魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

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6.不条理と混沌が交錯し造り上げる絶対不可侵空間

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 ウェルガーは、右脇でリルリルの柔らかい身体をしっかりと抱え込む。
 人(いや、エルフか)の命がかかっているというのに、彼女の身体の柔らかさ、心地よさが気になってしまう。

「アナタ、速すぎです♡」 

 夫に抱きかかえられているリルリルが言った。
 風の中を金色の髪の毛が水平にたなびいている。

 ベッドの上で言われたら、すごいショックな言葉であったが、走っている最中なのでノンダメージ。
 むしろ称賛だった。

「急がないとヤバいかもしれない」

 肩の上に乗っている褐色エルフ少女の体温はかなり低い。
 呼吸はしているが、予断を許さぬ状況なのだ。

(船に乗っていて沖合で遭難したのか?)

 彼はこの褐色エルフ少女がどこから来たのかと思った。
 王国からの定期便の船ではない。
 船は月1回しかこの島に来ないし、今はその時期ではない。
  島の住人の中には、ドワーフはいたが、エルフはひとりだけだ。
 今、彼が右腕に抱えているリルリルしかこの島にはいない。
 
 砂地を抜け、岩場を跳び、なんとか建設中の街の中に出た。
 掘っ立て小屋のような家が並ぶ中、一際目立つ高い櫓(やぐら)がある。
 
 大きな街になれば大聖堂と言うモノを造るが、そんな余裕はこの島には無い。
 とりあえず、目印(ランドマーク)になるように作った物で、お世辞にもカッコいいとは言えない造形だ。
 ただ、治癒魔法の使い手は貴重であり、その場所は一目で分かる必要があった。
 そのための櫓だ。櫓には、教会のシンボルが描かれた旗がはためいている。

 太陽を意匠化したようなマークだ。

「もうすぐだ」

  建物の並ぶ細い道をウェルガーは突き抜けて行く。
 時々、家から「なんだ? いったい あ、領主様じゃ」と声を上げ、顔を出す者もいた。
 この島で、彼は「勇者様」「領主様」「旦那様」「代官様」と色々な形で呼ばれている。
 税も取ることなく、住民と一緒に汗を流し、島の開発に力を尽くす彼は、島の住民に好かれていた
 いや、尊敬され、崇拝に近い思いを抱いている者も多いだろう。

 ただ、本人にとって、それはどうでもいいことだ。
 嫌われるより、好かれた方がいいと思う程度のことだ。

 彼が頑張っているのは、ただ己のエルフの幼妻であるリルリルが快適で幸せな生活を送って欲しいからだった。
 他のことはどうでもいいのだ。

「ちっ!」

  細い道を抜け、ウェルガーは止まった。

「キャッ!」

「リルリル大丈夫か?」

「平気です。少し驚いただけで…… あ…… 川――」

 ウェルガーに抱きかかえられながら、リルリルはなぜ、夫が立ち止ったか理解した。
 目の前に川があるのだ。
 この街は、水の供給や輸送に都合がいいだろうということで、真ん中に川が走っているのだ。
 幅は二〇メートルくらいなので、それほど大きくはない。

 ちなみに、街中の橋はまだ建設中。
 杭だけが撃ち込まれている。
 上流まで戻れば、小さな橋が架かっているが、そこまで行く時間がもったいない。
 褐色エルフ少女の体温はどんどん下がっている気がした。

「時間がもったいない。行くぞ!」

(あの、地獄の勇者修行に比べればどうということもないわッ!)

 彼は数々の死と隣りあわせだった勇者修行を思い出す。
 手足を固く縛られ、一〇トンを超える重しを付けられ、大海に放り込まれたことだってあったのだ。
 黒色火薬五〇キログラムを背負い、油を被って、炎の中を突っ切る修行もした。

 それに比べれば、どうということもない。

 何人かの職人が橋の建設作業をしていた。

「どいてくれ飛ぶ! 急いで向こうに行く!」

 ウェルガーが走りながら叫ぶ。

「旦那、いったい?」
「病人ですかい?」
「ほらどけ! 勇者様が行くぞ!」

 職人たちが道を空ける。
 ウェルガーは跳んだ。

 放物線を描き、「トンっ」と橋の杭となる丸太の上に飛び乗る。
 そして、その足でまた丸太を蹴る。

「あははは、アナタ。すごいです♡」

 自分の夫に絶対の信頼を寄せている一〇歳のエルフの幼妻。
 その声には、微塵も怖れの色など無い。
 彼は、ふたりのエルフの少女を抱きかえ対岸まで跳びきった。

 それを見ていた職人たちが揃って「おぉぉぉ~」と声を上げた。
 ひとりが「勇者様ってのはやっぱすげぇ」と言った。
 彼は知らない。もはや彼には勇者の力など何も残っていないことを。

