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4:一〇歳年下の男の子
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響はその時初めて、男の味を知った。
比喩としても、味覚情報としても、その両方の意味でだった。
小学六年生と五年生の幼い情事――
そして――
『なにやっての! アンタたちッ!』
『あっ…… 先生ぇぇ、あ、あ、あ、あ――』
放送室の扉が開くと、一瞬の間を置き、先生が叫んだ。
先生が叫んだとき、響は年下の男の子の上でイッていた。
先生に見られたことで、怒られるという思いすらも快感に変わる。
響の身体に生じた快感に、灼熱の温度を上乗せするだけだった。
(あああ―― いい、イク、イク――)
過去の思いをツールとして、『今の響』は自分の指を激しく動かしていた。
掛布団を食いちぎるかのように噛んだ。
長い脚でギュッと布団を挟みこむ。
声もでなくなる。白く細く魅惑的な肢体が硬直する。
脚が突っ張る。
頭が真っ白になって、尾骨がトロトロに溶けそうになる。
体中が快感で震えた。
まるで、あの六年生の、あの時の快感とリンクしているかのように。
響は、快楽で思考まで蕩けるような中で、辛うじて思う――
(あのとき、先生の方が 逃げ出したかったんじゃないな…… はは……)
それはそうだろう。
放課後の放送室を開けたら、放送委員会の六年生の女の子と五年生の男の子がセックスしていたのだから。
小学校の先生がそんなことを想定するはずがない。
しかも、響は、年下の男子の馬乗りになって腰を振っていた。
絶頂の後も、更なる快感を貪っている最中だった。
『や、やめてぉぉ!! 志木城さん! せ、先生がぁぁ!』
小学五年生の男のは声を恐怖の声を上げながらも、まだ響の中に入ったままだった。
固かった。
響の身体は、何回でもイケた。
それは今でも変わらない。
ベッドの上で快楽に酔う響は、再び己の身体をほじる。
白い肌を振るえさえ、二度目の頂をめざし指を身体に這わせていた。
◇◇◇◇◇◇
響は、目覚まし時計の狂的な騒音を叩いて止めた。
そして、時計を確認し、ゆっくりとベッドから上半身を起こした。
寝乱れた長い黒髪の中に手を突っ込んで頭をかいた。
「行かなくちゃね」
そう行って響はベッドから出た。
仕事に行くため。
小学六年生の響は、年下の五年生の男の子を誘い込んだ。誘惑した。
そして、犯すように男の子とセックスした。
その後の顛末は散々なものだったのだろう。
響は親に激しく叱責された。特に母には殴れたのかもしれない。
響には散々、母に殴られたような記憶はあった。
しかし、その記憶はまるで他人事だった。
自分が体験したものではなく、映画かドラマのワンシーンを見たかのような記憶だった。
視野に薄幕のかかったような記憶だ。
放課後の放送室での初体験。セックス。
あの、男の子とのセックスの記憶が鮮烈すぎたのかもしれない。
響は集まった先生たちに引きはがされるまで、男の子にまたがっていたらしい。
そのあたりは、響はあまり記憶が無い。ただ――
イキまくって、気持ちよかったということだけ覚えている。
だから、その後の記憶はどうでもよくなっていたのかもしれない。
それは、よく分からない。
そして、以前から仲の悪かった両親は、この機会を狙ったかのように離婚した。
響を殴り、なじり続ける母親が響きを引き取った。
『アンタみたいな、末恐ろしい淫乱女をあのバカ男とふたりきりなんかにできるわけないでしょ!』
響の母は言った。
彼女にとって、娘の響は「末恐ろしい淫乱女」。
夫であった男は「あのバカ男」だった。
そして、響は転校。
男の子も転校したらしい。
響は詳しくは知らない。
そして、知りたいとも思っていない。今でもだ。
あの「子どもの情景」はその透明な旋律のトロイメライとともに響の中に生々しく残っている。
その鮮烈な快感の「記憶」は、自分を慰める「道具」になるほどにリアルな「今」を作る。
それ以外は、完全に「今の響」と切り離された「過去」だった。
◇◇◇◇◇◇
「あの、先生―― いいですか?」
響は廊下で声をかけられた。
もう放課後のことだ。
運動部の声が校庭から、校舎の中に流れ込んでくる。
「はい、なにかしら」
凛とした透明感のある声。
彼女は声の方を見るため振り返った。
艶やかで、ウェイブのかかった柔らかそうな髪がふわりと揺れた。
「先生、あの……」
響は真っ直ぐにその声の主の前に立った。
高校生にしては小柄な男子がそこに立っていた。
身長が一七〇センチを超える響よりかなり小さい感じがした。
(確か…… 四組の井東君?)
