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その148:孔雀はソロモンの空を飛ぶ その6
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日本で指揮をとっている聯合艦隊長官・山本五十六大将が、ラバウル、ブイン視察する。
その情報は、またしても、乱数表の取り扱いミスからアメリカへ漏えいしていた。
暗号解読をされた場合、根本的な対策は暗号体系を変更することだ。
しかし、日本海軍は、乱数表を頻繁に変更していた。
それは、アメリカに対し「何か大きなことをやりますよ」と教えているようなモノでもあった。
実際、その後の動きがそれを証明する。
「殺すんだよ。”ふぃふてぃしっくす”を。分かるかい。キング君」
「それは、海軍として反対したはずですな」
キングは言った。実際、太平洋艦隊司令長官のニミッツもそのことには反対している。
この段階で、あまりにも、都合の良すぎる情報の漏えいであること。
そして、情報があまりに詳細すぎる。
「いや、やるんだよ。大統領命令だよ」
「日本人の抗戦意欲に火をつける可能性がありますな」
「関係ないよ。そんなもの――」
「山本を殺しても、日本海軍には優秀な人材が残っていますな。山口多聞―― この男も恐るべき存在――」
「関係ないんだよ。キング君。やるといえばやる。その効果の方が大きいのだから。パールハーバーの復仇だよ。君。リメンバーパールハーバーじゃないか」
アーネスト・J・キング海軍艦隊司令長官は沈黙をもって大統領の言葉に答えた。
「これが罠の可能性もあります」
沈黙したキングに代わり海軍の情報分析官が答えた。
一切の、自我とか意識を感じさせない自動人形のようだった。
ただ、人の様にふるまう機械のような声だった。
「罠?」
「暗号を破られている可能性に対する検証です」
「はは、そんなことか? だからどうした」
「彼らは自分たちの暗号が破られている可能性を懸念しているのです。しかし、組織を動かせない」
「だから、これは『撒き餌』だというのかね?」
どす黒い視線を向け、ルーズベルトは言った。
「日本軍の作戦輸送への攻撃に対してはどうお考えですか。大統領」
アメリカ海軍の補給線への攻撃は徐々に戦果を上げていた。
航空機による、基地周辺の港湾への機雷の散布。
そして、量産が軌道にのってきた潜水艦よる作戦輸送の寸断。
日本の横須賀、門司などの有力港とトラック、パラオなどの基地を結ぶライン。
そして、トラックからラバウル、ラバウルからラビといった軍事物資の流れのラインへの攻撃は続いている。
艦隊攻撃用の魚雷の問題も目途は立ちつつある。
州議員と結びついた魚雷生産工場の労働組合のサポタージュだけが最後の障壁だった。
それも時間の問題で解決できそうだったのだ。
「それは―― なんだ…… いいんじゃないか。沈めれば日本人は殺せばいい。敵の船はどんどん沈めればいい」
「もしその船に山本が乗っていた場合は?」
「ん?」
ルーズベルトは黙り込んだ。
「その時も、殺せばいい。見つけ出して殺せばいい。どのような手段を取っても殺せばいい。溺死であろうが、銃殺であろうが、爆死であったとしても、私は構わない。ただ望むのは山本五十六の死なのだから。その結果だけが欲しいのであって、それ以外のなにもいらいし、過程などどうあっても構わない。だから殺す。ああ、殺すんだ。キング君。大統領命令なんだよこれは」
ルーズベルトは右半身をマラリア患者の瘧のように、細かく震わせながら言った。
◇◇◇◇◇◇
ハワイの太平洋艦隊司令部――
太平洋艦隊長官ニミッツの執務室に出入り自由とされている男が口を開いた。
「確かに、日本海軍が山本五十六を失うのを痛手と感じる可能性は高いと思います」
メガネの男は、軍人と思えない柔らかい声音で言った。
その理知的な双眸がメガネの奥から、彼の上司であるニミッツを見つめていた。
レイトン情報参謀。
真珠湾攻撃時からの情報参謀であり、有能な情報士官であった。
