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2.エルフの幼妻と甘い新婚生活
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ベッドの中――
閉じた目に微かに朝の光を感じていた。
(ん?)
甘いまどろみの中で、元勇者ウェルガーは、唇に温度を感じた。
温かく心地の良い温度が流れ込んでくる。
こんなにも柔らかなものがこの世にあるのか――
彼は、ぼんやりとそんなことを考えた。
薄く開いた彼の前歯の間をヌルッとしたモノが忍び込んできた。
遠慮がちなたどたどしい動きで口の中で動いていた。
彼の耳元では、可愛らしい吐息が聞こえていた。
その時点で、ウェルガーは寝起きの頭で状況を理解する。
心地よい重さが胸の上にかかっている。
ふっと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、これ以上ない至福の光景だった。
緩いウェイブを描く光の繊維のような薄い金色の長い髪の毛。
寝起きで少し乱れているのが、何とも言えず可愛い。
黄金の絹糸で作り上げたようなまつ毛。
そして、そのまつ毛が陰になるような上目づかいで、ジッとこっちを見ている。
吸いこまれそうになる藍色の大きな瞳だった。
その存在は、ウェルガーが目を覚ましても、軽く唇に触れたままだった。
ただ、彼の中に入ってきた何かは「そんなものは入れてません」という感じで引っ込んでいた。
「リルリル――」
ウェルガーはそう言って、手を伸ばし彼女の長い耳を軽くなでた。
「あひゃうッ♡ やぁぁ、アナタぁぁ――」
可愛らしい声を上げ、唇を離すエルフの少女。
どうして、彼女の唇はこんなに、柔らかく気持ちいいのか――
完全に目を覚ましたウェルガーはそんなことを思った。
「リルリルゥゥ! オマエは、朝から何をやってんだ♥ もう、この♥! この♥! この♥! 可愛いすぎるんだよぉぉ♥」
身体の上で、小柄なエルフの少女をキュッと抱きかかえ、彼は身悶えるように震え「可愛い、可愛い」を連発する。
身長差は40センチ以上ある。
エルフの少女は、ウェルガーに抱きかかえられ、全身をボディの上で弄ばれているようなものだった。
ウェルガーにキュッと抱きかえられ、無茶苦茶に振り回されている。
「もう、いきなり、激しいすぎぃぃ♡」
それにも関わらず、楽しげな声で彼女は言った。
寝乱れていた黄金の長い髪が舞い、顔には輝くような笑みを浮かべていた。
ウェルガーは、抱きかかえたエルフの少女をトンと自分のお腹の上に載せた。
ここが異世界でなければ「お巡りさんコイツです」の状況であった。
「もう♡、朝のキスで起こしてあげたかっただけなのにぃぃ♡」
ちょっとすねたような感じでエルフの美少女が言った。
その表情が超絶美貌の芸術品だ。
そんな小さなエルフの美少女が、あろうことか足を広げ、ウェルガーのお腹に跨(また)がっているのである。
少女にマウントポジションを決められているということだ。
そして、黒いナイトドレスから、露わになっている淡雪よりも真っ白い太ももも。
(やわらかい…… なんというボディだぁぁ♥)
ウェルガーは、エルフの少女に馬乗りされている至福に浸りながらも、それを表情には出さない。
(別にガツガツすることもないからなぁ~)
「キスしたら、すぐ起きてよぉ~ もう」
「え? なんか、朝のキス以上にエッチなことしようとしてそうだったんで……」
「アナタの、つ、妻なんだから、いいのぉ。少しエッチなキスでもぉ♡」
「あんな、キスの仕方をどこで覚えたんだぁぁぁ~ もう、俺を萌え殺す気かぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ、くすぐったいよぉぉ。きゃはははは、らめぇぇ、ウェルガー♡♡♡♡」
元勇者ウェルガーは白く細い太ももを軽くモミモミしたのだった。
