魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

中七七三

文字の大きさ
上 下
20 / 41

20.悪党の矜持と決闘

しおりを挟む
「リーキン、アンタ死ぬ気? 相手は勇者なのよ! 勝てる訳ないでしょう! 勝ったって――」

 カマーヌが声を上げた。野太いバリトンのオネェ言葉だ。
 
「姐さん、勝つとか負けるとかじゃなくてな…… まあ、悪党の悪党としてのけじめちゅーかさ。最後まであがいてみたいっていうかな……」
「アンタ、悪党のくせに、変なとことで生真面目なのよ。バカ――」

 その言葉を聞いて、リーキンと呼ばれた男は皮肉な笑みを浮かべた。

「兄貴、止めておいた方がいい。殺されちまう……」

 小太りのチビが、しがみ付くような声でいった。
 縛り付けてなければ、本当にしがみ付いて止めたかもしれない。

 ウェルガーは困った表情を浮かべ。ポリポリと頬をかいていた。
 勝負を挑んできた男は、鋭い目でウェルガーを睨んでいる。

 集まっている島の人たちは、事件に関わった漁師だけなく、野次馬も多い。
 彼らが怒声を上げ始めた。 

「ウェルガーの旦那ぁ! やっちまえばいい! このクソ悪党に思い知らせてやれ!」
「そうだぁ! ふざけたマネをしやがった悪党を血祭りだぁぁ!」
「バカがぁ! 勇者の領主様に決闘だぁ! 一方的にぶち殺されるだけだッ!」
「俺らの島でふざけたマネしやがって! やってくだせぇ! 旦那ぁ、ぶち殺してやってくだせぇ!」
 
 ウェルガーが聞き取れた言葉だけでも剣呑けんのん極まりないものとなっている。

(群集心理で殺気立ってるのか―― 全くバカなこと言いだしやがって。こっちは穏便に済ませたいのに……)

 ウェルガーは決闘などやりたくもない。
 それは、一方的なリンチになる。
 勇者の力を失ったとはいえ、彼はそこらの人間など問題にならない身体能力を持っている。

 島の人たちは基本的に温厚でいい人ばかりだ。それはよく知っている。
 しかし、そんな善人の集団でも、ちょっとしたきっかけで、殺伐とした空気に支配されてしまう。
 
 勇者の知り合いであるエルフを拉致していった人買いか、奴隷商人。
 とにかく、ここにいる三〇人余りの奴らは「悪党」なのだ。
 そして、その悪党に制裁を加えることは「正義」だ。
 少なくとも、間違ったことじゃない。因果応報。身から出たさびというやつだ。

 そして、不敵にもこの島で圧倒的な人望を集める領主であり、人類を救った英雄であるウェルガーに挑戦してきたのだ。

 この世界の民衆の平均民度を考えれば「コイツら全員、血祭りだ! リンチだ!」と暴徒になってもおかしくない。
 そこまでのことにならないのは、この島の人間が根本的なとこで善良だからだろう。
 そして、ウェルガーの言うことに絶対に信頼を置いているからだ。

 実際、多くの島の人たちも、ウェルガーが目の前で人を殺すシーンを見たいわけではなかった。
「ぶち殺せ」と入っている者も、それは空気が言わせているものだ。

 ただ、ウェルガーが悪人を死なない程度にボコボコにするのは見たいとは思っていた。
 島には娯楽は少なく、伝説の勇者が、戦っているシーンを見たいと思っている者も多い。

 島の人たちの多くは、殺伐とした空気の中で怒声を上げ続けている。
 
「もう、これは、収まりつきそうにないわよ―― なんなら、私が相手をしても――」

 師匠のニュウリーンが小さく耳元で言った。

(アナタにやらせたら、島民ドンビキですよ―― 師匠)

 彼女に任せたら、島民ドンビキの阿鼻叫喚のスプラッタ拷問ショーが開催される。
 そんなものは、リルリルに見せられるわけがない。
  
 ウェルガーは「ふぅ~」と長い息をついて。空を見上げた。
 もう、暗くなるまで時間はない。南のこの島では、陽が沈むとアッと言う間に闇がやってくる。

「分かった! 受けるよ。ただし、勝敗が決まったと思ったら、そっちの誰かが止めること。それが条件だ」
 
 そう言って、悪人たちを見やった。

「分かったわ。私が止めるわ」
「姐さん!」
「アンタね! 私はもう最初から止めさせたいわよ。このバカ!」

 その役割は筋肉で身体をパンパンにさせているオカマがやることになった。

(このオカマがリーダーか?)

 ウェルガーに挑んできた男が「姐さん」と呼んでいる。
 おそらく間違いないだろう。

「あと、お願いがあるんだけど、いいかしら?」
「ん?」
「勝負してくれたら、知ってることは全部話す。それはいいわ。それともうひとつ――」

 カマーヌは、ウェルガーの言葉、身に纏った雰囲気から交渉可能と思った。
 彼女?のような悪党から見れば、甘すぎる男だ。
 であるならば、この機会に少しでも有利な提案をすべきと思った。
 ダメもとだ。

「まあ、内容によっては考えるが……」
「私とアンタと決闘するリーキン、このデピッグの三人以外の連中には、減刑嘆願書を書いてやってほしいのよ――」
「げんけいたんがんしょ?」
「そうよ、勇者のアンタが、書いてくれれば助かるわ」