彼の上司であるニミッツがレイトンのワシントンへの引き抜きに必死で反対した事実からも彼の優秀性が分かる。
「確かに、痛手だろう」
対日戦――
広大な太平洋を戦場としたかつての世界史には存在しない近代戦。
その最前線で戦う者の実感として、確かに山本五十六は恐るべき敵だ。
真珠湾攻撃に端を発する、日本軍の攻勢。その原動力が彼であろうという評価は、アメリカ海軍内の共通認識となっている。
「しかし、今回の作戦はあまりにも、リスクが大きい。我々は大きなアドバンテージを失う可能性もあります」
「暗号解読が敵にばれるか――」
理解の早い上司は正解を口にする。
大学教授の方が似合っていそうな知的な碧い眼だった。
太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将は、レイトン情報参謀の言葉の意味を即理解した。
「さらに言うなら、トラック島への補給線攻撃ではなく、島嶼封鎖に切り替えるというのは下策です」
「それは、やらない。その程度はなんとでもなる」
ニミッツはレイトンの懸念材料を否定する。
ワシントンからは潜水艦の運用についても命令がきていた。
ニミッツは座っている椅子の背もたれから身を離し、机に肘を置いて手を組んだ。
組んだ手で口元と隠す。
まるで、その隠れた口が笑みを浮かべているのではないかとレイトンは思った。
それは正解だった。
(船に乗った山本を仕留める気でいるのか)
ニミッツはそう思い、笑ってしまいそうになる。あまりにバカバカしすぎたからだ。
「命令としては、トラック島周辺での潜水艦封鎖を行うということになっている。しかし、敵の有力な基地に潜水艦が常時接近するなどできるわけはない。常識だよ。こんなものは、どうにでもなる話だ」
ニミッツは生粋の潜水艦乗り出身だ。
ドルフィンの紋章を持つ一族だ。そのような常識外の運用など考慮外だ。
「敵の作戦輸送線への攻撃続行だよ」
ニミッツは、組んでいた手を外しそう言った。
「オーストラリア政府がもう少し――」
「レイトン君、貴官は栄光あるアメリカ海軍士官であるが、そのような発言をする立場にはない」
「はい。長官」
ニミッツもオーストラリア政府の消極姿勢については思うところがある。
しかし、それは自分の職分ではない。
言ってしまえばただの愚痴であり、誇りあるアメリカ海軍士官が言うべき言葉ではない。
潜水艦戦力の維持には施設の整った港湾基地が必須だ。
どのような兵器も単体では存在しえない。
兵器とは、後背に存在する巨大な支援システムが無ければ維持できない。
畢竟――
兵器という物は、そのシステムの中の一部にしかすぎないのだ。
それは兵器である限り例外などない。
オーストラリア西部に大規模な潜水艦部隊を支援できる港湾はない。
また、そのような港湾をアメリカ海軍に提供する意思は、オーストラリア政府にはなかった。
そのような物を造り、日本の攻撃を誘引することになってはたまらないのだ。
ニューギニアという玄関口を攻められているオーストラリア政府。
これ以上のリスクを抱えたくないという心理は、ニミッツにも理解はできる。
ただ、賛同できるかどうかは別問題であったが。
その上でだ――
ニミッツは優秀極まりない情報士官を見つめた。
そして口を開いた。
「言いたいことは分かるが、おそらく敵の資源輸送ラインへの攻撃は困難だろう」
椅子からミニッツは立ち上がり壁に歩み寄った。そこに貼られた大きな地図を指し示す。
「内海ですか……」
「正解。その通りだ。ここは、ヒロヒトの浴場だよ」
日本の資源輸送ラインは、シンガポールと九州の門司をつなぐラインになっている。
しかし、この海は多くの島嶼により、内海のような形になっているのだ。
「もし、我々が、資源輸送ラインへの攻撃を行ってもだ――」
ニミッツはそう言葉を区切り鋲で「ポン、ポン、ポン」と地図の何か所かに印をつける。
「航空機による警戒、対潜機雷―― この海域に侵入するのは、困難にすぎるだろう。敵もバカではない」
「まったくもって、厄介な地形ですね。潜水艦もガトー級の大量配備がなされますが……」
「潜水艦乗りにとっては、死地―― いや死海、ああ、それは別にあるか、とにかくやっかいな地形だよ」
