魔王を瞬殺して引退した転生勇者の元おっさんはエルフの幼妻とらぶえっちな生活がしたいです

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5.褐色エルフの少女を拾った

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「リルリル――」
 
 元勇者のウェルガーは自分の幼妻の名を口にし、彼女を抱きかかえる。
 そのまま、桟橋の上をダッシュし、陸地まで戻った。

 かつて、衝撃波を発し、極超音速の疾走を可能とした勇者の速さは失っていたが、人としては十分以上に速かった。

 「アナタ、いったい? なんで?」
 
「ここで、待ってろ。危ない、あの船が危ない」

「え? アナタ……」

「大丈夫、すぐに戻ってくる」

 トンと大きな手をふわりとした金色の髪の毛の上においてウェルガーは言った。
 まずは、リルリルの安全が第一だ。

(くそ…… 俺ひとりだったら、こんな面倒な――)

 リルリルの前で、船がサメに襲われ人が死ぬのを見せるわけにいかない。
 それは、彼女を確実に悲しませる。

 であれば、やることは決まっていた。

 彼は再び桟橋の上を走り、その先でジャンプ。
 弾丸のように海の中に飛び込んだのだった。

「死にこます。サメ―― シャチかもしれんが」

 凄まじい速度で腕が回転する。
 クロールなのか、なんなのかよく分からん泳ぎ方だ。
 しかし、それは速かった。
 
 魔力をベースとする勇者の力を失っていたが、幼少期から鍛えられた人としての肉体の強靱さは健在なのだ。
  
「ウェルガー様ぁぁ!! あぶねぇだぁぁ! 逃げてくれぇぇ――」

 ザバザバと海をかき分ける音の中に、漁師の声が聞こえた。
 サメだ――
 それも、前世の地球にはいなかったサイズのやつだ。
 いや、大昔に滅びた「メガロドン」という巨大なサメがいたが、それに近いかもしれない。

 メガロドン級のサメは、船を狙うのを止め、凄まじい波飛沫を上げて向かってくる存在に顔を向ける。
 尾びれが、海水を叩き、ウェルガーの方に突っ込んできた。

「わぁぁぁ!! なんじゃぁ。あの大あごはぁぁ――」

 漁師の叫びが聞こえた。
 そして、彼もその顎が見えた。
 ビッシリとジャックナイフの生えたような巨大な口が海面上に突き出る。 
 
(車でも飲み込みそうじゃねーか! アホウがぁぁ!)

 そして、元勇者の人間と巨大なサメが水中で交差した。
 巨大な、水柱が上がる。

 勝負は一撃でついた――

 真っ白な腹を海面に出して、サメが断末魔の痙攣を起こしていた。
 
「筋肉に魔力を流さないとこんなもんか…… まあ、倒せたからいいが――」

 元勇者のウェルガーは巨大サメの顎に、パンチを放ったのだ。
 その一撃が、サメを瀕死の状態にしたのだった。

 ザラリしたサメの肌の感触と熱が拳にまだ残っている。
 
 人間の尺度でみれば、こんなことが出来るのは規格外だ。
 しかし、勇者であったころは、山脈よりも巨大な魔王をド突いて、第一宇宙速度で吹っ飛ばし、衛星軌道に乗せたのだ。
 
 それに比べれば、屁のようなパンチだ。
 やはり、彼の勇者の力は封印されていたのだった。

「よう、ロープかなんかあるかい?」

 彼は驚きで船の上で呆然としている漁師たちに言った。
 
 サメは船に有ったロープで縛り上げられ、船で陸に運ばれる。
 巨大なサメは、島の食糧事情に貢献することになったのだった。

「アナタ…… 凄いです―― 勇者さま…… アナタはやっぱり勇者です♡――」

 リルリルは濃藍の瞳を潤ませ、夫を見つめる。 
 エルフの長い耳は激しくパタパタしていた。

 元々勇者であるウェルガーに対し、結婚する前から憧れとガチ惚れ状態のリルリルなのだ。
 更に、結婚して妻になってからは、幼い肉体まで開発され心も体も彼のモノとなっている。
 もう、トロトロに蕩けていると言っていい。

 そんな、リルリルが、夫の活躍に感動するのは当然だった。

 そもそも、サメ程度に彼がやられるなど、全然思っていないのだから心配もしない。
 
 そして、危なくなった漁師を助けたことがうれしかった。
 自分の夫がまだ、勇者の魂を失っていないことに感動していたのだ。
 その力を失ったとしても夫はまだ勇者だった。彼女の中では――

 彼女の心の中のウェルガーに対するガチ惚れパラメータはカンスト状態に近い。
 それを更に突き破ってオーバーフローしそうだった。
 心がバグりそうな程にウェルガーが大好きになりそうだった。