それで、くすっぐたがるリルリルは、やはりまだ少女なのだ。
(マジで最高やでぇぇ、こんな嫁をもらえてぇぇ、エルフで10歳の幼妻やでぇぇ! ほんま、マジでどないしよ)
現世では生粋の千葉県人のおっさんであった彼は、なぜか上方言葉を使って心で叫ぶ。
それだけ、感動の量が大きく、混乱もしているのだろう。
今、ベッドの上で戯れているふたりの男女は夫婦だ。
夫は人類を破滅の危機から救った元勇者。無敵無双の勇者ウェルガーだ。
そして、妻はエルフの美少女。名前は、リルリル。
朝っぱらから、ベッドの上で繰り広げられる、こっ恥ずかしい乳繰り合いモドキ。
ウェルガーには、人類を滅ぼしかけた魔王軍団を瞬殺したその勇者の面影は皆無だった。
ちなみに、魔王は、彼にぶっ飛ばされて衛星軌道上で、第三の月として公転を続けていた。
夜空に、魔王の死骸が漂っているのは、どうかという意見もないではなかった。
しかし、人類の救世主に向かってそんなことを言えるのはひとりくらいしかいないのだ。
先ほどから「元勇者」という肩書になっているように、彼はすでに勇者を引退してる。
人類を救った彼は、人類最後の砦となっていたアルデガルド王国に戻った。
まさに「英雄の凱旋」という感じであったわけだ。
そして、彼は勇者を引退した。というか、引退させられたのだった。
魔王軍団を瞬殺してまうような勇者。
対魔族戦争・戦後レジュームの中でその存在はいかがなものかということだ。
端的に言って、超絶無敵、チート無双の力が個人にあるというのは危険すぎるという判断だった。
彼自身も「全人類に対する責任」から解放されるのは悪いことではなかった。
元日本人だけに、与えられた役割に対し彼は、かなり真面目なところがあった。
転生し、歩きはじめたころから始まった過酷な勇者になるためのトレーニング。
それは、民明〇房に修行の内容が記載されていてもおかしくないレベルの物だった。
今もときどき、悪夢に襲われる時があるくらいだ。
とにかくだ――
そのような思いをして手に入れた無双無敵・チートの力は封印された。
もはや、彼は普通の人間に戻ったのだ。
そして、彼は、勇者の力を失い、代わりに素晴らしい伴侶を手に入れた。
祝賀パーティで出逢った彼女だ。
「勇者様、アナタの活躍は訊いています。本当に強いのですね―― 憧れてしまいます」
そう言って、声の方を振り向いても誰もいなかった。
あれっと、思うと、服の裾を恥ずかしそうに引っ張る彼女がそこにいたのだった。
衝撃だった。
エリュゥゥゥーフ!!
彼は心で叫んでいた。
可憐な超美少女で金髪で碧眼なのだった。
しかも、小さいのだ。身長は140センチもないだろう。
とにかく、一目惚れだったのだ。
元日本人で、ブラック企業で過労死した彼には、彼女などいたことがないのだ。
そもそも、女性と接する機会すらほとんどない生涯だった。
高校時代、母親から、下手に豪華なバレンタインチョコをもらい、涙したこともある。
異世界転生しても、死と隣り合わせの勇者修行で、ハーレムとかそんな甘いことを考える余裕もなかった。
ひとりでいい――
ハーレムなどいらん。贅沢はいわない。それは敵。
だから、たった一人でも理想の女の子が欲しかったのだ。ど真ん中ストライクの女の子が欲しかったのだ。
それが、目の前に出現したのだった。
彼女は、王の側室の連れ子だった。
彼女の母親は、色々事情があって子連れのまま、王の側室となったようだった。
「結婚してください! マジで!」
「え! 私と? 勇者様が! え? いいんですか」
「絶対に幸せにします! 絶対に!」
魔族を滅ぼし、テンションあがったところで、怒涛の告白。
それでもって、リルリルは、彼の幼妻となったのだった。
「どうしたの? 急に黙って?」
小首を傾げてこっちを見下ろすリルリル。
マウントポジションのまま、可愛らしい手を彼の胸の上においている。
その可憐さは、並の人類であれば、直視すれば目がつぶれるとウェルガーは思っている。