「確かに分かります。この地形を有効に使われれば、また―― 中国大陸近海の浅瀬を航行された場合も」
「そうだね。まあ、色々問題の多い地形だ。日本が本気で守る気になれば、我々の潜水艦は大量に失われるだろう」
「全くなんという…… 日本に都合のいい地形ですかね」
「この天地を創りたもうた神に文句をいいたいのかね、貴官は?」
「いえ、全く。ただ、こうなりますと、やはりニューギニアそして、フィリピンですか」
その会話を聞くものがいればで軍人同士のものではなく、学者か研究者の対話に聞こえただろう。
レイトンは、資源輸送ラインの封鎖には、今激戦を繰り広げているニューギアから、フィリピンへの侵攻意外にないと思ったのだ。
「今は、このラインの方が狩場として美味しい。貴官の考えは我々(海軍)だけではどうにもできない」
そう言ってニミッツはソロモン方面を指さし、すっと日本本土まで伸ばす。
「しかしここなら、別だ」
「分かります」
まるで、理解の早い弟子を持った学者のようにニミッツはレイトンを見つめた。
「トラックを物資集積の拠点とし、ラバウルを中心とした『ソロモン航空要塞』。難攻不落……
現実的につけ込むとすれば、今のところはこれが一番有効だろうね」
それは、あまりにも真っ当で、真正面の正論だった。
どのような優秀な兵器であっても――
あの恐るべき「ジーク」や「ジャック」も、戦力の維持には後方の輸送が無ければならない。
航空機一機を戦力として維持するための輸送は、どのくらいなのか?
レイトンはその優秀な頭脳で計算を開始する。
答えは一瞬で出る。当たり前の答えだった。
「しかしだ――」
ニミッツは白い天井を見やると、つぶやくように言った。
「山本五十六の『暗殺』はしなければいけないのだろうね。全くもって、気の乗らない仕事ではあるが」
その不穏当な言葉には諧謔を含む響きがあった。
レイトン情報参謀は、メガネのブリッジを持ち上げた。
「そう言えば、日本海軍の双発機にベティでもネルでもない機体の報告が、ガダルカナルの基地から――」
レイトン情報参謀の言葉――
それは、日本海軍の最新鋭陸上爆撃機。銀河のことであった。
その情報は、またしても、乱数表の取り扱いミスからアメリカへ漏えいしていた。
暗号解読をされた場合、根本的な対策は暗号体系を変更することだ。
しかし、日本海軍は、乱数表を頻繁に変更していた。
それは、アメリカに対し「何か大きなことをやりますよ」と教えているようなモノでもあった。
実際、その後の動きがそれを証明する。
「殺すんだよ。”ふぃふてぃしっくす”を。分かるかい。キング君」
「それは、海軍として反対したはずですな」
キングは言った。実際、太平洋艦隊司令長官のニミッツもそのことには反対している。
この段階で、あまりにも、都合の良すぎる情報の漏えいであること。
そして、情報があまりに詳細すぎる。
「いや、やるんだよ。大統領命令だよ」
「日本人の抗戦意欲に火をつける可能性がありますな」
「関係ないよ。そんなもの――」
「山本を殺しても、日本海軍には優秀な人材が残っていますな。山口多聞―― この男も恐るべき存在――」
「関係ないんだよ。キング君。やるといえばやる。その効果の方が大きいのだから。パールハーバーの復仇だよ。君。リメンバーパールハーバーじゃないか」
アーネスト・J・キング海軍艦隊司令長官は沈黙をもって大統領の言葉に答えた。
「これが罠の可能性もあります」
沈黙したキングに代わり海軍の情報分析官が答えた。
一切の、自我とか意識を感じさせない自動人形のようだった。
ただ、人の様にふるまう機械のような声だった。
「罠?」
「暗号を破られている可能性に対する検証です」
「はは、そんなことか? だからどうした」
「彼らは自分たちの暗号が破られている可能性を懸念しているのです。しかし、組織を動かせない」
「だから、これは『撒き餌』だというのかね?」
どす黒い視線を向け、ルーズベルトは言った。
「日本軍の作戦輸送への攻撃に対してはどうお考えですか。大統領」
アメリカ海軍の補給線への攻撃は徐々に戦果を上げていた。