 そんな幼妻の様子とは好対照にウェルガーはどんよりした顔をしていた。

「ああ…… でも、やっぱ衰えたわ~。全盛期なら、あの程度のサメなんか海に飛び込む必要すらなかったと思うよ……」

 夫の強さに単純にガチ惚れメータを限界以上に振り切るエルフの幼妻に対し、ウェルガーの方はちょっとテンションが下がっていた。
 
 彼は、勇者の力が封印されるときは、それをどうとも思っていなかった。
 むしろ、気楽でいいと思っていた。
 しかし、戦って力が激減しているのを実感すると、ちょっとへこむモノがあった。

 それでも、巨大サメを一撃で葬るのである。
 今でも人外レベルの身体能力の持ち主であることは間違いない。
 ただ、この異世界にはその「人外レベル」の存在がゴロゴロしていたのだ。

 対魔族戦争で多くが死んだかもしれないが、生き残っている者はいるだろう。
 つまり、彼はこの世界で最強ではなくなっていたのだ。

 人外レベルで強い人間の一人という位なものだろう。

 巨大なサメを倒したことが、皮肉にもその事実を彼に着きつけたのであった。

        ◇◇◇◇◇◇

「すぐ乾くさ、それともここで脱いだ方がいいかい?」

「もう、エッチなんだからぁ♡」

 濡れた服を着たままのウェルガーに対し心配したリルリルに対し、ウェルガーはそう切り返す。
 リルリルと一緒にいるので、すぐに気分は回復。ウキウキだった。

 リルリルの方は、夫の逞しい上半身を想像し、長い耳を真っ赤にしてパタパタさせた。
 南洋の照りつける日差しと海の風は、ウェルガーの服の水分を飛ばしていく。

 ふたりはデートの続きをする。

「あ、キレイな貝が……」
「ほう…… 本当だ」

 宝貝に似た、真っ赤な色をした貝殻だった。
 一種の宝石のように見える。

「あ、小さなカニ―― ふふふ、生き物がいっぱいね」

 砂浜を小さなカニが走った。
 そして、人の気配を感じ、指先程の巣穴の中に入って行った。

「これだけの島が、魔族に襲われなかったのは、ラッキーだったよな……」

 彼は一応、自分の所領となった島の自然の豊かさに感謝していた。
 今の島の人口は三〇〇人程度だ。
 きちんと、自然との調和を持って開発していけば、もっと多くの人間を養えるだろう。

「あ…… おい! リルリル、あれ、なんだ? もしかして人じゃないか?」

 今度は先に見つけたのは、夫のウェルガーだった。
 波打ち際に、黒っぽい何かがうずくまっているような感じだった。
 海藻が丸まって打ち上げられたものかと思ったが、どうも違うようだった。
 
「え…… あ、確かに……」

 ふたりはその存在に駆け寄った。
 ウェルガーには「水死体どざえもんだったら、リルリルに見せたくないなぁ~」という思いがあったが、とりあえず彼女の速度に合わせて走った。
 
「人…… おい…… エルフだ……」

 それは、エルフだった。
 エルフであることを示す長い耳が濡れた髪をかき分け突き出ていた。

 しかし――

「アナタ、まだ、生きています!!」

「おっ、確かに…… 息はしている」

 呼吸をしているのが、その胸の動きで分かった。
 目をつぶっているせいか、銀色のまつ毛が妙に長く見える。
 リルリルと同じかそれ以上あるかのようだった。

「治癒魔法―― 教会か……」

 とにかく、この島唯一の治癒魔法の使い手、教会にいる尼さんのとこまで連れていくしかない。
 ウェルガーとリルリルに出来るのはそれだけだった。
 幸い、距離はさほどではない。

「母上以外のエルフ―― まだ、この世界のどこかで、エルフは生きているのですね」

「ああ、死なせるわけにはいかねぇ」

 魔族に蹂躙されたこの世界。もしかしたら、生き残っている人間は他にもいるのかもしれない。

 彼は倒れたエルフを抱かげた。
 肌が冷たい。

 ウェルガーは抱きかかえたエルフの顔を見た。
 一瞬、ハッとした。

 顔立ちがなぜか、妻のリルリルに似ている気がしたからだ。
 普通の人間はよく「エルフは皆綺麗に見えて見分けがつかん」と言うが、エルフを娶ったウェルガーは流石にそうではない。

 美形揃いのエルフの中でも飛びぬけているリルリルに似ているのは不思議な感じだ。

 歳はかなり上なのだろう。人間でいえば一八歳前後。
 この世界のウェルガーと同じくらいに見える。

 そして、決定的にリルリルと違っていたこと。

 褐色肌――
 長い髪銀色――

 それは、彼女の肌と髪の色だった。  
 
「行くぞ! 急ぐ!」

「キャッ♡ アナタ」

 元勇者ウェルガーは、肩の上に褐色エルフを乗せ、小柄な妻も脇に抱き上げ抱え込んだ。
 彼は砂浜を蹴った。大量の砂塵が舞い上がる。

 彼は海風を切り裂き、教会に向け走り出した。
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第11回恋愛小説大賞にノミネート中です
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
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