「いや、エルフって見た目と年齢が人間と全然違っているけど、リルリルはそのまんまだなって思って――」
「えー! それって、私が子どもってこと! これでもちゃんとあなたの妻なんだから!」
「分かってるって、リルリルは俺の妻だ。もう、可愛くて可愛くて、愛しまくりだから」
「ん、もう♡ でも、私も、アナタが大好き♡ ウェルガー♡」
初めて、出会ったとき。
見た目が幼いのはエルフの特性で、もしかしたらロリババアかもしれないとも考えた。
まあ、それはそれで彼にとって全く問題はなかったのであるが。
しかし、現実は、違った。
リルリルは生粋の10歳だ。
可憐な10歳のエルフの美少女だったのだ。
彼は勇者として「全人類」の生存に責任を持っていた。
しかし――
勇者は引退した。
彼は「残りの人生を、彼女だけを幸せにするために使う」と誓っている。
それには、勇者の力など必要はないのだ。いらねーよと思っている。
この甘い新婚生活は、幸せ以上の何物でもなかった。
結婚することになり、数少ない魔族に潰されていない自然の残った南の島をひとつもらった。
大量の難民を抱えていたアルデガルド王国は一緒に移民も送り込む。
島は今でも、開拓されつつある。
とりあえず、小さな港町がすぐに出来あがった。
ふたりの愛の巣もその海辺の街にあったのだ。
南の島――
海の見える街で、ふたりの甘い生活は続いているのだ。
しかし――
ときどき、彼の脳裏に不安がよぎる。
彼が、この世界で唯一本能的に逆らうことの不可能な存在についてだ。
(師匠は死んだのかなぁ…… 生きているのかなぁ…… あの人は、死なないだろうなぁ……)
10歳のエルフの幼妻との甘い新婚生活。
その中で、よぎる不安は生死不明の師匠の存在だった。
くたばっていればいいと不人情なことは思わないが、生きていても出会いたくないというのは本心だった。
しかし、彼のその願いは叶うことはなかった。
閉じた目に微かに朝の光を感じていた。
(ん?)
甘いまどろみの中で、元勇者ウェルガーは、唇に温度を感じた。
温かく心地の良い温度が流れ込んでくる。
こんなにも柔らかなものがこの世にあるのか――
彼は、ぼんやりとそんなことを考えた。
薄く開いた彼の前歯の間をヌルッとしたモノが忍び込んできた。
遠慮がちなたどたどしい動きで口の中で動いていた。
彼の耳元では、可愛らしい吐息が聞こえていた。
その時点で、ウェルガーは寝起きの頭で状況を理解する。
心地よい重さが胸の上にかかっている。
ふっと目を開けた。
視界に飛び込んできたのは、これ以上ない至福の光景だった。
緩いウェイブを描く光の繊維のような薄い金色の長い髪の毛。
寝起きで少し乱れているのが、何とも言えず可愛い。
黄金の絹糸で作り上げたようなまつ毛。
そして、そのまつ毛が陰になるような上目づかいで、ジッとこっちを見ている。
吸いこまれそうになる藍色の大きな瞳だった。
その存在は、ウェルガーが目を覚ましても、軽く唇に触れたままだった。
ただ、彼の中に入ってきた何かは「そんなものは入れてません」という感じで引っ込んでいた。
「リルリル――」
ウェルガーはそう言って、手を伸ばし彼女の長い耳を軽くなでた。
「あひゃうッ♡ やぁぁ、アナタぁぁ――」
可愛らしい声を上げ、唇を離すエルフの少女。
どうして、彼女の唇はこんなに、柔らかく気持ちいいのか――
完全に目を覚ましたウェルガーはそんなことを思った。
「リルリルゥゥ! オマエは、朝から何をやってんだ♥ もう、この♥! この♥! この♥! 可愛いすぎるんだよぉぉ♥」
身体の上で、小柄なエルフの少女をキュッと抱きかかえ、彼は身悶えるように震え「可愛い、可愛い」を連発する。
身長差は40センチ以上ある。
エルフの少女は、ウェルガーに抱きかかえられ、全身をボディの上で弄ばれているようなものだった。
ウェルガーにキュッと抱きかえられ、無茶苦茶に振り回されている。
「もう、いきなり、激しいすぎぃぃ♡」
それにも関わらず、楽しげな声で彼女は言った。
