな……」
頭の中におぼろげながら、こんな感じで造れそうな気がするという物は浮かぶ。
ただ、そんな物を造った経験は前世でもない。
(まあ、暇ができたら挑戦してみるか――)
今は、優先してやるべきことも多いのだ。
ウェルガーは妥当なところで、考えを落とし込んだ。
降ろされる積み荷は「小麦」「野菜」などの食料。
その他、島の開発に必要な「建設工具・部品」や生活に必要な「日用品」だ。
復興中の王国でもそれは、数多く余っているわけではない。
「数はしっかり確認すること。大事な物資だ。本国にだって余っているわけではないのだ」
島の実質的開発責任者であるキチリが物資管理の指揮をとっている。
彼は、自給出来るモノはなるべく島で自給すべきだと主張している。
ただ、小麦にしても、野菜にしても、収穫が本格化し自給できるのは、しばらく先になるだろう。
その代わり、この島からも王国に物資は送られている。
今は、バーター交換のような形で、物資が行き交いしているのだ。
島からは塩漬けにした魚を樽に詰めたもの。
そして、南の島に降り注ぐ日差しの強さを利用した塩田も作っている。
大した量ではないが「塩」も王国に送ってはいる。
今は明らかに、交易というよりは「援助」だ。
しかし、いずれは対等な交易ができるようになりたいとウェルガーは思っている。
それは、この島が豊かになるということであり、リルリルが幸せになるということもでもあるからだ
「今回の受け入れは五〇人だったかな」
「そうですね。まあ、あの連中をいれて八〇人の人口増加となりますが、問題はないでしょう」
連中とは、ラシャーラを誘拐しようとした船に乗っていた者たちだった。
生粋の悪人ではないとうことで、島に受け入れることになったのだ。
微々たるものであるが、戦争で故郷を失った者たち、その希望者の受け入れも行っている。
今回、島にやってきたのは五〇人ほどだ。
「住宅の建設は進んでおります。後は、職能に応じてなにをしてもらうかですが」
「もう、そのあたりは、キチリに任せるわ」
「期待に添えるように、尽力します。元勇者様――」
ニッと笑ってキチリが言った。
彼もまた、人類を救った元勇者ウェルガーに惹かれていた。
自分の力を評価し、自由裁量に任せてくれるのだ。こんないい上司はいない。
「ほら、行くぞ」
陸に続く桟橋、その陸地の方で声が聞こえた。
「もう、言われなくても、分かってるわよ」
「つったく、こんなギチギチに縛りやがって、服が皺になるぜ」
「姐さん、兄貴ぃ、俺らどうなるんだろうなぁ」
「さあどうかしら…… 縛り首かしらねぇ。火あぶりは嫌だわ……」
縄で上半身をグルグル巻きに縛られ、脚は歩ける程度に両足首が縄で繋がれている三人組だった。
前から股間を通して、後ろに縄が伸びている。
その縄を、島の人間が握っていた。
どうみても、逃げられる形には見えない。また、彼らも逃げる気は毛頭なさそうだった。
「ちょっといいか――」
「はい」
ウェルガーはキチリにそう言うと、三人組のところに小走りで寄って行った。
「なによ? 元勇者様? 別れの挨拶かしら」
カマーヌが悪党らしくない屈託のない笑みを浮かべながら言った。
「いや、訊きたいことが一つだけある」
ウェルガーは小さな声で言った。
カマーヌは「ん?」と不思議そうな顔をする。
もう、尋問は散々したはずだった。
「あの機械での通信はしたんだよな」
「したわよ。アイツラに言われた通りトン・ツー・トン・ツーでね」
それはすでに確認したことの繰り返しだった。
「この島でラシャーラを捕らえた後だよな」
「そうよ、それはもう言ったわよね」
「でだ、返信はなかったのか?」
「返信?」
カマーヌは小太りの男、デピッグを見やった。
「どうだったの? アンタでしょやってたの」
「ん~ 無かったと思うなぁ。ずっと耳当てしてたわけじゃないから、わかんねーけどさ」
「だってさ―― ま、この期に及んで、嘘はいってないわよ」
そう言って三人組は、桟橋を渡り船に向かって言った。
(最後に電波を発したのは、ラシャーラをこの島で捕獲したときだ―― モールス電波で位置の特定ができるのか?)