響は放送室のカギを締め、それを持って職員室に向かう途中だった。
偶然とはいえ、響はこの高校で放送室の管理をすることになった。
高校と小学校の違い。時代の違い――
そんな違いはいっぱいある。
けれども、放送室に立ち入るたび、小学六年生に経験した思いが新鮮に書き換えられるようだった。
放課後、年下の五先生を犯し、跨り蹂躙した小学六年生の女子は「先生」と呼ばれる職業についていた。
つまり、響は教師だった。
響は高校の数学教師だ。
二七歳。もう新人教師とは言えない歳になっている。
ただ、この高校に赴任してきたのは今年からだった。
特に担任のクラスを持っているわけでは無かった。
「なにかしら? 私に」
響が数学の授業を担当している二年生。
四組の井東悠真という男子生徒だ。
彼女はその名を意外に抵抗なく思い出す。
教師でありながら、他人への関心が薄く、人の名を覚えるのが苦手な響にしては珍しいことだった。
「あの…… 相談があるんです。あの…… 先生に」
「私に? そうなの。相談が――」
「そうです」
「なんの、相談かしら?」
「それは……」
「私じゃないとだめかしら? 担任の――」
「ダメなんです! 先生に…… 先生じゃないと……」
そして言葉を止めてしまう悠真だった。
(なにかしら? いったい)
うつむき加減で視線だけを響に向ける少年。
特に目立つ少年ではないが、成績は悪くなかったはずだ。
特に数学では、かなり優秀と言っていい成績を残している。
響は美しい双眸を少年に向けた。なんの遠慮もないむき出しの美の刃を突き付けるような眼差しだ。
彼女にはその自覚は一切ない。
響は自分の持っている美貌。
それが、思春期の少年にどんな影響を与えるのか、分かっていなかったし分かる気もなかった。
そもそも、響には自分の美しさに対する自覚が欠けてていた。
自分の顔だち、スタイルに対する興味があまりにもなかった。
小学生で初体験し、その性欲の強さを持てあますようになっても、母親からは厳しく監視された。
「アンタみたいな変な女、このまま世間に出せるわけないでしょ! ほら!布団から手を出す!」
まるで遠藤周作の小説のように、響は寝るときに布団に手を入れることを許されなかった。
ただ、夜中隠れて自慰をしてはいた。母親に気取られないようにこっそりとだ。
そして、大学では母親から解放された。
響の性欲の強さは相変わらずだった。
大学に入ってからは、欲望のまま、何人もの男性と関係をもった。
全部、自分から言いよって付き合いが始まり、そして最終的に振られた。
『ダメだよ…… 君、ちょっと怖いよ。なんでなの? 怖すぎるよ』
『あのさ…… ごめん、ボクじゃ君についていけないから。もたないよ……』
『まるで君は…… いやいい―― ダメだ。あの、マジでヤバいって。本当に』
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―― ボクが悪いんです』
響は真面目に付き合っているつもだった。
それなのに、みんな響のから離れて行った。
さすがの響きも「彼」という存在に疲れてきていた。
だから、ここ数年は付き合ってると言える彼はいなかった。
行ずりでセックスをしたとは何回かあったが。
(彼はいてもいいけど…… さすがに――)
響は目の前の男子高校生を見て、教師らしからぬ思いを抱く。
「じゃあ、相談ね。進路指導室でいいかしら」
「はい。いいです……」
伊東悠真は、ふーっ吐息を交えて言った。
どこか、小動物を思わせる可愛らしさが悠真にはあった。
(本当に、高校生かしら? ふふ、でも可愛いかも)
伊東悠真は、高校二年生というにしては、まだあどけなさの残る感じがした。
どこか、響と話すのビクビクしている感じがした。
客観的に見ても、まともな神経を持っている人間であれば主観的であったとしても――
その態度は「当然」だろうと思うだろう。
男子高校生にとって、志木城 響という新しく赴任してきた数学教師に話しかけるのは勇気のいることだった。