寝乱れていた黄金の長い髪が舞い、顔には輝くような笑みを浮かべていた。
ウェルガーは、抱きかかえたエルフの少女をトンと自分のお腹の上に載せた。
ここが異世界でなければ「お巡りさんコイツです」の状況であった。
「もう♡、朝のキスで起こしてあげたかっただけなのにぃぃ♡」
ちょっとすねたような感じでエルフの美少女が言った。
その表情が超絶美貌の芸術品だ。
そんな小さなエルフの美少女が、あろうことか足を広げ、ウェルガーのお腹に跨(また)がっているのである。
少女にマウントポジションを決められているということだ。
そして、黒いナイトドレスから、露わになっている淡雪よりも真っ白い太ももも。
(やわらかい…… なんというボディだぁぁ♥)
ウェルガーは、エルフの少女に馬乗りされている至福に浸りながらも、それを表情には出さない。
(別にガツガツすることもないからなぁ~)
「キスしたら、すぐ起きてよぉ~ もう」
「え? なんか、朝のキス以上にエッチなことしようとしてそうだったんで……」
「アナタの、つ、妻なんだから、いいのぉ。少しエッチなキスでもぉ♡」
「あんな、キスの仕方をどこで覚えたんだぁぁぁ~ もう、俺を萌え殺す気かぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ、くすぐったいよぉぉ。きゃはははは、らめぇぇ、ウェルガー♡♡♡♡」
元勇者ウェルガーは白く細い太ももを軽くモミモミしたのだった。
それで、くすっぐたがるリルリルは、やはりまだ少女なのだ。
(マジで最高やでぇぇ、こんな嫁をもらえてぇぇ、エルフで10歳の幼妻やでぇぇ! ほんま、マジでどないしよ)
現世では生粋の千葉県人のおっさんであった彼は、なぜか上方言葉を使って心で叫ぶ。
それだけ、感動の量が大きく、混乱もしているのだろう。
今、ベッドの上で戯れているふたりの男女は夫婦だ。
夫は人類を破滅の危機から救った元勇者。無敵無双の勇者ウェルガーだ。
そして、妻はエルフの美少女。名前は、リルリル。
朝っぱらから、ベッドの上で繰り広げられる、こっ恥ずかしい乳繰り合いモドキ。
ウェルガーには、人類を滅ぼしかけた魔王軍団を瞬殺したその勇者の面影は皆無だった。
ちなみに、魔王は、彼にぶっ飛ばされて衛星軌道上で、第三の月として公転を続けていた。
夜空に、魔王の死骸が漂っているのは、どうかという意見もないではなかった。
しかし、人類の救世主に向かってそんなことを言えるのはひとりくらいしかいないのだ。
先ほどから「元勇者」という肩書になっているように、彼はすでに勇者を引退してる。
人類を救った彼は、人類最後の砦となっていたアルデガルド王国に戻った。
まさに「英雄の凱旋」という感じであったわけだ。
そして、彼は勇者を引退した。というか、引退させられたのだった。
魔王軍団を瞬殺してまうような勇者。
対魔族戦争・戦後レジュームの中でその存在はいかがなものかということだ。
端的に言って、超絶無敵、チート無双の力が個人にあるというのは危険すぎるという判断だった。
彼自身も「全人類に対する責任」から解放されるのは悪いことではなかった。
元日本人だけに、与えられた役割に対し彼は、かなり真面目なところがあった。
転生し、歩きはじめたころから始まった過酷な勇者になるためのトレーニング。
それは、民明〇房に修行の内容が記載されていてもおかしくないレベルの物だった。
今もときどき、悪夢に襲われる時があるくらいだ。
とにかくだ――
そのような思いをして手に入れた無双無敵・チートの力は封印された。
もはや、彼は普通の人間に戻ったのだ。
そして、彼は、勇者の力を失い、代わりに素晴らしい伴侶を手に入れた。
祝賀パーティで出逢った彼女だ。
「勇者様、アナタの活躍は訊いています。本当に強いのですね―― 憧れてしまいます」
そう言って、声の方を振り向いても誰もいなかった。
あれっと、思うと、服の裾を恥ずかしそうに引っ張る彼女がそこにいたのだった。
衝撃だった。
エリュゥゥゥーフ!!