 勇者の存在は、一般民衆にとっては、救世主であり、もはや崇拝の対象にすら近い。
 その力が封印されてますと公開するのは、民衆を不安にさせる。

 だから、公には発表されていない。政治的判断だった。
 まあ、この世界の情報伝達速度では、特に何も言わなければ、情報が広がるということはないのだ。

        ◇◇◇◇◇◇

 教会のある大広場―― いや、これから大広場になる場所に彼らは到着する。
 教会はすぐそこだった。
 一応、宗教施設と言うより、この島では唯一の病院的役割を果たす場所だ。
 そこそこ、しっかりした建物が出来あがっている。

「神の使徒たる我が身は、ご信心の結晶体。この地にもたらせた福音の電波波動なのです。信じるのです! リスペクトするのです。神は、救いの手を差し伸べるのです! 『大宇宙コスモ創造神創世神話集』が五カパル(大銅貨)なのでーす!」

 教会の前で、薄い本の束を抱え、道行く人に話しかけ売りつけている女の子がいた。
 ちなみに、五カパルは感覚的には五〇〇円くらいな感じだ。

 (これが、回復魔法の使い手の尼僧さんか……?)

 確かに、どのような視点からも「宗教の人」にしか見えない。
 しかし、それのとびきりヤバい部類の方に感じる。

 異世界に転生したものの、一八年間勇者修行に明け暮れた彼の知識は、かなり偏っている。
 この世界で教会の力が強くないことは理解していたが、どんな宗教があるかとか、どんな教えであるかとか、そう言った細かいことには全く興味がなかった。
 まさに、生粋の元日本人のおっさんだ。
 宗教のことなど葬式と墓参りと初詣の時に関係するくらいだ。

「リルリル――」

 そう言って、ウェルガーは、抱きかかえていた嫁のリルリルを地面に降ろした。

「はい、なんですか?」

 「修道女っていうか、尼さんってみんな、こんな恰好してるの?」 

「え?」

 そう言って、リルリルもその存在を金色のまつ毛の下の濃藍の瞳で見つめた。

 その少女は―― 

 真っ赤なリボンに黒髪をポニーテール。
 そして、上には白い巫女の装束のような物を身に着けている。
 しかし、下は袴ではなく、ブルマーのような物をはいていた。
 そして、白のロングニーソのようなものがブルマーとの間に絶対領域を造り上げていた。
 さらに、首からは数珠のような物を下げている。

 何が何だか分からん、カオスな格好だった。

「俺、あんまり宗教のことは詳しくないんだが……」

「わ、私もよく知らないです――」

 彼女も言葉に詰まっていた。
 ふたりはジッとその人物を見ていた。
 まだ彼女との距離は結構ある。

 回復魔法の使い手なら早くしなければいけない。
 しかし、彼女からは近寄ったら不味い種類の人間であるというオーラがヒシヒシと感じられたのだ。

(これが、この島唯一の回復魔法の使い手なのか…… つーか、この世界の宗教ってどんななんだ?)

 珍妙な巫女のコスプレをしたようなポニーテールの少女は、甲高い声で絶叫し、本を売っている。
 通り過ぎる人はみな距離を空け、そそくさと通過していくのだった。

 後に有名アニメ会社となるところが、大赤字出して作った宇宙飛行士を題材としたアニメに似たようなシーンが有ったなぁと思ったが、雰囲気は全然違っていた。
 不条理と混沌カオスが交錯し、そこに絶対不可侵空間を作りだしているかのようだった。

 なんとなく、この世界に宗教が広がらず、教会が力を持たない理由が分かったような気がした。

「来るのです! 裁きの日が来るのです! バーンと来るのでーす! 神を信じぬ愚か者は、大宇宙コスモ創造神様の超電波波動でチンチンにされて、焼かれるのでーす。この本を買って読むのでーす。絵付きで読みやすいのです」

 キンキンのハイテンションの声が響く。

 唐突だった――

 キュンとあり得ないような角度で、その少女の首が回転した。
 まるで、ビニール人形の首のような動きだ。
 彼女は黒い大きな瞳で、ウェルガーとリルリル。そして褐色のエルフの少女を見やった。

 その口が三日月形の笑みの形となる。

「神の救いを求めている子羊が参上したのです! これは、生贄の山羊ではないのです! さあ、怖れず来るのです。神の御光がお導きになるのです。全ての悪魔は退散し、ビシッと回復するのです! それは、ご信心の日々の成果なのです!」

 その少女は、全く予備動作を見せず、一瞬で間合いを詰めてきた。
 気が付くと、突然目の前に立っていたのだ。
 
「その者は、神の救いを求める迷える生贄の山羊なのですか?」

 ビシッと褐色のエルフを指さし、彼女は言った。

 迷える子羊と生贄の山羊がカオスとなっていた。

「え、ええ。海で溺れていたらしく。回復魔法を――」

「了解なのです。もはや、ご信心の結晶体たる神の使徒。その我が身によって、その者の復活は約束されたのです。早く、教会の中にいれるのです。一発で回復させてしまうのです!」

 コミュニケーションが成立したことに、ウェルガーはホッとした。
 そして、彼女を教会の中に運び入れたのだった。
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第11回恋愛小説大賞にノミネート中です
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
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