 オカマが凄まじく意外なことを言ってきたので、「減刑嘆願書」が彼の頭の中で意味を成すまで間があった。
 
「なんでだ?」
「私ら三人を除いて、コイツらは事情も知らないで、私らが雇った連中だから。その理由じゃダメかしら?」
「アンタ、名前は?」
「カマーヌよ。一応、コイツらの面倒をみているのは、私よ」

 やはり、このゴッツいオカマがリーダーだった。

「ずいぶんと部下思いだな」
「違うわよ。本当の部下じゃないから、巻き込みたくないのよ。私なりの筋は通したいの――」

 ウェルガーはカマーヌの目を見つめる。
 ウソや悪巧みを考えているようには見えない。
 まあ、悪人には悪人なりの筋の通し方や矜持というのがあるのかもしれない。

「俺の嘆願書が、効果あるかどうかまでは責任もてねーぞ」
 
 ウェルガーは言った。
 彼の中で、このオカマや自分に挑んできた男に対する評価が少しだけ変化したような気がした。

        ◇◇◇◇◇◇

(しかし…… やりたくねぇなぁ――)
 
 勇者の力の解放はもうできない。
 あれは、一日一回という制限つきのものだ。
 解放できる力は全盛期の一〇分の一で持続時間は一〇分という極めて限定されたものではある。
 それでも、使い方によっては、今回のように有効に使えることは分かった。

 ウェルガーに決闘を挑んできた男――
 ひょろりと背の高い黒ずくめの服を着た男はすでに縄を解かれていた。
 
「アナタ…… あの…… えっと……」

 ウェルガーの幼妻、一〇歳のエルフ、リルリルが彼に声を掛ける。
 しかし、心の中で言いたいことが言葉になって出てこないようだった。
 
「ませておきな。大丈夫だからさ―― 終わったら、晩ご飯食べて、一緒にお風呂入ろうな」
「もう♡ エッチなんだからぁ♡」
「だって、リルリルが可愛いからぁぁ、もう、スリスリしたいなぁ~」
「やめぇぇ、ザラザラするゥゥ♡~」

 ウェルガーは、リルリルのほっぺに自分のほっぺを密着させスリスリする。 
 夕方になり、朝剃った髭も少し伸びてきたようだった。
 そんなに、彼の髭が濃いわけではないのだが。
 幼妻の可愛い声で、更に激しく頬をスリスリするウェルガーだった。

 リルリルも「いやぁぁ♡」とか言いながら、長い耳がパタパタと振れていた。
 
(なんで、こんなにどこもかしこも柔らかくて気持ちいいんだ。謎だ。もう、リルリルぅぅぅ。可愛くて、大好き過ぎておかしくなりそう。マジで)

 ウェルガーはリルリルが視界に入って来るだけで、脳内の幸福物質やら快感物質がダダ流れになるような感じだった。
 彼は「はぁ、はぁ」と荒い息をたて、決闘前だというのに、エルフの一〇歳の嫁とイチャイチャするのであった。
 それが彼の今の生きがいであり、決闘前に「リルリル成分」を補給するという意味もあったかもしれない。

「そろそろ、終わりにしてくれねぇかい? こっちは早くやりてぇんだけどね――」

 これから戦う相手が、嫁とイチャイチャするのを見やってリーキンは言った。
 マジで、彼の心がささくれてきていた。
 相手が勇者とはいえ、本気でぶち殺したくなってきたのだった。
 双眸に鋭い殺意の光が満ちてくる。

「ああ、そっか―― まあ、さっさと終わらせるか。いいか、ちゃんと、止めろよ」

 ウェルガーは念を押すようにカマーヌに言った。
 
「分かってるわよ! イチャイチャしてないで、さっさとはじめなさいよ」

 カマーヌも痺れを切らしたようにいった。
 
「じゃあ、いいよ―― なんでもやってきな」

 絶対的な自信。
 勇者の力は封印されたといっても、その身体能力はまだ「超人」のレベルに有る。
 たかが悪党に本気を出すまでもない。

「俺を、甘く見ているのかい?」

 リーキンが言った。まだ、間合いは遠い。
 蹴りも突きも届くような距離じゃない。

(確か、コイツ魔道具をもっているんだっけ……)
 
 師匠のように記憶がボケボケになっているわけではないウェルガーはリルリルの言っていたことを思い出す。
 そして、家の水がめを壊したこと。
 それがどんなものか、分からないが、まあ大したものではないと高をくくっていた。

「いいから、なんでもいいから。早く終わらせよう」

「コイツを見てもそう言えるかい?」

 リーキンは右手を素早い動きで背に回した。
 そして、真上に向け、腕を上げた――
 素早く流れるような一連の動作だった。

 そして、天空に向け乾いた音が響く。
 カランっと地べたに何かが転がった。

「やぁぁぁぁーー!!」
「リルリル!!」

 リルリルが地面にしゃがみこんで耳を塞いだ。
 長い耳が恐怖のため、大きく下がっている。
 家を襲撃され、水瓶を割られ、その武器を向けられた恐怖を思い出したのだ。 

「てめぇ…… リルリルをぉぉぉぉぉ!!」

 リルリルを怖がらせた――
 二回目だ。
 ウェルガーは、山道で泣きながら歩いてきたリルリルのことを思い出す。

 一気に、心が灼熱の温度を持った。一気にグツグツと沸騰するような温度になった。
 炎をまとった獣が、彼の中で暴れ狂うような感じだ。
 
「コイツがあれば、いい勝負できるかもしれねぇぜ」

 リーキンは口の端に笑みを浮かべ、そう言った。

 そして、その手には鋼の凶器が握られていた。
 それは、この世界には「絶対」にありえないものだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...