この高校の新年度の全校集会が騒然となっこと。
その原因となった響だけはよく覚えていない。
そもそも、騒然となったという意識すらないかもしれない。
響がこの高校に赴任し、紹介されたとき、まるで大きなどよめきで体育館が揺れたかのようになったこと。
彼女にとっては記憶にとどめることもできない些細なことだった。
志木城響という存在は美しかった。しかし本人はそれほどそれを自覚していない。
ただ、有り余る性欲を自分の指で解消し続ける女だった。
幼い日の情欲に走ったどうしようもない体験を思い描き、オナニー三昧の日々を送っている女だった。
しかし、彼女の美麗で凛とした姿から、それを想像するなど無理な話だった。
そして、もう恋することなど半ば諦めているということにすら自覚もない女だった。
◇◇◇◇◇◇
「先生、ボク―― 先生が好きなんです! 付き合ってください」
響は、進路指導室に入り、いきなり告白された。
それも、一〇歳も年下の男の子にだ。
「え? なに?」
響は二七歳の女教師。
悠真は高校二年生。誕生日がきていなければ、まだ一六歳かもしれない。
「ボク、先生が―― 好きなんです。本気なんです。だから――」
悠真は椅子から降りて土下座するかのような勢いで言った。
(わたしのことが好き? え? なんで?)
声をかけるのも躊躇するような美貌。
そして、大学時代はまさしくよく言って「究極の肉食系」、「捕食女子」。
端的に言えば、どうしようもなくエッチで性欲に歯止めのきかないビッチだった。
常に、自分から男に声をかけていた響だった。
「あの…… ちょっと待って―― 井東君」
「好きなんです。本気です。先生! 志木城先生。ボクは先生のことが――」
よく考えてみると、それは響にとって初めて受けた男性からの告白だった。
比喩としても、味覚情報としても、その両方の意味でだった。
小学六年生と五年生の幼い情事――
そして――
『なにやっての! アンタたちッ!』
『あっ…… 先生ぇぇ、あ、あ、あ、あ――』
放送室の扉が開くと、一瞬の間を置き、先生が叫んだ。
先生が叫んだとき、響は年下の男の子の上でイッていた。
先生に見られたことで、怒られるという思いすらも快感に変わる。
響の身体に生じた快感に、灼熱の温度を上乗せするだけだった。
(あああ―― いい、イク、イク――)
過去の思いをツールとして、『今の響』は自分の指を激しく動かしていた。
掛布団を食いちぎるかのように噛んだ。
長い脚でギュッと布団を挟みこむ。
声もでなくなる。白く細く魅惑的な肢体が硬直する。
脚が突っ張る。
頭が真っ白になって、尾骨がトロトロに溶けそうになる。
体中が快感で震えた。
まるで、あの六年生の、あの時の快感とリンクしているかのように。
響は、快楽で思考まで蕩けるような中で、辛うじて思う――
(あのとき、先生の方が 逃げ出したかったんじゃないな…… はは……)
それはそうだろう。
放課後の放送室を開けたら、放送委員会の六年生の女の子と五年生の男の子がセックスしていたのだから。
小学校の先生がそんなことを想定するはずがない。
しかも、響は、年下の男子の馬乗りになって腰を振っていた。
絶頂の後も、更なる快感を貪っている最中だった。
『や、やめてぉぉ!! 志木城さん! せ、先生がぁぁ!』
小学五年生の男のは声を恐怖の声を上げながらも、まだ響の中に入ったままだった。
固かった。
響の身体は、何回でもイケた。
それは今でも変わらない。
ベッドの上で快楽に酔う響は、再び己の身体をほじる。
白い肌を振るえさえ、二度目の頂をめざし指を身体に這わせていた。
◇◇◇◇◇◇
響は、目覚まし時計の狂的な騒音を叩いて止めた。
そして、時計を確認し、ゆっくりとベッドから上半身を起こした。
寝乱れた長い黒髪の中に手を突っ込んで頭をかいた。
「行かなくちゃね」
そう行って響はベッドから出た。
仕事に行くため。
小学六年生の響は、年下の五年生の男の子を誘い込んだ。誘惑した。
そして、犯すように男の子とセックスした。
その後の顛末は散々なものだったのだろう。