転生者とはいえ、電波の専門家ではない彼には分からない。
ただ、可能性は否定できない。
とにかく、この世界――
この異世界に、自分以外に転移してきた者がいることは確かだ。
そして、それが「ハーケンクロイツ」の旗印を持つ組織。
ドイツ第三帝国――
ナチス・ドイツという可能性が非常に高い。
どの時点のナチスなのか?
国家丸ごと転移してきたのか?
一部の組織が転移してきたのか?
本当に自分のいた世界のナチスなのか?
となると、七〇年以上も前の世界から来たのか?
偶然、同じ旗印の全く別の存在なのか?
今は、訳の分からんことだらけで、推測しかできない。
だが、確かなことが一つある。
ナチスらしき組織が、ラシャーラを狙っているということだ。
この島で捕獲したという連絡を受けたかもしれない。
しかし、その船が着かない――
(一応、警戒すべきこととして、王国には報告の書類を送ったが……)
魔族ではない未知の未知組織・国家が、この島の南東にあり、今回の事件の黒幕になっていること。
それは、王国に伝える。
しかし、王国は積極的には動かないだろうとは思う。
今、この世界の人類は対魔族戦争からの復興が第一優先だ。
エルフの王女を狙っているとはいえ、直接的な脅威の程度が不明な「謎の集団」に対し動く余裕はない。
とにかく、現状では、こちらからは積極的に動くことが出来ない。
しかしだ――
ウェルガーは思う。
既に己の心の中には、揺るがぬ決心はあるのだ。
(もし、この島にやって来るなら…… ボコボコにしてやる。徹底的にだ―― ナチスだろうが米軍だろうが関係ねェ)
近代兵器を備えたナチスであろうが、なんであろうが関係なかった。
リルリルと自分の「いちゃラブえっち三昧の生活」を邪魔する存在。
そして、リルリルを不幸にするような存在は、絶対に許さない。
そのときは、勇者の力一〇分の一を解放する。
そして、その相手を殲滅する。死にこましていいと思う。
それだけは彼の中で完全な決定事項であった。
「ねえ、もしかして、アナタが勇者ウェルガー」
ウェルガーが決心を固く決め、拳を握っているところに、いきなり声を掛けられた。
若い女の声だった。
振り向くウェルガー。
そこに立っていたのは、声の通りの若い女だった。
まるで鮮血をぶちまけたような真紅の髪をした少女だ。
背中には物騒な物を背負っている。
でっかい剣だ――
少女自身もスラリとした長身だ。180センチ以上あるウェルガーに目の位置が近い。
そして、その瞳がルビーのような色をしている。片方だけだ。
もう片方は黒い眼帯をしていた。
隻眼の少女だった――
美しいといっていい。美麗な顔をしている。スタイルもいい。
ただ、その全身から発している美しさは、まるで「研ぎ澄まされた刀剣の美」のようなものだった。
(あれ? どこかであったことあるかな……)
なぜか、見覚えのあるような感じの少女にウェルガーは黙って少女を見て、記憶を掘り返していた。
「アナタが、ウェルガーじゃないの? あの人が、そう言っていたけど」
そう言って、荷揚げの指揮をとっているキチリを指さした。
「まあ、そうだ―― この島の領主のウェルガーだが」
もう勇者ではない。公式には発表されたことではないが、勇者は引退しているのだ。
彼の言葉を聞いた瞬間だった。
一瞬の動きだ。鍛えられたウェルガーですら、驚くような速さ。
彼女はその速度で、いきなり土下座していた。
「勇者様! 弟子に! ワタシを弟子にしてください! お願いします!」
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第11回恋愛小説大賞にノミネート中です
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
面白いと思ったら、投票してくれるとうれしいです!こっちのお話も頑張ります!
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WEB小説執筆や書評(小説、漫画、一般書)などあれこれ書いています
ネット小説書きの戯言
よろしければどうぞ。
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
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