航空機による、基地周辺の港湾への機雷の散布。
そして、量産が軌道にのってきた潜水艦よる作戦輸送の寸断。
日本の横須賀、門司などの有力港とトラック、パラオなどの基地を結ぶライン。
そして、トラックからラバウル、ラバウルからラビといった軍事物資の流れのラインへの攻撃は続いている。
艦隊攻撃用の魚雷の問題も目途は立ちつつある。
州議員と結びついた魚雷生産工場の労働組合のサポタージュだけが最後の障壁だった。
それも時間の問題で解決できそうだったのだ。
「それは―― なんだ…… いいんじゃないか。沈めれば日本人は殺せばいい。敵の船はどんどん沈めればいい」
「もしその船に山本が乗っていた場合は?」
「ん?」
ルーズベルトは黙り込んだ。
「その時も、殺せばいい。見つけ出して殺せばいい。どのような手段を取っても殺せばいい。溺死であろうが、銃殺であろうが、爆死であったとしても、私は構わない。ただ望むのは山本五十六の死なのだから。その結果だけが欲しいのであって、それ以外のなにもいらいし、過程などどうあっても構わない。だから殺す。ああ、殺すんだ。キング君。大統領命令なんだよこれは」
ルーズベルトは右半身をマラリア患者の瘧のように、細かく震わせながら言った。
◇◇◇◇◇◇
ハワイの太平洋艦隊司令部――
太平洋艦隊長官ニミッツの執務室に出入り自由とされている男が口を開いた。
「確かに、日本海軍が山本五十六を失うのを痛手と感じる可能性は高いと思います」
メガネの男は、軍人と思えない柔らかい声音で言った。
その理知的な双眸がメガネの奥から、彼の上司であるニミッツを見つめていた。
レイトン情報参謀。
真珠湾攻撃時からの情報参謀であり、有能な情報士官であった。
彼の上司であるニミッツがレイトンのワシントンへの引き抜きに必死で反対した事実からも彼の優秀性が分かる。
「確かに、痛手だろう」
対日戦――
広大な太平洋を戦場としたかつての世界史には存在しない近代戦。
その最前線で戦う者の実感として、確かに山本五十六は恐るべき敵だ。
真珠湾攻撃に端を発する、日本軍の攻勢。その原動力が彼であろうという評価は、アメリカ海軍内の共通認識となっている。
「しかし、今回の作戦はあまりにも、リスクが大きい。我々は大きなアドバンテージを失う可能性もあります」
「暗号解読が敵にばれるか――」
理解の早い上司は正解を口にする。
大学教授の方が似合っていそうな知的な碧い眼だった。
太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将は、レイトン情報参謀の言葉の意味を即理解した。
「さらに言うなら、トラック島への補給線攻撃ではなく、島嶼封鎖に切り替えるというのは下策です」
「それは、やらない。その程度はなんとでもなる」
ニミッツはレイトンの懸念材料を否定する。
ワシントンからは潜水艦の運用についても命令がきていた。
ニミッツは座っている椅子の背もたれから身を離し、机に肘を置いて手を組んだ。
組んだ手で口元と隠す。
まるで、その隠れた口が笑みを浮かべているのではないかとレイトンは思った。
それは正解だった。
(船に乗った山本を仕留める気でいるのか)
ニミッツはそう思い、笑ってしまいそうになる。あまりにバカバカしすぎたからだ。
「命令としては、トラック島周辺での潜水艦封鎖を行うということになっている。しかし、敵の有力な基地に潜水艦が常時接近するなどできるわけはない。常識だよ。こんなものは、どうにでもなる話だ」
ニミッツは生粋の潜水艦乗り出身だ。
ドルフィンの紋章を持つ一族だ。そのような常識外の運用など考慮外だ。
「敵の作戦輸送線への攻撃続行だよ」
ニミッツは、組んでいた手を外しそう言った。
「オーストラリア政府がもう少し――」
「レイトン君、貴官は栄光あるアメリカ海軍士官であるが、そのような発言をする立場にはない」
「はい。長官」
ニミッツもオーストラリア政府の消極姿勢については思うところがある。
しかし、それは自分の職分ではない。
言ってしまえばただの愚痴であり、誇りあるアメリカ海軍士官が言うべき言葉ではない。