響は親に激しく叱責された。特に母には殴れたのかもしれない。
響には散々、母に殴られたような記憶はあった。
しかし、その記憶はまるで他人事だった。
自分が体験したものではなく、映画かドラマのワンシーンを見たかのような記憶だった。
視野に薄幕のかかったような記憶だ。
放課後の放送室での初体験。セックス。
あの、男の子とのセックスの記憶が鮮烈すぎたのかもしれない。
響は集まった先生たちに引きはがされるまで、男の子にまたがっていたらしい。
そのあたりは、響はあまり記憶が無い。ただ――
イキまくって、気持ちよかったということだけ覚えている。
だから、その後の記憶はどうでもよくなっていたのかもしれない。
それは、よく分からない。
そして、以前から仲の悪かった両親は、この機会を狙ったかのように離婚した。
響を殴り、なじり続ける母親が響きを引き取った。
『アンタみたいな、末恐ろしい淫乱女をあのバカ男とふたりきりなんかにできるわけないでしょ!』
響の母は言った。
彼女にとって、娘の響は「末恐ろしい淫乱女」。
夫であった男は「あのバカ男」だった。
そして、響は転校。
男の子も転校したらしい。
響は詳しくは知らない。
そして、知りたいとも思っていない。今でもだ。
あの「子どもの情景」はその透明な旋律のトロイメライとともに響の中に生々しく残っている。
その鮮烈な快感の「記憶」は、自分を慰める「道具」になるほどにリアルな「今」を作る。
それ以外は、完全に「今の響」と切り離された「過去」だった。
◇◇◇◇◇◇
「あの、先生―― いいですか?」
響は廊下で声をかけられた。
もう放課後のことだ。
運動部の声が校庭から、校舎の中に流れ込んでくる。
「はい、なにかしら」
凛とした透明感のある声。
彼女は声の方を見るため振り返った。
艶やかで、ウェイブのかかった柔らかそうな髪がふわりと揺れた。
「先生、あの……」
響は真っ直ぐにその声の主の前に立った。
高校生にしては小柄な男子がそこに立っていた。
身長が一七〇センチを超える響よりかなり小さい感じがした。
(確か…… 四組の井東君?)
響は放送室のカギを締め、それを持って職員室に向かう途中だった。
偶然とはいえ、響はこの高校で放送室の管理をすることになった。
高校と小学校の違い。時代の違い――
そんな違いはいっぱいある。
けれども、放送室に立ち入るたび、小学六年生に経験した思いが新鮮に書き換えられるようだった。
放課後、年下の五先生を犯し、跨り蹂躙した小学六年生の女子は「先生」と呼ばれる職業についていた。
つまり、響は教師だった。
響は高校の数学教師だ。
二七歳。もう新人教師とは言えない歳になっている。
ただ、この高校に赴任してきたのは今年からだった。
特に担任のクラスを持っているわけでは無かった。
「なにかしら? 私に」
響が数学の授業を担当している二年生。
四組の井東悠真という男子生徒だ。
彼女はその名を意外に抵抗なく思い出す。
教師でありながら、他人への関心が薄く、人の名を覚えるのが苦手な響にしては珍しいことだった。
「あの…… 相談があるんです。あの…… 先生に」
「私に? そうなの。相談が――」
「そうです」
「なんの、相談かしら?」
「それは……」
「私じゃないとだめかしら? 担任の――」
「ダメなんです! 先生に…… 先生じゃないと……」
そして言葉を止めてしまう悠真だった。
(なにかしら? いったい)
うつむき加減で視線だけを響に向ける少年。
特に目立つ少年ではないが、成績は悪くなかったはずだ。
特に数学では、かなり優秀と言っていい成績を残している。
響は美しい双眸を少年に向けた。なんの遠慮もないむき出しの美の刃を突き付けるような眼差しだ。
彼女にはその自覚は一切ない。
響は自分の持っている美貌。
それが、思春期の少年にどんな影響を与えるのか、分かっていなかったし分かる気もなかった。
そもそも、響には自分の美しさに対する自覚が欠けてていた。
自分の顔だち、スタイルに対する興味があまりにもなかった。