彼は心で叫んでいた。
可憐な超美少女で金髪で碧眼なのだった。
しかも、小さいのだ。身長は140センチもないだろう。
とにかく、一目惚れだったのだ。
元日本人で、ブラック企業で過労死した彼には、彼女などいたことがないのだ。
そもそも、女性と接する機会すらほとんどない生涯だった。
高校時代、母親から、下手に豪華なバレンタインチョコをもらい、涙したこともある。
異世界転生しても、死と隣り合わせの勇者修行で、ハーレムとかそんな甘いことを考える余裕もなかった。
ひとりでいい――
ハーレムなどいらん。贅沢はいわない。それは敵。
だから、たった一人でも理想の女の子が欲しかったのだ。ど真ん中ストライクの女の子が欲しかったのだ。
それが、目の前に出現したのだった。
彼女は、王の側室の連れ子だった。
彼女の母親は、色々事情があって子連れのまま、王の側室となったようだった。
「結婚してください! マジで!」
「え! 私と? 勇者様が! え? いいんですか」
「絶対に幸せにします! 絶対に!」
魔族を滅ぼし、テンションあがったところで、怒涛の告白。
それでもって、リルリルは、彼の幼妻となったのだった。
「どうしたの? 急に黙って?」
小首を傾げてこっちを見下ろすリルリル。
マウントポジションのまま、可愛らしい手を彼の胸の上においている。
その可憐さは、並の人類であれば、直視すれば目がつぶれるとウェルガーは思っている。
「いや、エルフって見た目と年齢が人間と全然違っているけど、リルリルはそのまんまだなって思って――」
「えー! それって、私が子どもってこと! これでもちゃんとあなたの妻なんだから!」
「分かってるって、リルリルは俺の妻だ。もう、可愛くて可愛くて、愛しまくりだから」
「ん、もう♡ でも、私も、アナタが大好き♡ ウェルガー♡」
初めて、出会ったとき。
見た目が幼いのはエルフの特性で、もしかしたらロリババアかもしれないとも考えた。
まあ、それはそれで彼にとって全く問題はなかったのであるが。
しかし、現実は、違った。
リルリルは生粋の10歳だ。
可憐な10歳のエルフの美少女だったのだ。
彼は勇者として「全人類」の生存に責任を持っていた。
しかし――
勇者は引退した。
彼は「残りの人生を、彼女だけを幸せにするために使う」と誓っている。
それには、勇者の力など必要はないのだ。いらねーよと思っている。
この甘い新婚生活は、幸せ以上の何物でもなかった。
結婚することになり、数少ない魔族に潰されていない自然の残った南の島をひとつもらった。
大量の難民を抱えていたアルデガルド王国は一緒に移民も送り込む。
島は今でも、開拓されつつある。
とりあえず、小さな港町がすぐに出来あがった。
ふたりの愛の巣もその海辺の街にあったのだ。
南の島――
海の見える街で、ふたりの甘い生活は続いているのだ。
しかし――
ときどき、彼の脳裏に不安がよぎる。
彼が、この世界で唯一本能的に逆らうことの不可能な存在についてだ。
(師匠は死んだのかなぁ…… 生きているのかなぁ…… あの人は、死なないだろうなぁ……)
10歳のエルフの幼妻との甘い新婚生活。
その中で、よぎる不安は生死不明の師匠の存在だった。
くたばっていればいいと不人情なことは思わないが、生きていても出会いたくないというのは本心だった。
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