潜水艦戦力の維持には施設の整った港湾基地が必須だ。
どのような兵器も単体では存在しえない。
兵器とは、後背に存在する巨大な支援システムが無ければ維持できない。
畢竟――
兵器という物は、そのシステムの中の一部にしかすぎないのだ。
それは兵器である限り例外などない。
オーストラリア西部に大規模な潜水艦部隊を支援できる港湾はない。
また、そのような港湾をアメリカ海軍に提供する意思は、オーストラリア政府にはなかった。
そのような物を造り、日本の攻撃を誘引することになってはたまらないのだ。
ニューギニアという玄関口を攻められているオーストラリア政府。
これ以上のリスクを抱えたくないという心理は、ニミッツにも理解はできる。
ただ、賛同できるかどうかは別問題であったが。
その上でだ――
ニミッツは優秀極まりない情報士官を見つめた。
そして口を開いた。
「言いたいことは分かるが、おそらく敵の資源輸送ラインへの攻撃は困難だろう」
椅子からミニッツは立ち上がり壁に歩み寄った。そこに貼られた大きな地図を指し示す。
「内海ですか……」
「正解。その通りだ。ここは、ヒロヒトの浴場だよ」
日本の資源輸送ラインは、シンガポールと九州の門司をつなぐラインになっている。
しかし、この海は多くの島嶼により、内海のような形になっているのだ。
「もし、我々が、資源輸送ラインへの攻撃を行ってもだ――」
ニミッツはそう言葉を区切り鋲で「ポン、ポン、ポン」と地図の何か所かに印をつける。
「航空機による警戒、対潜機雷―― この海域に侵入するのは、困難にすぎるだろう。敵もバカではない」
「まったくもって、厄介な地形ですね。潜水艦もガトー級の大量配備がなされますが……」
「潜水艦乗りにとっては、死地―― いや死海、ああ、それは別にあるか、とにかくやっかいな地形だよ」
「確かに分かります。この地形を有効に使われれば、また―― 中国大陸近海の浅瀬を航行された場合も」
「そうだね。まあ、色々問題の多い地形だ。日本が本気で守る気になれば、我々の潜水艦は大量に失われるだろう」
「全くなんという…… 日本に都合のいい地形ですかね」
「この天地を創りたもうた神に文句をいいたいのかね、貴官は?」
「いえ、全く。ただ、こうなりますと、やはりニューギニアそして、フィリピンですか」
その会話を聞くものがいればで軍人同士のものではなく、学者か研究者の対話に聞こえただろう。
レイトンは、資源輸送ラインの封鎖には、今激戦を繰り広げているニューギアから、フィリピンへの侵攻意外にないと思ったのだ。
「今は、このラインの方が狩場として美味しい。貴官の考えは我々(海軍)だけではどうにもできない」
そう言ってニミッツはソロモン方面を指さし、すっと日本本土まで伸ばす。
「しかしここなら、別だ」
「分かります」
まるで、理解の早い弟子を持った学者のようにニミッツはレイトンを見つめた。
「トラックを物資集積の拠点とし、ラバウルを中心とした『ソロモン航空要塞』。難攻不落……
現実的につけ込むとすれば、今のところはこれが一番有効だろうね」
それは、あまりにも真っ当で、真正面の正論だった。
どのような優秀な兵器であっても――
あの恐るべき「ジーク」や「ジャック」も、戦力の維持には後方の輸送が無ければならない。
航空機一機を戦力として維持するための輸送は、どのくらいなのか?
レイトンはその優秀な頭脳で計算を開始する。
答えは一瞬で出る。当たり前の答えだった。
「しかしだ――」
ニミッツは白い天井を見やると、つぶやくように言った。
「山本五十六の『暗殺』はしなければいけないのだろうね。全くもって、気の乗らない仕事ではあるが」
その不穏当な言葉には諧謔を含む響きがあった。
レイトン情報参謀は、メガネのブリッジを持ち上げた。
「そう言えば、日本海軍の双発機にベティでもネルでもない機体の報告が、ガダルカナルの基地から――」
レイトン情報参謀の言葉――
それは、日本海軍の最新鋭陸上爆撃機。銀河のことであった。
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