小学生で初体験し、その性欲の強さを持てあますようになっても、母親からは厳しく監視された。
「アンタみたいな変な女、このまま世間に出せるわけないでしょ! ほら!布団から手を出す!」
まるで遠藤周作の小説のように、響は寝るときに布団に手を入れることを許されなかった。
ただ、夜中隠れて自慰をしてはいた。母親に気取られないようにこっそりとだ。
そして、大学では母親から解放された。
響の性欲の強さは相変わらずだった。
大学に入ってからは、欲望のまま、何人もの男性と関係をもった。
全部、自分から言いよって付き合いが始まり、そして最終的に振られた。
『ダメだよ…… 君、ちょっと怖いよ。なんでなの? 怖すぎるよ』
『あのさ…… ごめん、ボクじゃ君についていけないから。もたないよ……』
『まるで君は…… いやいい―― ダメだ。あの、マジでヤバいって。本当に』
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい―― ボクが悪いんです』
響は真面目に付き合っているつもだった。
それなのに、みんな響のから離れて行った。
さすがの響きも「彼」という存在に疲れてきていた。
だから、ここ数年は付き合ってると言える彼はいなかった。
行ずりでセックスをしたとは何回かあったが。
(彼はいてもいいけど…… さすがに――)
響は目の前の男子高校生を見て、教師らしからぬ思いを抱く。
「じゃあ、相談ね。進路指導室でいいかしら」
「はい。いいです……」
伊東悠真は、ふーっ吐息を交えて言った。
どこか、小動物を思わせる可愛らしさが悠真にはあった。
(本当に、高校生かしら? ふふ、でも可愛いかも)
伊東悠真は、高校二年生というにしては、まだあどけなさの残る感じがした。
どこか、響と話すのビクビクしている感じがした。
客観的に見ても、まともな神経を持っている人間であれば主観的であったとしても――
その態度は「当然」だろうと思うだろう。
男子高校生にとって、志木城 響という新しく赴任してきた数学教師に話しかけるのは勇気のいることだった。
この高校の新年度の全校集会が騒然となっこと。
その原因となった響だけはよく覚えていない。
そもそも、騒然となったという意識すらないかもしれない。
響がこの高校に赴任し、紹介されたとき、まるで大きなどよめきで体育館が揺れたかのようになったこと。
彼女にとっては記憶にとどめることもできない些細なことだった。
志木城響という存在は美しかった。しかし本人はそれほどそれを自覚していない。
ただ、有り余る性欲を自分の指で解消し続ける女だった。
幼い日の情欲に走ったどうしようもない体験を思い描き、オナニー三昧の日々を送っている女だった。
しかし、彼女の美麗で凛とした姿から、それを想像するなど無理な話だった。
そして、もう恋することなど半ば諦めているということにすら自覚もない女だった。
◇◇◇◇◇◇
「先生、ボク―― 先生が好きなんです! 付き合ってください」
響は、進路指導室に入り、いきなり告白された。
それも、一〇歳も年下の男の子にだ。
「え? なに?」
響は二七歳の女教師。
悠真は高校二年生。誕生日がきていなければ、まだ一六歳かもしれない。
「ボク、先生が―― 好きなんです。本気なんです。だから――」
悠真は椅子から降りて土下座するかのような勢いで言った。
(わたしのことが好き? え? なんで?)
声をかけるのも躊躇するような美貌。
そして、大学時代はまさしくよく言って「究極の肉食系」、「捕食女子」。
端的に言えば、どうしようもなくエッチで性欲に歯止めのきかないビッチだった。
常に、自分から男に声をかけていた響だった。
「あの…… ちょっと待って―― 井東君」
「好きなんです。本気です。先生! 志木城先生。ボクは先生のことが――」
よく考えてみると、それは響にとって初めて受けた男性からの告白だった。
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